2011年9月20日03時00分
「沖縄はゆすりの名人」などと発言したとして、米国務省日本部長を更迭されたケビン・メア元沖縄総領事の著書「決断できない日本」(文春新書)が、沖縄で売れている。発売から1カ月。主な書店で売れ行き1、2位を争う。憎まれっ子の本、世にはばかる。「安全保障の現実を見ろ」と上から目線で説く内容に共感しているわけではなさそうだ。
大手書店、ジュンク堂那覇店では7〜13日の1週間だけで40冊売れた。ランク2位。本が売れないと言われる沖縄では、通常の3倍以上の勢いだ。「沖縄では嫌われそうな内容なのに」と森本浩平店長は驚く。
県庁そばのリブロ・リウボウブックセンター店では、佐野眞一氏の「沖縄/だれにも書かれたくなかった戦後史」(集英社文庫)を抑えて1位になった。
著書でメア氏は、日米同盟の重要性を繰り返し「沖縄は被害者意識ばかりを引きずっている」などと書く。文春新書編集部の鈴木洋嗣部長は「沖縄へのアメリカの本音だ。地元ではこうした論調に触れる機会がなかったのでは。だから売れているのでしょう」。
宜野湾市の伊波洋一・元市長は発売間もなく買った。「普天間飛行場の県外移設は受け入れられない」と公言するメア氏は、いわば政敵だ。「売り上げに貢献するのは嫌だが、何を主張しているのか知っておく必要があると思った」
見過ごせないのは、飛行場に隣接する小学校を国が移転しようとしたが、伊波氏が「反対した」というくだりだ。伊波氏は「政府が移転に動いたことはないし、私が反対したというのも誤りだ」と反論する。
「動かすべきは飛行場の方だ。周囲がみな危険な中で、小学校だけ動かすのは筋が違うと言ったことはある。虚偽と分かっていることをあえて書き、都合の悪いことに触れない。沖縄を見下している」と話す。
琉球大の我部政明教授(国際政治学)は立ち読みで済ませた。「総領事時代に言っていたことの繰り返し。パラパラめくって買う必要ないなと」
では、なぜ沖縄で売れているのだろう。我部教授は、漫画家小林よしのり氏の「沖縄論」と同じ現象だと言う。同書は「沖縄は基地縮小を政府に要求する権利がある」と述べながら、「日本の安全保障に対して主体的な思想を」とも説く。2005年に発行されると、県内でベストセラーになった。「自分たちのことを何と書いているのか県民は興味がある。メア氏は総領事時代から『話題の人』だった。メディアを通じて間接的にしか見聞きできなかった多くの県民にとって、本人の言葉を日本語で直接読めるという点が興味を引いたのでは」
もともと沖縄は自分たちに関する本が大好きだ。半年前に東京から来たリブロの土屋佳裕店長は、本土のベストセラーを差し置いて沖縄関連の本ばかりが売れることに驚く。こうした土壌も影響していそうだ。
普天間飛行場の辺野古移設に反対する建築家の真喜志好一さんは「あんな人間の本に金を払うことすら嫌だ」と無視していたが、知人が送ってきた。「あれは彼だけじゃなく、アメリカ政府も同じ考えのはずだ。彼はその代弁者だ」。くしくも文春新書の鈴木部長と同じ指摘だった。
■メア氏、改めて発言否定 沖縄でシンポ
「沖縄はゆすりの名人」などと発言したとして、米国務省日本部長を更迭された元沖縄総領事のケビン・メア氏が19日、沖縄県宜野湾市であったシンポジウムにパネリストとして参加した。沖縄に米海兵隊が駐留する必要性を強調し、同市にある普天間飛行場を沖縄県名護市の辺野古へ早期に移設させるべきだと訴えた。
シンポジウムは「戦後日本と日米同盟 これからの沖縄の行方」(日本青年会議所沖縄地区協議会主催)。普天間飛行場の移設が行き詰まっていることに対し、「アメリカ側はフラストレーションを抱えている。辺野古に移設できなければ、(海兵隊の)能力を維持するために(普天間に)固定化することになる」と述べた。
県外移設の可否が話題になり、「海兵隊のすべての施設を移動する検討をしたが、本土には場所がないし、米軍基地をつくることは難しい」と振り返った。
司会から「最後の一言」を求められると、「沖縄はゆすりの名人」などと発言したとの報道について、「沖縄に赴任して挑発的なことも言ったが、(報道された)侮辱的な発言をしたことはない。捏造(ねつぞう)だ」と改めて否定した。
主催者によると、メア氏を招いたのは「公職を離れ、沖縄に対するアメリカ側の本音を語ってくれそうだから」という。(谷津憲郎、奥村智司)