裁判官や検察官、弁護士として社会で活躍する法曹の道を目指す意欲をそぐ状況が生まれている。
一つは、法科大学院修了者を対象とした今年の新司法試験の結果だ。2063人が合格したが、合格率は23.5%で、過去6回で最低となった。政府は02年の閣議決定で年間合格者3000人程度との目標を掲げたが、大きく下回った。
中でも、未修者(3年)コースの合格率は約16%にとどまり、法学部出身者向けの既修者(2年)コースの半分以下だ。
司法改革を主導した政府の司法制度改革審議会は01年にまとめた意見書で、「幅広い教養と豊かな人間性」を掲げ、法律を学んだ経験のない社会人を含めて多様な分野から人材を集める方向性を打ち出した。
だが、最近の新司法試験の結果を見ると、現実は理念からほど遠い実態にある。社会人向け夜間コースの拡充など、職業経験を経て法曹を目指す人たちを支える体制を、法科大学院全体として充実させてほしい。
法科大学院教育の抜本的な見直しも必要だ。3分の1以上の大学院が1桁台の合格率にとどまる。教員のレベルを含め、教育の質に問題があると言わざるを得ない。
法科大学院で勉強すれば、最終的に7~8割の人が法曹の道に進めるというのが審議会の掲げた目標だったはずだ。このままでは、法曹志願者の減少に歯止めはかからない。
文部科学省は、合格率の低迷が続く6校に対する来年度の補助金削減を決めた。既に他校との統合を決めている大学院もあるが、一定の淘汰(とうた)はやむを得ない。詰め込み的との批判がある試験内容の見直しを進める必要もあるだろう。
今、さらに深刻なのは司法試験に合格し、司法修習を終えても就職難が待ち構えていることである。
日本弁護士連合会によると、今秋就職予定の司法修習生の約4割が7月時点で進路が未定だ。弁護士事務所に就職できず、いきなり独立・開業する「即独」と呼ばれる弁護士も増えている。事件や裁判の処理をめぐり、弁護士倫理が問われる場面は多い。研修を含め、若い芽を弁護士会全体で支える体制作りが急務だ。
東日本大震災で、被災者の法律相談など弁護士会は大きな役割を果たしている。弁護士過疎の解消も進む。とはいえ、国民の多様なニーズに応える質量ともに充実した司法の実現は、いまだ途上だろう。
高齢化など時代の変化に対応して職域を拡大する道もあるはずだ。政府のフォーラムも法律家の育成について検討を始めた。縮み志向で小さなパイを前提とするのでなく前向きな議論を期待したい。
毎日新聞 2011年9月20日 2時31分