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福島の事故を引き合いに身土不二を掲げる無神経

とらねこ日誌
JBPRESSに掲載されている『日の丸弁当は貧乏ではなく、実は豊かさの証福島原発事故は、日本に伝わる食文化を学び直す好機』と謂う記事を読んだ。この記事は、自然食研究家として活躍(?)している若杉友子氏の推奨する食養生を紹介し、ここに日本の食再生のヒントがあるのでは無いか?と提言を行うという内容であった。

しかし、この中で語られている伝統の食事はけっして日本の昔からの食文化とは謂えないようなものであるばかりか、実際に健康への影響が実証されている、極端な高塩分食を手放しで推奨するなど、根拠の無い言説が自信満々の口調で並べられており、大変危うい記事に仕上がっているとどらねこには思われた。今回はこの記事を適宜引用しながら、疑問点や主張の問題点などを明らかにしていきたいと思う。

※今回の記事は少し強い論調で書かれている為、そう謂うのが苦手な方はスルーして頂ければ幸いです。

若杉氏



若杉友子氏は桜沢如一に師事したとされており、野草料理教室を開催するなど、マクロビオティックの教えに基づく健康法を実践、教育を行っている人物である。また、娘である若杉典加氏も母親と同様の活動を行っている様だ。記事中で若杉氏の主張する食事健康法*1はこのマクロビオティックの独自理論に基づくものであるのだが、この食事健康法は桜沢如一氏の考案した独自理論に過ぎず、日本伝統の食文化を伝えるようなモノではない*2事に注意が必要である。つまり、この時点で川嶋諭氏のつけたタイトルにある、『日本に伝わる食文化を学び直す』と謂うテーマにそぐわない人物に取材を試みた事が明白なのである。この時点で終了にしても良さそうだが、本文にある主張のオカシサについても言及*3しておこうと思う。

若杉氏の主張



記者の若杉氏紹介は次のようなものである。
 さて、今年はどんな方法でダイエットに取り組むか。そう考えていた矢先、とてつもなく元気なスーパーおばあちゃんに出会った。74歳にして豊かな頭髪に白髪はほとんどなく、新聞や本を読む時に老眼鏡のお世話になることもない。
スクワットは平気で70回以上こなし、縄跳びは100回以上連続して飛ぶことができるという。お年寄りになると会話のスピードが落ちがちだが、早口が“自慢”の私の2倍以上の速さで言葉が飛んでくる。

医者に全くかからないのでデータで証明はできないものの、「体にはひとつも悪いところがない」と言い切る。健康料理研究家の若杉友子さん。見るからに逞しいおばあちゃんである。
果たして彼女が自称健康なのは、実践している健康法のおかげなのだろうか?健康法とは関係無く、元々丈夫な体を持って生まれてきただけなのかも知れないからだ。健康法の妥当性を判断する為に、個人の体験談はなんら参考にならないと謂う事は多くの方が覚えておいて欲しい。とはいえ、目の前の人物が元気いっぱいであれば、元気のない人が同じ事を述べるよりもやっぱり説得力を感じてしまうのは誰しも同じだろうから、なかなかに難しい。因みに、どらねこの祖母は80歳になるまで殆ど風邪をひかず元気いっぱいに過ごしていたが、肉も食べるし、体格も小太りだったし、甘いものも大好きであった。だからどうした?と謂う話である。
若杉おばあちゃんは言う。「健康になりたかったら、そして痩せたいんだったら、あなたのお母さんが小さい頃に作ってくれたはずの日の丸弁当を見直しなさい」

 日の丸弁当って、アルミ製の弁当箱の真ん中に大きな梅干が1つ。日本の国旗の形と色をしたやつでしょうか。
 「そうよ。日本人なんでしょ。有難くそのお弁当をいただきなさい。もったいないからご飯つぶ1つも残しちゃダメよ。日の丸弁当を食べていれば日本人は健康になれるの」
<中略>
「完全にアメリカのプロパガンダに洗脳され切ってしまっているわね。戦後66年も経っているのにこれだものねぇ。アメリカ人がカロリー、カロリーと叫んで、日本人のカロリー摂取量を上げようとしたのは、農産物を売り込みたいからじゃない」
 「2000年以上日本に住んできて、日本の食生活に合った形に体の構造がなっている日本人は肉ばっかりの食生活を送ったら、体に良いことはひとつもないわ。口に極楽、腹地獄というやつね」
確かに、痩せる事だけを考えたら、ご飯と梅干しの食事は良いかも知れないが、健康になりたければ他にも色々と食べる必要があるだろう。日の丸弁当を食べるだけで健康になれると謂うのなら、くる病や夜盲症などに悩まされた人々は何が悪かったと謂うのだろう。また、かつて日本では結核が国民病と呼ばれていたが、その一因が栄養失調によるものである事などはどう考えているのかなど気になる処である。もう一つ大きな誤解があるのだが、それはカロリー摂取*4の問題である。現代日本では戦前に比べてもエネルギー摂取量の総量は実はあまり変わっていない*5のである。問題は運動量の低下である。
 

それは呪術です



更に話は飛躍します。
地元で採れた食物を食べるように人間の体はできている
 「ただ自分たちは普段からご馳走は食べられないから自分の畑なら畑、野山なら野山から採れる範囲の食材を採って食べていました。実はそれが健康の秘訣だったのです」
 「身土不二という言葉が日本にはあるでしょう。人間が生まれ育った風土で育った食物は体に順応し、適応してくれるということを表しています。つまり、地元で採れた食べ物を食べているのが健康のためということ」
特定のミネラル成分を殆ど含まない土地であったり、逆に過剰に含む土地などでは、その土壌で育った食物ばかりを食べていると、ミネラル欠乏症や過剰症が現れる事が知られており、風土病と呼んでいる。その土地の食べ物しか手に入れる事ができないのならまだしも、他の地域から食物を手に入れる事が出来るのであれば、それを採り入れて、より健康な生活を実現した方が良いと思うのだが、何が問題なのであろうか?山間部で生活する人が海藻を食べることは推奨しているように見えるのはどういう事だろうか。地元の定義が恣意的なのである。もう一つ、身土不二*6をそのような意味で用いているのは、明治時代の食養家である石塚左玄氏であり、さも伝統的な用語であるかのように説明しているところも不誠実ではあると思う。
 小さい頃、背が高くなりたくて牛乳をたくさん飲みました。残念ながら並みの高さにしかなりませんでした。でも、やっぱり背を高く体格を良くしようとしたら、地元で採れた食べ物だけでは限界があるのではありませんか。
 「日本のお米には栄養素がいっぱい詰まっているのよ。欧米人が食べている麦から作ったパンに比べたらはるかに栄養価が高い。何より昔のお相撲さんはお米を食べて大きくなったじゃないの。それから、お子さんの背を高くしたいなら良い日本の食材があるのよ」
「それは筍。この食材は上に向かって伸びる力が強いでしょう。食材は陰性と陽性の2つに分かれるんだけれども、上に伸びるということは非常に陰性が強いことを表しているの。旬の季節にこれを陽性が強い子供に与えると背を高くする働きがあります」
栄養的な話よりも、他国の食事を貶めるような表現が先に気になってしまう。自国に誇りを持つことは自由であるが、他国の食文化であるパン食と比較し優れているとわざわざ述べていて、此方が恥ずかしくなってしまう。気を取り直して内容に言及すると、体格について考えるには、まずお米ばかり食べていた時の日本人の身長の伸びと戦後から現代までの慎重の伸びを比較してみるのが分かりやすいと思う。以下のグラフを見て欲しい。

f:id:doramao:20110924211748j:image:w550

お米を沢山食べていた筈の昔に比べて体格が良くなっているのは一目瞭然である。また、お相撲さんについても、昔のビデオを見れば現代の力士に比べてずいぶんと小さいのは明らかだ。ここまで根拠の無い言説でも堂々と述べると本当っぽく聞こえるのだろうか、う〜ん。ところで、日本人の平均身長はここ数年横ばいとなっており、今後も伸びはほとんど無いだろうとされている。これは十分な栄養が与えられない事が原因で成長期の身長の伸びが妨げられてきた子どもが殆ど居なくなったからだろうと考える。グラフでの太平洋戦争に重なる時期では、その前に比べても低くなっており、必要な時期に必要な栄養素の供給が十分で無かった為と推察される。日の丸弁当だけでは子どもは十分に成長できないのだ。ところで筍についてはどうなのだろう?どらねこは『筍摂取量と身長の関係』について述べた論文などを見たこともありませんし、そのようなデータも知りません。おそらく、ぐんぐん伸びて欲しいから、ぐんぐん伸びる食べ物を与えようと謂う、素朴な発想なのだろうと思います。これは類感呪術*7と呼ばれるものの典型例であると謂えそうだ。もし、そうでないと主張をするのなら、少なくとも相関が見られるようなデータぐらいは提示する必要があるだろう。
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