2011年9月22日03時00分
動画投稿サイト「ニコニコ動画」(ニコ動)が、メディアとして存在感を増している。大物政治家の生出演や震災報道、音楽ライブや芸能人会見まで、さながらテレビ局のように、硬軟取り交ぜた番組をネットで「生放送」しているのだ。
先の民主党代表選当日。会場にはテレビ各局の記者やカメラに交じりニコ動のスタッフ3人がいた。カメラとパソコン1台ずつで演説や投開票の様子を現場から中継した番組は、その時間に約17万人が視聴した。
5月には「これが福島原発の実態だ!東電現場からの告発」という番組も配信。ジャーナリストの津田大介が、作業員の親類から入手した原発内部の写真を使って事故の実態に迫った。番組を見た人は約9万人。テレビ視聴率の1%(関東地区でいえば約17万7千世帯)にも満たないが、「ツイッターなどで情報が広がるため、数字以上の影響力がある」と津田は話す。
放送法などに縛られないため、企画から配信まで手軽にできるのはネットゆえの強みだ。原発番組も、配信されたのは津田が企画を提案した翌日深夜だった。
ニコ動で配信される動画はもともと、一般の人の投稿動画が中心だった。テレビ番組など著作権を侵害したものも少なくなく、ネット好きのオタクが集まる場とみられがちだった。
ニコ動がテレビ局のように自ら制作した番組を配信する「ニコニコ生放送」を始めたのは2007年12月。10年11月には小沢一郎民主党元代表がテレビへの露出を抑える中で出演、約18万人が視聴した。スペースシャトル打ち上げは米国にスタッフを派遣、7回も中継した。震災特集も含め、硬派番組は多い。
軟派系も、韓流ドラマやアニメの放映のほか、自社制作のミュージカルや、ものまね芸人のライブなど、幅広く中継している。
ニコ動トップの川上量生・ドワンゴ会長は「動画サイトである以上、開かれた場にしたかった。ネットと現実世界との断絶も広がっており、溝も埋めたかった」と話す。
公式生放送は今や月に600本。ユーザー制作の生放送は1日10万番組に及ぶこともある。会員も2千万人を超えた。20代の約7割が会員とのデータもある。
■コメント機能も人気の秘密
人気の秘密は、視聴者のコメントを画面に書き込める「対話機能」だ。ニッセイ基礎研究所の久我尚子研究員(消費者論)は「20代以下の世代はマスメディアより知人友人の意見を重視する傾向がある。コメントを通じて、井戸端会議感覚で楽しんでいる」とみる。
奥村信幸・立命館大准教授(ジャーナリズム論)は「既存メディアの情報に対するセカンドオピニオンを提供している」と分析する。例えば東電会見が丸ごと中継されることで、既存メディアが何を質問し何を報じなかったか視聴者がチェックできるというのだ。
ニコ動はこの夏、専用ライブホールを東京・六本木の伝説的ディスコ「ベルファーレ」の跡地のビル内につくった。その名も「ニコファーレ」。こけら落としのAKB48らの公演はネットを介して約67万人が視聴した。会場の定員は380人。でも、ネット視聴の「参加者」のコメントが周囲の壁に映し出され、現実とネットが一体化したかのようなうねりを生み出す。
ニコ動との連携もしてきた、フジテレビの福原伸治・情報企画部長は「視聴者を驚かせ面白がらせることを純粋に追求していた1990年代のテレビの深夜番組のような熱気がある」と評価。その上で「報道番組で情報のウラ取りをどこまでしているかなど、まだ信頼性の面では課題もある」と指摘している。(赤田康和)