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[29361] 【習作 なのは オリ主】 はぐれ騎士秋助魔導業
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:88f17f3f
Date: 2011/09/10 21:05
前書き

 とある時代劇小説を読んだら、この話を書きたくなりました。
 基本、短編の連作です。
 未熟な文章ですが、お楽しみいいただければ幸いです。
 独自設定、原作登場人物の性格等変更が入るので、苦手な人は他の作品をお勧めします。



 9月10日に加筆と修正を加えました。














 騎士と呼ばれる者達がいる。
 今は衰退したベルカ式魔法の使い手の中でも、特に優れた者達に授けられる称号であり栄誉である。
 当然、騎士達はその称号を誇りに思い、騎士として恥じることの無い生き様、戦い様を貫いてきた。
 その気高い精神は多くの伝承に語り継がれ、かつてよりベルカ式の使い手が激減した現代にも生きていた。
 騎士として生きる者、騎士を目指す者は過去の先達の背を追いかけ、多くの苦難が待ち受けるだろう道をあえて選んできた。



 ・・・・・・だがしかし、当然例外は存在した。





[29361] 教会騎士団のはぐれ騎士(9/10修正)
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:88f17f3f
Date: 2011/09/10 20:45
 聖王教会。
 古き時代の偉人を奉り、喪われた古代魔法文明の遺産『ロストロギア』の保守管理を使命とした次元世界最大規模の宗教組織。
 その使命のため、教会は独自の戦力『教会騎士団』を擁していた。

「騎士カリムーーーーー!!何処ですかーーーーーー!!!」
 怒り交じりの声が教会の廊下に響き、その声の主であろうシスターが憤怒の形相で疾風の如く駆け抜ける。
 彼女こそ教会のとある有力者の護衛兼秘書を勤める、教会でも腕利きと名高いシスター、シャッハ・ヌエラ。
 生真面目な性格をしている普段の彼女なら大声で叫びながら教会の廊下を爆走するなど絶対しないだろうが、今の彼女はそうとう怒っていた。
「まったく、いったい何処に・・・「・・・何かあったんですか?」!!?」
 突然背後から掛けられた声に、シャッハは驚愕しながらも背後に身構える。
「・・・驚かせましたか?」
「気配を消して後ろを取らないでください、騎士秋助!」
 少年、名を佐井秋助というのだが、彼は無表情を変えぬまま困ったように頭をかいた。
 年は十代半ばくらいだろうか?
 Tシャツにジーパンというラフな格好の上に法衣のような黒い上着を羽織っている。
 とても騎士と呼ばれるような実力者には見えなかったが、シャッハほどの実力者の背後を察知されること無く取ったのは偶然だろうか?
「それで、騎士カリムに何かあったんですか?」
「いえ、ですが先程執務室に行ったらこれが・・・・・・」
 そう言って一枚の紙を見せるシャッハ。
 そこには・・・・・・
「・・・・・・シャッハ。
 俺はまだこっちの字を覚えきっていないんですが」
「『ちょっと出かけてきます カリム』と書かれているんです!!」
「・・・・・・騎士カリムは仕事をサボるような人では無かったと思っていたんですが」
「いえ、今日の仕事はすべて終えていました」
「?
 なら何が問題なんですか?」
「秋助、騎士カリムは教会の重要人物なのですよ!
 護衛も無く外に出させる訳にはいかないでしょうが!!」
「あー、成る程」
 納得する秋助。
 騎士を名乗ってはいるが、カリムの戦闘能力は正規の騎士称号を持っていない秋助から見ても低い。
 もっとも、カリムの主な仕事は戦闘ではないが・・・・・・・
「もう外に出たんじゃ?」
「く、その可能性が大きいですね。
 行きますよ!!」
「・・・俺も?」
「当然です!!」
「・・・ロッサは?
 探索はあの人の得意分野では?」
「残念ながら、彼は今別任務で教会にいません!
 さあ、いきますよ!!」
「やれやれ・・・」

 聖王教会本部があるベルカ自治領は古い歴史と伝統を有しており、その町並みも近代都市とは一線画する趣がある。
 そこに最近、一件の喫茶店が開店した。
 おいしいケーキや軽食、紅茶やコーヒー、その店『シルバーリーフ』は瞬く間に自治領の評判になった。

「いい加減にしてください!!
 迷惑です!!」
「ああ?
 騎士の俺様が茶に誘ってやってるってーのに迷惑だあ!?」
 噂のシルバーリーフ店内では何やら揉め事が起きていた。
 この主犯はこのベルカ自治領にある学校の制服を着た学生同士であった。
 一方は高等部の制服を着崩しており見るからにガラが悪い不良学生。
 もう一人は同じく高等部の制服を着た真面目そうな金髪の女子学生。
 大方、不良学生が女子学生をナンパでもしていたのだろうが、彼女の断り方が悪かったのか、その不良が余りに性質が悪かったのか・・・・・・
「何が騎士ですか!
 無闇に力を振りかざすようなチンピラに、騎士を名乗る資格などありません!!」
「このアマ!大人しくしてればいい気になりやがって!!」
「お客様!
 店内での騒ぎは他のお客様に・・・」
 そこで店員が制止しようとするが
「うるせえ!!」
 キれかけた不良学生が槍型のアームドデバイスを起動し、店員に突きつけようとする。
 だがその時・・・

「やりすぎだ」
「!?」 
 突然背後からの声と同時に、喉に冷たい何かが当てられた。
 男が動く、あるいは声を上げる間もなく、魔力を纏った刃が喉笛を掻き切った。

 女子学生の目の前で不良が倒れると、その背後に立つ少年が姿を見せた。
「あら、秋助?」
 女子学生が驚いたように少年、秋助を呼ぶ。
 手にはクナイ型アームドデバイス『影刃』を逆手に握っていた。
「・・・そんな格好で何しているんですか?」
 やや疲れを滲ませながら秋助は、彼女が着ている制服を見て訊ねる。
「似合いませんか?」
「・・・・・・」
 悪戯っぽい笑顔で訊ねる女子学生の質問に無言で冷めた視線を送る秋助。
 そんな秋助の反応に、女子学生はつまらなそうな顔をしながら答える。
「見ての通り変装です。
 このお店の評判をロッサに聞いて、一度行ってみたいと思っていましたから、ちょうど今日の仕事が早めに終わったので」
「何でシスターシャッハに一言も言わないで?」
「書置きはしましたが?」
「・・・・・・はぁ」
 疲れたように溜息を吐いて影刃を服の下にしまう秋助。
 元々クナイ型という小型な形状をした影刃は携行も楽で、わざわざ待機形態にする必要が無かった。
「それより秋助。
 いくら相手があんな人でも、背後から襲うのは騎士としてどうかと思います。
 それにそんな戦い方ばかりしていたら、騎士団のランク昇格試験に何時まで経っても受かりませんよ」
 女子学生の窘める様な言葉に、秋助は肩をすくめた。

 秋助は故郷である地球のとある武術を修得しており、隠密行動と死角からの奇襲攻撃を得意としていた。
 しかし闇に紛れ、気配を絶ち、必殺のみを追求したその戦い方は普通の騎士のような正々堂々とした物ではなく、まるで暗殺者のような戦い方と騎士団では批判の意見も多かった。
 また、騎士団のランク昇格試験は地力を測りやすい試験官との一対一での模擬戦方式であったが、基本スペックが低く正面切った戦闘が苦手な秋助ではDランクに受かるのがやっとだった。
 だが同時に、秋助はその戦い方で騎士団の窮地を救った事があり、正規とは違う名誉称号とは言え騎士称号を若くして得ていた。
 この為、面と向かって非難されることは少なかったが、騎士団の水にまったく合わない彼を『はぐれ騎士』と呼ぶ者は多かった。

「それよりも・・・」
 女子学生が尚も何か言おうとするが、その前に秋助は店の窓の外を指差す。
 きょとんとした顔でそちらを見た女子学生(偽)はその顔を引きつらせ、冷や汗をかき始める。
「えーと・・・・・・
 秋助、あそこにいるのって・・・」
「もはや怒りのせいで表情には面影が無いが、あんたの護衛役のシスターです」
「・・・・・・」
 
 逃げようとする女子学生の姿をしたカリムだったが、疾風の如く店に入ってきた修道服の夜叉ッハに襟首掴まれ、何処かへと連れ去られてしまった・・・・・・

「やれやれ・・・・・・」
 夕日に朱く染まる町並みを歩きながら秋助は呟く。
 シャッハがカリムを連れ去った後、その場の後始末をしたのは当然、秋助だった。
 シルバーリーフの店員に騒がせた事を謝罪し(逆に御礼を言われたが)、遅参した自治領警務隊に非殺傷設定攻撃で気を失った不良の身柄を預け、そのまま少し早い夕食を注文し、丁度日が沈み始めた頃に教会への帰路についた。
 その手に怒り疲れているだろうシスターと結局あの店で何も食べられなかったらしい上司へのお土産が詰まった箱を持って・・・



[29361] はぐれ騎士の能力調査(9/10修正)
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:88f17f3f
Date: 2011/09/10 20:47
 斬。

 閃きと共にその傀儡兵は上下に断ち切られた。
 両手に持ったトンファーに刃を付けた変則的な双剣型アームドデバイス『ヴィンデルシャフト』を両手に構えるシャッハへ襲い掛かる、幾つもの傀儡兵。
 しかし、傀儡兵の攻撃が届く前に素早く踏み込みヴィンデルシャフトを振るうシャッハ。
 その度に、次々と傀儡兵はただの残骸へと変わる。
 シャッハが走ってきた道には数え切れない程の残骸が転がっている。
 素早い身のこなし、両手のヴィンデルシャフトを自在に振るう巧みな技。
 聖王教会でも有数の実力者というのも頷ける手際だった。
 だが、流石に多勢に無勢、中々前に進めない事に若干の苛立ちを感じ始めるシャッハ。
 大技で一気に数を減らそうとした、その時だった。
 彼女の背後から一つの影が壁を駆け上がり、天井すれすれまで跳躍する。
 その影、黒装束を纏った少年が両腕の袖から手裏剣を取り出し投擲する。
 的確に関節の隙間やセンサー部位に手裏剣が突き刺さり、手にした武器を取り落とし動きを鈍らせる傀儡兵。
 そのチャンスを見逃す事無く、ペースを上げるシャッハ。
 そして彼女に目がいった傀儡兵を死角から手裏剣やクナイ型アームドデバイス『影刃』で攻撃する黒装束の少年、秋助。

 遺跡から脱出した二人は森の中で休息していた。
 息一つ切らしていないシャッハに対して、秋助はやや荒くなった呼吸を整えていた。
「ふー・・・疲れた・・・」
「少し休憩しましょう」
 シャッハは秋助にそう言って、自分も近くの木の根元に腰を下ろす。
 今回、二人はとある遺跡からロストロギアの回収任務に就いていた。
 件のロストロギアはすぐに回収できたが、その後現れた傀儡兵の集団を破壊しながら遺跡内を駆け回り、何とか脱出したのだった。
 騎士甲冑である黒装束の上に巻いたマフラーで汗を拭う秋助を見ながら、シャッハは考える。
(魔力は並以下、使える魔法の種類も片手で数えられる程度。
 しかもデバイスは頑丈さだけが売りのロースペックな代物)
 シャッハは陸戦AAAランクの騎士で、貴久は陸戦Dランクの騎士だった。
 2人の能力には例えるなら戦車と拳銃程の開きがある筈だった。
 加えて、頑丈さだけが取り得の秋助の影刃と、シャッハのヴィンデルシャフトとでは、デバイスとしての性能にかなりの差が在る。
(しかし、若干の認識阻害魔法を織り込んだ騎士甲冑と、具現化魔法で作った数種類の武器・・・
 それだけで私が破壊したのとほぼ同数の傀儡兵を無力化してみせた)
 秋助の魔力では、今回相手にした傀儡兵を破壊する事は困難だった。
 だが認識阻害を併用した騎士甲冑を纏い隠密行動を得意とする秋助を傀儡兵は察知できず、関節の隙間、強度が弱いセンサー部といった弱点部位を破壊され、シャッハのような完全破壊まではされずとも行動不能に追い込まれていた。
(闇にまぎれ、相手に気付かれる前に決着を付ける・・・
 戦って勝てないなら、戦いになる前に打倒する・・・
 有効な戦法なのでしょうが、やはり騎士達は心情的に納得できないでしょうね・・・)
 本来、騎士カリムの護衛役のシャッハが、今回のようにロストロギア回収任務に就く事は珍しい。
 だが今回はカリムより、近々行われる大規模な演習での秋助の配置の参考にするため、彼の能力の調査を頼まれていた。
 結果として、秋助はシャッハの予想を超えた実力を示し、同時に予想以上に騎士とかけ離れた戦い方は判断に迷うこととなった。
(どの隊に加えても他の騎士と角が立ちそう・・・
 やはり単独で、得意な隠密行動を生かした情報収集や後方撹乱をさせたほうがいいでしょうか?)
「シャッハ!」
「!」
 思案していたシャッハの耳に秋助の緊迫の混じった声が届いた。
 秋助の視線の先を見ると、こちらに向かって走ってくる数体の傀儡兵がいた。
(先程の傀儡兵の生き残り。
 遺跡の外まで追いかけてくるとは、予想外でした)
 シャッハが身構えたその時、秋助が森の木の幹を蹴り傀儡兵の頭上に跳躍した。
 そして真下の傀儡兵に向かって腕を振るうと、黒装束の袖から何かが飛び出し、一気に広がった。
「・・・網!?」
 シャッハが驚いた声でその正体を言い当てた。
 秋助が放った網は傀儡兵を全て捕らえその動きを阻害する。
 網を切ろうともがく傀儡兵等の背後に着地した秋助は、影刃を口に咥え、背中から隠し持っていた鎖鎌を取り出す。
 シャッハもすぐにヴィンデルシャフトを構えて斬りかかる。
 傀儡兵の駆逐は、すぐに完了した。
 シャッハはその残骸に見向きもせず、秋助に訊ねた。
「・・・どうやったら、そんなに幾つも武器を隠し持てるんですか?」
「コツがあるんです」



[29361] はぐれ騎士の戦術(9/10修正)
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:88f17f3f
Date: 2011/09/10 20:50
 次元世界最大の組織、時空管理局。
 その中でも最強と名高い『航空戦技教導隊』の陣地では、聖王教会が擁する教会騎士団との戦闘の準備が着々と進んでいた。
 すでに偵察部隊からの報告で、騎士団の陣地の位置は判明した。
 先発部隊の展開は着々と進み、陣地内の後続部隊も命令一つですぐにでも出撃できる状態だ。
 司令部の中で本作戦の指揮官は、各隊から上がってくる報告に満足そうに頷いた。
 彼は、教会騎士達を決して甘くは見ていない。
 彼等一人一人の技量は、一対一なら教導隊員とも互角以上に戦えると考えていた。
 だが、組織戦では管理局に敵わないとも考えていた。
『一対一ならベルカの騎士に後れは無い』という理念もそうだが、管理局と比較して組織の規模が小さい教会騎士団は単独、もしくは少人数での任務がほとんどであった。
 その為彼等は大規模な組織戦を苦手としているふしが有った。
 対して、組織力の大きい管理局側の武装隊では、このような大規模な集団戦は演習で何度も行っており、騎士団より集団戦の練度は高かった。
「全部隊、配置完了しました」
「よし!攻撃開・・・・・・」
 オペレーターからその報告を聞いた指揮官は椅子より立ち上がり攻撃の開始を命令しようとした。
 だが、その命令は途中で途切れた。
 オペレーター達が訝しげに振り返った。
 その視線が集まる中、突然彼は前のめりに倒れた。
 慌てて側にいた副官が近寄るが、突然感じた衝撃に「ぐあ!?」と短い悲鳴を上げ膝を付く。
 そしてそれは司令部にいた殆ど全員で、オペレーター達や控えていた衛兵もその場に倒れ伏す。
 彼等の体に突き刺さった手裏剣やクナイを見て、副官は何が起きたか気付いた。
「て、敵しゅ・・・」
 敵襲と叫ぼうとした副官だったが、首筋に突き付けられた冷たい感触に声を詰まらせる。
「すみません」
 
 陣地内は困惑の気配が包み始めていた。
 配置に付き終え、後は命令を待つだけであったが、その命令どころか司令部との一切の通信が途絶えていた。
 何かあったのかと、何人かが司令部のテントに向った。
「失礼します」
 そう断ってテントの入り口を捲り上げようとしたが、突然テントを貫いて数本のクナイが彼等に襲いかかった。
 突然の奇襲に二人が倒れた。
「て、敵襲!!」
 そう叫んだ局員の一人が、テントから躍り出た黒い人影が手にしたクナイで腹を突かれ、崩れ落ちた。
 その人影、黒装束とマフラーの騎士甲冑を纏った襲撃者は生き残った局員に目を向ける事無く走り去る。

「敵襲だあ!!」
「司令部が全滅してるぞ!!」
 背後で上がった声を無視して襲撃者、秋助は足を速める。
 障害物を利用しできるだけ管理局員との接触を避け、見つかったなら手にした影刃や黒装束の下に仕込んだ手裏剣、クナイ等で攻撃する。
 秋助の黒装束の騎士甲冑にはあちこちに具現化魔法で作った武器が仕込まれている。
 具現化魔法の利点には事前に作っておいた武器をそのまま保持しておけば、詠唱無しで使用できるという強みがある。
 並みの魔導師相手なら魔法を詠唱中に先制攻撃が可能なのだ。
 もっとも、総魔力の少ない秋助では一つ一つの武器に込められた魔力が少ないため、上手く不意を付かなければ足止め程度の役にしか立たない。
 だが(誉められた話では無いが)、教会騎士団に不意打ちで秋助の右に出る騎士はいない。
 加えて、今回は仕留められずとも足止めで十分とそのまま陣地脱出を急いだ。
「止まれ!!」
「撃て!!
 絶対に逃がすな!!」
 背後からの攻撃魔法が幾つか騎士甲冑を掠めたが、足は止めない。
 陣地を囲む塀を駆け上がり、陣地の外に広がる森林に飛び込み、木々の間をかわしながら身軽に疾走する。
 開けた場所なら兎も角、森林内のような障害物の多い場所での機動力なら秋助にも自信があった。
 加えて騎士甲冑に織り込まれた認識阻害魔法が、木々を利用して姿を隠しながら走る秋助の姿の視認を更に難しくし、魔力の感知も妨害していた。
 何人かが後ろから追跡してくるが、秋助の姿を見失いそうになっていた。
 上空からの攻撃もあるが、ほとんどが掠りもしない。
 このまま引き離せるか?と秋助が考えたその時、追跡してくる局員の一人が木を破壊しながら秋助を追い抜いた。
 前面にシールドの魔法を張って加速し、邪魔な木々を強引に突破したようだ。
「やっぱりテメエかしゅうううすけええええええええ!!」
「ちっ」
 叫びながら鉄槌型アームドデバイスを振り下ろす小柄な赤い人影を認め、秋助は舌打しながら木の幹を蹴って進路を変更。
 紙一重で鉄槌の一撃を避けた秋助は進行方向を変えたまま再び森の中を疾走するが、一瞬前までいた場所にピンク色の光弾が上空から雨のように降り注ぐ。
 追跡者からの指示か、それとも秋助の隠密技能より相手の感知能力が上なのか、上空からの砲撃が今までより正確になった。
 木の幹や枝を蹴りながら不規則に移動する秋助だったが、シールドダッシュしてくる追跡者とピンク色の砲撃を振り切る事ができない。
 そして終に、赤い追跡者が振るった鉄槌が掠め、その衝撃で吹き飛ばされてしまった。
 すぐに立ち上がるが、
「やっとつかまえたぞ」
 鉄槌型アームドデバイスを肩に担ぎながら、赤い騎士甲冑を纏った騎士、見た目は幼い女の子が睨んでくる。
 秋助の見知った顔だった。
 古代ベルカ式を使う管理局の騎士、ヴィータ。
「もう逃げられないよ!」
 空から降りてきた白いバリアジャケットの魔導師、秋助と同じ年頃の少女が杖型デバイスを向けてくる。
 こちらも見覚えのある顔だった。
 騎士団の打ち合わせで要注意人物に上がった教導隊のエース、高町なのは。
 二人とも教導隊の主力メンバーで、てっきり前線に出ていると秋助は考えていたのだが。
 無表情に影刃を逆手に構えながらも、絶体絶命の状況に内心冷や汗をたらす。
 騎士甲冑の認識阻害もこのように相手と対峙してしまえば効力を発揮できない。
 それに、秋助の武術は奇襲、不意打ち、死角を突いて、相手に気付かれる前に仕留める技であって、相手と正面切った戦いは苦手だった。
「ったく・・・
 こそこそ忍び込んで不意打ちした挙句、ネズミみたいに逃げ回ってるなんて、相変わらずなようだな」
「え?
 この人ヴィータちゃんの知り合いなの?」
 なのはの質問の声に、ヴィータと呼ばれた赤い騎士が嫌そうに頷く。
「佐井秋助。
 隠密行動と奇襲攻撃が得意な暗殺者もどきで、教会ではぐれ騎士って呼ばれているとんでもない奴だ」
 ヴォルケンリッターと呼ばれる彼女を含めた古代ベルカ式の騎士達は、教会の騎士達以上に秋助の戦闘スタイルに否定的だった。
 顔を合わせる度に騎士なら騎士らしくしろと説教される事も多く、秋助は彼女達が苦手だった。
「さあ、年貢の納め時だな。
 騎士として歪みまくったその根性、今日こそ叩き直してやる」
 鉄槌型アームドデバイス『グラーフアイゼン』を振りかぶるヴィータ。
「えーと・・・
 投降するなら「今更投降なんて認めねーよ」・・・ヴィータちゃん・・・」
 投降を呼びかけを遮られたなのはは困った顔をヴィータに向けた。
「心配しなくても、投降なんてしませんよ」
 秋助はちらりと背後を見る。
 背後には、一本の太い木が立っていた。
「逃げ切ってみせますから、ね!!」
 その木の幹を、秋助は思いっきり蹴っ飛ばす。
 身体強化しての蹴りはその木を激しく揺らし、木の葉が舞う。
 一瞬、二人の視界を木の葉が遮る。
 そして木の葉が晴れると、秋助は姿を消していた。
「消えた!?」
 驚きの声を上げるなのは。
 ヴィータが素早く辺りを見回すが、秋助の姿は何処にも無い。
「なのは、まだ近くにいる筈だ!
 探すぞ!!」
「うん!」

 その後、秋助は二人の捜索を振り切り、ゲリラ戦によって教導隊の撹乱を開始した。
 司令部を失い混乱した教導隊の指揮系統の建て直しは、この実害は少ないが無視も出来ない嫌がらせのような撹乱戦によりさらに遅れる事となった。
 ようやく臨時司令部が立ち上がった頃には、部隊同士の連携が取れなくなっていた前線の被害はそうとうな物になっていた。
 ここで航空戦技教導隊側から停戦を申し出て、教会騎士団はそれを受諾した・・・



























 それを持って管理局武装隊と聖王教会騎士団の合同演習は終了となった。

 管理局武装隊と聖王教会騎士団。
 この二つの組織は互いにロストロギア封印管理という共通の目的を持っており、時に今回のような演習で互いに切磋琢磨しようとしていた。
 これまで、管理局側は法の守護者に相応しい大規模な作戦行動での練度の高さを、教会騎士団は宗教組織に相応しい高潔で潔い精神を、勝敗に関わらず示してきた。
 だが今回の演習で、開始早々奇襲により教導隊の司令部を潰された管理局側は教会騎士団の認識を若干改めた。
 すなわち『教会騎士団にも油断ならない曲者がいる』と。

 演習後、航空戦技教導隊の陣地では某鉄槌の騎士の怒号が響き渡った。
「次こそは!次こそは必ずあのはぐれ騎士のねじくれ曲がりまくった根性を叩いて、叩いて、叩きなおすうううううう!!!!!」
「ヴィ、ヴィータちゃん落着いて!」

 騎士団陣地では、某預言者が頭を抱えていた。
「・・・ごめんシャッハ、今の報告をもう一度お願い」
「騎士秋助は管理局側の陣地に潜入し、司令部の壊滅に成功していた、との事です・・・」
「・・・私、彼には管理局の後方撹乱をお願いしただけの筈なんだけど・・・」
「・・・敵の司令部を壊滅させる事で、指揮系統を混乱させる。
 確かに、最も効果的な撹乱でしょう・・・」
「・・・命令の仕方を間違えたかしら・・・」

 そして、陣地へ帰り着いたはぐれ騎士は某預言者に訊ねた。
「一応、俺なりに穏便な手段を選んだつもりですけど、どうでした?」



[29361] はぐれ騎士の拘り
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:9a4d6e28
Date: 2011/09/10 21:06
「・・・やりすぎや!!」
 そんな怒鳴り声に、秋助は目を覚ました。
 最初に青い空が目に入った。
 体を起こそうとするが、あちこち痛み動くことが出来ない。
 何とか首だけ動かし周囲を見回した。
 聖王教会の鍛錬場であったが、近くに少し大きな爆発痕がある。
 さらに、栗色の髪に妖精を乗せた秋助と同年代の少女が腰に手を当て、正座するピンク色の髪の女性を叱っている。
 一体何があったのか、秋助はまだハッキリしない頭で思い出してみた。

 その日、秋助は騎士団の鍛錬場で手裏剣術の訓練をしていた。
 するとそこに、一人の女性が現れた。
 管理局に所属する古代ベルカの騎士、シグナム。
 彼女は秋助を見つけると、模擬戦に誘ってきた。
 相手は管理局屈指の騎士。
 攻撃手段である影刃や具現化魔法で作った武器の攻撃力の低さ。
 防御力と引き換えに弱認識阻害を掛けた紙のように薄い騎士甲冑。
 なにより、障害物の無い開けた場所で一対一の模擬戦という、秋助が苦手とする逃げ隠れ出来ない状況。
 まず勝ち目は無かった。
 案の定、十合と打ち合うことも出来ず最後は攻撃の余波で吹き飛ばされたのだった。

「ほんまごめん。
 家のシグナムのせいで・・・」
「気にしないでください。
 騎士シグナムに医務室送りにされるのなんて、しょっちゅうある事ですから」
「しょっちゅうあるんかい!?」
 医務室のベッドに横になる秋助に謝罪するシグナムの主、八神はやてだったが、秋助の言葉に思わず突っ込んでしまう。
 あの後、はやてはシグナムに体が動かない秋助を医務室に運ばさせ、鍛錬場の後始末を命じ、お目付けをユニゾンデバイスのリィンフォースⅡにお願いしていた。
「どうも、俺の騎士としての性根を鍛えなおしたいようです。
 毎回30秒も持たずにダウンしているだけで、有効な方法とは思えませんが」
「そういう問題やないやろ!?
 って言うか、ほんまごめん!!
 後でシグナムにはきつく言っとくから・・・」
「別にいいですよ、騎士団の仲間にも同じ事されてるし」
「いいわけ無いやろ、それ!」
「別にリンチにされている訳じゃありません。
 一対一の、騎士としてスタンダードな模擬戦をしているだけです」
「でも君の戦い方は普通の騎士とは違うやろ。
 なら、そんな模擬戦に意味あるんか?」
「騎士団のランク昇格試験と同じだから、無意味ではありません。
 もっとも、今の俺では昇格は何時の事になるか・・・」
「・・・なら、何で普通の騎士になろうとしないんや?」
 そこで表情を改めるはやて。
「君の戦術、確かに幾つかの条件は有るけどランク差を埋める結果を出す事が出来る。
 でも、騎士団では評価されない上に周りの騎士に波風を立てすぎとる。
 君だって気付いていない訳やないやろ?」
「それは、まあ・・・」
「私の家族は騎士や。
 だから解るんだけど、騎士には騎士の拘りがある。
 それがあるから、騎士は騎士らしくあろうとするんやと思う。
 せやけど、君にはその騎士の拘りが無い。
 違うか?」
 その言葉に秋助は気まずげに視線を逸らした。
「それが、君がはぐれ騎士と呼ばれている理由やと思う。
 逆に言えば、騎士としての拘りを持てれば、自然と騎士らしくなって君も周りに騎士と認められるかもしれへん。
 確かに君は魔力が少ないけど運動神経は良い様やし、頑張って騎士の戦い方を訓練すれば自然と拘りも出来るんとちゃうか?」
 無責任に聞こえるかもしれないはやての言葉であったが、彼女には確信があった。
 日頃、秋助の戦い方を批判しているシグナム達であったが、同時に『騎士らしい戦い方を学べばきっと良い騎士になれる。それだけに惜しい』と言っていたるのをはやては聞いたことがあった。
 だが秋助は、はやての言葉に少し困った顔をした。
「そうかも知れませんけど、今更騎士の拘りなんて持てませんよ。
 俺の戦い方は確かに騎士らしくありませんけど、今の戦い方を捨ててまで普通の騎士になりたいとは思いません」
 その言葉に、はやてはふと気付いた。



「ひょっとして、君は戦い方に拘っているんか?」



「やだえっち」
「だはあ!!?」
 秋助の一言に、思わず座っていた椅子ごと横に倒れるはやて。
「ちょっ!?しゅ・・・!!」
「流石関西人、見事なリアクションです」
「『見事なリアクションです』やないやろおおおおおおおおお!!!
 今は真面目な場面やろが!!」
「普段冗談を言わない人間でなければ繰り出せない、真面目な空気を吹き飛ばすクリティカルヒット。
 普段から愛想の少ない真面目な奴というキャラ作りをしてきた甲斐がありました」
「普段からキャラ作りしてたんかい!?」
「ただし、やはり相手を選ぶ必要がありますね。
 具体的には、乗りが良く突っ込みが上手い、子ダヌキとか」
「ちょっと待て!
 それ私の事かい!?」
「何怒っているんですか?
 褒めたのに」
「タヌキのどこが褒め言葉やねん!?」
「・・・タヌキ嫌いなんですか?
 可愛いのに」
「そういう意味とちゃうわああああああ!!」
「さて、冗談はここまでにしておくといて・・・」
『サラリと話題を戻すな!!』と叫びそうになったはやてだったが、秋助の眼光が強くなった気がして押し黙った。
「八神さんの言うとおり、俺はこの戦い方に拘っています。
 と言うか、今更戦い方を変えろと言われても多分遺伝子レベルで拒否してしまいます」
「いや、遺伝子レベルって・・・」
「多分、戦国時代以前から先祖代々受け継いできた戦い方ですよ?」
「せ!?」
 秋助の言葉に、容易には捨てられない歴史の重みを想像してはやては絶句した。
 また、実際受け継いだ秋助がその戦い方に拘るのも無理は無いとも思った。
 言葉を失っているはやてに、秋助は続ける。
「騎士シグナム達には悪いと思っているんです。
 俺を教会騎士団に居させてくれている騎士カリム達にも・・・
 でも俺は、この拘りを捨てたくないんです。
 我が侭だと自分でも思っているんですが、俺にとっては周りに騎士と認められる事より、周りにどう思われても自分のやり方を貫く事の方が大事なんです」
 その言葉を聞いて、はやては「・・・分かった」と言ってその話題を終わらせた。





「・・・ちなみに聞くけど、君のご先祖様って何者なんや?」
「想像通りだと思いますよ?
 頭に『に』が付くアレです」
「やっぱり・・・」



[29361] はぐれ騎士の腐れ縁
Name: 草紙屋◆2cb962ac ID:f2ff3c80
Date: 2011/09/24 16:15
 時刻は夜中。
 墓地の中を一人の少女が歩いていた。
 年の頃は十代半ば位か、金色の長い髪を二つに結び、赤い瞳をした美少女だったが、軍服にも似た黒いバリアジャケットを纏い、その手には戦斧に似た黒いデバイスを手にしている。
 その顔色は不安に染まり、デバイスを握る手はひどく強張っている。
 突然がさりという音がし、そちらを振り向く少女だったが、背の低い木が風に吹かれただけだった。
 少女が安堵するが、


「おい」


 声にならない悲鳴と共に、少女は声がした背後にデバイスを一閃した。






 とある次元世界の聖王教会管轄の墓地。
 最近、この墓地で墓荒しが頻発していた。
 教会内のトラブルの解決も教会騎士の仕事、報せを受けて直ちに手空きの騎士、秋助が派遣される事になった。
 そして今夜。
 夜中の墓場を完全武装でうろつく不審な魔導師を見つけたのだが・・・
「はああぁぁ・・・」
 秋助は手にする刀身が半ば砕けた忍び刀、具現化魔法で作った武器の中で最も魔力を込めた切り札の成れ果てを見ながら、大きな溜息を吐いた。
 自身の魔法に対する素質の低さは前々から熟知していたが、その忍び刀は自信作だっただけに一撃受けただけで破壊された事に軽くショックを受けていた。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
 そんな秋助の様子に、忍び刀を破壊した張本人である金髪の少女が謝ってくる。
 彼女のしおらしい声に、秋助は頭を振って気持ちを切り替える。
 むしろ彼女の一撃を防御できただけでも上出来だろう、と。
「あー、その事は気にしなくていいんですけど・・・
 何でこんなところにいるんですか、ハラオウン執務官?」
 フェイト・T・ハラオウン。
 若くして、管理局の執務官を勤める少女で、秋助の顔見知りである。
「わ、私はこの近くで指名手配中のロストロギア盗掘犯が目撃されたから、その捜索と逮捕に・・・
 佐井は?」
「俺はこの墓地が最近墓荒しの被害に合っているからその警備に・・・」
「・・・」
「・・・」
 二人は互いに沈黙して顔を見合わせた。
「・・・ひょっとして、またですか?」
「決め付けるには早いけど、その墓荒しの犯人と私が追っていた盗掘犯が同一人物である可能性はあるかも・・・」
 管理局のエリートたる執務官と教会騎士団の問題児たるはぐれ騎士、普通なら接点などないのだが、今回のように任務中にばったり出会う事が不思議と多く、成り行きから協力する事が何度もあった。
 仲間と呼ぶには所属組織が違い、友人と呼ぶにはそれほど親しくもなく、ただの知り合いと呼ぶには成り行きで何度も背中を任せあった。
 二人の関係は所謂腐れ縁という物だった。
「まあ、それなら何時ものように・・・」
 協力しましょうか、と秋助が続けようとしたその時だった。 


 悲鳴が墓地に木霊したのは。


「「!」」
 二人は臨戦態勢を取りながら悲鳴が聞こえた方向を振り返る。
 見ると、バリアジャケットを着た男が息を荒げ汗だくになりながらも顔色を青くしてこちらに走ってくる。
「あの人は!」
 フェイトがデバイスを手に身構えながら前に出る。
「ひょっとして、あれがハラオウン執務官が追っていた盗掘犯ですか?」
 秋助は訊ねながら黒装束の袖から手裏剣を数枚取り出す。
 フェイトは頷きながら男を警戒するが、
「た、た、たす、助けて、くれえ!!」
「え?」
 男はフェイトに、息も絶え絶えに助けを求めた。
 その事にフェイトは戸惑っていたが、突然男の体が何かに跳ね飛ばされたかのように地面を転がる。
『ニガサン・・・』
 その声にフェイトと秋助の視線が男から先ほどまで彼が立っていた場所に移る。
「い、いやああああああああああああ!!」
 恐らく男を攻撃しただろうソレを見てフェイトは悲鳴を上げ、秋助も顔が引きつった。


 ボロボロのコートを身に纏い、半壊した槍型アームドデバイスを手にした骸骨がいた。


 骸骨は二人に構う事無く、地面に倒れた男に近づく。
「逃げ出したいのは山々だけど・・・」
 珍しく顔色を変えた秋助だったが大きく息を吐き出し気を落ち着けながら、隣で青い顔をした執務官に話しかける。
「犯罪者とは言え、あの男を放っておく訳にはいきませんよね?」
「も、勿論!」
 顔色は悪いながらも、力強くフェイト。
 秋助は手にした手裏剣を骸骨に投げる。
 体を狙った手裏剣はすり抜けたが、命中した瞬間動きが止まった。
 デバイスに当たった手裏剣は弾かれた。
 それを見たフェイトは金色の風になって疾走する。
 彼女のデバイス『バルディッシュ』から鎌状の光刃が生まれ、振りかぶる。
 狙いは、手裏剣がすり抜けずに弾かれた、実体の在る半壊した槍型アームドデバイス。
 骸骨がフェイトに向き直ろうとするが、その動作は彼女に比べれば酷く緩慢だった。

 
 半壊したデバイスでは、彼女の一撃に耐えられるはずが無かった。















 掘り返された墓を埋めなおす秋助の背後から人の気配が近づいてきた。
「あの盗掘犯の護送は終わったんですか?」
「うん、さっき転送してもらったよ」
 振り返る事無く問い掛けた秋助に、フェイトは答える。
 彼女は秋助が埋めなおしている墓の墓石を見た。
 もう刻まれている字が判らない位に磨り減っていた。 
「そのお墓がさっきのデバイスの・・・?」
「ええ・・・
 やっぱり、古代ベルカの騎士の墓みたいです・・・」


 この墓地は古い墓も多く、過去に戦争等で亡くなった古代ベルカ期の騎士達も葬られていた。
 その際、彼等が生前使っていた品を一緒に埋葬したり、あるいは戦で遺体を回収できない場合は変わりに形見の品を葬る事があった。
 中には生前使っていた古代ベルカ式のデバイスや当時の貴重な品が埋葬される事もあり、盗掘者達にとってこの墓地は恰好の穴場だったようだ。
 だが今回、男が掘り返したデバイスは壊れていたが全壊という訳ではなかったらしい。
 かつての主の墓を暴こうとする不届者に怒ったデバイスのAIは残された機能を使い、幻覚魔法で骸骨を作り出し、男に嚇しかかった。
 結果的にデバイスに止めを刺したのが、男を逮捕しようとしていた執務官の少女だったのは皮肉な運命であったが・・・


 骸骨が持っていたデバイスの残骸を埋めなおした墓に、二人は墓に黙祷を捧げどちらからとも無く顔を上げた。
「朝になったら、司祭様に頼んでもう一度供養し直してもらいましょう。
 でないと、俺達が本当に祟られそうな気がします・・・」
「そ、そうだね・・・
 それとお供えの花を買いに行かないと・・・」
「そうですね・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あの、よかったら私達の船に来る?」
「・・・お言葉に甘えます。
 正直、ここで明るくなるのを待つのはちょっと・・・」
 その後、二人はフェイトの母艦に転送して貰い、コーヒーを啜りながら朝を待った。



























 別に、転送の直前に見えた墓の側に立つ槍を持った人影のような幻が怖くて寝られなかった訳ではない・・・
 断じて違う・・・


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