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第二話 葛城ミサトの憂鬱
ミサトの提案で急に行われることになったシンジの歓迎会。
最近、レイによるエヴァの起動実験の結果があまりよくなかったので、ネルフのスタッフ達のやる気も低下していた事もあり、開催に賛成論も出ていた。
シンジは思いつく限りの食べ物の名前を列挙したので、立食形式のバイキングとなった。

「あなたのお父さんが用意をしてくれたのよ」

驚いて目を見張っていたシンジに
シンジがネルフに到着し施設についてリツコから説明を受けている間、ミサトは食材とコックを集めて大会議室にシンジの夕食を用意したのだ。

「父さん、本当に食べて良いの?」
「ああ、問題ない」

ゲンドウの言葉を聞いたシンジは手に皿を持って料理の山へと歩き始めた。
シンジの伯父夫婦は栄養が偏るからと言ってシンジに質素な食事、いやお腹いっぱい食べさせた事はなかった。
しかし、シンジは母屋で伯父達の家族が贅沢な食事をしているのを知っていた。
シンジが目の前の料理に目を奪われるのにも無理はなかった。
ミサトはそんな喜ぶシンジの姿を見て嬉しく思った反面、悲しい気持ちになった。
まるで子供の頃セカンドインパクトを体験した自分達のようではないか。
あの時は日本中、いや世界中で食べ物が不足していた。
今はあれから何年も経ち、飽食の時代に戻っている。
ミサトはシンジの今までの生活に心から同情した。
料理を皿に盛っては食べるを繰り返していたシンジは、バイキングの参加者の中に自分と同い年くらいの少女の姿を見つけた。
透き通るような白い肌で、風が吹いたら飛ばされてしまいそうな印象を受けるか弱い線の細い少女だった。
シンジはその少女の容姿より、持っていた皿の方が気になった。
和洋中勢揃いのバイキングであるのに、少女の皿にはサラダの中からさらに野菜だけを抜き出したような物しかのっていなかったのだ。

「君、それしか食べないの?」
「そう」

少女はシンジの言葉にそう答えてうなずいた。

「こんなにたくさん料理があるのにもったいないよ。ほら、このローストビーフなんか美味しいよ」
「肉、嫌いだから」

少女が強く拒否すると、シンジも意地になってローストビーフを勧める。

「世の中には美味しい物を食べたくても食べれない人がいるんだよ。ダイエットなのかもしれないけど、肉を食べないで無理に痩せようとしない方が良いよ」

シンジにローストビーフの刺さったフォークを突き出された少女は恐る恐る口の中へローストビーフを入れた。
しかし、すぐに苦しそうになって咳き込んで倒れてしまった。

「レイ!」

ミサトが慌てて少女の所へ駆け寄って助け起こした。
シンジは自分が何か大変な事をしてしまったのかと驚いてミサトに尋ねる。

「あのミサトさん、いったい何が?」
「説明は後で、この子を医務室に運ぶのを手伝って」
「はい」

シンジは気絶した少女をミサトと共にベッドに寝かせると、ホッと息をもらした。

「驚かせてごめんなさい。レイは野菜以外を食べると拒否反応を起こしてしまうのよ」
「えっと、この子はもしかして……?」

シンジの質問にミサトは首を縦に振る。

「この子はファーストチルドレンの綾波レイ。シンジ君が乗る初号機のパイロットに選ばれた子よ」
「じゃあ、僕があのロボットに乗らなかったら、この子が乗って使徒と言う敵と戦う事になるんですか?」
「そう、シンジ君を脅すようで悪いんだけどね」
「いえ、良いんです。僕は望んでここに居るんですから」
「シンジ君、今さらこんなことを言うのも何だけど、エヴァに乗る事を拒否することもできるのよ。今まで通りの生活を送ることもできるのよ」

ミサトの言葉にシンジは悲しげに首を横に振る。

「僕は伯父さんの家に戻りたいとは思いません。生きているのかいないのかよくわからない生活を送っていましたし。楽しい事なんて全然ありませんでした」
「もしかしてシンジ君、ヤケになってエヴァに乗ろうとしているの? そんな心構えの人間をエヴァに乗せるわけにはいかないわ」
「違うんです。僕は愉快で仕方ないんです」
「どういう事?」

突然笑い出したシンジにミサトが疑問に思って訪ねる。

「だって、僕を捨てた父さんが僕を必要としているんですよ? 何度も迎えに来てって頼んだのに、無視し続けた父が僕の前に現れたんですよ。こんな笑える話があると思いますか?」

歪んだ感情だとミサトは思った。
しかしミサトもシンジの気持ちがわかる気がした。
ミサトの父親も母親や自分の事を放っておいて研究に熱中するような人物だった。
だから南極の基地にミサトを連れて行くと父親に言われた時は嬉しかった。
どうして父親はミサトを必要としたのか今となっても解らなかったが、ミサトは純粋に喜んだ。

「シンジ君、ずっと寂しかったのね……」

ミサトはシンジに接近するとシンジを抱きしめた。

「別に……そんな事は……ないです」
「葛城一尉、私は何故、ここにいるのですか?」
「うわっ!」

目を覚ましたレイに声を掛けられると、シンジとミサトはあわてて体を離した。
ミサトはバツが悪そうな顔をしながらレイに答える。

「気を失ってしまったから、医務室へ運んで来たのよ」
「ごめん綾波さん、僕が無理に肉を食べさせようとしたからこんな事になっちゃって」
「別にもう謝らなくて良い」

レイは頭を何回も下げて謝るシンジを止めた。

「レイ、紹介が遅くなったけど、サードチルドレンの碇シンジ君よ。仲良くしてあげてね」
「命令ならばそうします」

ミサトの言葉にレイは表情を変えずにそう答えた。

「変わった子ですね」
「そうね」

シンジとミサトは顔を見合わせてため息をついた。
レイが意識を取り戻したのでミサトとシンジは医務室を出た。
廊下でミサトはシンジに問い掛ける。

「そうだシンジ君、これからの住居なんだけど、どうする? 申請すればお父さんと一緒に住むことができるのよ」
「それならそうしてください、未成年の子供の面倒を見るのは親の義務ですから」
「またまた、シンジ君ったら、本当に素直じゃないんだから。お父さんと暮らしたいって正直に言えばいいのよ」

ミサトはシンジをからかった後、ゲンドウにシンジが同居を希望していると司令室に報告をしに行った。

「そうか。冬月、席を外せ。私は葛城一尉に話がある」
「ええっ、私が何を……」

ゲンドウに言われて冬月が司令室を出て行くのを見て、ミサトは何事が起こるのかと恐怖した。

「葛城一尉、君は早くもシンジの信頼を得たようだな。そこで君にシンジの保護者役を命じる」
「私がですか!? しかし、シンジ君は司令と同居する事を了承しておりますが」
「私は司令の仕事が忙しくてほとんど家に居られない、葛城君が同居してくれると助かるのだが」
「了解しました」

ミサトはゲンドウに返事をしながらコンフォート17にある自宅の散らかり振りを思い出した。
まあシンジ君も最初は戸惑うけど、そのうち慣れるでしょう、とミサトは気楽に考えていた。
しかし次のゲンドウの言葉がミサトを地獄へと叩き落とした。

「うむ、それでは私の家に葛城君の部屋を用意するように手配して置く」
「へっ!? ええーっ!?」

ミサトはゲンドウの言葉を理解すると司令室に響き渡る大きな悲鳴を上げた。
そしてその日から針のむしろに座るような生活になったミサトは憂鬱な日々を送るのだった。
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