解決策は意外なところにあった。ジョンは、音楽シーンからほとんどリタイアし、ハウス・ハズバンド(専業主夫)という当時珍しい職業(?)を選択したのである。その生活は、「パパはビートルズだったの?」というショーンの問いに音楽活動再開を決意するまで、およそ5年間続いた。
ぎこちない手つきで幼いショーンのオムツを換えたり、パンを焼いたりする主夫ジョンの姿は、思わず「お手伝いしましょうか」と言いたくなるほど微笑ましい。本作で紹介される映像は、ホーム・ムービーで撮影されたもので鮮明ではないが、穏やかで満ち足りたジョンの表情をはっきりと見て取れる。そこにはロックスター・ジョン・レノンの、とんがった面持ちは微塵もない。
そんなジョンとショーンの姿――子の成長を見守る親と、親の愛情に応える子の姿――を通して、スクリーンから熱く伝わってくるものがある。親と子の穏やかな生活が、いかにかけがえのないものであるか。これこそジョンが追い求め、苦闘の末にニューヨークでつかんだ、平和そのものの姿ではないか、と。
翻って、放射能汚染に巻き込まれる子どもたちに有効な手立てを打てなかったこの国の現状に、ジョンは何を思うのだろう。次代を担う希望であるはずの子どもたちを守ってあげられなかった現実は、重い。
実は筆者には、娘(現在8歳)と一緒に訪ねたい場所がある。ニューヨークのセントラル・パークの西側、72th St. West のパーク入口付近、ストロベリー・フィールズと名付けられた一角である。そこの路面には白黒のモザイクでデザインされた直径2メートルほどのメダリオンがあり、中心には「Imagine」の文字――いわずと知れたジョン・レノンの代表曲のタイトル――が刻まれている。ジョンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」が好きな娘が無事に成長したら、ここで「ジョン・レノンの物語」を話してあげたい。メダリオンから公園の外に目をやると、道のむこうにはジョンとヨーコ、そしてショーンが仲睦まじく暮らしたダコタ・ハウス The Dakota (1884年完成)がある。
◆旅の誘い度★★
■作品DATA
『ジョン・レノン,ニューヨーク』
原題:
LENNONYC(アメリカ2010年、115分)
監督・脚本・製作:
マイケル・エプスタイン
特別協力:
オノ・ヨーコ
共同製作:
スーザン・レイシー、ジェシカ・レヴィン
出演:
ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、エルトン・ジョン、ジム・ケルトナー、クラウス・フォアマンほか
提供:
キングレコード
配給:
ザジフィルムズ
協力:
フィールドワークス
URL:
『ジョン・レノン,ニューヨーク』公式サイト
★8月13日、東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
『ジョン・レノン,ニューヨーク』
原題:
LENNONYC(アメリカ2010年、115分)
監督・脚本・製作:
マイケル・エプスタイン
特別協力:
オノ・ヨーコ
共同製作:
スーザン・レイシー、ジェシカ・レヴィン
出演:
ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、エルトン・ジョン、ジム・ケルトナー、クラウス・フォアマンほか
提供:
キングレコード
配給:
ザジフィルムズ
協力:
フィールドワークス
URL:
『ジョン・レノン,ニューヨーク』公式サイト
★8月13日、東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
※このページで使用した場面写真の著作権は Two Lefts Don't Make A Right Productions, Dakota Group, Ltd. and WNET.ORG が有しています。
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