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[29751] 【実験作・習作】僕がお父さんなわけがない(15禁)
Name: 真田蟲◆324c5c3d ID:fc160ac0
Date: 2011/09/20 01:06
この作品は、作者の妄想をなぐり書きしただけのただのものです。
内容が安定していない危険性があります。
ぶっちゃけプロットも何もない見切り発車です。
全部かけるかどうかわかりませんが、正直詰め込みすぎな気がします。

この作品には以下の内容が含まれます。ご注意ください。

・なんちゃってバトル描写
・悪魔
・魔法少女
・魔術
・探偵もどき
・妖怪
・宇宙人
・超能力者
・ハーレム
・無駄な設定
・15禁程度の暴力描写
・京都弁
・その他もろもろごった煮

正直地雷な気がします。
それでもいいという方はどうぞ。



[29751] 僕がお父さんなわけがない
Name: 真田蟲◆324c5c3d ID:fc160ac0
Date: 2011/09/20 01:06
なんか思いつきを書きなぐってみました。
舞台が京都、というか作者が京都人なので方言が入ります。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

自分が特別な人間やなんて思うたことなんてなかった。
確かに、両親がいないという点においてはあまり一般的とはいえへんやろう。
妹と二人暮らしをしながら、後見人になった人にお世話になっとる。
そういう点においては自分を普通だなどというつもりはない。
でも、それだけや。
それ以外はいたって普通の生活をしている高校生にすぎひん。

僕自身には特に不思議な能力なんてなかったし。
かといって周囲にも別段おかしな存在はおらんかった。

最近世間を騒がせとる魔法少女や、異形の怪物。
果ては悪魔や宗教、魔術結社に秘密結社、宇宙人、超能力者なんていうオカルトな存在。
それらはここ最近、テレビでよう見るようになった存在ではあるけども、少なくとも僕の周囲には関係あらへんかった。

そう、関係ないはずやったんや。
あの日までは。














【僕がお父さんなわけがない】













透き通った青空に、こちらを圧倒する巨大な入道雲。
耳に聞こえてくる蝉のけたたましい鳴き声が、今が夏やと告げてる。
蒸し暑い中を、僕は学園に向かって歩いとった。

「あっつ……」

自然と口からこの暑さへの愚痴が漏れ出た。
でもしゃあないと思う。
今日は最高気温が40度になる猛暑日や。天気予報でそう言っとった。
まだ朝の8時やというのにこの蒸し暑さ。
ここ、京都は盆地で周囲を山に囲まれとるせいで夏はむちゃくちゃ湿度が高い。
家を出てまだ10分と経過してへんというのに、すでに背中は汗でべったりとして気持ちが悪かった。
なんでこんな暑い中、僕は外を歩いてんのか。
それは僕が一学期の期末試験で赤点を量産してしもうたからに他ならへん。
今日は赤点取得者に対する補習授業があるねん。
バイトにかまけて勉強をおろそかにしてしもうた。
まぁ、僕は別に大学進学を目指しているわけやないからそこまで深刻には考えてへんけど。

「あ~、面倒くさ……」

高校三年生のこの時期に、僕がこんなにも勉強を蔑ろにしてしまっている理由。
それはすでに進路が決まっとるからや。
僕こと柳瀬藤一郎と妹の香奈、二人の後見人をしてくれてる人の場所で働くことが決まってる。
小さな探偵事務所なんやけど今もそこでバイトをしてて、学園を卒業すれば正式に社員として雇ってもらえるわけや。
まぁ、社員になったところで今と仕事の内容はあまり変わらへんやろうけど。
どうせ助手とは名ばかりで雑用をこなす日々になるやろ。
特に夢とかもってへん僕としては、それで生活してけるなら大喜びや。
せやけど今回補習を受けることになってしもうたことについては反省しとる。
後見人である時子さんにも怒られたしな。
授業の分、バイトの時間が削れてまうから。
とりあえず卒業までの残りの試験では赤点は取らんように頑張ろう、と志の低い誓いを決意してた。

「ん?」

そんな時、不意に視界を横切った人影に意識がむいた。
白いワンピースタイプの服を着た女の子。
背中までの黒髪をまっすぐ伸ばしている線の細い感じの女の子。
僕はその子のことを知っとった。あくまで知識として、くらいやけど。
確か、白木梢さん……やっけか? 去年のクラスメートや。
というても、二学期の半ばからいきなり来んようになった生徒や。
理由は知らんけど退学したと噂で聞いたことがある。
まぁそのくらいしか知らんわけで、無論友人でもなかった僕には声をかける気など起きひんかった。
でも彼女の姿を見て、足が止まる。
僕は彼女の姿に……正確にはその腹部に少なからず驚いてしもたんや。
せやけど無理もない思う。白木さんの腹部は明らかに妊娠してるように膨らんどったんやから。
膨らみ具合からいって既に臨月で、もうじき子供が生まれてくるやろう時期なのは傍から見ても理解できた。

「…………」

別に好きやった女の子が知らぬ間に妊娠していてショックを受けていたとか言うわけでもない。
第一、僕は彼女の存在を今の今まで頭の片隅にすら覚えてへんかったし。
視界にとらえて初めて思い出したくらいなんやから。
それでも知っている、自分と同年代の人間がいきなり妊娠しているのを知れば誰でも驚くと思う。
けどまぁ、知ったから言うて僕に関係ある話でもない。
特に用があるわけでもなし、友人ですらない僕が声をかける道理はない。
そのまま見いひんかったことにして学園へと歩を進めようとした。

「っぐ!?」

そん時、彼女の姿を視界から外してすぐに僕の耳は何かうめき声をとらえた。
何事かと振り返るとそこには、そばの電柱にもたれかかって腹部を抑える白木さんの姿。

「って!?……おいおいおい!?」

さすがにこれは放っておくわけにもいかんやろ。
この状態で他人やからって素通りできるほど、僕は冷酷な人間やない。
すぐに駆け寄って白木さんの肩に手をかける。

「ちょっ、大丈夫か自分?」

「……っ、うぅ、ぅ、う……」

「なんや、腹痛いんか? 救急車呼ぶか?……もしかして……」

「ぅ……産まれ……産まれる」

「やっぱりかぁぁぁああああああ!?」

急いでズボンのポケットに手を突っ込み携帯電話を取り出す。
とりあえず早く救急車を呼ばな! 
110番……ちゃう、119番!!
急いで電話番号をプッシュして救急車を呼ぶ。
周囲にはあいにくと僕以外に人影はない。
夏休みで、しかも今はまだ8時や。
街中や住宅街でもない中途半端な場所やったんが災いした。
くそっ、なんであんたこんなところを歩いとんねん、白木さん!
この暑い中、そんな腹した人が一人で出歩くもんやないやろ!!
腕時計を見れば8時12分。
やばい、このままやと補習に遅れる。
せやけどこんな状態の妊婦を一人この場に残してくなんて僕にはでけへん。

「大丈夫や白木さん! もうすぐ救急車くるからな!? 辛抱してや!」

「……フー……フー……」

彼女は息を吐きながらなんとか意識を保ってる。
僕はそんな彼女に声をかけるしかなかった。
白木さんは僕の手を握りしめ、目は朦朧としながらもなんとか意識を保っとるようや。
せやけどこの様子やとこの子、僕が誰か解ってへんやろな。
僕かて白木さんのこと今の今まで忘れとったんや。この子も僕のことなんて覚えてへんやろう。
そもそも彼女からしたらそんなことを気にしてられる状態ちゃうやろうし。
あぁもう、早く救急車来てぇや!

「お待たせしました!!」

その願いが効いたんか、すぐに救急車が到着した。
救急隊員が慣れた手つきで素早く展開し、白木を担架にのせて運ぼうとする。
良かった……これで大丈夫や。
後はこの人達に任せておけば安心できる。
そう思うてたんやけど、それは甘い認識やったと言わざるおえん。
白木さんが僕の手を離さへんかった。

「えっと……白木さん?」

「お願い……一人に、せんとって……」

痛いほどに僕の手を握りしめてくる白木さん。
彼女はすがるような弱々しい目で僕を見とった。
その瞳に、読み取れないほど複雑な感情が入り混じった瞳に何も言えんくなる。
しゃあないやん、僕も男やで?
こんな小動物みたいな眼ぇする可愛い子に見つめられたら……なぁ?

「ほら早く、あなたも乗って!!」

「えっ? ちょ!?」

そんな僕たちを見て何を思うたんか、救急隊員の人が僕も一緒に車の中に押し込んだ。
有無を言わさず発進する救急車。

「あの、僕補習が……」

「こんな時に何言うてんの!! あんたお父さんになるんやろ!!」

「……え?」

補習があることを告げようとするも、救急隊員の女性に怒られた。
てかお父さんて……僕白木さんとは関係ないんやけど。ただの通りすがりやし。
でも何か言おうとしても睨まれるだけやし、相変わらず白木さんは僕の手を離さへんし……
結局そのまま病院にまで運ばれた。
もう補習は無理や。今から向かっても完全に遅刻やわ。諦めた。
分娩室の前まで来てさすがにこれ以上は、と白木さんに手を離すように説得する。

「……っ!!」

けど彼女は目をつむり、嫌々と駄々をこねるように首を左右に振るだけやった。
あかん、完全に藁にでも縋る時の藁の代用品にされてしもうとる。

「仕方ありませんね。あなたも早く!!」

救急車の時と同様、医者の人に無理やり一緒に分娩室に放り込まれた。
事態は一刻を争うんかもしれんけど、分娩室って手術室と同じで無菌やないの?
普通せめて着替えるとかさぁ。や、そんなこと言うてられへんのか?
白木さんが分娩台に移される。
彼女に手を握られたままの僕も、自然とその隣に移動する。

「赤ちゃんはもうすぐですよ!! 頑張って!!」

「はい息を整えてー、一緒に、ひっひっふー……ひっひっふー……」

「……ひっひっふー……ひっひっふー……」

助産婦さん達と一緒にラマーズ法で息をし始める白木さん。

(っ!? ぐぉぉおおおお!!)

それに合わせて、次第に僕の手を握る彼女の握力が増していく。
力みに合わせて限界まで込められる力は、僕の右手を圧迫した。
ちゅうよりも圧迫感よりも食い込む彼女の爪のほうが痛い。
でも空気を読んで声を出さんようにして踏ん張る僕。
えらいで僕。頑張れ僕。

どれくらいそうしていたやろうか。
やがて……急にふっと白木の手から力が抜けた。
おそらく赤ん坊の体が全部抜け出たんやろう。

「な、なんやこの子は……?」

ほっと息をなでおろしてたら、子供を取り上げた医者の妙な言葉が聞こえた。
気が動転しとるんか、先ほどまで敬語で話しとったのに京都弁になってる。
せや、赤ん坊!

僕は生まれたであろう赤ん坊を見た。
そこには、医者の手の中に収まる小さな赤子。
羊水と血にまみれとるけど、それは確かに人間の子供。
けやけどその子供には他の赤ん坊にはない特徴があった。
僕も、赤ん坊を取り上げた医者も、他の助手の人たちも唖然としてその子を見とる。

「「「「……」」」」

「……っは!? せ、先生! はよへその緒切らな!!」

「あ、ああ!」

初めて見る光景に呆然としてしもたけど、僕はいち早く正気に戻ることができた。
とりあえず早くへその緒を切って赤ん坊自身で呼吸させなあかんやろう。
僕の言葉に我に返った医者が、へその緒をはさみで切った。
すぐに泣きださへんかったから背中をさする。
すると……


「おぎゃああああああああああああああああああああああ!! おぎゃああああああああああああああああああああああ!!」


周囲の人間の鼓膜をつぶしかねへん大音量で泣き始める赤ん坊。
大げさな言い方やない。
確かにこの子の泣き声で分娩室の中が揺れた。
びりびりと反響し合い、天井の照明ランプのガラス面にヒビが入る。
どう考えても普通の鳴き声の大きさやなかった。
正直その声に驚いているはずやのに赤ん坊を取り落とさへんかった医者は凄いと思う。
しだいに泣き声が小さなり、やがておとなしゅうなった。
白木さんは子供を産んだことで体力を消耗しきっとったんか、それとも先ほどの産声がとどめになったんか気絶してる。
僕を含む周囲の人間は改めて子供を見た。

「本当、なんなんやこの赤ん坊は……」

今はすやすやと眠るその赤ん坊。
その子には普通、人間には生えてへん見たこともないしっぽが生えとった。








「……」

病室に移されてからどうするべきか悩んでる。
ベッドの上には患者衣に着替えた白木さんが何も言わずに黙って横になってる。
意識は取り戻したものの、体力をほとんど消耗したせいか起き上がれへんみたいや。
時々僕と視線を合わせては、複雑な表情をして視線をそらすことを繰り返しとる。
僕としてはこの状態をどうするべきか悩んどった。
お医者さんたちの、僕が父親やっちゅう勘違いは説明して既に解けてるものの、未だに白木さんに付き添っとる現状。
それは他でもない白木さんに頼まれたからや。
僕はこの人のこと今まで忘れとったし、どうせ白木さんも僕のことなんて覚えてへんわと思っとった。
せやけど実際は、彼女は僕のことを覚えとったらしい。

『ごめんなさい、柳瀬君……』

そう言って謝られて、初めて知った。
なんでも不安になっている時に、元クラスメートでしかないとは言え知り合いに会ってすがりついてしもたらしい。
まぁ、それは解らんでもない。
きっと色々と事情があって不安定やったやろうし、何より妊娠してるだけで不安なもんやろう。
僕はそこらへん男やし想像でしか考えられへんけど、大変なんやろうとは思う。
正直言うて面倒事に巻き込まれそうな予感がするし早ようこの場を去りたいとは思うんやけどね。
僕が動こうとすると何故か捨てられた猫のような、おびえた瞳で彼女がこっちを見てくんねん。
優柔不断を自覚してる僕としては、あかんとは思っててもなかなか帰ると言い出せへん。
せやかてこのままここにいても厄介事に巻き込まれるちゅう変な自信はある。
これでも一応、探偵事務所でバイトしとるしな。
基本的に雑用や小さな仕事しか任されてへんけど、厄介な事件を見たことも何度かはある。
そういう経験からくる直観とでもいえばええんやろか?
いや、これだけ不安要素が重なれば普通の人間でも変に思うて当然かもしれん。

まず第一。
白木梢は遊び人ではないやろうということ。
人は見かけにはよらんとも言うけど、少なくとも彼女に関しては断言できる。
こんな気弱でおどおどした遊び人いうのもなかなかおらんやろうし。
僕はこれでも人を見る目にはそれなりに自信がある。
高校生という年で妊娠してしまっとるちゅう現状から考えられる可能性は二つ。
彼氏か、もしくは遊びでかは知らんけど避妊に失敗して妊娠してしもうたか。
もしくは誰かに性的暴行を加えられてそうなってしもうたか。
考えたくはないけど、彼女の場合後者が濃厚やろうなぁ……

第二に、父親の名前を語らない。
いや、別に赤の他人の僕に教える必要なんてないとは思うんやけどね。
せやかて父親はおるんか、どんな奴かくらいは聞く権利はあると思うねん。
少なくともそれくらいには既に巻き込まれてしもとるしな。
やから遠巻きに聞いてみたんやけど、どうも白木さん自信詳しくはわからへんみたいや。
というよりも語りたくないっちゅうべきか?
その話題に触れると、より一層おびえた表情をするもんやからあまり追及できんかった。
家族からの性的虐待とか、生々しい方向やないことを祈るばかりや。

第三に、家族を呼ぼうとせえへんこと。
こんな状態になってしもうたんやから普通は家族に連絡を入れるべきやろう。
かといって俺は彼女の家の連絡先を知らへん。
せやから彼女に家に連絡をする言うたら、泣いてやめてくれと訴えてきた。
精神的に不安定なのもあるようやけど、それ以上に家族にこの場にこられることに恐怖しとるふしがある。
今は泣きやんでるけど、先ほどまでは泣きじゃくっとった。
せやかて言ったら悪いかもしれんけど、自分の娘が臨月になっとんのに妊娠を知らんなんてことはないはず。
つまりこの白木の反応から、この赤ん坊は彼女の家族に歓迎されてへんのやないかと伺える。
もしかして家族の誰かが父親なんかと、それを考えると恐ろしいわ。
そうやないとええなぁ。

第四、これが最大の厄介事を感じさせる要素。
産まれてきた赤ん坊にしっぽが生えとるいうこと。
今は赤子用の服を着せられてて隠れてるけど、見たこともないしっぽを何度も僕は確認してる。
普通あんなものは生えてへん。
障害児や奇形児いうわけでもない。
いや、しっぽがある時点で奇形児に分類されるんやろうけど……
せやかて僕の知る限りあんなのはありえへんやろう。
先祖帰りで生えてるというわけでもなさそうやし、尻尾以外は見た目はいたって普通。
そのしっぽも、猿のようなしっぽやったらまだ先祖帰りの一言で無理やり納得できたかもしれん。
せやけどこの赤ん坊に生えとる尻尾は真っ黒や。それも毛があるわけやない。
毛など一本も生えてへんうえに、つるつるとした表面。
細く長いしっぽの先は膨らんどって、丁度トランプのクラブのマークのような形になっとる。
なんちゅうか、おとぎ話に出てくる悪魔のしっぽみたいや。
それ見てると、つい先日テレビで騒がれてたキリスト教の異端審問官と悪魔との大規模戦闘を思い出してまう。
テレビの映像に流れていた悪魔の姿は、まさに地上の生物とは異質な進化をたどったような姿やった。
その悪魔のしっぽが、ちょうどこんな感じのフォルムを描いていたような気がする。
ほんまにこんな赤ん坊、人間同志の間に産まれるんやろうか?

第五に、これもなんだか嫌な感じしかせえへん。
もしかしたらこれが一番厄介かもしれんな。
この赤ん坊の顔、なんか知らんけどどっか僕に似てる気がすんねん。
自分で言うのもなんやけど、白木さんと僕の顔を足して2で割って、子供にしたらこんな感じになるやろう。
この顔だけ見せて、事情を知らん人間に「僕と白木さんの子供です」言えばほとんどの人間が信じそうや。
これは偶然やんな? せやんな?
僕は白木との間どころか、他の女のことすら子供作るようなことはしてへんで?
こんなん声を大にして言うもんでもないけど、僕まだ童貞やし。
正直、家族を呼ぶべきやと思う反面、ほっとしとる自分がおる。
もし本当にこの赤ん坊の父親が誰か分かってへんかったら?
そんで、その場に赤ん坊の顔に似てる男がおったら?
その家族がどう思うかなんて想像したくない。
DNA調べれば一発やろうけど、それでも話がこじれそうでなんかいやや。
そもそもこの子供ってDNA調べた場合、ちゃんとしたものが出るんやろか?
こんなしっぽ生えとるくらいやし、チンパンジーみたいに何%か人間とずれがあったりして……
その件の赤ん坊は、備え付けのベビーベッドで寝てる。
本来、産まれたてなら別室で様子みなんやろうけど、この子はどこかおかしいし。
病院側の判断で母体と同じ部屋で様子見ってことになったらしい。
健康状態はすこぶるいいらしいしおそらく大丈夫やろうとのこと。
あかん、こんなん僕一人で考えてても埒があかんわ。
どうせバイトに遅れること連絡せなあかんし、時子さんに相談してみよ。
思い立った僕は、パイプ椅子から立ち上がった。

「……あっ……」

びくりとして、おびえた目で僕を見る白木さん。
その眼には、一人置いていかれるような恐怖がありありと見えた。
反射的に僕の制服の端っこを指でつまんで止めてくる。
……ほんま、なんなんやろな? なんで僕こんなに懐かれとるんや。
正直なんでこの子がここまで僕にそばにいてくれて言うんかわからへん。
不安なんは解るけど、再会したんはつい二時間ほど前やで?
しかも、そもそもそれまでに碌に話したことすらなかったのに……なんでや?

「ちょっとバイト先に、今日は休むて連絡してくるだけや。
 すぐ戻ってくるし安心しぃ」

「……はい」

それを聞いて指を離してくれた白木さん。
もう一度すぐ戻ってくると念押しして、僕は一階のロビーに向かった。
ここは一応病院やし、院内は全域携帯電話使用禁止やったからな。
一階のロビーにある公衆電話使うしかない。

「……こういうの使うの何年ぶりやろな」

正直、もう街中歩いてても公衆電話なんてあまり見かけんようになった。
駅や公共の建物なんかには普通にあるけど、携帯が普及してからは皆あんまり使うてへんねやろなぁ。
財布を取り出して何枚か一〇円玉を投入する。
慣れ親しんだ電話番号を入力して相手が出るのを待った。

『……ルル……プルルルル……ガチャ……はい、こちら逆上探偵事務所』

何回かのコール音の後、電話に出たのは時子さんやった。

「あっ、時子さん。藤一郎です。」

『ああ、藤一郎ね。どうした? もう補習は終わったのかい?』

「いや、それが……補習には結局行けへんかったんですけどね?」

『? どういうことだ?』

「はぁ、それが……」

今僕が話してるんは逆上時子さん。
僕と妹の後見人で逆上探偵事務所の所長さんや。
僕は彼女に今回の話を順を追って説明した。
補習に向かう最中に元クラスメートを発見したこと。
そのこは妊娠しとってて、陣痛が来てしもたこと。
僕がいあわせて救急車で病院に運び、今はその病院から電話していること。
子供は無事産まれたけど、妙な尻尾が生えとること。

『でかした藤一郎』

「は?」

そこまで説明していると、何故か時子さんに褒められた。
なんで僕今褒められたんやろう?
いや、人助けしてえらいとかやったらわかるけど、なんで尻尾の話の最中で?

『確か東大路第二病院って言ったな?』

「はぁ……そうですけど?」

『私もすぐそちらに向かう。
 いいか、お前は私が到着するまで彼女のそばを離れるな。
 それまでは何かあってもお前が守れ』

「ちょっと時子さん、それってどういう……『プツッ、ツー、ツー』……切れた」

時子さんの言うてる意味はようわからんかったけど、こっちに向かうらしい。
まぁ、とりあえず僕も白木さんの病室に戻ろか。
そう思って、エレベーターに向かって歩こうとした時、ロビーにいる人たちががざわざわと騒いでいるのに気づいた。
なんやろうと思って、皆が見てる方に僕も視線をやる。
視線の先はこの病院の正面玄関、丁度今しがた自動ドアをくぐったばかりの人物が三人。
それはどれもコスプレしてるような外人さんたちやった。
というか牧師さん? みたいな恰好やな。
コスプレにしろ本物にしろ、少なくとも病院でする格好でないのは確かやな。
左から、かなりの巨体の男性の牧師さん。
もうこの人は牧師の後に仮って言葉が付きそうや。
なんていうか、服がぴっちぴちやねん。
正直筋肉のラインが出すぎてて引いてまうわ。もう少しゆったりした服なかったんやろうか?
しかも頭は禿にしてしもうてるし。
真ん中にいる人はまだまともやな、一番牧師と聞いてまだしっくりくる感じや。
中肉中背で肩までくらいの灰色の髪をしてて、眼鏡をしてる。
ああいう眼鏡ってなんていうんやっけ……アンクル? よう知らんけど。
まぁ、そこらへんはどうでもいいねんけどね。
他の二人よりも一歩前に出た立ち位置やから、たぶんこの人が中心なんやろな。
右の人は、なんて言うか……あんな鷲鼻初めて見たわ。
あそこまで長くてとがってる鼻て……漫画から飛び出したような顔やな。
まさに顔からにょい~んと伸びてる感じ。
体格的には真ん中の人と同じく中肉中背なだけに、よけい鼻が目立つ。
うん……まぁ、あれやね。
牧師の格好してなくてもこの組み合わせなら目立ってたやろうね。
……というか時子さんに電話でさっきあの子を守れとか言われたばかりや。
白木さんが産んだ赤ん坊は、まるで悪魔のようなしっぽがある。
そんで現れたんが牧師の格好したけったいな人達……できすぎちゃうやろか?
ちゅうか、嫌な予感しかせえへんねんけど、あの人達ってもしかしてもしかするんやろうか?

「……あなた、悪魔の匂いがしますね」

しかも真ん中に立つ牧師さんが、何か言うてはるんですけど……てかこっち見たはるんですけど。
その牧師さんが僕を見てにやりと笑う。
その眼を見て、僕は一目散に逃げ出した。
あかん、あの眼はあかん。
牧師なんて格好したはるけど、あれは人を殺したことのあるやつの眼や。
バイトで何度か見たことあるさかいわかる。
エレベーターを悠長に待ってなんていられへん。
少し距離的には遠回りやけど、階段使うたほうが早い!
そう判断して、エレベーターを素通りして階段に向かう。
せやけど僕は一番近い階段には行かれへんかった。

「ごほぁ!?」

走り出してすぐ、背中に重い衝撃を喰ろうて吹っ飛ばされたからや。
その衝撃を殺し切れずに、何度もバウンドしながら病院の床を転がる。

「げほっ、がはっ!?」

肺を圧迫されて咳が出る。
なんか背中えっらい痛いんやけど、何や? どないなっとるんや?
バウンドしてる時に床で強打したんか切ったんか。
どっちか知らんけど額も痛い。
たぶん血が流れ取るなこれは……左目がなんか液体でかすむ。
頑張って立ち上がる。頑張れ僕! 男の子!
耳に他の患者さんやら看護師さんのざわめきが聞こえる。
そらいきなりでっかいおっさんに高校生が吹っ飛ばされてたら騒ぎになるわなぁ。
僕が吹っ飛ばされる前にいた位置を見ると、巨体の牧師さんが拳を振りぬいたポーズで立ってはるし。
おそらくあの人に背中を殴られたんやろうけど、僕どんなけ吹っ飛んどんねん。
目算でやけど10メートル近く殴り飛ばされてるなぁこれは。
……背中痛いけど、骨折れてへんやろな? ちゃんと動けてるし大丈夫か?
いや、それよりもあのでかい人と僕は最初8メートルは離れとったはずや。
しかも僕の方が先に走り始めたはずやのに、それに追い付いて殴り飛ばしたいうんか?
どんだけ早いねん。あの中では一番動きとろそうやのに。

「いけませんねぇ、逃げてもらっては困ります」

かつかつと廊下に音を響かせてこっちに歩いてくるリーダー牧師さん。
やばいなぁ、僕の勘ではあの人が一番やばい気がする。
これ、白木さん守るどころか僕死ぬんちゃうやろか?
もう少しで階段に辿りつけるとこやったのに、吹っ飛ばされたせいで通り過ぎてもうた。
一番近い階段は僕と牧師さんたちとの丁度中間。
こんな階段使えるわけあらへん。
もう少し行けば確か別の階段があったはずや。
そこまで行ければええけど……そこまでいけるやろか?

「まぁ、悪魔の子とその母体の居場所さえ教えてくれればいいのです
 あなたは知っているのでしょう? 」

教えていただけませんか? とほほ笑む牧師さん。
うわぁ、やめてぇな……そんな目ぇした人に微笑まれたら寒気がするやんか。

「あの……悪魔の子って……何です?」

「しらを切りますか、いいでしょう」

まぁ十中八九白木さんの子供のことやろうけど。
ちゅうかあの赤ん坊悪魔とかオカルト側の存在やったんか?
近親相姦とか生々しい事情やなくてちょっとほっとするけど。

「仕方ありません。話したくなるようにしてあげましょう」

「えっ?」

「アーメン」

僕にはおもむろに牧師さんが腕を振り上げる動作しにしか見えへんかった。
それでも、次の瞬間には僕の左腕が肩から切り落とされて床にぼとりと落ちた。

「ぐっ、ああああああああああああああああああああああああああ!?」

急に訪れた激痛に思わず絶叫してしまう。
なんやこれ? ごっつ痛い。
あまりの痛みに気が飛びそうんなる。
せやけどここで意識失うわけにはいかへん。
根性だけで倒れそうになるのを、足に力をこめてこらえる。
右手で切断面を押えてみるけど、こんなんで血が止まるわけもあらへん。

「どうです? 正直に話すならこれ以上の暴行は加えませんよ?」

「……くっ!」

わっかりやすい悪党なセリフはきよってからに……
そういうこと言うやつが、ほんまに見逃してくれるわけないやろうが。
どうせ僕が正直に話したところで、変わらへんねやろ?

「詳しい事情は知らんけどな……僕は女の子を売ってまで生き延びようなんて思わへんよ?」

それに時子さんに守れて言われたし。
あの人には返し切れへん恩があるし、守れ言われた存在を売り飛ばすなんてできるわけあらへん。
そもそも僕はヒーローみたいに悪党から女の子を助けるのんは向いてへん。
せやけど自分の命欲しさに自分を頼ってくれた女の子をほいほい渡せるほど、格好悪いマネもしたないんよ。
そんなわけで、僕にはせいぜいこうやって強がりで格好つけることしかでけへんねん。
僕が喋らへんかっても、いずれは白木さんもこいつらに見つかるやろう。
それでも、少しは時間がかかるはずや。
もしかしたらその間に時子さんが駆けつけてくれるかもしれん。
なんか、あの人やったらこない物騒な人らが相手でもなんとかなる気がするんよ。
根拠はないねんけどな? なんとなく。

「そうですか、それは残念です。
 では私達は地道に探しましょう。
 この建物の中のどこかにいることはわかっているのですから。」

全然残念そうやない顔でそんなことをいう牧師さん。
ほんま、どの口が言うねん。そんなこと。
リーダー牧師さんが指をぱっちんしはった。
……合図なんやろうけど、今どきそんなん実際にする人初めて見たわ。
その指パッチンを合図に巨体の牧師さんがすごいスピードで迫ってくる。
ちゅうか、自分でとどめ刺すんやないんやね。
それと、鷲鼻の牧師さんはさっきからほんまに何もせえへんね?
たぶん現実逃避やったんやろうけど、そんなくだらないことを考えとった。
視界に移る巨体がどんどん近付いてその拳を振りかぶる。
ああ、あれはなんか凄そうやね。
たぶん僕なんかあのパンチくらったらぺちゃんこなるんやないかな。
手加減されてたんやろうけど、さっきはあれ喰らって僕よう無事やったと思うわ。
せやけど今回はさすがに無理やろうなぁ。
……最後にもう一度、木村さんとこのラーメン食べたかったなぁ。

「……ぅおりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

「は?」

しっかり心の中で今から死ぬような語りを入れとったのに、巨体牧師さんの拳は僕には届かんかった。
それは雄たけびをあげながら壁を突き破って現れた人影にその人が突き飛ばされたからや。
反対側の壁に思い切り叩きつけられる牧師さん。
濛々と立ち込める煙の中、瓦礫を踏みしめて現れたんは二人の人物。
二人とも丈の短いミニスカートをはいとって、フリフリの格好をしてる。
一人は赤を基調とした服装で、真っ赤な髪をポニーテールにしたはる。
なんか日曜の朝にやってる子供向けのアニメに出てくる魔法少女のような格好や。
ちゅうか、最近テレビのワイドショーを騒がしてる魔法少女に恰好が似てるなぁ……
アニメなんかの魔法少女と違うんは魔法のステッキを持ってへんところか?
その代わりに何故か右手の肘から先を覆うごっつい手甲つけたはる。
デザインはファンシーなんやけどな? ピンク色やし。
せやけどなんかその手甲、形がまるで杭打ち機みたいなんやけど……
身長はだいたい160くらい? 僕の妹くらいの身長やね。
髪は真っ赤やけど、黒髪にしたら僕の妹と同じの長さだね。
顔はまぁ、美人さんなほうやと思う。でも僕の妹くらいの美人度やね。
さっきの雄たけびはこの人みたいやけど、僕の妹みたいな声やったね。
……うん。どうみても僕の妹やね。

「香奈、何やってるん?」

「今のうちはマジカルカナンや! 香奈やない!
 ってお兄ちゃんどないしたんその腕!? 大丈夫なん!?」

「んー、まぁ大丈夫なようで大丈夫やないな。死にそうや」

牧師さんたちは僕らのやりとりになんや呆然としたはる。
そら突然こんな珍妙なのが現れたらびっくりするわなぁ。
最近は世界中でいろんな魔法少女が現れとるらしいし、世も末やなぁ。
おかげで助かったけどな。
とりあえずこっちは妹として……もう一人は?
そう思うてもう片方を見やる。
その子も香奈と同じく魔法少女な衣装に身を包んどった。
丈の短いミニスカートにフリフリな服。
香奈と違うのは、こっちはへそ出しルックな上に青を基調としとるらしい。
それと杭打ち機の手甲を持ってへん代わりに、ごついライフルを両手で持っとる。
ライフルいうても、そういうデザインで銃なんやろうなぁとは思うけど、
やっぱりどこかファンシーな感じがするデザインになっとるなぁ。
身長は150くらいで香奈より小さいなぁ。年下の女の子みたいや。
腕も足も体が全体的に香奈よりも細いなぁ。年下の女の子みたいや。
髪型もボブカットに近いから幼く見えるし、年下の女の子みたいや。
眼は大きくて、子供のような張りのある肌。年下の女の子みたいや。
唇も見ただけでもわかるほどに潤いがあって瑞々しい。
第二次性徴を迎えたばかりの少女の、どこか危うく儚さが漂うとる。
……うん、やっぱり知ってる子やね。

「薫、何やってるん?」

「あ、あの……ボクは藤一郎君が危ないって聞いて……
 う、う、腕……大丈夫?」

「大丈夫やないなぁ、肩から先ないし。」

それは置いといて……いや、置いとけるほど軽い問題でもないねんけどな。
まぁ、今は他に聞きたいことがあんねん。

「なんで薫、そんな格好してんの?」

「えっ?だって……今のボクはマジカルカオルンやから魔法少女やし……」

「少女やないやろ?」

「えっ?……まぁ、うん」

自分男やんか。
僕と同じ、ガクラン着てる男やんか。
なんで魔法少女やねん。
突然僕の前に現れて窮地を救ってくれた魔法少女。
それは妹の柳瀬香奈と幼馴染で同級生の饗庭薫やった。


もう、なんか考えるの疲れてきたわ。
早う来てえな時子さん。
僕、なんかいろいろ頭がこんがらがっておかしくなりそうや。








[29751] 助けはありがたいけど素直に喜べへん
Name: 真田蟲◆324c5c3d ID:fc160ac0
Date: 2011/09/20 01:07

簡単に前回のあらすじ。
夏休みに補習に行くために歩いとったら元クラスメートの白木さんに遭遇。
白木さんは妊娠しとって、僕の前で産気づいてあら大変。
病院つれてってオギャアした赤ん坊はしっぽが生えとった。
いろいろややこしそうやし時子さんに電話。
電話の後、コスプレ三人衆が来襲。
バーンてなって、脅されて、なんやようわからんやり方でズバッて左腕がちょん切れた。
痛~とか思っとったら僕を助けに魔法少女が登場。
せやけどその魔法少女はどう見ても僕の妹と幼馴染(男)やった。
うん、まぁ……そんな感じ。











【助けはありがたいけど素直に喜べへん】














僕を助けてくれた魔法少女。
マジカルカナンとマジカルカオルン、もとい妹の香奈と幼馴染の薫。
二人は僕を背中に庇うようにして牧師さんたちに向かいあっとる。
お互い睨みあうようにして威嚇してる。
数の上では今ん所2対2やな。
さっき僕に殴りかかってきたでっかい人は香奈に吹っ飛ばされてから動かへんし。
たぶん気絶か死んでるかしてんねやろう。
ちゅうか、人間の体って壁にめり込めんねんな?
この人よう見たら白目剥いて体の左半分が壁にめり込んでるわー。
なんちゅうか……漫画でいうところの噛ませ犬もええとこな感じやなー。
敵ながらあわれというか、なんていうか……見ててちょっと切ないわ。
さっきまで死にそうやったのに、いや、腕のうなって失血で今にも死にそうやのにそんなどうでもええこと考えてまう。
助けが来て少し心に余裕が出たんかもしれんけど、僕って案外図太かってんなぁ。
せやけどこの二人がどれだけ戦えるんか僕は知らんし、あんまり気抜くもんやないわな。
実際に壁を突き破って登場してるくらいやし、ただのコスプレやないとは思うけど。
それにこいつら二人が魔法少女とか、正直初耳なんやけど……

「……我々の邪魔をしますか、魔女め!」

「魔女やない、ウチらは魔法少女や!」

「あなた方が悪しき異端の存在であることは同じです。
 いくら呼び名が違おうと、神の奇跡以外で理を捻じ曲げる魔女に違いありません」

「問答無用で人を殺そうとする人に悪者扱いされるんは気に食わへんなぁ……」

「藤一郎君は、殺らせへんよ!」

香奈は空手何かの武術家のように左足を前に出した反身での構え。
薫はライフルの銃口を相手に向けて構えとる。
対する残った二人の牧師さんもそれぞれの得物を手にしとった。
灰色髪で眼鏡の牧師さんは、断頭台の描かれたトランプサイズのカード。
鷲鼻の人もここにきてやる気が出たんか、ボウガンを両手で構えて照準を薫に向けとった。
……てかあの人、あんなごっついボウガンどっから出したんやろ? 
さっきまで何も持ったらへんかったのに……
ちゅうか眼鏡の人はトランプみたいなカードて、漫画やないんやからさぁ。
僕あんな変な武器使う人に腕切り落とされたんか?……冗談きついわ。
これやったらまだ香奈の杭打ち機みたいなやつの方が見た目いくらかまともやな。

「お兄ちゃんの腕の借りは返させてもらうで!!」

先に動いたんは香奈やった。
走る、というよりむしろ跳躍するみたいにして距離を詰めようとする。

「アーメン」

その動きに反応した眼鏡の牧師さんはカードを持った手を前方に振り払う。
僕には見えへんかったけど、それはあの人にとっての攻撃動作らしい。
香奈が距離を詰めつつも急にしゃがんだ。
おそらくはその攻撃を回避したんやろう。
僕も妹の動きに合わせて、本能的に膝を屈伸させてしゃがんどった。
僕の今の立ち位置は、丁度牧師さんと香奈との延長線上におるわけで……回避がうまくいかんかったら死んどったはずや。
何かがほんの一瞬、頭上を通過する気配がした。

「ぐげっ!?」

背後で声がしたんで振り返る。
そこは僕の後方20メートルのあたり。
この廊下の突き当たり付近にいた、事態を野次馬したはった人の首が切断されとる光景があった。
うぉっ、グロイ!?

「キャアアアアアアアアア!!」

他の野次馬したはった人らの悲鳴が廊下に木霊する。
こらあかん。関係ない一般人に被害者が出てもうた。
今まで野次馬したはった人らが我先にと逃げようとして、病院の1階は大混乱やった。
押し合いへしあいするもんやから転倒したりもしたはるな。
玄関は人が殺到しとるせいで人がすし詰め状態や。
せやけどそないなことはお構いなしに戦闘を続ける4人。
いつのまにか牧師さんに肉薄した香奈が、接近戦をしかけてがちんこで殴り合っとる。
それに薫もいつのまにやら鷲鼻牧師さんに向かってライフルを撃ちまくっとった。
銃口から青い光が幾度も射出されて、牧師さんのもっとるボーガンからも矢が大量に飛んでくる。
普通ライフルもボーガンもあんな連射はきかんかったと思うんやけど、それはそれ。
見た目同様、中身もそれなりに不思議なもんなんやろう。
ほとんどの光の弾と矢は、二人の間で衝突して小さく爆発して消える。
せやけどこの二人も移動しながら戦っているわけで……

「ぐぎゃあ!?」

「ぎひぃ!?」

「あぁ!?」

流れ弾が病院内を飛び交って、壁を、床を、天井を、そして逃げ遅れた人らを貫いた。
一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変化するロビー。
あちこちに瓦礫と血と肉片が転がる結果となった。

「うぉおおおおおおおおおお!!」

「はぁああああああああああ!!」

周囲を全く意に介さんと、熱血した雄たけびを上げる接近戦をしてる二人。
あれはどっちがすごいんやろう?
女の子やのにあそこまで男とがちんこ勝負できる妹が凄いんか。
それともあんなごつい杭打ち機みたいなんで殴ってくる攻撃をトランプみたいなカードで防いでる牧師さんが凄いんか。
正直、戦闘に関しては素人な僕にはわからへん。
せやけど、早すぎて時々ぶれて見える二人は、僕ら一般人とは違う次元の存在やとは理解しとるけど。
ここはこのまま二人に任せて、僕は白木さんの所に向かうべきなんやろうとは思う。
僕がここにいたところで何の役にもたたへんし足手まといや。
それでも、後方にあるはずの階段まで走ることはでけへんかった。
なんで魔法少女なんてしとるんか知らんけど、あの二人は僕の妹と幼馴染や。
その二人を置いていくっちゅうのが嫌やったんもある。
せやけどそれだけやない。
腕をちょん切られて血がようさん流れたせいか、ふらついて立っとるのがやっとの状態や。
こんな状態で走るなんてでけへん。
それに、さっきから薫と鷲鼻さんの戦闘の流れ弾があっちこっちに飛んでくるんやで?
ちんたら背中向けて動いとったら当たってこんどこそお陀仏や。
そんなわけで、今の僕はこの場で飛んできた流れ弾をなんとか回避するに専念するしかなかった。

「しまっ……!?」

戦闘が始まってどれだけ経ったやろうか。
もしかしたら5分かもしれへんし数十秒くらいかもしれへん。
正確な経過時間は解らんかったけど、勝負の決まる瞬間はやってきた。
香奈の手甲の杭の先端部分が、牧師さんの手を持っているカードごと切り裂いた。
はじかれるようにして切り裂かれた牧師さんの腕は、大きく後ろに流されとる。
その隙をついて、僕の妹は右腕を腰だめに力を溜めるような格好で相手の懐に潜り込んだんが見えた。

「“打ち貫く”……おおおおおおおおおおおおおおお!!」

気合いのこもった香奈の右拳が、牧師さんの鳩尾を下から突き上げた。
身体がくの字に折れ曲がり、拳の動きに合わせてふわりと牧師さんの体が浮いた。

「マジカル……ステーク!!」

次の瞬間、建物全体が揺れるようなズドンッていう衝撃が走った。
牧師さんの背中が爆発するようにして杭が貫通しよった。
その杭は、牧師さんの体にでっかい穴を開けただけやなくそのまま病院の天井に突き刺さった。
天井に突き刺さった杭を中心に、放射線状に飛び散った真赤な血と肉があちこちに張り付く。
明らかに致命傷やった。
その光景を見た鷲鼻牧師さんの動きが乱れる。
リーダーが殺されて動揺したんやないやろうか?
互角やった相手に、隙ができた。

「“撃ち貫く”……ボクの勝ちや」

そんなおいしい状況を見逃すほど、薫はのんびりしとるわけでもなかったらしい。
さっきまでも十分速う動いとったけど、今回は目にも止まらへんかった。
一瞬で敵の背後に回った薫は、銃口を鷲鼻さんの後頭部にくっつけた。

「0レンジ……マジカルライフル!!」

その攻撃は、鷲鼻牧師の頭部を吹き飛ばしよった。
頭部の無うなった牧師さんの体がぐらぐら揺れる。
時間差で首の断面から噴水のように大量の血が噴き出した。
あちこちに血をまき散らしながら、ばたりと倒れる牧師さんの体。

「うっぷ……」

危険が去ったことを認識したら、急に吐き気がしてきよった。
たぶんこの鼻につく血の臭いが僕を変に刺激しとるんやろうけど。
グロテスクな光景に喉にこみあげるもんがあったけど、僕は無理やりそれを飲み込んだ。
詳しい事情はわからへんし、香奈も薫もこういうのんに慣れとるんか平然としとった。
なんか、いつも僕の後ついてまわっとったような子らが平然としとんのに、僕がゲロ吐くんは嫌やってん。
ここで取り乱したりするんは、何か兄貴分としてのちっぽけなプライドが許さへんかった。

「よくこらえたな藤一郎」

背後で僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この声は……もう、もうちょっと早う来てえや。
でも電話した直後にあの牧師さんらが来たんやし、これでも十分早い方か。

「あっ、時子さん!!」

香奈が嬉しそうな声で駆け寄ってくる。
僕の背後にいた人物、それは後見人の逆上時子さんやった。
肩の長さに切りそろえた黒髪にシャープな眼鏡、切れ長の目が知的な感じを醸し出しとる。
この暑い中、ダークスーツに身を包んであまつさえ上からベージュのコートを羽織っとる女性。
季節関係なく、この格好で仕事をするんがこだわりらしいわ。
その時子さんに香奈が嬉しそうに寄ってった。
時子さんは僕らの後見人やし、ようしてくれたはる。
せやからか、香奈は彼女のことを母か姉のように慕っとるんや。

「その様子やと、時子さんは香奈と薫がこんなけったいなことできるん知ってたんやね?」

「「う……」」

僕の追求に、香奈と薫は顔をしかめて言葉に詰まりよる。
せやけど時子さんはぽんぽんと香奈の頭をあやすように叩くだけで悪びれとらん。
そりゃ、何か事情はあるんかもしれんけど……気にいらんことに変わりはない。
なんで僕だけのけもんで何も知らんかったんや?
卒業すれば一応正社員になるんやし、探偵事務所で働く以上危険なこともあるやろう。
どうせいつかはこういう魔法少女やら悪魔やら、その他もろもろと関わってたかもしれん。
せやのになんでわざわざ秘密にするんや。
自分の妹と、弟分な幼馴染だけ僕の知らんところでなんや危ないことしとった。
それがなんや嫌やった。

「ああ知ってたさ。お前を助けるように言ったのも私だしな。
 ……そう拗ねるなよ藤一郎。
 お前に黙っていたことについても、今回のその白木という子の赤ん坊についても説明してやる」

僕の拗ねた顔に苦笑しながら、時子さんはおもむろに僕の左肩の傷口に触った。

「だが、その傷を治すのが先だ……“逆行”」

時子さんが触れた傷口に、近くに落ちとった僕の左腕が飛んできた。
一瞬光ったかと思うと次の瞬間には綺麗にくっついとった。

「……!? な、なんや!? 何が起こったんや!?」

確かに切断されとった僕の腕が綺麗さっぱり元通りになっとる!
なんとなく掌をぐーぱーしてみるけど何の違和感もあらへん。
痛みも消えて、それどころか失血による倦怠感もどっかに行ってもうた。
どないなっとんねん。まるで魔法や。
もしかしてあれか?……時子さんも香奈やらとおんなしで魔法少女なんか?
せやけど少女って言うには年いってると思うんやけど。

「あいたっ!?」

僕の考えなんてお見通しなんか、時子さんにでこぴんされた。

「お前失礼なこと考えただろう?
 ……まぁいい。白木の所へ案内しろ」

そこで今回のことを含め、全て説明してやる。
そう言って時子さんは僕に道案内を催促しはった。
いや、確かに今回の目的は白木さんと赤ん坊の確保なんかもしれんけど……

「この状況、放っといてええんですか?」

僕はもっかい周囲に目をやった。
そこに広がるんは、さきほどまでの病院の中が嘘のような惨状。
あちこち壁も天井もえぐれて穴が開いとるし、一面瓦礫と血で汚れとる。
逃げ遅れた人らはみんな死んでもうたみたいやし、牧師さんらの死体もある。
さすがにこのまま放置するんはどうなんやろうか?

「いいんだよ。後始末はそいつらに任せてある」

ほれ、と時子さんが顎で僕らの背後をさした。
振り返ると、向こうのほうから見知った顔が二人、歩いてくる。

「いやぁ、遅れてもうしわけない」

「予定通り、内閣の対策室には話がつきました」

「石郷岡さん。鬱津木さんも……」

いつの間にやらこの場に逆上探偵事務所のメンバーが勢ぞろいしとった。
この二人は事務所の社員や。
へらへら頭を掻きながら謝ってんのが石郷岡貞治さん。
石郷岡さんは髪を茶髪に染めた気さくな兄ちゃんや。
年は29で、白いシャツのボタンを上から3つも開けとるせいでちょっとチャラチャラして見える。
僕らがまだ幼い時は、よういろんな場所に遊びに連れてってくれたええ人や。
もう一人、真面目そうなんが鬱津木命さん。
年は24で社員の中では一番若い女性や。
真面目ちゅうかお堅いちゅうか、まぁ、そんな感じの性格したはる。
石郷岡さんと比べて暗い感じの人やな。
いっつも右目に眼帯したはって、それが人を寄せ付けへんらしいわ。
石郷岡さん情報やとまだ誰とも付き合うたことないらしいで?
そんな二人が、もうすでに一仕事終えてきたみたいな様子でそこにいはる。

「白木梢さんは5階の508号室にいるようですね」

「この場は後は俺らがなんとかしとくんで、所長は早う行ってください」

「ん、任せたぞ……ほらちゃっちゃと行くぞ藤一郎!」

「えっ? ちょっ!?」

僕は時子さんに腕を引っ張られて、階段まで引きずられてった。









僕と時子さん、あと香奈と薫の4人で階段を上っていく。
余談やけど、途中で香奈と薫は変身を解いた。
せやから今はいつものセーラー服と学ラン(夏服)や。
髪も赤や青やったんがちゃんと黒に戻っとる。
やっぱりこっちの方が見てて落ち着くわぁ……主に薫が。
なんていうかその、女の子な格好のせいかふとした仕草でどきっとしてまう自分がおってな?
かなり精神的にきついもんがあるんよ。男にどきっとするんて。
なまじ薫がそこらの女の子より見た目女の子なだけ性質悪いねん。
ん? 香奈はどうやったかって?
可愛いゆうても妹やで? こいつに女を感じてしもうたら終わりや思うてる。
それ本人に向かっては言わへんけどな、言うたら怒りよるし。

「白木さん僕や、開けるでー?」

病室の前についた僕ら。
ノックをして入室することを中の白木さんに伝えた。
扉の向こうからびくりとする気配がしたさかい、ちゃんとおとなしゅう待っとったみたいやな。
一階であんだけ暴れとったし、冗談やなく病院が揺れたさかい心配してたんちゃうやろか。
すぐ戻る言うといて時間もなんやかかってもうたし心苦しいわぁ。
あんだけ懐かれて頼ってくれとった分余計にな?
扉の向こうからは特に入ることへの拒否はないみたいや。
おもむろに扉を横にスライドさせる。

「あっ、パパや!!」

「あぅ、ぅあ……ぅう……」

そこには変わらずベッドの上におる白木さん。
どうやら少しは体力が回復したんか、それとも寝たままな状態でいる状況やないと判断したんか。
どっちかは知らんけど今は上半身を起して座ったはった。
せやけどなんやおろおろとしてはる。
うん……まぁ、原因はわかるんやけどね……?

「パパー!!」

えらい嬉しそうに僕に抱きついてくる3歳くらいの男の子。
その子はなんや知らんけど素っ裸やった。
まるだしの尻から、赤ん坊と同じ悪魔みたいな尻尾生やしとる。
えっ、何? この子誰? さっきの赤ん坊は?
ベビーベッドを見るとそこはもぬけの殻。
いきなりな状況に、僕の後ろにおった香奈も薫も呆然としとる。
時子さんはこの状況を理解してんのか、くつくつと笑う声が聞こえた。

「白木さん……このこ一体誰なん?
 君の子はどこいったん?」

「……その子……です……」

白木さんは恐る恐る指で僕に抱きついとる男の子を示した。
はぁ、この子がさっきの赤ん坊か。まぁ予想通りなんやけどな?
せやけど……あれやな。

「子供って……成長早いねんなぁ……」

「いや、藤一郎……普通はこんなに早くないぞ?」

「まぁ、そらそうでしょうねぇ」

男の子の脇に手を入れて持ち上げる。

「ほーれ高い高ーい」

「ギャハ、ギャハハ!!」

現実逃避ぎみにあやしてみる。
その子はおよそ子供らしくない笑い方ではしゃいどった。
う~ん、ギャハハ笑いする子供ってなんか嫌やな。
改めて男の子をよう見てみる。
顔はさっきの赤ん坊が成長したらこんななるやろうなっちゅう顔や。
簡単にいうたら僕の幼いころの顔をちょっと女の子っぽくしたらこないな顔かもしれん。
目元と口元とか僕にそっくりや……なんでやねん。

「ギャハッ、ギャハッ、ギャハハ!!」

相変わらず笑うてる口元には、ちっこい牙みたいな歯が生えとる。

「あんなー坊主、僕は君のお父ちゃんとちゃうでー?」

「ギャハハハハハ!!」

高い高いしながら言うてみるけど、こら聞いてへんな。
白木さんはなんやおろおろとしては、こっちに申し訳なさそうな目を送ったはる。

「パ、パ、パパパパパパパパパ……!?」

「?」

なんや後ろから変な声が聞こえたから振り返る。
そこではわなわなと震える妹が、鬼の形相で睨んどった。

「お兄ちゃん!! パパってどういうことなん!?」

「藤一郎君不潔や!!」

再起動を果たした香奈が僕に怒鳴って掴みかかってきた。
それに便乗してなんや知らんけど薫まで僕を非難して来よる。

「いや、僕も知らんがな」

「じゃあなんでその子はお兄ちゃんのことパパっていうんよ!!」

「そうや! 藤一郎君ひどいわ!!
 ボクの知らん間に白木さんと子供作るようなことしてたなんて!?」

「してへんがな」

ちゅうか薫? なんや非難の方向性がおかしないか?
それと、二人ともちょっと落ち着きぃや。
男の子は目の前でいきなり凄い剣幕で怒る二人にきょとんとしとる。
泣かへんねんな……ちっこいのに肝が据わっとるわ。

「なぁ坊主、僕は君のお父ちゃん……パパとはちゃうで?」

「えっ、違うの?」

首をかしげてこっちを不思議そうに眺める男の子。
僕はそのこを床におろして薫を指さした。

「あの人が君のパパやでー」

「パパー!!」

「えっ、ちょ!? えええええええ!?」

男の子は薫の胸にダイブした。
いきなりなことにうろたえる薫。
しかしこの跳躍力、とても3歳児くらいの子供のもんやないな。

「ほんでこのお姉ちゃんが君のママや!」

「ちょっとお兄ちゃん!? ぎゃあああああああああ!!」

「わーい! ママがもう一人いるー!」

冗談で香奈を指さしていうたら、男の子は本気にしたみたいや。
こっちに抗議してくる香奈の顔面向って跳躍。踏み台にされた薫は尻もちついとった。
そのまま男の子は香奈の顔にしがみついた……全裸で。
いきなり見ず知らずの子供の股間が顔に張り付いて絶叫しとる香奈。
うん、これでとりあえずはええやろ。

「ほな時子さん、そろそろ説明してくれません?
 今回のこと全部一からお願いしますわ」

「わかったが……お前なかなかいい根性してるな」

「そんなん前からわかってはるやろ?」

「……そうだな。
 子供のことはあいつらにまかせて、話を始めようか」

「…………」

僕は壁に立て掛けたあるパイプ椅子を二つ、広げた。
そこに座る僕と時子さん。そしてベッドの上の白木さん。
白木さんは緊張とおびえから子犬のようにぷるぷると震えとった。
まぁ無理もないやろうけど、今回は彼女も関係ある話や。
ちゅうよりもこの妙な赤ん坊を産んだのは他でもなく彼女や。
今回の件の中心というても過言ではないやろう。

「お兄ちゃん、この子なんとかしてぇな!!
 ほんま何なんこの子ー!?」

「助けて藤一郎君!!」

「パパー!! ママー!!」

「ちょっと静かにしてくれ!! 今から大事な話するんや!」

「酷い!?」

「お兄ちゃんの鬼畜ー!!」

「ギャハ、ギャハハ!!」

僕が怒鳴ったんが面白かったんか、子供はえらい楽しそうに笑うとる。
……ほんますごいなあの子。















――――――――――――――――――――――――――――――
次回は事態の説明回。
注意書きで羅列した悪魔と魔法少女と魔術その他に関する無駄に多い設定を
説明する話になります。




[29751] 赤ん坊の真実、何やってー!!
Name: 真田蟲◆324c5c3d ID:fc160ac0
Date: 2011/09/20 01:07
前回のあらすじ。
僕を助けにきた魔法少女、マジカルカナンとマジカルカオルン。
コスプレ牧師さんとガチで殴り合ったり光る銃やボーガンを乱射したりで地獄絵図。
瓦礫と死体を大量生産してズドン、バキューンで決着。
僕は二人の魔法少女と、いつのまにか来てた時子さんと一緒に白木さんの病室へ。
そこで待っとったんは僕に似てる子供やった。













【赤ん坊の真実、なんやってー!!】 















「さて、何から話すべきかな……」

パイプ椅子に腰を降ろした時子さんが溜息を一つ付きながら話をし始めた。
眼鏡の位置を指でくいっと直す仕草はちょっと憧れる。
僕も眼悪くなって眼鏡かけるようになったら絶対あれするんや。
とりあえず、現状を何一つ理解できてへん僕は茶々を入れずに話を聞くことにした。

「そうだな……まずは今回の件の一番の問題、そこの子供について説明しよう」

そう言って時子さんは親指で背後をさした。
僕らの背後、病室の入り口付近では香奈と薫が子供と一緒になんや騒いどる。
その子供、白木さんの産んだ子供の話らしい。
素人の僕でもあの子が普通やないことくらいわかる。
しっぽのこともせやし、なにより生まれたての赤ん坊が生後2・3時間で3歳児くらいになるなんて聞いたこともあらへん。

「おそらく白木梢、お前もあの子供の正体は知らないだろう?
 それどころか父親が誰かも把握してはいないはずだ」

「……」

白木さんは自分が話の中心の一人であることに戸惑いながら、小さく頷いた。
ちゃんと彼女には時子さんはええ人やし大丈夫やって言うたんやけど……やっぱり怖いわなぁ。
時子さん基本ええ人やけど外見だけやったらちょっと冷たい印象あるし。
人見知りな白木さんやったら、そんな人が自分の名前出すだけでびくびくするやろうし。

「白木梢、お前が知らないのも無理はない。
 おそらくお前は父親が誰かどころか、性交の記憶すらないだろうからな」

歯に衣着せぬ言い方で白木さんに語る時子さん。
白木さんは、彼女の言葉に驚いた表情で一瞬顔をあげはった。
なんでそれを? って顔やな。
そっか……そらさっき僕が聞いても話せへんはずやんなぁ。
たぶん彼女からしたら知らん間に誰かに犯されて孕んだ子供や。
よう途中で降ろさずに産んだでほんま。

「簡単に言えば、あの子供は悪魔だ」

「……っ!?」

「……」

悪魔というフレーズで白木さんの肩がびくりと震える。

まぁ僕は薄々感じてはいたことやし、さっきも牧師さんが悪魔の子とか言うてたしなぁ。
そない驚くこともなかったんやけど……白木さんは違うやろう。
たぶん彼女もこの子が普通やないことくらい百も承知やったろうに思う。
せやけど、面と向かって自分が腹痛めて産んだ子供を悪魔や言われて平気でいられるとも思わへん。

「1年前にあったキリスト教の異端狩りと悪魔の戦いについては覚えてるか?」

「あのテレビでやっとったやつですよね?
 町一つ消滅したっちゅう……」

「そうだ」

あれは今でも覚えとる。
二日に渡って続いた悪魔と異端審問官……ようは悪魔とエクソシストとの戦争。
この情報社会のご時世、いくら田舎が戦場やったというても隠しきれるもんやない。
町一つが文字通り消滅したんや。騒ぎになって当然やった。
その様子はテレビやインターネットを通して瞬く間に全世界に広がってしもうた。
それまで一般的に物語の中だけの話やったことが、現実にあることやと世界中にばらす形になった。
当然やけど、それまで一般に信じられとった世界は一瞬で崩壊した。
昔やったらいざ知らす、隠しごとなんてそうそう上手くいかへんもんや。
あっちこっとつつかれて、出るわ出るわオカルトの産物が世界中に転がっとった。
イギリスではロンドンを中心とした魔術結社の存在。
世界中で行われとるキリスト教の他宗教存在への弾圧。
悪魔を崇拝するサバト趣味の秘密結社がわんさか。
人体実験を繰り返す裏社会の化学的な秘密結社もおるらしい。
その人体実験で生み出されたっぽい怪人たち。
ヒンズー教がひた隠しにしてきた聖者の生まれ変わりが起こす奇跡。
チベットにあるとされる異界への扉。
中国軍が所有する三万人のキョンシー部隊。
日本の陰陽師やら式紙やらの存在が本当やったり。
日本どころか世界中にいることが判明した妖怪やら魔獣やら。
妖怪がおるんやからもちろん神もおるわけや。
アメリカに拠点をおいとる異星人はわかっとるだけで39種類の種族がおるらしい。
中国の山々に住む仙人に、インドには様々な竜がおることも判明しとる。
太平洋に沈む古代大陸は実際に発見されたし、一万二千年前の宇宙船も発見された。
時を同じくして、南極の氷の下からいきなり巨大怪獣が蘇ったり。
それに対抗して調査隊の人がでっかい光の巨人になったり。
あげく世界規模で魔法少女が目撃されてるらしい。
魔法少女ってのは香奈や薫のさっきまでの姿を想像してくれたらええよ。
それまでは隠れとったらしい存在があっちこっちから出て来よった。
今では世の中にはそういうもんが存在するっちゅうのが世間一般んの常識になってもうた。
ほんま人間て順応力高いよなぁ。

「その時にキリスト教と戦っていた悪魔、正確には魔神の一柱。
 それが白木梢が産んだ子供の正体だ」

「はぁ?」

「…………」

正直時子さんが何言うてんのかわからんかった。
あの子のしっぽからして悪魔の子供っちゅうのはええとしてや。
なんでそないややこしいのがここで出てくるんや?

「あの戦闘の時、キリスト教側は悪魔の一体を仕留めそこなったんだよ。
 しかしその時に悪魔の力の大部分を奪うことには成功していたんだ。」

「……」

それとあの子供とどういう関係があるんやろうか?
その悪魔が白木さんの子供に憑依したってことかいな。
なんで白木さんやねん。ここ日本やで?
確かあの戦闘の舞台ってイギリスのウェールズのあたり違うたかいな?

「その悪魔がこの日本まで逃げてきたんだよ、文字通り命からがらな」

「……っ」

ベッドを見れば、白木さんが苦しそうに顔を歪めとる。
聞いてて気のええ話でもないしなぁ。
そっから時子さんが離すのを僕も白木さんも黙って聞いとった。
何かを求めるように白木さんの左手が布団の上を彷徨っとったから、僕はその手を握ってやる。
彼女の眼はかなり動揺しとったけど、しっかりと僕の手を握ってくれた。
……時子さんの話を要約するとこうや。


イギリスで起こった悪魔とエクソシストの大規模戦闘。
そこで最終的に悪魔たちは殲滅された。
せやけど一体の悪魔が弱りつつも逃走に成功、行方をくらます。
その悪魔は日本に逃れてきたそうや。
なんでも、日本て言うのは基本的に他宗教の存在も許容しとるらしい。
反面、他宗教からの日本古来のものへの弾圧をゆるさへん面をもっとるらしいけど。
まぁ要は、日本はただ逃げてくるだけで、喧嘩売ることさえせえへんかったら比較的安全な場所ゆうことや。
この悪魔のように弾圧や討伐から逃げる立場やったら尚更な。
逃げてきた悪魔は、もう力もほとんど使い果たして弱っとったはずや。
追ってから隠れるためにそいつは丁度その場におった白木さんの体の中に入った。
そんで卵子に憑依して融合、力を蓄えるために赤ん坊になったらしい。

「えっと、つまり……?」

「そもそもあの子供には肉体的に父親はいないはずだ。
 白木梢の子宮内にある受精していないだろう卵子に憑依して成長しただけだからな。
 DNA的にはお前と同じ、クローンのような物に近い。
 つまりお前は処女のまま、子供を妊娠した状態だったということだ……聖母マリアのようにな」

ただし産んだのは悪魔だが。
そう容赦ない語り口調で話す時子さん。
せやけどちょっと安心した自分がおるな。
やっぱり白木さんはそういう方面で遊んでるようには見えんかったし。
処女やっていうんやったら近親相姦の可能性もないわけや。

「……ぅっ、ひぐっ……」

「って白木さん!? だ、大丈夫や!! 泣かんでええねんで!?」

そんな自分勝手なことを考えとった。
隣の彼女をふと見てみると、ふるふると震えながら涙ぐんどる。
そらそうや、こんなん聞いて悲しいに決まっとるわ。
時子さんの話が本当なんやったら尚更や。
処女のまま妊娠ってことや、白木さんも怖かったはずなんや。
それに周囲も誰の子かもわからへん子供を歓迎するとも考えられへん。
親を呼ぼうとして止められたことからも想像がつく。
きっと堕胎を何度も進められたはずなんや。
それやのに彼女は産んだ。
いつ妊娠したんかもわからへん、誰が相手かもわからへん。
そもそもそんなことした記憶すらあらへん。
それやのに、痛い思いまでしてまで産んでみせた。
……正直すごい思う。
きっと男の俺では理解でけへんくらいの葛藤があったはずや。
それやのに産んだ子供が悪魔て……いくらなんでもあんまりやないか。
せやけど僕にはこんな時なんて声をかけたらええのんかわからへんかった。
やからありきたりに大丈夫と繰り返すしかなかった。

「……ぐすっ……ひっく……」

白木さんがないとるのにおろおろするしかない僕。
時子さんは彼女が泣きやむまで話を中断するつもりなんか黙っとる。

「「……」」

さっきまで後ろで騒いどった香奈と薫もおとなしくなっとった。
香奈の腕のなかにおる子供はなんやぽかんと阿呆のように口をひらいとった。
せやけど、すぐに眉に皺をよせて香奈の腕の中から飛び降りる。
そのまんま小さい体で時子さんに飛びかかった。

「ママをいじめるなー!!」

「!?」

「ちょ!?」

幼児とは思えない速度で弾丸のように時子さんに時子さんに突撃する子供。
せやけど時子さんは一瞥もせんと、おもむろに左手をのばして子供の顔を鷲頭かんだ。

「くそー、はーなーせー!!」

じたばたと空中にぶら下げられた状態でもがく子供。
時子さんは表情を崩さずに白木さんにきいた。

「どうする白木梢?
 このままここでこの子供を殺せば全てなかったことにしてやれるぞ?
 簡単なことだ、このまま頭を握りつぶせばいいだけなからな」

「ぎゃああ!! いたい、いたいー!?」

本当に力をこめてるんか、子供が痛いと喚きだした。
なんだかめりめりと音が聞こえる気がする。

「ちょ、ちょっと時子さん!?」

「時子さん、いくらなんでもそれはあかんて!?」

慌てて僕と香奈が止めようとする。
せやけど僕らの意見なんて聞いてへん時子さんは僕らのこと完璧に無視しはった。

「……ぅぅ……」

「どうする白木梢?
 どうせ悪魔だ……気に病む必要はないぞ?」

「ぎゃあああ!!」

「……っ!?」

逡巡しとった白木さんは、子供の悲鳴が聞こえた時には動きだしとった。
ベッドから落ちるようにして時子さんの腕に飛びいた。

「あっ、あかん!!」

「……ふむ」

慌てながら時子さんの手から子供を取り返そうとする白木さん。
その姿になんや思うたんか、一人納得した顔をして手を離す時子さん。
子供は急に離されて尻から床に落ちよった。

「ふぇ……ママー!!」

顔をぐしゃぐしゃにして白木さんの胸に飛び込む子供。
それはつらい時やらに母親に抱きつく子供そのものや。
泣きじゃくってる顔も、どっからどう見てもただの子供にしか見えへん。
せやけど、その尻から生えとるしっぽが、いやでもこの子供が悪魔やと主張しとる。
それでも白木さんは腕の中にぎゅっと子供を抱きしめて時子さんを睨んどった。
あれは……母親の目や。
そっか、白木さん……こんな状況でも母親の意識がちゃんと強いんやな。
とても同い年のか弱い女の子に見えへんわ。
……そんなこと本人に言うたら失礼やな。

「いいのか? 白木梢。
 そいつを殺さなければまたキリスト教のやつらが襲ってくるぞ?」

「……」

「さっきの大きな揺れは解ってるだろう? 
 あれはさっそくそいつらが襲ってきた時のものだ」

「……」

「お前だけじゃない。周囲の人間にも迷惑がかかるはずだ。
 現にそこの藤一郎はさっき一度腕を斬り飛ばされてるしな」

「……!?」

驚いた表情で白木さんがこっち見はった。
そらそうやろな、腕飛ばされた言われたら驚くよなぁ。
しかも当の本人の腕はすでにつながっとるし……
せやけどそれを証明するように僕のシャツは左肩からさきの袖が無うなっとる。

「……あっ、あの……」

「ああ、心配せんでも大丈夫やで?」

もう時子さんのおかげでくっついとるしな?
未だにどうやって元に戻したんかわからんけど、このことも後できかなあかんなぁ。
僕は白木さんに大丈夫なことをアピールするように、左手をぷらぷらさせてみた。
せやけどそれが気に食わんかったんか、時子さんに頭にチョップを喰らう。

「あいたっ!?」

「簡単に大丈夫とかいうな。
 今回はまにあったがな、もし腕が切られてから1時間以上経ってたら元通りにはできなかったんだぞ?」

「うぇ……ほんまに?」

「本当だ。で、それを踏まえてどうする白木梢」

「……うぅ」

白木さんはうろたえた様子や。
腕の中の子供を見やる。

「ママ……」

そいつは不安一杯ですっちゅう顔で両目をうるうるさせとる。
……この子、自分が悪魔やっちゅうこと自覚してんのかいな?
これが白木さんの心をつかむための演技やったら恐ろしいなぁ……

「演技ではないだろうな。
 というか、自分が何者かという自覚もないだろう」

時子さんが言うには、過去にも悪魔の子供がこうやって産まれた事例はあるらしい。
そのどれもが、憑依して胎内で成長するうちに悪魔としての自我がほとんんど消えてしまうらしい。
勿論それまでの記憶もや。残るは悪魔の力と魂のみっちゅうわけやな。
正直なんで自分が今殺されそうになったんか分かってへんやろうとのことや。
……僕としては、そんな子を殺すんはしのびない気がするわ。

「お前に選べる選択は二つ。
 今ここでこの子供を殺し、今までの生活に戻るか。
 それを選ぶなら私の力で必ず普通の生活に戻れるようにすることを誓おう。
 もう一つはこいつを生かし、子供の母親として生きること。
 これはかなり危険を伴うだろうな。キリスト教の異端審問はしつこいぞ?
 それにそれ以外のものも子供を狙ってくるかもしれん」

「……」

白木さんは困った顔で、僕を窺うように見た。
僕としては彼女が選んだ道ならどっちでもええと思う。
ただここまで関わった以上、どっちを選ばはっても手助けはするつもりやけど。
主観的には子供を殺さん方向でいってほしい。
彼女の眼は母親のそれやし、僕は白木さんのことはそんなに知らんけど、
それでも臆病でも優しい子なんちゃうかと思ってる。
せやったらそっちを選んでくれた方が、精神的にはええんちゃうやろうか?
客観的には子供を殺したほうがええと思う。
まだキリスト教側ももしかしたら白木さんのことまでは掴んでへんかもしれへん。
何より、元凶の悪魔の子がいんくなったらもう襲う意味もあらへんし。
安全面で考えたらこっちやなぁ。
ただ気持の上ではものすごい後味悪いと思うけど。

「白木さんの好きなほう選んだらええよ。
 どっちを選んでも僕は君の味方や、安心しぃ」

僕のできることでやったら助けたるから、な?
そう言って彼女を安心させるように笑いかけた。

「……お兄ちゃん、キモい」

「酷っ!? なんでや!?」

今ええ感じにキマッてたやろ!?
なんやの香奈、それが女の子を元気づけようとしとる兄に向って言う言葉かいな!
白木さんは僕のことをなんや感動した目で見てる気がする。
僕のうぬぼれでなかったらやけど。
せやから別に僕の言うたことは間違ってへんと思うねんけど……あれか?
僕の顔が単純にキモいとかそういうことか?

「私は……この子のお母さんです」

「……そうか」

白木さんは母親であることを選んだようや。
普通悪魔や言われたら捨てる方向で考えそうやのに。
妊娠してる時から既にいろいろ考えとったんやろうけど……見かけによらんというか何というか。
ほんま、女の子は強いなぁ……この場合は母は強か。
時子さんは白木さんの答えを聞くと、ふぅっと一つ溜息をついた。
そんで懐に手を入れたかと思うと、取りだしたんはタバコとライター。
病室やというのに時子さんはためらわずにタバコをくわえて火をつけはった。

「あの……時子さん? ここ一応病室……」

「いいんだよ。
 どうせここはもう病院としての機能は果たさないだろうさ」

「……さいですか」

まぁ、そらそうやろうねぇ。
人の口には戸は立てられへん。
すでに目撃者も多いやろうし、ここで大量に人が死んだんはすぐに知れ渡るやろう。
そんな病院を利用しようなんて人、滅多におらんわ。
それに一階はすでに壊滅状態やしな。

「ていうか藤一郎ー?
 お前、人事だと考えて、できる時に手助けすればいいとか甘いこと考えてないか?」

「は?」

「だってこの子供の父親はお前だぞ?
 狙われるなら子どもと母親だけでなく父親もに決まってんだろうが」

「えっ? 僕が父親?」

「……えっ?」

ちょい待って時子さん。
何それ、何で僕がこの子の父親確定みたいな話になってんの?
確か時子さんが言うたんやんな? この子に父親はおらんて。
白木さん処女やってんで? 

「やっぱりお兄ちゃん!!」

「藤一郎君やっぱり不潔や!!」

「せやからお前らは黙っとけ」

こっちに突っかかってくる香奈と薫を突き飛ばす。
今僕は大事な話してんねん。茶々入れるなや。

「時子さん、僕言うたらなんやけど……まだ童貞やで?」

「そういうどうでもいいカミングアウトはいらん」

どうでもいい!?
男子高校生にとってめちゃくちゃ重大な事柄を、どうでもいいでキリ捨てられたん!?

「……そうなんですか?」

あと白木さん?
なんで君、ちょっと嬉しそうなん?
童貞というワードに反応したんか、気恥ずかしそうに頬を染めたはる。
その表情がなんとも男心をくすぐるけど、その表情の理由が僕の童貞て……死にたい。

「さっきも言っただろうが、この子供の肉体的な父親はいないと。
 だがな、見てわかるとおりこの子供はお前にそっくりだ」

確かに、最初から疑問やったんやけどな。
僕と白木さんの顔を足して2で割ったのを幼くしたらちょうどこんな顔や。
ちゅうか産まれたてん時よりも、より一層目元と口元は僕そっくりになっとる。

「確かにそっくりやけど……偶然やないんですか?」

「偶然じゃない。
 この顔は悪魔が本能的にお前を父親と選んで顔を似せたんだ」

は? なんでまた?
父親を選んだ?……ようは自分を守る親を作ろうとしたってことでええんかな?
そういうことを本能的にするゆうんはわかる気もする。悪魔やし。
せやけどなんでそれが僕なん?

「それはそこの白木梢が理解しているんじゃないか?」

「っ!?」

時子さんの問いただそうとする瞳に、縮こまる白木さん。
なんや眼はそわそわとして顔色は青くなったり赤くなったりしてる。
どないしたんやろうか白木さん。
先ほどまでよりもだいぶ落ち着いてきたはずやったんやけど、また挙動不審にならはった。
訳知り顔の時子さんを見る。
彼女は爆弾発言をしはった。







「お前、藤一郎のことが好きなんだろう」







「はぅっ!?」

「……ママ?」

今、時子さんなんて言うた?
白木さんが……僕を好き?
ははっ、まさかな~そんな冗談……え?
白木さんを見ればさっきよりもより一層挙動不審になったはる。
顔を赤くしたり黄色くしたり青くしたり信号みたいや。
子供は彼女の腕の中で心配そうに白木さんの顔を眺めとった。

「……っ!?」

「………」

彼女と目が合う。
ぱくぱくと口は酸素を求めるように動いとるし、目は逃げ場を探してぐるぐると動きだした。
その反応から、なんとなく理解できる。
こういうことに疎い僕でも、理解できてまう。

「…………まじでー」







―――――――――――――――――――――――――――
次回は白木梢視点です。
前回、魔法少女やら魔術の設定説明と言っておきながらそこまでいきませんでした。
すいません。そっちはまた今度。



[29751] 番外編:白木梢視点その1&作品設定
Name: 真田蟲◆324c5c3d ID:fc160ac0
Date: 2011/09/24 19:16

※はじめに
 
これは本編開始前の話の白木梢視点です。
あとそれだけだとあれなので、後ろに今のところの人物やらの設定を載せときます。
内容的に鬱展開が多いので、苦手な方は読まないことを推奨します。
そう言う場合はスクロールで飛ばして、後の設定だけどうぞ。







――――――――――――――――――――――――――――




柳瀬藤一郎いう人物は、私にとって最初は大勢おるクラスメートの一人でしかあらへん存在やった。

二年生に進級してクラス替えがあって初めて知った男の子。
私は内向きで臆病な性格してるさかい、あまり友達もおらん。
同性の友達ですら片手で数えられるくらいしかおらんのに、男子となんてもってのほか。
話しかける用事もなければそんな接点さえない存在やった。
そんな私が、彼に興味を持つきっかけはホンマに偶然やった。



それは5月のこと。
良く言えばおとなしい私は、先生に用事を言いつけられることがようあった。
その日も数学の宿題のノートを集めて放課後に職員室に持ってくるように言われとった。
せやけど、ノート一冊は軽いゆうてもクラスは30人以上おる。
必然的に結構な量になって、力のない私は運ぶのに四苦八苦しとった。
臆病な私は誰かに助けを求めることも出来へんかったし、無理やり抱えて運んだ。
根暗な性格のせいか、それを見てても誰も協力しよういう人もおらんかった。
まぁ私も小中高とそれで来てたし、そこは何の期待もしとらへんかった。
このくらい自分で運べる。
そう自分に言い聞かせて運んどったけどやっぱり私には重い。
階段の踊り場に差し掛かったところで床にノートをぶちまけた。

「あぁ……」

やってもうた。
こういう時、一度失敗してしまうとかなりへこむ。
なんで私がこんなんしなあかんねやろう?
私は数学の係でも委員長でもない。
なんで誰も助けてくれへんねやろう?
そんなことが頭に流れてくる。
知らず知らずのうちに涙が滲んだ。
せやけど泣いたかて誰も手伝ってなんてくれへん。
昔からそうやった。
自分から助けを求めることもできひんのに、都合良う助けてくれる人がおるわけもあらへん。
そう思っとった。

「あーあー、大丈夫か~?」

「!?」

そこに通りかかったんが柳瀬君やった。
彼はぶちまけられたノートの山を見て立つ私に声をかけてくれた。
男の子に話しかけられることに慣れてへんかった私はそれだけで驚いて動揺してもうた。

「あ、あの……その……」

「まぁこの量は女の子一人やと厳しいわな~」

何を話せばええのんかわからへん私に「手伝うで?」と笑いかける柳瀬君。
おもむろにしゃがむと、彼は床に散らばったノートに手を伸ばして拾ってかはる。

「っ!?」

初めてのことに戸惑ってたけど、手伝ってくれる人にばかりさせるわけにもいかへん。
私もいそいでしゃがんで拾う。
せやけど私は動きがいつもとろくさいし、その時も結局は10冊くらいしか拾えへんかった。
残りは全部柳瀬君が拾ってしもた後やった。

「あっ、あの……ありがとう……ございます」

「ええって、クラスメートやんか」

特に気にしたふうもない柳瀬君。
彼は何故か私の手から残りのノートを取ると、そのまま歩きだした。

「数学の山岸先生に渡せばええんやろ? あとやっとくわ」

自分の手からノートが消失したことに気づいてから慌てて彼を呼びとめた。

「えっ、ちょ、ちょっと待ってぇな!?」

「ん?」

「わた、私が頼まれたんやし……その……私がやるよ」

一緒に拾ってくれただけで嬉しかった。
せやけど関係ない人にそれ以上してもらうんは、何か気が引けた。
たぶんそれ以上に、こんな場面で誰かに助けてもらえるのんは初めてやったから気まずかった。

「かまへんよ、むしろこの状況で女の子一人にやらせる方が僕は嫌やわ」

「せやけど……悪いし……」

こない言い淀んでまう私は、根暗な女の子やと思われたと思う。
正直こうやって男の子と向かい合って話すのも初めてで、緊張で訳がわからへんかった。
せやけど折角の申し出を頑なに断る私に、彼は嫌な顔をせえへんかった。

「う~ん……ほんならこうしよか?
 僕は山岸先生の机が職員室のどこか知らんし、そこまで案内してえや」

「ふぇ?」

「うん、そうしよか」

一人納得した顔で先に歩いていってまう。
そんな柳瀬君に困惑しつつも、後をついて歩いた。
考えてみれば別に先生の机なんて知らんくても職員室の誰かに聞けば済む話や。
せやのにわざわざ私に案内を頼んだんは、柳瀬君なりに考えてくれた妥協案やったんやと思う。
私は自分が請け負った仕事やのに彼にさせるんは申しわけない。
柳瀬君は女の私に一人で荷物を運ばせるんが忍びない。
せやけどその荷物は女一人で持つには重くても、二人で持つほどの量でもない。
せやからこその、妥協案。
そう思うと、彼の優しさがわかって嬉しかった。
男の子とこんな近くで、それこそ一緒に歩くなんて小学校の時にあったかなかったかというぐらいや。
職員室につくまでの間、私の心臓はばくばくやった。
こないな時、何を話せばええのかわからんし、実際何も話せへんかった。
せやけど柳瀬君は特に気にした様子もない。
職員室までノートを届け終わった後になって、ようやって声をかけることができた。

「あ、あの……」

「うん?」

「今日は、その……ありがとう」

最後にちゃんとお礼言わなあかん思ってなけなしの勇気を振り絞って話しかけた。
さっきのように卑屈にならんように、できるだけ明るく。
そう思て無理やり笑おう思っててんけど、たぶん頬は引きつってたと思う。
正直もう何年もちゃんと笑うた覚えなかったさかい、ちゃんと笑えてるか心配やった。

「なんや、白木さんもちゃんと笑えるんやねぇ」

私の顔見てなんや関心したようなこと言う柳瀬君。
その言葉に顔が恥ずかしくて真っ赤になってもうた。
やっぱり私に笑顔なんて似合わへんかったんやろうか?
それとも普段教室の隅で一人でおるから、笑顔なんてするとは思えへんほど根暗な人間やて思われてたんやろか?
どっちにしても恥ずかしいし、激しく自己嫌悪に陥りそうやった。
彼に顔を見られるのんが嫌で俯いてまう。

「へ、変やった……かな?」

「そんなことあらへんよ。
 僕は女の子の笑顔って好きやで?
 白木さんもええ顔で笑えんねんし、もっと教室でも笑えばええのに」

もしかしてこれは……褒められてるんやろうか?
もっと笑えばええって……ほんまに私に言うてくれたんやろか?
こんな私の、ひきつった笑顔でも、ほんまに柳瀬君はええ顔やて言うてくれたんか?
どうしても私は自分の耳を疑ってしもうた。
怖かったけど、顔をあげて彼を見る。
そこには照れ臭そうにはにかんだ柳瀬君の顔があった。

「あは……あはは……
 なんやえらい臭いセリフ言うてもうたみたいで恥ずかしいな。
 その、あれやで? 普段僕ってこないキザなこというキャラやないねんで?
 そこんとこ誤解せんとってな? これはあくまで白木さんの笑うた顔が素敵やでって率直に褒めたいだけで……」

「……そうですか……ふふっ……」

自分のセリフが思いのほか気障やったんが恥ずかしかったんか、ごまかそうと慌て取る柳瀬君。
その姿がなんや可愛く見えて、知らずに笑ってた。

「うん、それや!
 白木さんはそうや……「お兄ちゃああああああああああああん!!」……げぼぅ!?」

彼がなんや嬉しそうに私に何かを言おうとした時、彼を吹き飛んだ。
その光景に呆然とするしかない私。
柳瀬君はどうやら横から凄い勢いで突っ込んだ女の子に抱きつかれてはじかれたみたいやった。
廊下の壁に体を叩きつけられてえらい痛そうや。
せやけど私はびっくりしてもうて、気遣うような声をかけられへん。
ただおろおろするばかりやった。

「もうお兄ちゃん! 早く行かへんと時子さん待たせてるんやから!!」

彼に飛びついたんは、ものすごい美人さんやった。
私とは正反対で明るくて活発そうな女の子。
彼女は有無を言わさずに目を回してる柳瀬君を引きずって行かはった。
私はただ呆然とそれを見送ることしかできひんかった。


それが、私と柳瀬君の初めての邂逅やった。







それから何となく教室で彼のことを目で追いかけるようになった。
なんでこんなに気になるんかは最初はわからへんかった。
特に柳瀬君に用事があるわけでもない。
せやから私から話しかける話題なんてあるはずもないし、そんな勇気なんてそもそも持ってへん。
本を読むふりをして視界に収まるようにして観察する、それしかできへん。
私はあの時のことを意識してるんやろうけど、彼は特に意識してる風でもなかった。
あれ以来、私に話しかけることもなかったし、ほんまに通りかかって助けてくれただけみたいや。
もしかしたら私に気があって、それで……とか一瞬でも場違いなこと考えた自分が恨めしい。
反面、柳瀬君が下心なく純粋に私を助けてくれたことがわかって嬉しかった。
そうやって観察してれば、なんとなく彼についてわかってくることがあった。
柳瀬君がクラスメートと話してるのが聞こえてきたからや。
彼は探偵事務所でアルバイトをしとるらしいいうこと。
両親がおらへんから妹さんと二人暮らしやということ。
家では彼が家事を主に引き受け取るいうこと。
それと、私を助けてくれたあの時に柳瀬君を引っ張ってった女の子。
彼女が学園の中等部に在籍しとる柳瀬君の妹さんやった。
その子はたびたび一緒に下校しようて柳瀬君を呼びに来とったからわかった。
クラスの男子が妹さんを見る目が憧れとかなんか凄かった。
それくらい可愛らしい子やった。
あの子が妹さんやと知ってどこか安心してる自分がおる。
せやけど反面、妹さんがあんなに綺麗なんや。
私なんて異性として眼中にないんちゃうやろうか?
彼の中での女の子の基準値が、あんな魅力的な女の子なら私に望みなんてあるわけない。
そんなこと考えるようになっとった事に気づいた時、私は自分が柳瀬君のことが好きになってることに気が付いた。
それまで恋なんてしたことあらへんかったから、なんでこない彼のことが気になるんかわからへんかった。
けど、その想いに気づいたからてなんやっちゅうんや。
私に彼に告白する度胸なんてあらへん。
それどころか、未だに他の人と向かい合って喋るんも満足にでけへん。
そんな私が告白どころか、柳瀬君とまともに話せるわけもない。
そもそも満足に話せたところで、告白できたところで、どうにもならへんと思う。
こない根が暗い子なんて、誰が好き好んで彼女にしよう思うんや。
性格は暗いし、何やってもとろくさい。
体かて高校二年生にしては貧相な体しとる。
正直、今中学三年生やって聞いたあの妹さんの方が出るとこ出て女の子らしい体つきや。
男の子なら、ああいう子のほうがやっぱりええんとちゃうやろうか?
……どう考えても、私が彼に釣り合うなんて思えへんかった。
ああやって級友と楽しそうに笑う柳瀬君。
その隣で一緒に笑う自分なんて、とてもやないけど想像つかへんかった。


せやから、この恋が実ることなんてない。
そう思って、でも忘れることなんてできんくて、この初めての恋を終わらせたくなくて。
やから……遠目から見てる片思いで私には十分やった。


せやけど神様ってのは残酷なもんや。


ある日突然、私の初恋は終わりを告げた。










「妊娠……ですか?」









二学期が始まってしばらく、10月の中頃のことやった。
季節が秋に移り変わってだいぶ涼しいなった時分。
なんや知らんけど体調が優れへんかった。
最初、それまではただの風邪かなんかやと思うとった。
もしくは季節の移り変わりの時期やし、単に体調を崩しとるだけやと思っとった。
咳が出るわけでもないし、熱があるわけでもない。
特に生活に支障があるほどでもなかったし、両親にも言わへんかった。
言うたら病院に行って、無駄に金使うだけやしなんや悪い気がしてたんや。
これぐらいなら、大人しくしとったらなんとかなる思うてた。
せやけど一向に体長は良うならん。
それどころか、なんや喉の奥から込み上げてきて吐き気がしてきよった。
でも、洗面所にいっても吐きだそう思うても、出てくるんは胃液だけ。
気持ち悪そうにしとるところをお母さんに見られて、病院に連れてかれた。
なんや腹に悪い病気でもあるんやないか。
そう心配して行った病院で診察してもろて、お医者さんが言うた言葉がそれやった。

「妊娠て……ちょっと! ええ加減なこと言わんとってください!!」

お医者さんの言葉を聞いてお母さんはめちゃくちゃ怒らはった。
私もなんかの間違いや思うとった。
もう高校生なんや、私かて子供がどうやってできるかなんてとうに知識として知っとる。
その、言葉にするんわ恥ずかしいけど……男女がセックスしてできるんや。
もちろん私にそんな相手になる彼氏なんておらん。
彼氏どころか、男子と碌に話もでけへん臆病者や。
最近好きな人かてできたけど、柳瀬君ともあれ以来話してへん。
なら誰かに襲われたんかと聞かれても、私としては否としか言えへんかった。
だってそんな記憶ないもん。
そない怖いことがあったんやったら忘れるわけあらへん。
私はまだ処女のはずや。
処女のまま妊娠なんてするわけない。
せやから、誤診以外ありえへん…………せやのに……


「嘘や……こんなん……」


私の腹部を撮ったエコー写真は間違いなく胎内におる赤ちゃんの影を映し出しとった。
それも、既に3か月以上経過しとる大きさらしい。
ちょっと太ったくらいに考えとったのに……なんやの……これ?

「おっ、ぼ……おぼぇええええええええええ!!」

私のお腹の中にいる得体の知れへん存在を認識した瞬間、私は吐いた。

「大丈夫ですか!?」

私を心配するお医者さんの声が聞こえる。
せやけど、それに応える余裕なんてあるわけない。
耳鳴りがして、眩暈がして、頭ん中がごっちゃになる。
最初でまだ胃の中に残っとったもんは全部吐いてもうたけど、吐き気がおさまらへん。
ただただ肺の中の空気と、胃液だけを吐き続ける。
苦しゅうて視界が涙で滲む。

「ちょっと梢! これどういうことやの!?」

お母さんがそんな私に詰め寄る。
そらそうや、自分の娘が知らん間に妊娠しとったんや。
それも、自分で言うのもなんやけどこんな根暗な性格しとる娘や。
恋人がいるなんて話も、好きな人がおるなんて話もしたことあらへん。
せやから、どこで、誰と作ってきたんやっちゅう話になる。
でもそんなん私かて知らんねんから、言えるはずもない。
むしろ私が知りたい。
なんでこないな事になっとんの?
この子誰の子なん?
私の子?
ほんまに?
信じられへんけど、私の胎内におる以上私の子供なんやろう。
ほな相手は?
さっき言うた通り私には恋人なんておらんし、誰かとセックスした覚えもない。
なら、私が知らん間に誰かに犯された……いうこと?
誰に?
いつ?
それを考えると怖くて、恐くて、いつのまにか意識を手放しとった。






それからや、何もかもが壊れてったんわ。

こんな状態で学園に通えるわけあらへん。
当然、自主退学ということになった。
妊娠してる姿をクラスメートに見られるなんて、考えるだけで気が狂いそうやった。
ただでさえクラスで碌に交遊のない私や。
どういう反応かなんて、嫌な想像しかでけへん。
それよか柳瀬君にこんな自分を見られるんが嫌やった。
あの日、見せてくれたあの笑顔が侮蔑の表情に変わるんが嫌やった。
どっちにせよ、こんな誰の子かもわからへん赤ちゃんを妊娠してもうたんや。
こんな私が彼を好きやなんて、おこがましいにもほどがある。
初恋は実らへんて言うし、成就するとも思うてへんかった。
せやけど、いくらなんでも初恋の終わり方がこんなやなんて……神様はあんまりやと思う。
私バチが当たるようなこと何もしたこと無い思うんやけど、なんや悪いことしたんやろうか?
それとも、今の今まで何もしてこうへんかったんがあかんかったんやろうか?
壊れたんは学園生活だけやない。
それまでの家族の仲も、今では木端微塵になってもうた。
私が別にそういう意味で遊んでへんていうのはお母さんは信じてくれた。
特にそういう相手もおらんし、私も知らん間に誰かに犯されたんやって言うてくれはる。
せやけど、お父さんは信じてくれへんかった。
私が親の知らん間に遊び歩く悪い子やってことに、お父さんの中ではなっとった。
今まで優しかったお父さんが、私に罵声を浴びせるようになった。
私のことを被害者と信じてくれるお母さんは、お父さんと喧嘩した。
いつまでも隠し通せるはずもない。
数日後には近所中に私の妊娠の話は広まっとった。
蔭口をたたかれて、それがお父さんのイライラを助長してか夫婦喧嘩は日に日に苛烈になってく。
お父さんは毎日私に中絶を迫ってきた。
私も、気軽にできるもんやったらしたかった。
せやけど妊娠が発覚した時には既に医者の見立てでは12週を超えとった。
人口的に中絶する場合、12週からは死産届を出さなあかん。
しかも中絶の際には器具を使うて人工的に陣痛を引き起こさなあかんらしい。
臆病な私は、それが怖くて怖くて仕方あらへんかった。
怖がる私をなだめてかばってくれるお母さん。
私の意思なんて関係ないとばかりに中絶を迫るお父さん。
やがてお父さんのあまりの必死さに、お母さんが一つの疑念を持つようになった。
それは、お父さんが私を犯したんやないかっちゅうことやった。
お父さんやったら同じ家に住んでるんやし、私が寝てる間に上手いことできるかもしれん……そう考えはった。
お母さんも中絶に関しては賛成派や。
せやけど、私を説得しようとするんやないお父さんの無理やりな姿勢に疑問を感じたらしい。
そんな状態で夫婦でいられるわけもあらへん。
当たり前の如く、離婚っちゅうことになった。
勿論私はお母さんに付いていく形で。

「大丈夫、お母さんが守ったる」

そう言って私を抱きしめてくれるお母さん。
それがえらい申しわけなくて、情けなくて……私は泣いた。
お母さんのためにも、怖くても中絶しなあかん。
そう思うてても、臆病な私はどうしてもあと一歩の決意ができひん。
そうこうしてるうちに、医者に妊娠22週の大きさを過ぎたと診断された。
妊娠22週以降は【赤ちゃんがお腹の外でも生きていける】と判断される。
つまり、もう人工中絶は無理になっとった。
私がもたもたと決意でけへんかったばっかりに。
自分のとろくさいところを、この時私は人生で一番呪った。
自業自得や。
私は自分自身の情けなさを呪った。
せやけど、お母さんは私を責めへんかった。
その代わり、お腹の中におる赤ちゃんを責めるようになった。
「悪魔」ってお母さんは呼ぶ。
自分と、自分の娘を苦しめる悪魔や……と。
それからお母さんの中でジレンマが起こり始めた。
私のことは愛してくれたはる。
でも、私の胎内におる子供は憎くて憎くて仕方ない。
赤ちゃんに対して、憎悪のこもった言葉で罵りたい。
せやけど、私へは愛を送りたい。
やのに、愛しとる私の中に憎悪する子供がおるからどちらもままならん。
罵声を浴びせれば、同じく私にもそれを聞かせてしまう。
慈愛の目で見たいのに、妊娠しとることを考えると素直にそれもでけへん。
そんなジレンマが続いたある日、お母さんは怪しい宗教に勧誘されてしもうた。
私と同じく、いや、それ以上に精神的に疲弊しとったお母さん。
のめり込むのにさして時間はかからへんかった。
日に日にお母さんの言動はおかしくなってく。
家の中にはうさんくさい壺やら巻物やら数珠やらが増えていく。
寝てるときに枕元でぶつぶつと聞こえるのに目が覚めたら、お母さんが私に向かってなんかお経を唱えてたりしたこともあった。
四六時中何かぶつぶつと呟いて、時折頭をひどくかきむしる。
それでいてどこか出掛けた思うたら、すっきりした顔で帰ってきた。
でもそれも二日と持たずにいらいらとし始める。
人としての徳が高まるとか言うて、唐突に壁に頭をぶつけることもあった。
私がいくら変な宗教は止めてと言うても聞き入れてもらえへんかった。
「あんたの為や」とか「あんたはお腹の中の悪魔にたぶらかされとる」とか言ってた。
すでにお母さんの中では私の方が悪魔のせいでおかしくなったっちゅうことになっとった。

「飲みなさい」

そう言うて差し出された小瓶。
お母さんは悪魔を祓う聖水やて言うとったけど、それは明らかにアンモニア臭がしとった。
むりやり口に入れられそうんなって抵抗する私にお母さんはものすごい顔で怒った。

「ちゃんと飲みなさい! あんたの為なんよ!?」

必死の形相で私を押えこむお母さん。
ただでさえ食欲もなくて、吐き気ばかりする私は必要最低限の食事しかしてへん。
定期的に連れて行かれる産婦人科では妊婦の割に痩せすぎだと叱られたことがあるくらいや。
そんな私が、私を守るつもりで動きまわってるお母さんに腕力で敵うはずもない。
こじ開けられた口の中に、お母さん曰く聖水が流し込まれた。
口の中一杯に広がるアンモニア臭。

「おえっ、げぇえええええええええええ!!」

日頃からある吐き気は一気に最大限となって私を責め立てた。
胃の中の物どころか、内臓すら全て吐き出したい。
そないな欲求が込み上げてくる。
そのころにはとうに枯れはてたと思うとった涙がぼろぼろと流れた。
こない最低な状況で、まだ私は涙を流すことができたんやと、意味もないことを認識した。

「我慢やで梢! 今苦しいんは聖水のおかげで悪魔が苦しんでるからや!」

私の背中をさすりながらお母さんが嬉しそうに声をかけてくる。
その眼の下にはどす黒いクマができとった。
その日の夜、私は自殺を決意した。
お風呂場で剃刀を手首にあてて、切ろうと思った。
せやけどいざ手首に刃をあてると恐怖で手が震えた。
今までも数え切れへんほど死にたいと思ってきた。
でも私はほんまに臆病者や。
生きてることに向き合うことも嫌やのに、逃げだすことすら碌にできひんかった。
せやから死にたいと思いつつ、どうしても行動に移すことすらできずにおった。
それもここまで。
今日こそは、死のうと思った。
ここまで実行に移すことは今までできへんかったんや、ここで死ねんかったらきっとこの先も自殺なんて無理や。
お母さんは私のためにあない苦しんどんのや。
その元凶の私が死ねば、もうあんな嘘っぱちな宗教にのめり込む必要もない。
せやからここで死ぬべきなんや。
そう思いつつ、どうしても怖くてためらってしまう。
手首には震えのせいでできたためらい傷が何本もできる。
薄皮を切ってできた小さな傷から、血がじわりと滲みでた。
怖い。
怖い。
怖い。
手首に感じる痛みと目に映る血の色。
それが私の恐怖心を苛む。
でもここで死ぬのをやめたら、きっと私はもう自殺なんてできひん。
臆病者でどんくさい私のことや。
死ぬことができずにずるずると意味もなくお母さんを苦しめながら生きるだけ。
せやから、決心した。
眼をつぶって、思いっきり手首を剃刀でかこう思うた。

「っ!?」

せやけどその決意はあっけなく砕け散った。
その瞬間、初めて私の中で赤ちゃんがお腹を蹴ったんや。
それを認識した瞬間、確かに私は赤ちゃんの鼓動を感じた。

「……っぐぅぅ……ぅぅううううう……」

こんなん、反則や。
鼓動を感じた……それは確かに生きてる者をそこに感じたっちゅうことや。
私のお腹の中にいる命。
私の赤ちゃん。
こんなん……死ねるわけない。
臆病者の私や、自分が死ぬ覚悟はできても、他の命を奪うなんてできるわけあらへん。
お腹の子供が一つの命やと、自分の子供やと認識してしもうた。
今の今まで無意識にひたすら認識するのを避けとったのに……認識してもうた。
自分を殺すこともできず。
お腹の赤ちゃんを殺すこともできひん。
私はひたすら声を押し殺して泣いた。
この現状を助けて欲しかった。
せやけどいくら泣いたかて私に救いの手を差し伸べてくれる人なんておらん。
唯一私を愛してくれているお母さんも、今では狂ってもうた。


「柳瀬君……」



私は無意識に、諦めたはずの恋の相手の名前を口にしとった。












――――――――――――――――――――――――――――
用語設定

・魔法少女
魔法世界の生物と契約して魔法の力を得た人間のこと。
魔法生物の嗜好か、主に10代の少女が契約対象のことが多い。
だが稀に薫のような例外もいるようだ。
魔法少女は固有の概念を持ち、それに合わせた魔法と武器を持つ。
魔法少女に変身すると身体能力が十倍以上に跳ね上がる。
変身中は、不思議な光に包まれて外界からの干渉を遮断する絶対防御状態になる。
反面、変身を解くときは光もなく一瞬で終わる。
極端に短いミニスカートを履いているが、アンチチラリズムという魔法が標準で発動している。
そのためどんなに大きな動きをしていてもスカート内部は見えない。

・魔法兵装
魔法少女が持つ固有の武装。
それぞれの概念から個人が一番にイメージしたものが形となっている。
例としては香奈は“打貫”で杭打ち機。
薫は“撃貫”でライフル。
二人が似た概念を持つのは契約した生物が同じだから。

・魔術師
魔法生物とは契約せず、自身の力のみで概念を手に入れた人間。
その概念に見合った術式の魔術を使う。




人物設定

・柳瀬藤一郎(18)
主人公。
今のところ特に何の特殊な力も持っていない高校三年生。
これからも彼自身に特殊能力が目覚める予定はない。
身長は170くらい。中肉中背。
本人の意思とは全く関係ないところで「悪魔の父親」となってしまう。
両親は幼いころに他界、現在妹と二人暮らし。
両親は元々それなりに裕福だったのだが、彼等の死後、自称親戚たちに財産をほとんど奪われる。
残ったのは住んでいた家だけであった。
そんな状況を見かねた逆上時子に拾われ、後見人となってもらいなんとか生活している。
高校は奨学金で通っている。
逆上時子が所長と務める探偵事務所でバイトをしており、学園卒業後はそこで働く予定。
年の割に落ち着いた性格をしている。
産まれてこのかた、未だ近畿地方から出たことがない。
というかほとんど京都しかしらない。
現在は普通と思っていた自分の周囲に、普通な人間がいなかったことを知り複雑な心境。



・白木梢(17)
ヒロインの一人。ハーレム要因一号。
一年前に起きたキリスト教徒と悪魔との戦闘で生き残った悪魔に胎内に寄生される。
悪魔が彼女の子宮内にある卵子に憑依、融合して成長したために処女のまま妊娠してしまう。
そのことで学園を自主退学。
お腹の子供は気づいた時には既に堕胎できないまでに成長してしまっていた。
それらのせいで家庭は崩壊、何度も自殺を考えた。
ある意味作中一番の不幸な人。
身長は160くらい。
背中までまっすぐ伸びる黒髪をした、全体的に線の細い和風美少女。
彼女自身には特に何の能力もない。ないが、「悪魔の母親」になってしまう。
自分の産んだ子供が悪魔の子供と知ってショックを受けるも、母親であると自覚して守る決意をする。
藤一郎のことが前から好きだった。




・柳瀬香奈(16)
ヒロインの一人。
ハーレム要因二号? しかし妹であるために異性として見られていない。
藤一郎の妹で、彼女事態は重度のブラコン。
性格は明るく活発で、ちょっと熱血入った運動会系な性格。
長い髪をポニーテールにしていて、なかなかに美人ではある。
ただ、兄同様あまり頭はよろしくない。
今回の件でばれてしまったが、実は兄に黙って魔法少女をやっていた。
魔法少女の時の名前はマジカルカナン。
所有概念は“打貫”……正直作者の造語。
その姿は赤を基調としたふりふりの衣装。
きわどいミニスカートをはいているが魔法のためにサービスショットはない。
魔法兵装はマジカルステークという名前で、手甲型の杭打ち機。
戦闘では主に接近戦を好む、というかほぼそれしかできない。
キャラモチーフはアルトアイゼン。



・饗庭薫(17)
ヒロイン?の一人。
ハーレム要因3号、でいいいのだろうか?
正直作者もその場のノリで香奈の相棒として書いただけのキャラ。
一応生物学上は男であるが、容姿はどう見ても女の子にしか見えない。
むしろその辺の女子よりもずっと美少女である。
身長は150くらいとかなり小さい。
藤一郎と香奈とは幼馴染で、幼稚園の頃はいっしょにお風呂にも入っていた。
昔から藤一郎の弟分として彼の後をついてまわっていた、どちらかといえば気弱な性格。
だが藤一郎を見る目がいつからかちょっと怪しくなった。
その視線を贈る藤一郎に無意識に嫌な汗をかかせることもある。
薫も香奈と同じく魔法少女を藤一郎に内緒でしていた。
彼の場合魔法少女というべきか少年というべきか。
魔法少女の時の名前はマジカルカオルン。概念は“撃貫”
青を基調としたふりふりの衣装だが、へそ出しな分香奈よりも露出度は高い。
魔法兵装はマジカルライフル。文字通りライフル銃。
戦闘では高速で移動しながらの射撃戦を取る。
キャラモチーフはヴァイスリッター。




・逆上時子(35)
逆上探偵事務所の所長を務める。
藤一郎と香奈の後見人。
肩の長さに切りそろえられた黒髪にシャープな眼鏡をかけた切れ長の目の知的美人。
この作品で数少ない京都弁を話さないキャラ。身長は175くらい。
“逆行”の概念を持つ魔術師で作品内で一番のチートキャラ。
その能力を使って常に肉体年齢のみを逆行させて20歳の時の体を維持している。
そのため、戸籍上は35歳だが本当のところは不明。
事務所自体は小さなものだが、彼女自身は様々なコネクションを持つ。
仕事の時は季節に関係なくダークスーツにベージュのコートを羽織るこだわりをもつ。
いろいろと謎の多い人物。




・石郷岡貞治(29)
逆上探偵事務所の社員。
髪を茶髪に染め、シャツのボタンも上から3つは最低でも開けている見た目はチャラ男。
性格は気さくで人柄もいい。
藤一郎たちが幼いころはよく色々な場所に遊びに連れていくなど面倒見も良い。
身長は180くらい。
彼自身も仕事自身はなかなかのやり手で、どうやら一般人ではないらしい。
ただし今現在はその能力は不明。
どうやら鬱津木に好意をよせているらしい。



・鬱津木命(24)
逆上探偵事務所社員の一人。
社員の中では最年少の女性。身長は165くらい。
性格は真面目でお堅い感じで、そのせいか未だ恋人ができたことがない。
もしくは、常に身につけている右目の眼帯が要因かもしれないが。
彼女もまた一般人ではない様子。



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