パレスチナには大きな賭けと言えよう。国連で「オブザーバー」の資格しかないパレスチナが、アッバス自治政府議長の国連総会演説を機に、23日にも国連に正式加盟を申請するという。他方、イスラエルの同盟国たる米国は、パレスチナが加盟申請に踏み切れば安保理で拒否権を行使すると公言している。
穏やかならぬ局面である。だが、双方が激突して和平交渉の枠組みを壊しては元も子もない。冷静な歩み寄りを期待したい。と同時に、米国は和平仲介のありようを厳しく反省すべきだと私たちは考える。
オバマ米大統領は昨秋、「来年9月までに国連に加盟したパレスチナ国家を見たい」と演説した。だが、米国が仲介するイスラエル・パレスチナの交渉は暗礁に乗り上げて久しい。イスラエルは国際社会が非難する入植活動を続けているが、米国は強くいさめもせず、2月にはイスラエルの入植活動を「違法」とする安保理決議案に拒否権を行使した。
米国の研究者によると、米国が拒否権で葬ったイスラエル関連の安保理決議案は、72年から06年までに40余りに上る。こんなに米国が懸命にかばう国は他にはあるまい。
オバマ大統領は「イスラムとの対話」を強調し、パレスチナ和平では第3次中東戦争以前の停戦ラインを基本とする考えを示してイスラエルの不興を買いもした。だが、大統領の言葉とは裏腹に米国の政策は変わらないではないか、との不満がアラブ世界には強い。パレスチナの国連加盟申請は、オバマ大統領に対して「もうあなたは信用できない」と言い放つようなものだろう。
コソボも南スーダンも独立を宣言したのに、なぜ我々は独立できないのか、というパレスチナ側の気持ちはわかる。中東の民衆運動「アラブの春」によって、パレスチナ問題の公正な解決をめざす機運が高まっていることも背景にあろう。米国とイスラエルは、中東で起きている構造変化に注目すべきである。
だが、パレスチナも正面突破を図るだけが能ではない。米・イスラエルとの対立は和平交渉の決裂を招き、独立国家樹立は難しくなる。来年の米大統領選で仮にオバマ大統領が敗れれば、より「親イスラエル」の大統領が誕生するかもしれない。パレスチナ側にも妥協は必要だ。
オバマ政権は、安保理での採択を遅らせるべく種々の提案を作成中と伝えられる。だが、パレスチナの正式加盟に大多数の国が賛成とされる中、米国はイスラエルの利益のみを考えてはいられまい。事態を収拾するには、持続的な和平交渉を保証する提案が必要だろう。オバマ政権の指導力と公正さが問われている。
毎日新聞 2011年9月23日 2時30分