福島 嘘と真実─東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)
高田純氏は物理学と放射線医学を学び、自前の放射線測定器と共に、核災害に見舞われた世界中の被爆地を自らの足で測定を続け、住民の健康への影響を忍耐強く調査している、放射線防護の専門家である。彼の前著「世界の放射線被曝地調査
」はなかなかの名著で、僕はぜひとも一度紹介したいと思っていたのだが、なぜだか今まで機会がなかった。
「世界の放射線被曝地調査
」は高田氏が、核実験が行われた南太平洋の小さな島々、原爆で作られたシベリアの人工湖(旧ソ連は原爆を工事に利用していた)、チェルノブイリなど、過疎が進む核災害地域にでかけていき、大地や食べ物の放射線量を測定したり、辺境の地に未だに住む住人の被曝量を測定しにいくのだが、それが実に幻想的な旅行記なのである。
そういった辺境の地の村々で、彼は住民とガンマ線をキラキラと放つ放射性セシウムの入ったウォッカを酌み交わす。その地の食べ物を測定し、住民の被曝量を測定する。そして住民と同じものを食べる。住民の歯の中にひっそりと忍び込んだ、カルシウムと似た性質の放射性ストロンチウムが、核崩壊し、神秘的なベータ線を解き放つ。それを高田氏の自前の測定器で丹念に拾っていく。大きな機材を抱える彼は、空港で怪しまれて取り調べを受けたり、地元の若く美しい女性に出会ったりする。
この本を読んで、シベリアの原子爆弾で人工的に作られた誰もいない貯水池を訪れ、夏の満月の日、月光に照らされた静寂の中を、美しい女性と真ん中まで泳いでいき、そこで愛を確かめあいたい、という衝動に僕は駆られた。宇宙空間のような静寂の中で。
今回、高田氏が訪れた地は、もちろん福島である。福島第一原子力発電所の立ち入りが許されるギリギリのところまで自ら足を運び、丹念に、丹念に放射線を測定した。そして福島県の住民一人ひとりの内部被曝を測定した。そして、彼が見たものは・・・
それは極めて低線量にもかかわらず、政府による無理な避難命令で犠牲になってしまった人や動物である。福島原発の作業員の中に、未だに放射線の犠牲者はもちろん、急性放射線障害の患者もひとりも出ていない。もちろん福島県の住民の中で放射線が原因で死亡した人はゼロである。しかし20キロメートル圏内では、病院患者の受け入れ先が未確保だったり、手当てのない搬送により、取り残された患者が数人死亡してしまった。そして多数の置き去りにされた、牛、豚、鶏が、餓えと渇きで死に絶えた。
この本の中の一枚の写真の中に、筋肉が隆々と盛り上がった黒毛牛が変わり果てた姿で横たわり、その片隅で高田氏は悲しそうに立っていた。
「餓えと渇きで、動物たちは死んだ。核と放射線では絶対に死なない状況だったのに」
彼の無念さが滲み出る。
高田純氏は物理学と放射線医学を学び、自前の放射線測定器と共に、核災害に見舞われた世界中の被爆地を自らの足で測定を続け、住民の健康への影響を忍耐強く調査している、放射線防護の専門家である。彼の前著「世界の放射線被曝地調査
「世界の放射線被曝地調査
そういった辺境の地の村々で、彼は住民とガンマ線をキラキラと放つ放射性セシウムの入ったウォッカを酌み交わす。その地の食べ物を測定し、住民の被曝量を測定する。そして住民と同じものを食べる。住民の歯の中にひっそりと忍び込んだ、カルシウムと似た性質の放射性ストロンチウムが、核崩壊し、神秘的なベータ線を解き放つ。それを高田氏の自前の測定器で丹念に拾っていく。大きな機材を抱える彼は、空港で怪しまれて取り調べを受けたり、地元の若く美しい女性に出会ったりする。
この本を読んで、シベリアの原子爆弾で人工的に作られた誰もいない貯水池を訪れ、夏の満月の日、月光に照らされた静寂の中を、美しい女性と真ん中まで泳いでいき、そこで愛を確かめあいたい、という衝動に僕は駆られた。宇宙空間のような静寂の中で。
今回、高田氏が訪れた地は、もちろん福島である。福島第一原子力発電所の立ち入りが許されるギリギリのところまで自ら足を運び、丹念に、丹念に放射線を測定した。そして福島県の住民一人ひとりの内部被曝を測定した。そして、彼が見たものは・・・
それは極めて低線量にもかかわらず、政府による無理な避難命令で犠牲になってしまった人や動物である。福島原発の作業員の中に、未だに放射線の犠牲者はもちろん、急性放射線障害の患者もひとりも出ていない。もちろん福島県の住民の中で放射線が原因で死亡した人はゼロである。しかし20キロメートル圏内では、病院患者の受け入れ先が未確保だったり、手当てのない搬送により、取り残された患者が数人死亡してしまった。そして多数の置き去りにされた、牛、豚、鶏が、餓えと渇きで死に絶えた。
この本の中の一枚の写真の中に、筋肉が隆々と盛り上がった黒毛牛が変わり果てた姿で横たわり、その片隅で高田氏は悲しそうに立っていた。
「餓えと渇きで、動物たちは死んだ。核と放射線では絶対に死なない状況だったのに」
彼の無念さが滲み出る。
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