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電力業界「学者味方に」 エネ法研、紛争審2委員に報酬

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東京電力の原発事故賠償の流れ

 原子力損害賠償紛争審査会の一部委員に、審査会発足後も報酬を払っていた「日本エネルギー法研究所」とは、どんな組織なのか。成り立ちを探ると、電力業界による学界への働きかけの一端をうかがえる。

 エネ法研によると、日本初の法律関係の民間研究所として、行政法学者の田中二郎氏が中核となって1981年に設立。理事はすべて大学教授で、「官庁からも業界からも中立を建前」とする研究機関という。今年度の研究は、原子力損害賠償に関する法的諸問題、規制改革・競争政策に関する法的諸問題など6項目。

 研究班の会合に出ると、1回につき2万〜3万円前後の謝礼がエネ法研から出る。理事長と所長、研究部長には月々の固定給がある。国際原子力法学会などに参加する渡航費も、エネ法研が負担する。

 設立当時のいきさつを知る業界幹部は「将来、原子力法に関する問題が起きたとき、法学界を敵に回すことは避けたい。学者を味方につけるため、研究所をつくる必要があった」と証言。エネ法研の建前と電力業界の本音は、食い違う。

 エネ法研の役職を辞めて審査会委員に就いた一橋大大学院教授の高橋滋氏は「エネ法研には電力会社から社員が来ており、(在籍したまま委員に就くと)国民から不快に思われるかもしれない。中立性については今までの常識よりも厳しく考えた」と話す。

 文部科学省原子力損害賠償対策室によると、原子力損害賠償紛争審査会の一部委員が日本エネルギー法研究所の役職を務めていることは、委員の選考過程で知っていた。月々の報酬を得ていることは、7月になって把握した。

 きっかけは国会質問。エネ法研の役職者が委員を務めていることが問題視された。その際も報酬の存在は明かされなかったが、文科省はエネ法研への問い合わせで、固定給を得ていることを把握した。ただ、その事実は公表されていない。

 審査会は、原発事故の賠償交渉で東京電力と被害者の間に立つ「行司役」。賠償の目安となる判定指針をつくり、その指針に基づいて東電は賠償を進める。被害者は不服があれば、審査会に和解の仲介を求める。

 中立性は審査会の生命線。委員がエネ法研から報酬を得ていたことで、審査会が8月にまとめた中間指針にも疑いの目が向きかねない。賠償対策室の田口康次長は、指針がゆがめられた可能性を「審査会での議事録を読めば明らか。報酬を得ていたからと、東電の利益になるような言動をするとはとても考えられない」と否定している。(大津智義、木村裕明)

■研究所は中立、偏りない

野村豊弘・学習院大教授の話 4月に所長に就任し、週に3回ほど、研究所に出ている。研究所は全く中立で、偏っているとは思わない。審査会は公開の場で議論されている。東電寄りと言われるなら、それをきちんと証明してもらわないと納得できない。審査会がまとめた中間指針は東電寄りではない。委員就任にあたり、私は経歴を隠していない。自らの意思で辞めると、公正・中立でないと認めることになる。国から「委員を辞めてください」と言われれば、いつでも辞めるが、委員を続けながら研究所を辞めるという選択肢もあり得る。

■就任後の報酬は返納

大塚直・早大大学院教授の話 利益相反にあたると思われると困るので、6月に研究部長を辞めた。委員に就いた後の報酬は返納しており、今さら追及される話ではない。週に1度は研究所に行っており、報酬は仕事の対価だった。後ろめたいことは全然ない。電力寄りだと思われて誤解を与えるのは本意でない。長く環境法を専門に研究してきて、「環境派」の信頼も得ている。裏切られたと思われるのは、耐え難い。東電は(原発事故の)賠償を免責されるべきでないと考えている。電力業界のために何かをすることはあり得ない。

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