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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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日本のメダリストのコーチたち~門奈裕子編〈3〉

日本で練習する際には門奈コーチの下で練習する安藤(写真提供・今永百合子)

 メーンコーチはロシアのニコライ・モロゾフだが、日本での練習時は門奈コーチの指導を受け、ジャンパーとしての原点に帰る安藤美姫。幼少時と、現在と10年以上そのジャンプを見続けている門奈コーチの目に、現世界チャンピオンはどう映るのだろうか。

 ◆門奈裕子氏・城田対談

 城田「真央ちゃんを見る機会はなかなかないかもしれないけれど、今でも何かあれば門奈先生のところに飛んでくるのが美姫ちゃん。あれだけ才能のある選手だけれど、最初はそれほどスケートに本気じゃなかったんですって?」

 門奈「そうですね。美姫のことはピアニストにしよう、とママが思ってたみたい。最初は、そんなに一生懸命スケートをやるつもりはなかったんでしょう。やっぱり、パパが亡くなったことが一番大きいんじゃないかな…」

 城田「パパが亡くなったことで、スケートも辞めちゃう、そうはならずにすんだのね」

 門奈「確か3か月くらい休んでいたんです。その時『ああ、一番いい子が辞めちゃうな…』、そう思ったことは覚えてます。といっても、世界チャンピオンになれるのに…。何て、そこまでは思ってないけれど(笑)。でも『辞めちゃうのかあ』と思ってたら戻ってきてくれて、そのあとは家族ぐるみでスケートにどんどん集中していって」

 城田「美姫ちゃんはまだ無邪気にスケートを楽しめただろうけれど、ママは結構きつかったでしょうね。父親の分も一人で苦しんできて…。でも美姫ちゃんのおうちは、おじいちゃま、おばあちゃまがずいぶんフォローしてくれたのよね」

 門奈「美姫が練習してると、家族が一人ずつリンクにやってきて、フェンスのところで見てるんですよ。最初はママ一人で、途中で弟を連れてきて、次に仕事が終わったじいじが来て、ばあばが来て…。だんだん人が増えていく(笑)。最後には、みんなで一緒に帰っていくんです」

 城田「悲しいことを乗り越えるために、スケートを頑張る美姫ちゃん中心におうちが回っていたんでしょうね。おじいちゃまも一生懸命で、試合もいつも見に来てる。そんななかで美姫ちゃんは、子どものころから光ってたわけでしょう? これはいいな、いい選手になるな、と」

 門奈「そうですね。一緒にお教室から上がって来た選手が5人くらいいて、みんな上手だったんです。そのなかでも美姫は動きが良かった。でもそんな、すごい選手にしようなんて、全然(笑)。まだまだ夢中で滑ってる、跳んでる、そんな感じでした。ちっちゃいころから、いつでも先生にべったり、のタイプでしたしね」

 城田「いつも先生に、見ててほしがるんでしょう?」

 門奈「そう。いつも視界に置いておかないといけない。美姫のレッスンの時でなくても、見てないと不満そうなんです(笑)。こっちで他の選手を見ているのに、『今のジャンプどうだった?」なんて聞いてくるから、『良かったよ!』って。何も見てなくても、『良かったよ、良かったよ」って言わないと(笑)」

 城田「先生が見ててくれるだけで、安心するんでしょうね」

 門奈「ママもそう言いますね。先生が良かった、良かったって言ってくれるのが一番いいのよ』って。だから『分かった。じゃあ、何度でも言うよ』って(笑)。それに寂しがりや屋だから、一人で練習することも出来ないんですよ。私だけじゃなく、美姫は練習パートナーも必要(笑)」

 城田「見ててほしがる。かまってほしがる。美姫ちゃん、そういうところは小さいころからずっと変わらない。だから試合終わったら係の皆さんみんなにあいさつして、『ありがとうございました。またお願いします』って言う」

 門奈「そういう躾(しつけ)には、お母さんも厳しかったから。昔から、演技が終わると裏方さんにあいさつしに行ってましたね」

 城田「リンクにあいさつして、音楽係にあいさつして、チームを率いてくれてるリーダーにあいさつして…。連盟の合宿でも礼儀など教えるけど、美姫ちゃんはそれがきちんとできるタイプ。意外に出来ない子って多いでしょう?」

 門奈「そうですね、今でも。あいさつしても、サーっと。『こんにちはあ』くらいで済ませちゃう子はいます」

 城田「結局、あいさつが大事って後から私たちに教えられても、きちんとできるのは元の親御さんの躾が出来ているかどうかにかかってくるかもしれない。それにしても美姫ちゃんがすごいのは、あの才能。当時の連盟もあの才能にほれ込んで、いずれは五輪の表彰台に上らせるつもりで育てよう、となったくらいで…。彼女の才能からすれば、トリプルアクセルだって跳べるはずでしょう? 小さい頃、いい所までいってたんだけどな」

 門奈「美姫、アクセルは元々苦手意識があったんじゃないかな。トーループも大嫌いだし(笑)」

 城田「でもサルコーやループの跳躍の持っていき方、抜群にうまいのよ! エッジ系の跳び方、あれはもう、天才だと思う。でも美姫ちゃんは、自分じゃそう思ってないの。『誰もあなたみたいに跳べる人はいないんだから!』って言っても、自分では理解してないみたい(笑)。それに練習がそれほど好きじゃないのに、あれだけできちゃうんだから、すごい。トリノ五輪が終わってジャンプが崩れたころ、ニコライにつきながらもジャンプは門奈先生に見てもらうようになった時も、先生の所ですぐに元のジャンプに戻したでしょう?」

 門奈「すごいですよね。あの時、私が一緒について練習したのは、最初の3か月くらいです。戻ってきて本当、真面目に練習してました」

 城田「1回ジャンプを戻してしまえば、あまり教えることはない」

 門奈「そうです、もうあそこまで上手くなったら、見てるだけ(笑)」

 城田「やっぱり先生は、精神安定剤のような存在になるのね」

 門奈「そう、毎日こうやって遠目で滑ってるのを見て、視界の隅っこに置いておいて、『あ、大丈夫だな』って思うくらいです。たまに美姫に何本か跳ばせてみて、『今のジャンプどう思う? 2本目と3本目、どう思う?』って聞いて、『2本目がちょっとこうなってた』て美姫が応えると、『じゃ、直して』って(笑)」

 城田「じゃ、直して、でいいんだ(笑)」

 門奈「直してごらん。それで済むんです。今の美姫の場合は」

 城田「ジャンプはそんな風に門奈先生に任せてるから大丈夫。それに、試合でのコントロールも、最近の美姫ちゃんはうまく上昇気流に乗れるようになったかな。今年の世界選手権も、試合前は情緒不安定で『出たくない』『出来るかどうか分かんない』何て言いだしちゃって、大変だった。『城田さん、ちょっと美姫ちゃんに電話してくださいよ。もしこのままの状態が続くようだったら、何のために今までやってきたのか、言ってやってください』何て関係者から言われたりもしたの。でもまあ試合が始まれば、気持ちがフワーンと上がっていった」

 門奈「美姫はホント、いつもそんなですよね。試合前、靴が履けないくらい足が痛いって泣く時もあったし、死にそうなくらい部屋で落ち込んでいる時もあった。いつもそんなだけど、出来る時には、やっちゃう。今回も、ああ、やっぱりここまでは普通にできるんだな、と思いながら見てました」

 城田「今年もいつも通りの美姫ちゃんだった、と。氷に立って音楽が鳴れば、やれるだけのことはやる人になったわね」

 門奈「多少きつい状態でも、あそこまではもう、いつでも完全にこなせるはずです」

 城田「あとはソチ五輪まで、どう頑張るか、よね」

 門奈「美姫も3回目の五輪に出ることが夢だって言ってるから…。そこでの結果はどうあれ、ここまで来たら、『やり遂げた感』が欲しいですよね。ソチまで頑張って、もう1回出られればいいな、と思いますけれど」

 城田「ジャンプを教えた先生としては、ルッツ―ループの3―3回転を試合で跳んでほしい、なんて気持もあったりする?」

 門奈「ああ、どうかなあ。もうルールも、昔とは違いますから…」

 城田「そうね。3―2でGOE(要素の出来栄えの得点)をもらっちゃった方がいいという考え方もあるから、そこの計算は必要よね。女子の3―3、男子の4回転ジャンプは、やっぱり気持ちの上でのリスクが大きい。そのリスクを冒してもトライしたことを評価する要素は、採点上どこにもないものね…。ところで今年の美姫ちゃんは、前半、試合に出ないようだけど、夏には長野・野辺山合宿(有望新人発掘合宿)に顔を出したりしてたんですって?」

 門奈「そう、私の手伝いをしたかったみたいなんです。以前みたいにうちの選手だけで10人も連れていく、何てことになってたら、『美姫、この子を頼むね』ってお願い出来たけれど、今年は3人だけ。昔みたいにそんなにたくさん野辺山に行けないんです。それで『どうする? 野辺山来る? 』って聞いたら、『じゃあ、バカンスで行く』って(笑)」

 城田「最近は野辺山に参加できる人数も減っちゃったから。先生、ふだんは何人くらいお弟子さんを教えてるの?」

 門奈「40人くらいです。そのうち、ちびっこちゃんが15人くらい。今はアシスタントの子がいてくれるので」

 城田「それでも大変! じゃあ、いいじゃない、時間が許す限り美姫ちゃんに手伝ってもらえば(笑)」

 門奈「無理です(笑)。美姫は日本で仕事なんて出来ませんよ」

 城田「まあ、そうね。美姫ちゃん、感覚はもう国際的。日本人じゃなくなってる所があるものね」

 門奈「そうそう。日本のママたちとうまくやってくなんて、美姫には絶対出来ないですよ(笑)」(続く)

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(2011年9月14日17時38分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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