芸能界に暴力団排除を求める圧力が高まっている。人気タレントの島田紳助(本名・長谷川公彦)さん(55)が暴力団関係者との交際を理由に引退したことに加え、東京都暴力団排除条例の施行が10月に迫ることが影響している。ある芸能プロダクション幹部が暴力団と交際していたとして金融機関から新規の取引を断られていたことも関係者の話で分かった。芸能界は「黒い交際」との決別を求められている。
関係者によると、新規の取引を断られたのは、有名タレントが在籍する大手プロダクションの幹部。金融機関の調査で、暴力団側と交際していると判断された。ほとんどの金融機関は、融資先が暴力団と関係していることが判明すれば契約を解除できる「暴力団排除条項」を導入しており、暴力団排除の機運が高まっていることが背景にあるとみられる。
この流れを加速させるのが、10月1日に施行される都暴力団排除条例だ。条例は事業者に対し、契約相手方が暴力団関係者でないことを確認することなどを義務付けている。暴力団への利益供与があると判断され、公安委員会による「関係遮断」の勧告にも従わなければ、「密接交際者」として社名を公表される。警視庁幹部は「名前が公表されれば、金融機関が暴排条項に基づき取引を止めることができる」と意義を語る。
テレビ局や芸能界側も動き出している。在京キー局5社は今月、日本民間放送連盟からの要請を受け、タレントの出演契約書に「暴力団排除条項」を明記するなどの対策を検討中だ。芸能事務所などで作る「日本音楽事業者協会」(東京都渋谷区)も「条例の目的と中身を周知していきたい」としている。
しかし、暴力団問題に詳しいジャーナリストの溝口敦さんによれば、興行やトラブル処理を巡って芸能界は暴力団とつながってきた。互いに利用しあう関係が続いてきたといい、関係遮断は容易ではない側面もある。島田さんだけでなく、過去に暴力団との交際が明るみに出た芸能人も多い。
暴力団排除条例に詳しい犬塚浩弁護士は「銀行や証券業界などと違って、監督官庁のない芸能界は暴力団排除の取り組みが遅れていた。条例を機に自浄作用が働くことに期待したい」と話している。【川崎桂吾、前谷宏】
暴力団排除条例は、警察庁の指導で09年から全国で制定の動きが広がった。暴力団排除に向けた社会の機運を盛り上げ、暴力団の資金源を遮断するのが狙いだ。10月1日に東京都と沖縄県で施行されると、全都道府県で出そろう。
各地の条例にほぼ共通する主な内容は(1)公共工事からの排除(2)学校周辺での事務所開設の禁止(3)利益供与の禁止(4)事務所に利用されることを知っての不動産取引の禁止。違反した事業者に対しては、勧告や名前の公表などの措置を定めている。東京都や福岡県などは罰則も定めている。
地域の特性に応じた独自の条項もある。指定暴力団山口組の総本部(神戸市)を抱える兵庫県の条例は、総本部に招集される組幹部が待機場所に利用する施設を「準暴力団事務所」と定義し、付近の住民らに「不安を与える行為」を禁じている。警察庁の昨年の統計によると、全国の暴力団構成員は3万6000人、準構成員は4万2600人。【鮎川耕史】
毎日新聞 2011年9月23日 12時00分(最終更新 9月23日 13時27分)