漫画 on Web
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自問自答インタビュー全文。
佐藤秀峰
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2011-09-16(金) 15:06:13
自問自答インタビュー全文。
カテゴリ : 日常, イベント


昨日は、かねてより告知しておりました「漫画 on Webナイト」というイベントを行いましたよ。

おかげさまで50名以上の方がいらしてくださって、無事にイベントを終えることができました。
僕は壇上でしゃべるだけで、いつも通りのことしかできなかったんですけど、会場まできてくださった皆さんが暖かく迎えてくださり、また盛り上げてくださったので、なんとか乗り切れた…かな?

会場のTOKYO CULTURE CULTUREの運営スタッフの皆さんにも大変お世話になりました。
本当に多く方のお力をお借りし、心から感謝しております。

また、このようなイベントができるといいですね。


イベントで発表した「イラ画」ですが、こちらで改めてオンラインブックにまとめておりますので、よろしければご覧ください。

「漫画 on Web」で発表されている作品の紹介では、いたつばさん、スチームトムさん、みじんコ王国さん、ば〜どさんが、それぞれご自分の作品を紹介してくださいました。
作品の解説を、作者ご本人から生で聞く機会というのはなかなかないので、面白かったです。

自問自答インタビューは、一応、全文が文字でありますので、再掲しておきますね。
トークは苦手なので、インタビュー形式でトークパートを進めることにしたのですが、「せっかくなら話したいこともあるし」ということで、自分で質問を考えて進行の方に読み上げてもらい、自分で答える、という、自作自演?自問自答?なインタビューとなっております。

では、長いですが、昨夜のインタビューを再現。




Q漫画はこれからどこを目指せばいいんでしょうか?(東京都 佐藤秀峰さん)

A.でかい質問ですね。

どこってどこですかね?
漠然とした質問で答えに困りますねー…。


Q.いや、自分で考えた質問でしょ?
困るも何も。

A.きっかけですよ。
話し始めるきっかけがないと。

最近は、単行本も雑誌もが売り上げがどこも下がっていて、漫画は「売れない」というのが日常化しているんですけど、漫画の制作側としては、このままじゃいけないわけですし、どうしていったらいいのかな?と。
一方で、iPadが登場したり、スマホが流行ったり、電子書籍が普及する下地も段々とできてきているじゃないですか?
漫画を取り巻く時代が変わり始めていて、そういう中で、漫画はどこを目指すべきなんだろう?と、今日はそういうお話をしたいなぁと思っています。


Q.でも「ワ◯ピース」の最新刊が史上最高の発行部数を達成した、とか「進撃の巨人」が100万部越えしたとか、景気のいいお話も結構あるじゃないですか?

A.「ワ◯ピース」は、最新刊が初版390万部でしたっけ?

でも、それはちゃんとカラクリがあるんですよ。
「ワ◯ピース」は実は売り上げは下がってるらしいです。
伸びているのは「発行部数」で、つまり、印刷物として刷った数が伸びているだけなんです。
売れ行きはちょっとずつ下がってるみたいですよ。

つまり、売れ残って返本がすごいんですって。
新聞の押し紙と一緒。


Q.そうなんですか?
でも、売れ残るなら、そんなに刷らなきゃいいじゃないですか?

A.出版社の意地みたいなものもあるし、「史上最高発行部数更新!」とかって言うと、宣伝効果があるじゃないですか?
皆、「ジャ◯プ作品はすごく売れる」って思っていますよね?
実際は、ジャ◯プ作品も雑誌、単行本ともに、売り上げは下がっているんですけど、そうは見えないですよね。


Q.はぁ、じゃあ今日は、「漫画の未来」についてお話しするということでいいですか?

A.はい。


Q.じゃあ、もうちょっと具体的に入りましょうか。

漫画はいまや日本独自の文化として世界的にも知られていますが、国内ではここ数年、雑誌、単行本ともに売れ行きが低迷しています。
そんな中で出 版各社は、雑誌に載せたばかりの最新作をネット配信したり、ネット向けの新雑誌を創刊するなど、マンガ作品の電子化に力を入れているそうですね?

A.はい、確かに近年、国内は漫画雑誌、単行本ともに売れ行きは低迷しています。
1995年のピーク時にはコミック誌の販売額は3357億円にまで達していますが、1996年には減少に転じ、2010年までなんと15年連続でマイナスを記録しています。
休刊・廃刊が相次ぐなど厳しい状況が続いていますね。

一応データです。















Q. ちゃんとデータも用意してるじゃないですか。

A.ネットで拾ってきましたよ。
で、一方の単行本の販売額を見てみると、雑誌とは少々傾向が異なります。
こちらデータです。






1997年から99年にかけてちょっとマイナスの時期もあるんですけど、2000年以降はおおむね安定して推移してきました。
この背景には、マンガを 原作としたTVアニメやドラマ、映画などの増加があると言われていますね。
『NANA-ナナ-』『のだめカンタービレ』『DEATH NOTE』『20世紀少年』などマンガの映画化が相次ぎ、原作が周知されることでコミックスも売れ行きを伸ばしました。
いわゆる「メディアミックス」効果 による既刊作品のヒットが単行本の好調を支えてきたわけですが、まぁ、映画化も多すぎて、皆、段々驚かなくなってきたんでしょうね。
2006年には販売額が再び減少に転じるなど、ここ数年は単行本の勢いにも陰りが見 られます。


Q.データでみると、漫画業界が低迷していることは一目瞭然ですね。

でも、例えば、雑誌が売れないなら、なんで雑誌を発行し続けるんですか?
そもそもコミック誌は、作家に支払う原稿料などの制作コ ストの負担が大きく、一般の雑誌とは違い企業広告もあまり入らないので、大きな利益を生み出すのは難しいと聞いたことがあります。

A.そうなんですよ。

雑誌は販売額も単行本に比べると安いですしね。
現状でいうと、漫画雑誌はどの出版社で見ても、9割以上が赤字なのが実情です。
それでも出版社が雑誌を維持し続けているのは、作品を連載することで単行本にできるまで原稿をためた り、雑誌を通じて作品を宣伝し単行本のヒットにつなげるためと言われていますね。
漫画家に作品の発表の場を与えることで未来のヒット作家を育てるという役割も、 コミック誌は担ってきました。

近年はあまり当てはまらないんですけど。

一方、単行本は、一度雑誌の掲載された原稿を流用すればいいので、主な制作コストは作家に支払う数パーセントの印税と印刷、製本代などだけで、雑誌に比べれ ば格段に低いコストで、しかも高めの価格設定で販売できます。

単行本が大ヒットすれば、出版社には莫大な利益がもたらされることになります。
おおざっぱに言うと、単行本の制作コストは2万部くらい売れると回収できてしまうので、実売が3万部を超えると、出版社的にはお札を刷ってるのと同じだ、なんて言いますね。
つま り日本のこれまでのマンガビジネスは、単行本がヒットして初めて成り立つもので、雑誌の赤字は単行本の黒で埋めている状況ですね。

まぁ、でも、最近は単行本も売れなくなってきたし、雑誌のドンドン潰れていくし、ヒット作というのは以前より生まれにくい環境になってきています。
メディアミックスは効き目がなくなってきたし。
漫画産業はビジネスモデルの見直しを、根底から迫られつつあります。


Q.暗い話ですね。

A.ちなみに、これは2009年の出版社の経営状態を示すデータです。

トップの10社の内、8社が前年度より売り上げを落としていますね。
講談社、小学館、文芸春秋、光文社はそれぞれ、57億、44億、5800万、42億の赤字です。
ちょっと小さくて見えにくいかな。





Q.じゃあ、これから漫画はどうしていけばいいですかね?

やっぱり、電子書籍ですか?

A.そうですね。

近年、電子書籍市場は急速に拡大していますが、各社とも電子コミックを今後の大幅な伸びが見込める成長分野と位置づけ、関連事業に力を入れています。
出版社はもちろんですが、書店も取り次ぎも、IT系の企業もそうだし、あらゆる分野、業種の人たちが電子書籍に手を出していますね。

「漫画on Web」もその一つということです。

このまま出版社主導で電子化が進むことが、漫画家にとっていいことなのか?という思いもありますし、漫画家側からの電子書籍への答えが必要なんじゃないかと思いまして。


Q.と言いますと?

A.どこから話せばいいのかなぁ?

例えば、1冊の漫画が読者の手に届くまでには、ものすごくガッチリとした流通の仕組みがあるんです。
まず作品を作る著者がいて、それを本にまとめる出版社がいますよね。
本を作るには印刷所とは製本所が必要で、本ができたら、今度はそれを全国の書店に流通させる問屋さんが必要になります。取り次ぎと呼ばれる人たちです。
そして、書店さん。
これだけで6種類の業種です。

電子書籍化が進むと、極論すると著者だけいれば、本が読者に届いてしまいます。
問題は作品のデータ化や、アップロードをしたりする管理作業を誰がやるか?というくらいですね。
じゃあ、シンプルに漫画家が管理して電子書籍を販売する仕組みを作ってみようというのが「漫画 on Web」です。
漫画家と読者さえいれば、他はいらないんじゃない?という思いつきを形にしてみました。

んで、作者と読者だけがいれば、漫画産業が成立してしまうようになると困る人たちが出てくる訳ですよね?

出版社や印刷所、製本所、取り次ぎ、書店、と必要がなくなってしまう可能性が出てくるわけです。
彼らはこれまで漫画文化を支えてきた恩人ではあるけれども、この先は徐々に役目がなくなっていくかもしれない。
それじゃ彼らも困るので、それぞれの思惑が絡まって電子化が進まない、というのはあるんじゃないかと思います。
一つの原因としてですが。


Q.紙の本のビジネスモデルは崩壊していて、電子書籍化が求められているけど、うまく進んでいないのが現状、ということでいいですか?

A.みんなが幸せになれるビジネスモデルがないんですよね。


Q.では、漫画家の立場としてはどうでしょうか?

漫画家の立場で言えば、電子書籍に出版社も書店もいらないですか?

A.これも極論するとそうなってしまいますよね。

最近、どこの書店に行っても決まった新刊しか置いていないですし、新刊以外の欲しい本を探そうとしたら、アマゾンとかのほうが便利ですよ。
簡単に手に入ってしまうので、手に入れた本を大事に読まなくなってしまう欠点はありますが、アマゾンに勝ててないですよ。

現在の出版業界は売り上げが下がり続け、ついに全体でも2兆円を切って、出版界全体で任天堂の一社の売り上げ('09年決算)と同じくらいです。
さらに、返品率は40%に達しています。
つまり、取次を通して本屋に置かれた本のうち4割はまた出版社に戻ってきてしまうんです。
 2000年に約2万2000店あった本屋は、2010年には30%近く減少して、1万5500店余りです。
書店はどんどん不便になってきていますし、必要とされなくなってきています。
電子書籍では出番がさらになさそうですね。

出版社については、作品を作る過程で、その質を高めるために編集者が必要、という意見と、いらないという意見がありますね。


Q.佐藤さんはどっちですか?

編集者嫌いで有名なんですよね?

A.いえ、僕はどっちもアリだと思っています。

個人的には大手の編集者は嫌いな人が多いですが、それは僕の個人的な事情ですよね。
編集者との打ち合わせが必要な漫画もあるし、そうじゃない漫画もあっていいと思いますね。
どちらかしかないという考え方がナンセンスなのかなぁ、と。


Q.今、裁判やってるとか?

A.いや、裁判は電子書籍アプリをめぐって、システム屋さんとやってるだけで、出版社とは訴訟してないです。

出版社で言うと、2年以上前に、講談社に「ブラックジャックによろしく」の著作権を侵害される事件がありまして、こちらは、先日、講談社に謝罪していただいた上で和解しました。
僕に内緒で、ドラマの再放送とか海外版権の契約なんかを、第3者と勝手に結んで、利用していましてね。
僕が気がついて、謝れって言っても謝んないんですよ。
弁護士さんに依頼したら、速攻で謝ってきたんですけど。


Q.謝って終わりじゃないでしょ?
いくらもらったんですか?

A.和解条件は言えない決まりなんですよ~。


Q.では、「漫画 on Web」というサイトに限って言うと、どのようなものを目指したいですか?

A.なんだろう?

例えば、ミュージックステーションとか音楽番組をテレビで見てて、僕の場合、興味のあるミュージシャンが出演することって、ほとんどないんですよ。
ヒットチャートを見ても、AKBとかジャニーズばかりで欲しいと思う音楽がない。
そういうのが、漫画でもあるんじゃないかなぁ、と。

漫画だと売れてるのは、少年漫画が多いですよね。
少女漫画はほとんどランキングに入ってこない。
後は映像化された作品とか、同人系で話題になったものとか、作品の内容自体で評価されているものって、意外と少ないんじゃないかなぁ、という気がするんですよ。

オルタナティブロックってあるじゃないですか。
90年代にアメリカで起こった動きなんですけど、売れ線ばかりのヒットチャートに満足できない大学生たちが、各大学ローカルのラジオ番組なんかで、自分たちが本当におすすめする音楽を独自に紹介し出したんです。
で、各大学のトップチャートを集計して、アメリカ全土の学生チャートを作ったりしてですね…。

オルタナティブというと、「代わりになるもの、代用品、代替え品」みたいな意味ですが、全米ヒットチャートとは別に「オルタナティブチャート」を作っていったんです。
そこで人気のあった音楽をまとめて、オルタナティブロックって呼んだりしてるらしいです。

R.E.M.
スマッシング・パンプキンズ
ソニック・ユース
ニルヴァーナ
パール・ジャム
ビースティー・ボーイズ
ビョーク
プライマル・スクリーム
プロディジー

なんかが代表格なのかな?

で、「漫画 on Web」はそんな感じですかね。

世の中で売れているヒット漫画とは別に、同人でもなく、漫画好きの人たちが本当に面白いと思える漫画が集まったサイトにしたいです。
描き手も読み手も漫画が好きな人たちで、売れている漫画だけでは満足できない人たちの需要に応えられるようなサイトにしたいです。

僕と同じく漫画家が運営してる電子書籍サイトで言うと、赤松健さんの運営している「Jコミ」ってサイトがあるんですが、あちらは絶版になった漫画を集めて、絶版漫画図書館を作りたいみたいなんです。
絶版になっている漫画を扱うので、出版社とも利害が衝突しないし、広告で収益を得て、読者には今の所、無料で漫画を提供する仕組みなので、非常に上手だな、とは思うんですけど。
でも、新しい漫画を生み出せる仕組みじゃないので、それだと厳しいと思います。

成功してほしいとは思ってるんですけどね。
漫画家から、出版に何か物申せた足跡として残れば、意味があることだと思いますから。

でも、読者は新しい作品を求めています。
誰も見たことがないからワクワクするんです。
僕は「オルタナティブ・コミック」を目指したいですね。


Q.でも、「漫画 on Web」というのは、佐藤さんの個人のお金で作ったんですよね?

A.個人じゃなくて、佐藤漫画製作所という僕が代表を務める会社で作ったんですが、まぁ、出版社なんかと比べちゃうと個人に近いです。


Q.儲かってますか?

A.製作コストということで言うと、回収しきれていないです。

毎月のランニングコストで言うと、なんとかなってる感じですかね。
大儲けはしてないです。


Q.お金の話になったんで、もう少しお金のことを掘り下げてみましょうか?

漫画家って、原稿料とか印税って、どうなってるんですか?
よく佐藤さんは、漫画家は儲からない、みたいな話をしてるそうですが。

A.儲からないですよ。

原稿料は雑誌の掲載料で制作費を保証するものではないので、いただいても大体、スタッフとかの人件費とか経費で消えてしまいます。
そこから自分の生活費は出ないですね。
月刊連載を細々と一人で描いていれば、原稿料だけで生活できなくもないですけど、スタッフを雇ったら無理ですね。
違法に長時間、安く彼らを使えば無理じゃないともいえますけど。

この部分は、「原稿料だけでも何とかなる」とする意見もあるんですけど、僕はないと思ってます。
労働基準法を守って、1日8時間、週40時間、時給800円以上をスタッフに払ったら、けっこう人数も人件費もかかりますよね。

個人の場合は、会社じゃないので労働者を雇えませんから(事務所開設届けとか役所に書類を出せば雇うこともできるけど)、大抵は作画業務を、個人に委託す る形になるんですけど、実際には「完成品をいつまでに納品しなくてはいけない」とか、「完全出来高払い」にしている仕事場も多く、それだと「委託」ではな くて「請け負い」になってしまうんですよ。
請負の場合は、漫画家と同じ仕事場で、直接、仕事の指示を出してしまうと、偽装請け負いになってしまうので、本来、違う場所で仕事をしなくてはいけないし、委託なら納品期限をつけたり、出来高払いをしてはいけないはずなんです。

「原稿料だけでなんとかなる」っていってる漫画家さんは、よくよくお話を聞いてると、違法なことをしてる方が多いですね。
後は、最初に言ったように、一人で描いてる人。

でも、まぁ、仕方ない面もあって、きちんとスタッフに払えるだけの原稿料を、出版社からもらっていないというのが、前提にありますので。
自分が貰えてないので、スタッフにはさらに絞るしかないというんですかね。


Q.では、生活は印税頼りですか?

A.そうなんですけど、それもかなり不安定ですね。

最初の方でお見せしたグラフだと、単行本の販売額の合計は2007年で2500億円程度ですから、その内、すべての著者にわたる印税額の合計は10%の250億円です。
2007年に単行本を出した漫画家は5300人ほどなので、一人当たり470万円ですよね。

でも、これは平均額で、近年は売れる作品と売れない作品の格差が開いていて、上位100人で見ると印税額の平均は7000万円なんですけど、その他の5200人は平均280万円くらいなんです。
これは、同じ時期、全サラリーマンの平均年収が410万円ほどだったので、それよりもかなり低いですよね。
上位100人に入ればいいけど、それ以外は悲惨です。


Q.でも、漫画家ってそもそも不安定で仕方ないというか、芸能人とかスポーツ選手とかと同じカテゴリじゃないですか?

夢を追う商売というか。

A.それはちょっと違いますかね。

プロ野球選手だったら、1億円プレイヤーはもっとたくさんいるし、芸能人もトップ100人が平均7000万円ってことはないかな、と思いますが、そもそも 漫画家がスポーツ選手や芸能人と違うのは、球団やプロダクションに所属する個人ではなく、スタッフを雇用する経営者ということなんですね。
今日もこれだけのスタッフが関わってる訳じゃないですか?

つまり、印税は個人の懐にすべて入るものではないんです。


Q,はぁ、では具体例で行きましょうか?

佐藤さん自身の数字を教えてください。

A.じゃ、数字だけ。

累計発行部数は 海猿 約500万部 ブラックジャックによろしく 約1700万部 特攻の島 約65万部
原稿料は1万~4万円 こんな感じです。

今、連載中の「特攻の島」は、原稿料1万7000円スタートだったかな?
 現在は3万円。
 隔週連載でスタッフのお給料を支払って、画材費などを差し引いてトントンという所ですね。

僕の場合、作画スタッフ一人につき、大体月給17.5万円~25万円、昇給年2回、賞与年4ヶ月分を支払っています。
えーと、人数は3名ですね。
 週5日、1日12時間勤務という過酷な勤務をお願いするの代わりに、3~4ヶ月ごとに1ヶ月程度の有給をとってもらいます。
スタッフ1人につき年間400万円程が必要な計算です。

労働基準法を守ろうと思ったら、このくらいはかかってしまいますね。

もっと人件費を抑えている作家さんはいくらでもいて、あなたは人件費を使い過ぎだ、と言われることもあるのですが、僕の原稿の作画密度だとこれ以上は削れないです。
もっと簡単な絵にすればいい、という意見もあるんですけど、その通りで、最近はエッセー漫画みたいな比較的簡単な絵柄のものが増えてますよね。
でも、エッセー漫画とかは、原稿料がさらに安いです。

人件費のかかるタイプの原稿と、かからないタイプの原稿があるのは確かですが、それによって絵の迫力や取れる構図も違ってきますので、一概に比較はできません。
僕のは人件費のかかるタイプの原稿だと思いますが、でも、僕と同じ原稿を半分の経緯で作れる漫画家はいないと思います。

原稿は年間400~500枚描いてるので、人件費とその他の経費でほぼ全部使ってしまいます。
その辺は他の漫画家さんと変わらないですね。


Q.では、印税は?

A.これまでの全著作の累計発行部数は、約2300万部です。

単純に計算すると、12億円くらいですね。


Q.マジですか?

結構持ってるじゃないですか?

A.個人で持ってるとすれば、すごい額ですよね。


Q.だって、経費は原稿料で廻してるんですよね?

後はボロ儲けじゃないですか?
東大卒業生の生涯賃金は平均3億2000万円くらいですよ。

A.だから、個人に入るお金じゃないんですって。

まず税金で4割くらいは国とか市に持っていかれますよ。
そしたら、残り7億円じゃないですか。
それを会社と個人で別けるんです。
僕は、その内の半分くらいをもらっていますかね。
3億5000万円くらい。



Q.税金払って、それだけ残ってれば十分でしょう?

A.いや、十分ですよ。

そのお金で自宅のマンションも購入できたし、車は持ってないけど…、僕自身は現在、生活に困っていないですね。
今すぐ、漫画家を引退すれば、生活は何とかなると思います。
逆に描き続ける方がリスクです。

Q.十分儲かってるように見えますけど?

A.十分儲かってると思います。

自分でもぜいたくだな、って思う時ももちろんあります。
でも、それは個人レベルの話かな?と。

僕がそれで満足するのは、漫画家全体にとっていいことではないのかなぁ、と思います。

僕は漫画家になって、今年で13年目なんですけどね、逆に13年かかって、稼いだ印税が12億なわけです。
年間で割れば1億円を切っています。
これがどういう数字かな?って考えるんです。


Q.どういう数字ですか?

A.漫画で100万部以上売れる作品タイトルって、毎年10作品ないんですね。
全体で言うと、0.2%くらいの確率なんです。

自慢話に受け取らないでほしいんですが、「ブラックジャックによろしく」は100万部以上売れた年が3回くらいあったんです。
ここ10年で考えると、僕は全ての漫画家の中で、少なくとも累計発行部数が上位1%に入っているんですね。
僕の作品はタイアップで注射器が売れるとか、グッズが売れるようなタイプじゃないので、少年誌とかの作品はもうちょっと違うかもしれませんが、それでも受け取っているお金は、漫画家の中で上位1%だと思うんですよ。

つまり、漫画家で上位1%に入っても、13年かかって12億円なんです。

僕はそれでは夢がないと思う。

他の業種でも、上位1%が年商1億円稼げない業界って魅力がないですよね?
このイベントハウスだって、1年でもっと大きなお金が廻るワケじゃないですか。

さっき話に出た東大は、毎年3000人の卒業生がいて、平均生涯収入が3億2000万円ですが、漫画家は志望者が100人いたとしたら、デビューできるの は100分の1、単行本を出せるのはさらにその100分の1、その上、10年現役でいられる人はさらにまた100分の1くらいです。
で、その内1%に入っても、このくらいなんですけど、それでいいのかなぁって思うんです。

子供でも少し分別がつくようになったら、漫画家を目指すのは厳しい道だってすぐ気がつきますよね。
ハイリスク、ノーリターンなんです。


僕の話に戻すと、例えば、隣にいる湯本君(Webスタッフ)が定年まで僕の会社で働いたとして、現時点で退職金をいくら渡せるか約束できないんですよ。

後30年、会社を運営していくには、今のお金ではとっても足りないです。
僕の個人のお金も、経営に廻しだしたらすぐなくなっちゃいますよね。

今年は震災があって、いろんな世界の人が義援金を送ったけど、スポーツ選手や、芸能人で1億円寄付した人は時々聞くけど、漫画家は聞きませんよね?
唯一、僕の師匠の福本伸行さんが3000万円を寄付したことが、ニュースになりました。
僕も、1億円の寄付は現実的に無理です。

僕は、漫画家が憧れの職業であってほしいです。
漫画家になったら、好きな漫画をいっぱい描けて、好きなことがいっぱいできて、あんな風になりたいって、思われる職業になってほしいです。

子供たちに「漫画家になったら、いいことがいっぱいあるぞ」って言えるようにしたいです。



こんなインタビューでした。

読み返すと「偉そうだなぁ、この人」と自分でも思うのですが、でも本当に思ってることなんですね。
皆さんの生活の中の話で言えば、「結婚に必要なものは愛か?お金か?」みたいな問いに対して、答えを求められたことが一度や二度はないでしょうか?

僕は漫画が好きなんです。
好きで好きでたまらないです。
でも、お金がないと続けることができません。
「愛してる」しか言わない、生活力のない男はダメなのです。
お金の話ばかりで、漫画に愛情がないとは、どうか言わないでください。

僕は夢だけを語る人を信用しません。
権利を主張しない人は、もしかしたら、さらに下に無理を強いる人かもしれません。

お互いが納得して仕事ができる環境が、漫画界に生まれることを祈っています。











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