金髪に絡まれる、凄く絡まれる
ちょろそうな金髪を無視して寝る。
「……こほん。ちょっと、よろしくて?」
……寝続ける。完全に無視して寝る。
「―――ッ!起きなさい!私に話しかけられていると言うのに寝続けるとは、無礼ですわよ!」
…………五月蝿い金髪だな、まったく。
体をゆさゆさと揺さぶられるが、それでも無視を続ける。寝れない訳じゃ無いしな。
「起きなさいと言っているのがわからないのかしら?」
寝てるからな。聞こえてるし反応もできるけど。
……やれやれ。さっさと諦めてくれんかね。そろそろ鬱陶しくなってきた。原作キャラかも知れないが、俺の睡眠を邪魔する者は敵だ。
「いい加減に起きなさい!男の分際で私を無視するなど千年早いですわよ!」
…………本当に五月蝿い奴だな。さっさと終わらせるか。
「……ふぁ……豚が耳元で叫んでる夢を見た」
ビッキィ!とよくアニメで青筋が浮いたときのような音が響いた……気がした。
……気のせいだな。
そして金髪ツインドリル――本名は忘れた。セルロースだっけ?――が叫ぼうとした瞬間に、まさに今気づいたかのように話しかける。
「……誰? ってか騒ぐなよ周りに迷惑だろ。そのくらいの気遣いすらできないような奴は淑女とは言えないぞ?」
「な……か……くっ……!」
おやおや悔しそうな顔をさせてまあ。一応俺も三十年以上精神的には生きてるんだし、こうして相手の出鼻を挫いてやることくらいはできる。
セルロース……なんか違うな?……は落ち着こうと深呼吸を繰り返しているが、俺はわざわざ落ち着かせるようなお優しい神経は持ち合わせていない。
「なにやってるんだ? あんまり荒い息をついていると変態にしか見えないぞ?」
「やかましいですわっ!」
「……今のあんたに言われてもなぁ………ってか質問には答えろよ。誰だあんた。寝ていい?」
「わたくしはセシリア・オルコット!寝るのは許しませんわ!」
「あんたに許可を求めなくちゃ寝てはいけないなんて法は無い。お休み」
そして寝ようとするが、せ……セッティエーム? に後ろ襟を掴まれて無理矢理起こされてしまった。短気だなこいつ。
「わたくしに質問に答えさせたのですから、今度はわたくしの質問にあなたが答えなさい!」
「え、なんで? 別にいいけどさっさとして消えて?」
「可愛い顔して辛辣だ!?」
周りがいきなり叫び出したが、まあ、どうでもいいな。可愛いって言われても欠片も嬉しくないけど。
「……黙ってる暇があるならさっさとしろって。俺はお前なんかのことより早く寝たいんだ。もうすぐ休み時間も終わるし」
「あ、あなたねえ!」
キーンコーンカーンコーン……♪
……あらら、鳴っちゃった。まったくこのセルシオのせいで全然眠れなかった。疫病神め。
「チャイムが鳴ったぞ? 席についたら?」
ギリギリと歯を軋ませているセルビオを無視して俺は自分の席に座る。それでも赤痢菌(ああ、これは絶対違うな)は顔を真っ赤にしたまま俺のことを横から睨み付けている。
……どうなっても知らんぞ俺は。
そしてやはり怒りのあまりチャイムも俺の声も届いていなかったセイクリッドは。
ズパムッ!
「オルコット。席に着け」
ちー姉さんの出席簿クラッシュにやられてしまいましたとさ。
……それにしても妙な音だったな。そしてあまりにもでかい音だった。相当痛いに違いない。
side 篠ノ之 箒
一夏は変わっていないと言ったが、撤回しよう。相当変わっていた。
まあ、昔は一夏をあのような方法で強引に起こそうとする者など一人もいなかったから本当に変わったのかはわからないが、少なくとも私が起こそうとした時は抱き締められて無力化されるだけだった。
だが今の一夏は無理矢理起こそうとしたオルコットを当然のように罵倒し、相手の罵倒を受け流し、そして出鼻を挫いて勢いを止めて自分の得意な場所に引きずり込んだ。
……いや、恐らく途中からの寝た体勢も一夏の策の一つだろう。
相手の言う言葉を初めの言葉で全て消し飛ばし、眼中に無かったを通り越してなにもなかったかのように扱い、プライドに一撃を与える。
そしてオルコットが何かを叫び出す前にオルコットの大切にしているだろうプライドを引き合いに出して黙らせる。
そして挑発を繰り返し、オルコットが激昂した所でそこからは無視。確かにオルコットの許可がなくとも眠れるし、オルコットから始まったものなので少しは外に出ることはなく我慢することに……いや、あれは怒りのあまりに行動が止まっただけか。
ここで最初の寝たふりが効いてくる。
あれは恐らく時間調整のためだ。自分の言いたいことを言い切り、それでいてかつオルコットがなにも言えない状況を作り出すための、その時点では誰もが騙されるほどの『寝たふり』。
そしてそれは成功し、オルコットは千冬さんに叩かれて(威力が凄まじいことを簡単に予想させるような音だった)強制的に席に戻らされている。
……恐るべき策士になったな……一夏!
…………ただ、その頭をもう少し私の思いを感じ取ることに使ってくれてもいいと思うのだがな?
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