物質の種類や構造を詳しく解析できる大型放射光施設「SPring(スプリング)‐8」(佐用町)を文化財研究でも活用することを目指し、大学や博物館の関係者らが研究会を結成した。貴重な絵画や土器などを傷付けることなく内部構造の観察や材質の高精度の分析ができ、画材の特定や技法の解明、土器の生産地推定などが一層進むと期待されている。(仲井雅史)
同施設は主に医療や産業分野で利用されており、最近は小惑星イトカワの微粒子分析などで注目されている。運営する財団法人高輝度光科学研究センターによると、欧米の大型放射光施設では絵画の顔料を同定して最適な修復方針を探るなど文化財分野でも活用されているが、同施設がこうした目的で使われる例は年間5件ほど。文系・理系の橋渡しをする調整者が不在で、文化財研究者に周知が進まない状況が背景にあるという。
こうした状態を見直すため、関西の研究者ら約25人が「SPring‐8利用者懇談会文化財研究会」を結成。このほど大阪市内で初会合を開いた。
同会代表で東京理科大教授の中井泉さん(分析化学)が、日本の陶磁器や中東の遺跡から出土したガラスの含有元素を同施設で蛍光エックス線分析した成果を報告。「放射光によって感度が飛躍的に向上し、従来は検出できなかった微量元素の情報も得られた」と性能の高さを評価した。
陶磁器の原料となる粘土や珪石(けいせき)は産地によって含まれる微量元素の濃度が異なるため、分析データを蓄積することで産地の推定につながる。現在は謎に包まれている九谷焼(石川県)の初期の窯の実態解明などが期待できるという。
一方、弥生時代の鉄器などを分析した京都国立博物館上席研究員の村上隆さん(歴史材料科学)は「古代の鉄器や青銅器は金属組成が不均一な上、出土品の表面は腐食で変質しており、サンプルの取り方に慎重さが求められる。また非破壊の分析で正確なデータと言えるのかなど、基礎的な議論なしに早急に結果を求めてはいけない」と問題提起。「複数のデータをクロスチェックすることも大切だ」と指摘した。
会合では、文化財専門のスタッフを置き、機器の操作などのサポートも受けられるフランス・欧州シンクロトロン放射光施設の事例が紹介され、利用促進に向けて文化財研究者と施設側が協力関係を深める必要性も確認した。
(2011/09/20 11:30)
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