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[29219] 文芸部員萌え系少年【習作】
Name: 恣意◆8cb2efd8 ID:e96dafa1
Date: 2011/08/07 23:50
「深見。私と付き合って。」

二人しかいない文芸部員のうちの一人であったある先輩に告白されたのは、中二の秋の頃だった。

正直な話。このとき僕は、あぁ、やっとか、と思った。

本を読んだり書いたりするのが好きで入部した文芸部で、一目惚れした先輩。彼女に振り向いてもらうために、いろいろとやった。

小柄なので、本棚の高いところに手が届かない先輩のために、笑顔で本をとってあげることから始まり、本を読み終えた先輩に紅茶をいれてあげたり、休日に近くの古本屋へ案内したり、その帰りにさりげなくケーキと紅茶を奢ってあげたり。

中二の秋までの一年半、先輩に「気が利いて人懐っこい後輩」と思われるために、本当に努力してきた。

……だから。このとき、僕は、先輩の告白にすぐにOKと返したし、先輩が僕を好いているのだと思い、微塵も疑わなかった。

…あぁ、今ならわかる。このときの僕は、実に愚かだった。
「文芸部員」としての先輩以外を知ろうとはしなかったし、先輩の少し申し訳なさそうな笑顔にも、まったく意味を見出さなかったし、時折切なげに校庭を見つめているのは、四季の移り変わりに風情を感じているのだろう、などと思い込み、勝手に納得していた。

………だから、気がつかなかった…否、考えつかなかったのだろう。
文芸部の外にも先輩がいること、そして、僕以外にも「気が利いて人懐っこい人間」なんてたくさんいることにも。

……僕の失敗。いや、失敗どころか、最初から勝負にもなっていなかったけれど。………他にいい表現が見つからない。文芸部員としてあるまじき事態だが、ひとまずそれは置いておこう。
とにかく、失敗は、文芸部以外での先輩に目を向けなかったこと、先輩にとって没個性的な人間に自ら成り下がったこと。

そして、僕がその失敗に気がついたのは、先輩の告白から二日後、日曜日。輩
からの、最初で最後の電話だった。


「もしもし、深見?私よ。……あのね。私、深見に謝らなくてはいけないことがあるの。…二日前の告白。
……あれ…嘘だったの。サッカー部に所属するクラスメイトに振り向いてもらいたくて、私に彼氏ができた、という事実が欲しかったの。
………効果は、覿面だったわ。今日、彼に告白されたもの。
『君に彼氏ができたのは知っている。でも、この思いだけでも君に伝えたいんだ!』
ですって。顔を真っ赤にして手を震わせて、フフ、とっても可愛かったわ。
…と、話がそれたわね。そんなわけで、私は、深見とは付き合えない。
…………深見。私は、本当に残酷なことをしたと思っているわ。
…だって私、深見が私のことを好きだ、ということを知っていたもの。
優しく優しく、本当に紳士的に私に接してくれたわね。
そのことにはすごく感謝しているのよ。
…でもね。私が欲しかったのは…一番求めていたのは、別のものだったの。
わかる?わからないでしょうね。だって、深見が見ていたのは文芸部での私だけで、それ以外の私は一切見ていなかったもの。
…あぁ、ごめんなさい。深見を責めている訳ではないのよ。
…あとね。私、今日で文芸部を引退するわ。
……さすがに、こんなことをしておいて、深見に合わせる顔がないもの。
…最後までわがままで自分勝手な先輩でごめんなさい。
じゃあ、深見。
………さようなら。」


………このとき。僕は、この言葉の意味を理解できなかった。
…否、理解したくなかった。頭の中では、わかっていたはずだから。
…先輩は、もう文芸部にはいないということを。

…この頃の僕は、先輩がすべてだった。
本を読み終えたときに、いつもはほとんど動かない表情筋を動かして、少し嬉しそうに本について語る先輩。
紅茶を飲んで、ホッと一息つきながら銘柄を当ててみせる先輩。
僕をからかって、すねてみせると若干あたふたしながら慰める先輩。
……先輩。先輩。先輩。

次の日。部室でひとり。
……このときになって、ようやく僕は後悔した。何故、もっと先輩を知ろうとしなかったのか。何故、もっと自然体で接しなかったのか。
………何故、もっと早くに、こちらから告白をしなかったのか。
………本当に、本当に。僕は、先輩のことが。

…………心の底から大好きだったのに。





それから一年半後。

高校に入学し、約二週間。

中学に引き続き、文芸部に入ろうと思った。

先輩とのことはまだ少し引きずっているけれど、本は大好きだから。

入部届けを右手に持ち、左手で引き戸の上部をノックする。

「はぁい」

少し舌足らずな声が返ってきた。

舌足らず。中学の頃の先輩とは正反対のキャラかな……などと思いを巡らせ、いやなことも芋づる式に思い出し、若干鬱になりながらも、部室の引き戸を引く。

ありがちなガラガラ、という音を立てずに、滑らかに滑った引き戸に少々拍子抜けしつつ、部室の中へ足を踏み入れる。

………ここで僕は、高校入学後初の失敗をおかした。いや、失敗なのか成功なのかは、今でもわからないけれど。

回避する方法をあえてあげるとするならば、そもそも、中学の頃の先輩のようなクール系のキャラは……まぁ、実際には、仲良くなると非常に可愛いとわかるのだが、それはそれ。
あまりタイプじゃなかった、という事実に目を向けておくべきだった、といったところだろうか。
…いまさら考えても、もう遅いけど。

……まさか。まさかまさかまさか。

「君が深見君?噂は聞いてるよ!本が大好きなんだってね!私も本が大好きなんだ!よろしくねっ!」

………自分が文芸部員萌えだったなんて。


…………今度も、一目惚れだった。








そんな感じのプロローグ。文章の練習と、男女の掛け合いを書いてみたくて作った作品です。

次からはもう少し長くなります。
1週~1カ月1回更新ペースでいかせていただきます。



[29219] 第1話
Name: 恣意◆8cb2efd8 ID:073db264
Date: 2011/09/15 22:37
「ねぇ、深見ぃ…」

本を机の上に置き、先輩が僕を呼ぶ。

その愛らしいエンジェルボイスに答えようと口を開きかけたが…ふとあることを思いつき、開きかけた口を閉じる。

…うん、あれだ。小さい「い」がちょっと…否、とても可愛らしいので、あえて無視して、もう一度呼んでもらうことにしよう。

先輩の呼びかけを無視するのは心が痛む。なぜなら僕は、変態という名のつかない紳士だから。…だが、僕の癒しの為だ、仕方がない。僕は紳士である前に男。誘惑には弱いんだ。先輩には犠牲になってもらうとしよう。

そう自分自身に言い訳して、脳内先輩に詫びを入れ、罵られて悦に浸りつつも本から目を離さず、そのまま読書を続ける。

読書を続ける。

「先輩、本当に申し訳ありませんが、無視します。」
「それ、言ってる時点で無視出来てないよね!?」

…あれ?





さて、僕の最初の作戦は先輩の神算鬼謀により破られてしまったので、新しい作戦を練らなくてはならない。まさかこの先輩にそのような知能が備わっていたとは…

「なんか失礼なこと考えてない?」
「いえ、まったく。」

…うーむ。どうしようか。

目論みはうまくいかないし、次の作戦も考えていない。

…とりあえず、流れで会話を続けよう。

「強いていえば…先輩にも僕の言葉の矛盾点を追求することができる頭があったんだなぁ、と感心していたんです。先輩、すごいですね。拍手をしたいんですが、本で手が塞がっているので口でいいます。ぱちぱちぱちぱち。」
「ここまで胸に響かない拍手は初めてだよっ!」

あ。小さい「ぃ」じゃなくて「っ」だ。可愛いけど微妙。…残念。癒しは手に入らなかったみたいだ。

「やれやれ…これだから先輩は……まぁ、いいです。んで?何ですか?おやの時間は過ぎてますし…あ、お昼寝ですか?すみません、気づかなくて。すぐにお布団敷きますね。」
「なにがやれやれかわからないし、子供扱いしすぎぃ!!先輩なんだよ、1歳年上なんだよ、深見より!よぉちぇんじじゃないのっ!」

あ。小さい「ぃ」がある。…やった。でも思ったほど可愛くない。小さい「っ」
と同じレベル。いや、「っ」の方が可愛いかな。

てか、よぉちぇんじってなんだろう…。…幼稚園児、かな?

先輩の特徴。噛み癖。禁書的な意味でなく。

ちなみに、小さい「ぃ」よりもよぉちぇんじの方が可愛かった。

「まったくもー。いっつも思ってるんだけど、深見は私のことをなんだと思ってるの?」

幼児のようにほっぺたを膨らませながらも、絶壁の前で手を組み、大人っぽさをアピールしようとする先輩。

…逆にロリっぽさが増している気がするが…言ったら怒るだろう。

あぁ、でも、ぷんすか怒ってる先輩も可愛いしなぁ…。

そんな感じで、どういった方向に先輩を誘導しようか考えつつも、表情はスマイルスマイル。僕は無害です。と先輩に語りかける…否、騙りかけるような笑顔。

詐欺師に向いているかもしれない。ならないけど。

…白熱した脳内会議の末。賛成245、反対98で、先輩を怒らせない方向に落ち着いた。

さすがに……これ以上好感度を落とすわけにはいかないし、…このままいくと、
先輩を落とすことが出来なくなる。

…上手いこと言った。ここ、笑うとこ。

「もちろん、尊敬するに値する素敵滅法な先輩だと思っていますよ。」

先輩の警戒を解くため、最大限優しげな笑みを浮かべながら、最高に優しげな声色で言う。詐欺師に適性があると思われる笑顔。普通の人が見たら誠実さしか存在しないと思うだろう。……ごめん、盛った。…こんな程度の笑顔では好感度は戻せないだろう。多少上がる程度かな。2とか3とか。マックス1000で。

「な、ななな!?そ、そうかしら?わ、私はそうあろうとは思ってないけれど…ま、まぁ、私の存在が深見にそう思わせているのなら、そ、そうなのかもしれないわね!す、すてきめっぽう?ていうやつかもしれないわね!!」

……この先輩、好感度調整が超楽だ…つか単純すぎるだろ。ギャルゲで初心者が最初に攻略するレベル。

今の言葉で、不良から助けたのと同じくらい好感度が上がった気がする。200ぐらい。

「すてきめっぽう」の言い方が可愛かったからいいけど。

「でも、先輩、素敵滅法って知らないですよね。」
「もちろん知ってるわよ!私は、文芸部の希望のホープなんだから!」
「…希望とホープは同じ意味です。」
「ふん。これだから無知は…まあ、文法でこの私に勝つなんて、バイオハザードを初見でノーマルモードクリアぐらい厳しいけどね。日英重複法よ!深見、知らないの!?」

…全力で、そんな文法はない、と言ってやりたかったが、得意げな先輩には言えず。

「先輩に勝つのって、以外と簡単なんじゃないですかね……?」

別の部分に突っ込むことにした。バイオハザードやったことないけど。

「ていうか、先輩、バイオハザードやったことあるんですか?」
「ん?あるよ、もちろん。」

…意外。怖いものが滅法苦手な先輩が世界的に有名なホラーゲームのユーザーだったとは…

「最初のきれぇなぐらふぃっく見て、後は友達に貸してあげるの。だってあれ、
長くてめんどーだもん。」
「謝れ!世界中のバイオユーザーに謝れ!!」

……信じられないレベルのにわかだった。いや、にわかですらないな、先輩の場合。

…と、話がそれた。

「んで、先輩。なにが聞きたいんですか?僕に答えられる範囲なら…否、どんな質問でも、全身全霊をかけて答えて見せましょう。アカシックレコードにアクセスしてもいいですか?」
「重い!なんで文芸部の先輩の質問ごときにそんな世界の神秘を使わないといけないのよ!?私、迂闊な質問できないじゃない!」

アカシックレコード。この世界のどこかにあるといわれている、世界の全てが記されている物体。

「冗談ですよ。アクセスできません。…はっ!アクセス出来るようになれば…先輩の下着の色が毎日わかるんじゃあ!?」
「へんたい、黙れ!」
「あー…も、もちろん冗談です…よ?」
「しね」

罵られてしまった。……ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、もっと言って欲しいって思ったのはここだけの秘密。お兄さんとの約束だ。

「ふう……あのね。私、今、ミステリー小説を読んでたのよ。そしたら、結局、
被害者の弟が犯人だったんだけどね…人って、そんなに簡単に人を殺せるものな
の?」

…え?

……。

………。

…………重い!それは思いつきで振っていい話題じゃねぇよ先輩!斜め上過ぎて一瞬思考回路が停止したよ!

いきなり部室の空気がシリアル…違った、シリアスになったじゃねぇか!シリアルとか言える時点でなってない気もするけど!

あぁもう、何言ってるのか自分でもわかんねぇ!

…いかんな、これは。落ち着こう。

………ふう。

……答えなきゃいけないんだよなぁ…冗談とはいえ、さっき、なんでも答えますって言っちゃったし……。

不用意な発言、ダメ、ゼッタイ。

家訓にしようと思う。

……よし、OK、ここからはポジティブシンキングでいこう。…ここで華麗にかっこいい返しをすれば、先輩からの好感度超UPだな!やったね!九回裏、2死満塁から逆転サヨナラ満塁ホームラン!

…今が、上のような崖っぷちの好感度だということは理解しててます。

「えー…まぁ、僕は、その加害者のバックグラウンドを知らないので一般論しか言えませんが…まぁ、普通は殺せないんじゃないですかね?その先の自分の人生全てを棒に振ることになりますし…どれほど憎んでいても、やっぱり、踏み止まるんじゃないですか?まあ、推理小説では人が死なないと事件が発生しないからバンバン人が死にますけど。」

…当たり障りの無い回答。ごめん。かっこいい返しなんて、どれだけ頭を捻っても思いつかなかった。
………語彙力。大事ですね。語彙って漢字が書けない時点でもうだめだ。論外。

…OK、ポジティブ。ここで常識人らしさをアピールしておけば、好感度UPは間違いなしのはず…

そう、僕はそれを狙ったんだよ。

さあ、先輩からのお褒めの言葉を頂こう。

「うん、そだよね。」

…先輩、即答&短文。

そして、机に置いた本を手に持ち、一度肩を大きく回してから読書に戻った。

……え?それだけ…ですか?…好感度UPは…?

……あ、はい、無しですかそうですか。

あぁ、先輩らしいというか…

この人は…てか、文芸部員の先輩ってのは総じて…好感度を上げにくいんだよな……いや、さっき超楽に上がった気もするけど。

まあ、そんなところも萌えポイント。

………惚れた弱みにつけ込まれたような形になり、若干悔しくなくもない。

僕は、そこで一旦思考を区切り、先輩のように読書を始めようとした。

…始めようとしただけで、始めれなかったのは、先輩が、ポツリと小さな声で質問を発したからだ。

「じゃぁ、もしも………自分の大好きな人がその人に奪われていたら?」
……それは、僕の過去の話…すなわち、中学時代の文芸部の先輩への初恋のことを知っていて、発する質問だろうか。

…僕は、一瞬。ほんの一瞬だけ、中学時代の先輩と、その彼氏さんの顔を思い浮かべ。……て、彼氏さんの顔、しらねぇよ。

なんかイケメンだったらしいってことだけ。……とりあえず、保留にしておこう。シリアスしよう、シリアス。

…そして、二人の顔が消えてから僕はゆっくりと先輩の質問に答えた。
「それでも……僕の答えは変わりません。人は人を殺せない。」
「そっか。」

また、即答。

しかし、今回の即答には、なんらかの意味が込められているような気がした。

少し悲しそうな…でも、ホッとしたような…よくわからない、そんな表情。

それからは、両者、無言でページをめくり続けた。

どちらも、なにも言わず、なにも考えず、一心不乱に読書に打ち込んだ。

普段騒がしい部室がこの時は、まるで大聖堂のような静けさに包まれた。

……そして、帰る間際。今日、最後に先輩が発した言葉。
「深見深見、さっきの質問、なんの伏線でもないからね。」
「だろうと思ったよ!!!」

つまり、そんなお話。






伏線崩し。最後のネタをやりたかった為に重い話をいれてみましたが思ったほど
上手くいかなかったのは私のぎじゅちゅ不足です。

今回は男性側が攻め。次回は女性側が攻めかな。



[29219] 第2話
Name: 恣意◆8cb2efd8 ID:f07380f3
Date: 2011/09/24 17:12
「ねぇ、深見ぃ………」

読んでいた本に栞を挟んで棚にしまい、先輩が僕を呼ぶ。

………なぜ、栞を挟んでおきながら、いちいち棚にしまうのか。これは先輩の癖らしいのだが、理由はわからない。机の上に置いておけばいいのに。…まあ、先輩のことだ。理由なんてないんだろうし、あってもくだらないことなんだろうから、スルーしておこう。

さて、またも小さい「い」が可愛かったのであえて無視をしようと思ったのだが……何度も同じことを繰り返すのはおもしろくないし、マンネリ化の原因になる。

そんなわけで、素直に返事をすることにしておく。

「ぬわぁぁんどぅぅえぇぇすかぁ?すぇーんぷぁーい」
「うざいキモい死ね」

一閃。崩れ落ちる僕。それをゴミを見るような目で見る先輩。

……また、選択肢を間違えたようだ。




このままいくと、好感度がマイナス反転してしまいそうな……否、もうしてしまっている気がする返事をいただいてしまった。……僕、ぴーんち。いや、これは結構ガチで。

さすがに今のはまずいので、何事もなかったかのように、平静を装いすぎて逆に不自然に見せかけて実は超自然体な紳士面……ようは普通の紳士面で改めて返事をする。

「なんですか?先輩」

僕の優等生な受け答えに対して、先輩はすごく何かいいたげな顔をしていたが、
視線で黙殺。うん、何もなかったよね。

「……はぁ。あのね。今、らぶこめでぃをよんでたんだけどね。その中にでてくるせぇとかいちょーさんが、とってもかっこいいの。」

この、小さい「あ行」の連発。この先輩、狙っているのだろうか?まったく、何と言う策士だ……可愛いからいいけど。

「はあ、なるほど。んで、どうかっこいいんですか?片目に眼帯、指と指の間に刀を挟んで戦う、とかですか?」
「……ええと、私、それわかんないんだけど……」

…どうやら独眼竜は知らなかったらしい。

れっつぱーりー。

つっこめないボケをかますとは、僕もまだまだ未熟だ。精進しなければ。

「それでね。とってもかっこいいきゃら、私もそういう喋り方や立ち居振るまいを練習してみたいの。」

……かっこいいきゃら。

うーん、噛んだのか?…いや、「かっこいいキャラ」という意味かも知れない。

…あぁもう、微妙な言葉使うなよ面倒くさい!可愛いからもう全部許すけど!

そんな僕の苛立ちに一切気付かず、先輩が続ける。

「という訳で、深見、ちょっと相手になって。」
「あー、別に構いませんが………かっこいいって先輩と対極に位置するキャラじゃありませんか?」
「う、うー、うるさい!だから、れんしゅーするの!」

ほら。「う、うー」とか「れんしゅー」とか、ほっぺた膨らませてるとことか、
可愛すぎるだろ。なんか、生物兵器って言われても納得出来そうなくらいの可愛さ。僕を何度萌え死にさせる気だ、この先輩は。すでに二桁じゃ済まないぞ。

「はぁ………わかりました。んじゃ、やってみてください。」
「うん、わかった!ありがとね!」

打って変わって、満面の笑み。

………これが見れただけで、今日は満足だな。

それに、「かっこいい先輩を演じる」先輩も、いいかもしれない。

クールな言葉を吐きつつも、僕に予想外の質問をされると「うっ」とか「ふぇ?
」とか言ってしまう先輩。

いいね。実にいい。素晴らしいよ先輩。

「じゃぁ、いくよ。ごほんっ………ところで、深見?先日の書類の件は、どうなっているのかしら?もう、2日も期限が過ぎているのよ?」

あ、生徒会長の立ち位置も演じるのか。

でも……その台詞、生徒会長っていうよりはキャリアウーマンって感じだよな…見た目は子供だけど。……キャリアガール?

…自分のネーミングセンスのなさに絶望。そのままじゃん。

…とりあえず、合わせるか。

「会長、すみません。まだ…完成していません。……あと…1日だけ待ってください!絶対に完成させます!」

こんな感じ、かな?まあ、きっと僕は弱気な生徒会役員を演じればいいんだろ
う。その方が先輩の…否、生徒会長のかっこよさが引き立つ。…と思う。

「はぁ……本当に愚図ね、深見は。自分が生徒会役員だという自覚はあるの?ないわよね、愚図だから。あぁ、我が校の生徒は、何を考えてるのかしら?こんな愚図……いいえ、屑を生徒会役員にするなんて……信じられないわ。ああ、もちろん、我が校の生徒ではなく、深見の無能っぷりよ。三……いえ、二時間で完成させなさい。」

…………絶句。

……語り手に語らせないとは………新しい。

…いや、そうじゃねぇよ。つか、語り手に語らせないキャラなんてよくあるよ。

混乱してるな、うん。

て、そうでもなくて………先輩が憧れる「かっこいい」キャラが、これ?この女王様?

……ちょっと…否、かーなーりー、先輩への接し方を見直さなければならないようだ。

「……はい、わかりました。頑張ります。」
「頑張ります?深見……あなた、まだ自分の立場を理解できてないの?頑張ります、じゃなくて、やります、でしょう?この期限を過ぎたら、もう許さないわよ。潰すわよ。すぐにやりなさい。」

……すみません帰っていいですか?

……つか、誰だよこんな女王様を生徒会長として登場させた作家は………

僕がげんなりしている間も、先輩のマシンガンは止まらない。

「なに?聞こえなかったの?…やれやれ、深見の耳は節穴なのかしら?いえ、違うわね。節穴なんて表現を使ったら、節穴に失礼だわ。意志を持たない存在にまで不快な思いをさせるなんて、本当に深見は愚図、屑、塵、ゴミ……あぁ、これも失礼ね。となると……」

しばし考え込んでから、先輩は言葉…もう、ナイフと形容していいかな。ナイフを放った。

「深見は、本当に深見ねぇ……」

先輩は、やれやれ、といったふうに肩を竦め、首を横に振る。

……なんか、僕の苗字が最高級…否、最低級の悪口に変異したが、気にしたら負けだ。気にしたら、数ヶ月の間、先輩との間に積み上げてきた信頼やらが崩壊してしまう。

いくら、ソフトマゾ、文芸部員萌えの僕でも……これはきつい。うっかり死にたくなってしまいそうだが…我慢。

「あー、先輩。そのキャラがとてもかっこいいってことはわかったんで………そろそろやめません?」
「何わけのわからないことを言っているの?私は先輩じゃなくて会長でしょう?」

この先輩……なんらかのスイッチがオンになっていらっしゃる…ッ

戻すには……どうしようか。

逆に攻めてみる?……無理に決まってるだろ、女王様に刃向かうなんて、断頭台への片道切符を全財産を支払って買うようなものだ。ダメージが大きすぎる。

肉体的にも、精神的にも。

なら……いっそ、帰るか?…馬鹿、そんなことしたらただでさえ低い先輩からの好感度が地に付くぞ……それだけは避けたい。

…我に返って、部室に一人でいることに気づき、涙目になりながら「深見ぃ……
…ぐすっ、どこぉ……」って僕を探す先輩…見たいかも。

……いやいや、ダメ、ゼッタイ。シリアスなんだ。もっと真面目に。

となると…まあ、真面目に付き合って、先輩が満足するのを待つしかない…か。

……ゆーうつ。

「えーと………じゃあ、ワードに書き起こすんで、出来上がったらチェックをお願いします……」
「あと1時間49分18秒よ」
「正確すぎやしませんかね!?」

壁に掛けてある丸いアナログ時計にちらりと目を向け、冷酷に告げる先輩に思わず抗議の声を上げるが、もちろん聞き届けられない。

……ないちゃうぞー。

涙目で無言の訴えをするも、黙殺された。これ以上遅らせるとまた怒られそうなので、パソコンに向き合い、ワードを立ち上げる。

ちなみに、僕たち文芸部員は、パソコンではなく原稿用紙を使って執筆を行っている。理由は、「なんかそれっぽい」から……などではない。ないったらない。

先輩曰く「手で書いた方が自分の文章に愛着がわくし、脳がかっせーかしていい言葉が生まれるんだよっ」だそうだ。

ちなみに……いや、本当に関係のない話だが、先輩はローマ字が苦手…というか、使えない。いや、本当に関係のない話だが。

…ごほん。ぶっちゃけ、僕はワードを使った方が早いし、資源の消費を押さえられるんじゃないか、と思うのだが、先輩の顔をたてるために原稿用紙を使っている。

…閑話休題。

そして、パソコンに文字を打ち込むためにキーボードに指を載せて、初めて気がついた。

………僕、どんな書類をつくるのか、しらねーじゃん。

由々しき問題。あと1時間強で「1時間44分よ」うるさい、地の文に介入するな。

…1時間44分で書き上げなければならないのに、白紙どころか、何を書くべきなのかすらわからない。先輩にも「会長よ」うるさい、地の文に介入するな。

…会長にも聞けない。

どうする?どうする?どうする?

「深見、指が動いていないわよ。深見は私の謝罪文をかわりに書くことすら出来ないほど深見なのかしら?」

………僕の心の傷と引き換えに、ヒントを貰った。

…謝罪文くらい、自分で書きましょうね。

「あ、あー、すみません。先輩の「会長よ」…会長のかわりに書くんで、やっぱり文章をじっくり考えないといけないので…」
「もう、今月5枚目じゃない。いい加減慣れなさい。」

「あんたどれだけ不祥事を起こしてんだよ!」

驚異の生徒会長だった。

そして、全て役員にかわりに書かせてるという。
……信じられないのは、生徒の良識でも役員無能さでもなく、あんたの横暴っぷりだよ…。

「いいのよ、適当で。どうせ形だけの謝罪なんだから。適当にごめんなさいもうしませんとか書いておけば生徒達も先生方も納得するわよ。」

「もう本当にお願いしますから僕の先輩を返してください!」

こんなブラックな人間を生徒会長にしたやつ。お前ちょっと表出ろ。

…まあ、もういいや。会長の言う通り、どうせ謝罪なんて形だけなんだから、適当に書こう。そして、僕の先輩をこの女王様から救い出そう。

出だしは……時候の挨拶…いや、もっと砕けた感じでいいか。

『皆さん、こんにちは。生徒会長の』

ここで手が止まった。生徒会長の名前……知らねぇ。

つか、生徒会長がどんな不祥事をやらかしたのかも知らねぇ。

…書きようがねぇじゃん。八方塞がりだよ。

さて……どうしようか。

………どうしようもねぇよ。

…………ですよねー。

頭を抱えかけたその時。

「深見ぃー、もぉいいよー」

…舌足らずな声が、僕の耳朶を叩く。

「いやー、楽しかった楽しかった。久しぶりに見たよ、深見のそんな必死そうな顔。あはは、いっつも私ばっかりからかわれてるからね。今日のは仕返し。三日くらいまえから考えてたんだよ?あ、台本見る?すっごく頑張って考えたんだからっ」

………

………絶句。本日二度目。…語り手としては、あまりよくないのだろう。しかし。しかししかし。これは…二の句が継げないのも仕方がないだろう。

全部、先輩の手の平の上で踊らされていた。西遊記の孫悟空みたいに。

「先輩…僕が猿みたいだと言いたいんですか?」
「ちょっ…深見、痛い、痛い!頭締め付けないで!孫悟空じゃないんだから!」
「そうですね。僕は孫悟空じゃありません。わかってるじゃないですか。」
「なんか、さっきから話が噛み合ってないんだけど!?」

うっかり自分の比喩を先輩にぶつけてしまうほど、僕はキレていた。

まぁ、でも…いつもの先輩に戻ってよかった。…なんて思ったり。



……そんなふうに浮かれていたからだろうか。

僕は、先輩が、アイアンクローから解放され、頭をさすりつつ『会長』のように、一瞬、ニヤリと笑みを浮かべたのに、まったく気がつかなかった。

…中学の時も、気がつかなくて痛い目を見たというのに。

「深見、私、ローマ字打てるようになったんだよ。」
「あ、何の伏線でもねぇじゃん。」

………つまり、そんなお話。




分量増やしてみたり。

攻守逆転してみたり。

結局なにがやりたかったかというと、

「深見は、本当に深見ねぇ……」

このくだりがやりたかったです。

次回は新キャラ登場します。

「会長」もある意味新キャラですけどね。もう出ないですが。

……多分。


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