2011年9月26日
サイバー攻撃/防衛問題として本腰で臨め
護衛艦やミサイル機器の生産を担う三菱重工業やIHI(旧石川島播磨重工業)などの防衛産業がサイバー攻撃を受けている。いずれも軍事機密を狙ったスパイ行為で、単なるネット犯罪ではない。放置すれば、わが国の安全保障に齟齬をきたす。「サイバー戦争」との認識に立ち防衛問題として臨むべきだ。
米では新たな「作戦領域」
三菱重工業で狙われたのは、原発プラントや潜水艦、護衛艦、ミサイル迎撃誘導弾を生産している工場などだ。国内11事業所のコンピューターなど計83台が情報収集を目的としたサイバー攻撃を受けた。IHIは護衛艦、川崎重工業は潜水艦を製造している工場が標的にされた。いずれも機密情報の漏洩はないとしているが、防衛省は徹底調査し、関連企業と連繋して情報保全に万全を期すべきだ。
ネット社会では「サイバー悪戯」と呼ばれる愉快犯が少なからずおり、2008年1月には16歳の少年が不正アクセスによって3600万円相当のポイントをだまし取る事件も起こった。こうしたネット犯罪には今年7月、新たにウイルス作成・提供罪が設けられた。
だが、今回は次元を異にするサイバー攻撃だ。これは防衛や治安、経済活動をはじめとする重要インフラのコンピューター・ネットワークに侵入し、機密情報を窃取したり、データを破壊・改竄したりして、その国の重要システムを機能不全に陥れるものだ。ネット社会の新たな戦争形態とされている。
すでに米国はサイバー攻撃にさらされている。09年12月、大手ネット企業グーグル社が「オーロラ作戦」と呼ばれるサイバー攻撃を受け、金融、化学、メディアなど計33企業から大量の秘密情報が窃取された。今年3月には国防総省のネットワークから戦闘機や潜水艦などの機密情報を含む2万4000個のファイルが盗まれた。いずれも中国からと見られ、リン国防副長官は「国家による犯行」と断定し、国家間のサイバー攻撃が始まっているとの認識を示した。
こうした事態を受け米国は09年に国家サイバーセキュリティー・通信統合センターを設け、昨年5月には陸軍に約1000人規模の「サイバー司令部」を新設。さらに米国防総省は今年7月、サイバー空間を陸海空、宇宙と並ぶ新たな「作戦領域」と位置付ける初のサイバー戦略を発表した。同戦略は日本や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国とサイバー攻撃への共同警戒システムを開発し、合同訓練を実施するなど共同防衛体制をつくるとしている。
これに対してわが国の防御策は後手に回っている。ようやく警察庁と国内企業4000社が今年8月、サイバー攻撃への情報共有ネットワークを立ち上げた。防衛省は今年版防衛白書でサイバー攻撃を「国家の安全保障に重大な影響を及ぼし得る」とし、防御体制を強化するとしたが、本格的な「サイバー防衛隊」はいまだ設けていない。
情報戦への備え強化を
それ以前にわが国には対外防諜組織もなければスパイ防止法もなく、情報戦への備えが脆弱極まりない。本腰を入れて防御体制づくりに取り組むべきだ。