台風が上陸した静岡県浜松市内に5時間近く足止めされたJR東海道新幹線「のぞみ226号」に乗り合わせた。狭い車内に閉じこめられた乗客の表情は、やり場のない怒りと疲労がにじんでいた。
新大阪始発、東京行きの226号が名古屋駅を出発したのは予定通りの午前11時40分。しかし、風雨が強まり、しだいにスピードが落ちていく。浜名湖を渡るころには猛烈な雨で、窓の外が白く見えるほど。正午過ぎ、列車は停止し、一度は徐行で運転を始めたが、浜松駅の西側、舞阪駅付近で完全に足を止めた。
時々、「風速30メートルを超える強風のため運転を停止している」とアナウンスは入るものの、詳しい説明はない。風で、ほぼ満員の新幹線の車体が、ぐらりぐらりと揺れ、怖さが増す。むずがる子どもの泣き声も響く。外を見るとビニールハウスのシートが破れ、風に舞っていた。
朝から何も食べていなかったが、車内の飲食物はあっという間に完売していた。デッキにあるドリンクの自動販売機も売り切ればかり。焼き肉屋や日本料理屋が外に見えるだけに、もどかしい。
「倒木で浜松―静岡間の数カ所で停電。強風のため作業がはかどらない」「富士川が増水。橋を渡ることができず、運転再開の見通しは立たない」。午後3時ごろからは、アナウンスが頻繁に入るようになったが、車内の雰囲気は重苦しくなるばかりだった。雨と風はいったん収まり、再び強くなった。台風の目に入ったと思われる。
午後4時半。ようやく浜松駅への臨時停車と、名古屋、新大阪方面への下り列車を用意することが放送された。4時47分、新幹線は動き始め、6分後、浜松駅に滑り込んだ。
駅では今後の見通し、チケットの払い戻しなどを問い合わせるため、乗客が駅員に群がり、声を荒らげる人も。午後5時37分、東京行きのこだまの到着を知らせる放送が入ると、待合室から多くの人が上りホームへ駆けだしていった。(名古屋スポーツグループ・渋谷正章)