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サントリー文化財団 SUNTORY FOUNDATION

研究助成

2009年度助成対象

ドイツ・ソフトパワーと東アジア統合の文化的基盤形成に関する研究
研究代表:竹中 享

本研究では、東アジアにおける文化的共通性が「欠如」している、という指摘に注目し、韓日のドイツ史研究者を結集し、東アジア統合の文化的基盤形成の可能性を模索した試みである。そこで、近代化の過程で東アジア諸国はドイツからなにを学ぼうとしたのか、そこに共通の目的や意識は存在したのか、これを「ドイツ・ソフトパワー」概念を手がかりにさまざまな分析を試みようとしたのが本プロジェクトの第一目的である。「ソフトパワー」とはアメリカの政治学者ジョセフ・ナイが提起した概念であるが、これをドイツ史の文脈に援用し、近代以後、ドイツが世界各国へ及ぼしたソフトパワーの力のなかで、東アジアの各国にどのような影響あたえたのか、全体的に俯瞰する共同研究に取り組むという点が、本研究の出発点であった。
 次に、これまでの東アジアの相互理解に関する議論が、「ナショナルなもの」に立脚した議論に終始しているということや、過去の議論で、歴史認識や教科書問題など、国家の政策に密接に関わるものが扱われたことに注目した。そこで、この研究プロジェクトでは東アジアが「共有」するものを掬い上げるために、韓日双方が共感・共有できる過去の体験を、韓日両国の「ドイツとの関わり」という点にもとめた(これは「未来志向の東アジア相互理解」ともいえよう)。
 こうして、韓日各4名の研究者が「文化交流」部門と「政治責任」部門に分属し、研究を遂行した。研究の結果、特に韓日の戦後復興にドイツが少なからぬ影響をあたえていたことを示す研究結果を得られたが、この点についてはさらなる研究が必要であり、今後同じメンバーで研究協力を続けていくことを確認している。
 研究を遂行する中で、韓独・日独のそれぞれ関係性については考察が可能であったが、この二つのラインをいかにして連携させ考察するかという点が非常に困難であることが判明した。これをどう解決するかが今後の課題となろう。
 また、この研究プロジェクトの副産物として韓日ドイツ史研究者の交流を組織化し、恒常的な交流の場を設け、相互理解のプラットフォームを形成するということが上げられるが、この点についても協議が進んでおり、本研究がもつ社会的意義であるということができよう。

[補足情報:主要研究成果]
Toru Takenaka, ”Business Activities of Siemens in Japan: A Case Study of German-Japanese Economic Relationships before the First World War,” in Akira Kudo/Nobuo Tajima/Erich Pauer (eds.), Japan and Germany: Two Latecomers to the World Stage, 1890-1945, vol.1, Folkstone: Global Oriental 2009, pp.114-149

Toru TAKENAKA/Shuichi SHINDO, Überblick über den Forschungszustand und die Tendenzen der japanischen Historiographie der neueren deutschen Geschichte, in: Korean Journal of German Studies, vol.19, 2010.6. pp.181-230 (in Korean).

爲政雅代「連邦大統領テオドーア・ホイスと国歌論争」、『現代史研究』55号(2009)、pp39-56.
爲政雅代「連邦大統領テオドーア・ホイスと7月20日事件の名誉回復」、『歴史家協会年報』第5号(2009)、pp1-17.

第三回東アジアドイツ史会議(2010年9月4-5日、於北京。中国社会科学院主催のThe International Conference on the Process of Reconciliation and Historical Reflections in East Asia and Europe after the Second World Warの一部会として開催される)。
報告者と報告テーマ
Meung-Hoan, Noh(廬明煥)
The European Integration and the Solution of the German Question as the Measurement of Past Redressing in Europe - Centered on their Implications for the present East Asia

Toru, Takenaka(竹中亨)
Where was a Brandt in Post-war Japan?: International Environment for Reconciliation in Asia in Comparison with that in Europe

2010年9月
(敬称略)
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