千葉

　◇「陥没する危険少ない」

　「地面の上からは何も見えないのに、下には空洞ができている。おそらく、方々でできているのかなあ」

　震災直後、習志野市の袖ケ浦公民館前で、地元の連合町会長、佐藤志郎さん（７１）は、工事車両が道路の陥没にはまった瞬間を目撃した。

　「ガクン」という音を立てて傾いた車両は、右後輪の３分の１が穴の中に。液状化で道路がもろくなったことを直感した。「ここはすぐに工事をしてくれたが、他に空洞があれば大事故にもつながる。早く修理してほしい」。こう語る佐藤さんの願いは同市に届いていない。

　東日本大震災で東京湾沿岸部の埋め立て地を有する自治体では、液状化による道路下の空洞の発生が深刻な問題となっている。同市だけで約３５０カ所で空洞が疑われる地点が明らかになっている。同市は「いまのところ、陥没する危険は少ない」と工事の準備に時間をかけ、震災半年が経過した今も補修は進まない。

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　空洞は、液状化に伴い地下水とともに噴出した細かな粒子の土砂が、水が引いた後に流し出されてできる。同市は３月下旬から約１月間、空洞探査で実績を持つ地中レーダーの調査会社「ジオ・サーチ」（東京都）に依頼し、埋め立て地の道路の３分の１に当たる１８２路線９８キロをレーダー探査機を搭載した車両で調査した。

　見つかった空洞の可能性がある地点は１キロ当たり約３・５カ所。従来の同社の調査実績に比べて約３０倍という多さだ。

　アスファルトが太陽熱を受けて柔らかくなる６月下旬から７月にかけて、１日４～２カ所のペースで陥没が続いた。同市はこれまで３０カ所前後を補修したが、依然として３００カ所以上がそのまま。

　工事の優先順位を決めるため、空洞の広がり・発生深度、舗装の強度をもとにＡＢＣの３ランクに分け危険度判定を実施。より危険な約２００カ所を優先的に修理する方針だ。

　しかし、１カ所ずつ、下水道など地下埋設物の有無や工事の影響の確認が必要で、実際に砂や注入剤を入れて空洞を埋める工事は「なんとか年内には始めたい」（道路交通課）と歯切れが悪い。しかも、液状化地帯にある道路の残り３分の２は「経過観察」として、詳細な調査自体を見送っている。

　市は「補修工事の準備が必要ですぐには取りかかれない」と釈明したうえで、「安全性は１００％ではないが、空洞は十数センチから数センチと小さく、今すぐ陥没するとは考えていない」と理解を求める。

　だが一方で、空洞が疑われる場所の積極的な公表は控えた。その理由について担当者は「市民の不安をあおるから」と話すだけだ。

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　市域の８割以上が液状化した浦安市も、別の業者に依頼し４月末に幹線道路４１路線８０キロを調査し、空洞が疑われる２５７カ所を見つけた。ただ、今後については、より詳細な２次３次調査をする方針を示すだけ。担当者は「パトロールを強化して事故がないようにしたい」（道路管理課）と説明する。隣接の市川市では今後、四つの幹線道路１５キロの空洞調査を計画するなど遅れ気味。

　◇東京都江東区はすぐに工事着手

　空洞対策がなかなか進まない湾岸各市に対し、江戸川を渡った東京都江東区では、震災後のレーダー探査で、液状化の被害が大きい新木場地区の車歩道約７３キロで８５カ所の空洞を見つけ、約６０カ所でただちにアスファルトをはがし土を入れる工事をした。工費は区の予算２２００万円を充てた。同区担当者は「大きな車も通るので、１週間くらいならまだしも、半年、１年とは放っておけない」と話す。

　道路法などでは、管理者は道路を常時良好な状態に保つよう維持、修繕に努め、管理に瑕疵（かし）があり損害を生じたときは、賠償責任が生じるとされている。習志野市は「液状化の空洞は通常時の何倍もの発生率で、ひとくくりに責任を問われても……」と行政責任について、否定的な見解を示す。

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「震度５弱以上で被害『大』が発生する傾向が認められる」－－。国交省が８月に発表した液状化現象の実態解明の報告書にはそう書かれている。「大」とは、復旧に時間を要する大きな変形を伴う被害。県内では半数近い２５市町で液状化が発生した。

　しかし、道路下の空洞のように、無視できないが、アスファルトを隔てて見えない“落とし穴”に市民は気づいていない。

　３月１１日の震災から間もなく半年。街並みの復旧が進み、見た目には震災の痕跡は目立たなくなった。しかし「安全」を求め、追及するさまざまな取り組みは一進一退を繰り返している。「安全」そしてその先にある「安心」を得ることはできるのか。さまざまな現場から、記者が報告する。【橋本利昭】