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 談論風発 :  失われた20年/パソコン全時代も素因
 しまね産業振興財団顧問 周藤 巌

 日本が「失われた20年」と指摘されて久しい。その意味するところは、国家指標のあらゆる分野で劣後現象が著しい、ということであろう。問題は、その素因は何か、ということであるが、単一の素因はありえず、複数の素因が複合的に絡み合った結果の現象に違いない。本稿の目的は、身近な職場風景の革命的変化として、職員全員にパソコンが配布される「パソコン全時代」が、特に中小企業の経営統治システムに与えた影響と、その職員の労働態様に及ぼした影響などを考え、素因との関連性を探ってみることにある。

 その起点は、1990(平成2)年ごろとみるのが適切であろう。この年の国家の税収など主な指標は、直近で最も良好な状況であった。その後、今日まであらゆる指標は悪化の一途をたどっているのである。

 官民を問わず、職場の風景、特に事務系職場において、この二十数年間で最も大きい革命的変化は、パソコンが職員一人一人に配布されたという事実だと思う。各社の社長はすべて、IT時代の到来の流れとはいえ事務系管理部門の生産性向上をもくろみ、業績向上を願って決断されたに違いない。果たして、もくろみ通り業績向上に寄与したのであろうか。

 ひょっとすると、「失われた20年」の何かの素因が、ここらに潜んでいはしないか、と素朴に思うのである。

 影響の第1 経営統治システムへの影響という点では、タテのライン<社長↓経営陣↓部長↓課長↓係長↓職員>が希薄になり、結果、命令・指示など上位の者の意思が下部の者まで徹底されていなくなってはいないか。また、上位の者の「肉声」が下部の者にまで浸透していないのではないか。逆に、タテが弱くなると、ヨコのラインが出張ってくる。上下が希薄になると、ヨコ一列お友達・同好会・クラブ組織に変質してしまってはいないか。これでは「職場」とは言えない。「徹底」の欠如である。統治システムへの懸念である。

 影響の第2 朝から晩まで一日中、どのレベルもパソコンとにらめっこではないのか。朝のあいさつ、帰りのあいさつなどを、パソコンにしてはいないか。結果、職員が動かなくなった。本来の営業がなくなった。どの経営でも、原点というレベルの営業があるはずだ。

 例えば、銀行など金融機関なら、ボーナス時期ともなれば、行員が預金勧誘をするのは当然の原点行為のはずだが、最近はどうか。あまり見かけない。その他の業種の職場はどうか。効率優先の声に隠れて原点がおろそかになってはいないか。職員が自ら率先して自分の手で切り開いていく。そういう姿勢がなくなった。ある銀行が事業承継セミナー開催の新聞広告を出した。それはよいことだが、講師は税理士が担当するとか。この銀行には事業承継の講話ができる者がいないのか。丸投げの1例である。自分でやる自立の姿勢がほしい。

 画一思想もまん延している。ある若手行員は財務分析が得意だという。彼が作成した資料の中に取引金融機関4行の融資比率が小数点以下、第6位まで記載されているが、どんな意味があるのか。

 さらに、複雑なことを考えなくなった。例えば、事業再生手法は究極の事業・金融・税務など複合的金融手法である。もっと地域のために活用すべきである。

 影響の第3 職場での肉声による会話が少なくなっているのではないか。隣同士のメールなど言語道断であり、職場の雰囲気が柔和すぎはしないか。厳しいことを直接肉声で指摘してくれる上司がいなくなったのか。上司がメールに入れておいたから読んでおいてくれ、ではどうか。中小組織では大いに疑問だ。

 「パソコン全時代」の到来と「失われた20年」とが起点をほぼ同時期とするが、偶然だろうか。

 筆者には「パソコン全時代」が複合的な負の素因の中の一つを担っているような気配が感じられて仕方がないのである。

 …………………………………

 すとう・いわお 元山陰合同銀行融資部長、出雲支店長など。元ごうぎんキャピタル初代社長。元島根大客員教授。私設・勁草文庫主宰。島根県斐川町荘原町在住。69歳。
('11/09/24 無断転載禁止)

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