放射線のレベルと危険度:安全安心科学アカデミー


注) 代表的な放射線の単位
量の指標の区分 計測単位
人体にあたった影響量 mSv(ミリシーベルト) 1mSv=1000μSv(マイクロシーベルト)
物質から出る放射線の大きさ (放射能) Bq(ベクレル)
シーベルトとベクレルの関係は、例えると部屋の電球の光の強さ(ワット数)がベクレル、部屋の明るさがシーベルトと考えると判りやすいでしょう。

緊急解説
 今回の大震災で被災した福島原子力発電所からの放射線事故に際し、当サイトにたくさんのアクセスがきております。
 当サイト内に収載されている過去の情報のなかから、放射線の被ばくによる健康影響に関する論文・議論をまとめ、皆様の参考になる資料(論文ほか)を取り急ぎ項目別に集めましたのでごらんください。また、これとは別に「放射線とどう向き合うか」という放射線防護学、放射線管理に関する資料もまとめてみました。放射線の専門部会の資料のため、一般の方々には多少難解な部分もあることをお許しください。

 ただ、残念なことに現在の社会状況を見る限りでは、放射線の捉えられ方が規制値イコール健康影響量として受け止められていて、社会が大変な混乱状態になっているのが危惧されます。
 例えば規制量による住民避難。そして放射性物質汚染による野菜販売の規制、水道水の飲用指導は最大限の使用・利用を見積もった、1ミリシーベルト/年の計算で実施されております。

 法的な規制量は適正な放射線管理をおこなう上での管理目標値であって、健康影響量とは桁違いに小さな量であることに留意されてください。いっぽう、復旧作業のおこなわれている原子力発電所の現場では管理線量を超えた環境にあります。ここでは法的な管理規制の量ではなくて、健康被害の生じない限界量(上記の図表の左側の部分)をガイドラインにして懸命な作業がおこなわれていることも知っておいていただきたいと思います。

 最近「ベクレル」という言葉が報道されています。容量あたりの放射能の大きさを示す単位です。水道水や食物の扱いに対して数百ベクレルのラインでで飲用制限や出荷停止の指導がおこなわれていますが、もともとどんな人でも骨に由来するカリウム-40が8千ベクレルの放射能を体内に持っていることも上記のグラフからご理解ください。
                                         2011.3.23 2011.4.1.(改)  HP編集委員(輪)

小冊子「日常で受ける放射線」(安全安心科学アカデミー::発行)がダウンロードできます

最近の論評

・放射線の影響を理解する 大分県立看護科学大学 甲斐倫明 2011.5.7

・福島第一原発被災の論評 大阪市立大学大学院医学研究科放射性同位元素実験施設
 RIニュース 2011年3月号2011.4.1
 RIニュース4月号2011.4.27 
放射線被ばくの健康影響に関する資料・議論

 低線量放射線被ばくの健康影響に関する調査 核融合科学研究会委託研究報告書
 2003年

放射線は少しなら健康に全く害はない  近藤宗平 
線量限度50mSvのリスクはゼロ 近藤宗平 
低線量放射線影響と疫学の限界 祖父江友孝
放射線は、少しなら、安全で発がんの危険はない 近藤宗平 
日本の原子力発電施設等放射線業務従事者の疫学調査 巽 紘一
アジアにおける原子力施設の疫学調査 秋葉澄伯
・放射線生体影響を科学的に評価することが放射線防護の基盤
京都大学原子炉実験所教授 渡邉正巳
放射線の功罪- 放射線の危険性に対する防御 - 近藤宗平
国際がん研究機関による原子力産業従事者の疫学調査の統合解析 水野正一
・適量の放射線は健康に良い有力な証拠 近藤宗平
疫学研究の現状としきい値問題 −放射線リスクはLNTモデル?− 金子正人
放射線の安心レベルについて考えてみよう 米澤司郎
放射線もほどほどが良い  金子正人
放射線は少し浴びたほうが健康によい  近藤宗平
がん遺伝子とがん抑制遺伝子 
 野田亮

医療被ばくのリスク 放射線医学総合研究所規制科学総合研究グループ 吉永信治
・日本人の発がん   
武部 啓 
遺伝子レベルのがん化と臨床的発がん 山本和高

放射線と遺伝子の傷   武部 啓
低線量影響と保健物理 丹羽太貫
・保健物理に必要な放射線影響研究 
放射線影響協会/日本保健物理学会会長 金子正人
・放射線発がんの主たる標的はDNAではない可能性が高い  渡邉正巳
  放射線の健康影響 Q&A ( 初級 中上級 )

放射線防護の議論
看護学生の放射線リスク認知 -教育による変化- 弘前大学大学院 井瀧千恵子
放射線生体影響を科学的に評価することが放射線防護の基盤 京都大学原子炉実験所教授 渡邉正巳 (保物セミナー2010)
・保健物理に必要な放射線影響研究 放射線影響協会/日本保健物理学会会長 金子正人 (保物セミナー2010)
放射線リスク評価における疫学と生物学のギャップを超えるためのアプローチ 大分県立看護科学大学教授 甲斐倫明
これまでの保健物理 (財)電子科学研究所専務理事 辻本 忠 (保物セミナー2009)
・これからの保健物理  近畿大学原子力研究所准教授 杉浦紳之
・医療関係者からみた保健物理 藤田保健衛生大学准教授  横山須美
・電力の現場からみた保健物理   東京電力株式会社部長 鈴木良男
・大学の現場からみた保健物理   神戸薬科大学講師 安岡由美
・若手からみた保健物理       
電力中央研究所 荻野晴之

・「教科書に載っていない放射線のはなし」輪嶋隆博
・放射線被ばくの説明の知恵 
−「しきい値なし直線仮説」LNT:Linear No threshold Theory を検証する− 輪嶋隆博

原爆被爆者調査とリスク係数の比較 甲斐倫明
放射線の安心レベルについて考えてみよう 米澤司郎
・ほどほどは健康のもと 金子正人
・航空乗務員の宇宙線被ばくについて 杉浦紳之
・保健物理の変革  下 道國
・NORM の規制と保健物理学会の役割 古田定昭
・「学」としての「保健物理」への期待 住田健二
原子力の長期計画と保健物理 佐久間洋一
原子力の長期計画と保健物理 久保寺 昭子
原子力選択の社会的不安  傍島 眞
放射線のリスク観を形成する社会的側面 輪嶋隆博
低線量影響と保健物理 丹羽太貫
・保健物理の展望 金子正人
・【保健物理の諸問題】
医療分野の立場より 大野和子
  原子力分野の立場より  山西弘城
RI主任者部会の立場より 稲垣昌代  大学研究所の立場より 飯本武志

放射線防護の心 −低線量放射線影響の実態と放射線管理とのギヤップ− 松原純子
第11回国際放射線防護会議(IRPA11)出席の記  下道國
低レベル放射線影響を如何に理解し、教えるか  松浦辰男

    放射線の単位の量的感覚の難しさを通貨に例えて説明すると・・・ 辻本忠

横巻き: 放射線の健康レベルと危険レベル
解   説
                               

海水中などの自然放射線以下の場所で生活したらどのようになるのだろうか。自然放射線を遮蔽した生物実験の場合に生物の増殖活性が低下すると言う報告がある。人類はこれまで生活してきた環境が一番よく、環境が変わることはよくない。そこで、自然放射線より低い場所で生活するようになれば、人体によくない影響を与えるかも知れない。そこで、0.1ミリシーベルト未満の線量を注目レベルとした。

自然界には,地球の外からふりそそいでくる宇宙線、大地からのガンマ線、大気中のラドン、食物に含まれている放射性物質からの放射線などの自然放射線がある。人類は類人猿からわかれた数百万年前よりこのような自然放射線の中で暮らしながら進化してきた。放射線の量(線量)は地域的にかなりの差がある。年間線量は世界の平均では2.4ミリシーベルト、わが国では1.5ミリシーベルト程度である。ブラジルのガラバリ海岸の1部で大地からのガンマ線だけで175ミリシーベルト、市街地でも815ミリシーベルト、インドのケララ地域では平均3.8ミリシーベルトのところもある。また、1ミリシーベルト以下のところもある。最近の研究データによれば100ミリシーベル以下の線量で有れば健康に良いという研究報告もある。したがって0.1〜30ミリシーベルトの範囲は通常生活の範囲内であるので健康レベルとした。

科学技術が生活の中に溶け込むようになり、自然放射線以外に人工的な放射線も受けるようになった。その代表的なものは医療によるものである。胃のエックス線集団検診では0.6ミリシーベルト、胸のエックス線検診では0.05ミリシーベルト、エックス線CTによる検査では10ミリシーベルトの放射線を局部に受ける。これらの値は1回に受ける線量で、検診及び検査の回数を増せば線量は増える。このような医療による放射線は自然放射線に加算されて受ける事になる。1回に500ミリシーベルト以下の放射線を受けても、ほとんど臨床的症状は起こらない。しかし、自然放射線の最高値に近い30ミリシーベルトを超える場合には、リスクは高まるかもしれなが、30500ミリシーベルトの範囲を注意レベルとした。

500ミリシーベルト以上の線量では急性か慢性かによって異なるが、いろいろな種類の臨床的症状があらわれる。これは個人にとって受け入れる事が出来ない線量であるので、危険レベルとした。JCO事故で16,00020,.000ミリシーベルトを受けたO氏及び6,00010,000ミリシーベルトを受けたS氏は死亡したが,1,0004,500ミリシーベルトを受けたY氏は助かった。5,000ミリシーベルト以上の放射線を受けると死亡する危険が急増する。放射線はたくさん浴びると危険であるが、自然放射線の程度ならば心配はいらない。

 

レ ベ ル

年間線量(mSv

人体に対する影響

危険レベル

500以上

臨床的症状があらわれる

健康レベル

0.130

健康に良いと言われている。

注意レベル

30500

悪い影響があらわれる可能性がある。

注目レベル

0.1未満

よくない影響があるかもしれない。

 


放射線の安全量の具体量の提言として、安心科学アカデミー(現:安全安心科学アカデミー)から「放射線のレベルと危険度」として設立時の2003年に上記の内容で提言いたしました。

 いっぽう、国際的にも著名な科学者団体・放射線専門研究組織からの放射線の安全量の提言は2004年、フランス科学アカデミーからの「年間200ミリシーベルト未満は実質的に無害」
(実際的しきい値の存在)の提言。2005年アメリカ保健物理学会(放射線防護学の研究団体)より「年50ミリシーベルト未満は無害」の提言がなされております。
                                    

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