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診療・介護報酬:同時改定、日医は見送り主張

診療・介護報酬 改定率の推移
診療・介護報酬 改定率の推移

 12年度の診療報酬改定は、厚生労働省が16日に医療・介護の連携強化を柱とする基本方針の概要を示し、年末の改定率決定に向けたゴングが鳴った。12年度は介護報酬も同時に改定される6年に1度の年。だが、東日本大震災の発生で国の財政は逼迫(ひっぱく)し、増額は困難な状況だ。こうした中、民主党は診療報酬と被災地支援を絡めた政権浮揚策を模索し始めた。片や例年増額に執念を燃やしてきた日本医師会(日医)は今回の不利な環境の下、全面改定見送りを主張する奇策に出ている。【鈴木直、山田夢留】

 「被災地の医療体制は壊滅的。事務処理も含め改定などできる状況ではない」。次期診療報酬改定について、日医の中川俊男副会長は毎日新聞のインタビューでこう語った。

 改定の舞台となる厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)でも、日医は改定見送りを訴えている。理由について中川氏は「現地の医師も強く望んでいる」と説明するが、背景には震災復興費に兆の単位を要する中で、プラス改定財源の確保は難しいとの客観情勢がある。

 診療報酬を1%上げると、国費が900億円かかり、医療費を3400億円押し上げる。その半分を保険料アップで賄わねばならない上、患者の窓口負担も増える。マイナス改定に全力を挙げる構えの財務省に対し、小宮山洋子厚労相はアップに意欲を示すが、厚労省の本音は「デフレで世間は賃下げの今、医療関係者の収入を増やす理由はない」(幹部)というものだ。

●差し引きゼロ

 厚労省は落としどころとして、本体部分を増額してもその分薬価を下げ、全体で「プラスマイナス0」とすることを探っている。薬の市場価格は下がっており、民主党の医療関係議員は「(全体は)ゼロ改定でやむを得ない」と明言する。

 日医は診療報酬改定で長年自民党厚生族と組み、財務省と攻防を繰り返してきた。政権交代後は民主党寄りの原中勝征(かつゆき)氏を会長に据え、前回10年度は10年ぶりに全体のプラス改定(0.19%増)を勝ち取った。

 そんな日医の今回の消極姿勢は「来春の会長選を見据えた判断」とも見られている。内部の権力闘争が激しいだけに、前回から一転減額改定となれば、原中執行部の責任問題になりかねないという。

 ある日医関係者は「日医の政治力は低下しており、どこまで実を取れるか分からない。会長選を控えたタイミングでの改定は避けたいのでは」と読む。

 一方、前回原中氏を後押しし、プラス改定で「政権交代の効果」を宣伝した民主党は蜜の味が忘れられない。

●「特例加算を」

 増額は無理でも、せめて被災地対策で医療重視の姿勢を示したい--。そんな思惑が透けたのが8月24日の中医協。大塚耕平副厚労相(当時)は「被災地の特例加算を議論してほしい」と述べ、事務方の役人を驚かせた。

 だが、加算は被災者の負担増に直結する。中医協では「人がいなくなり患者が減っているのに効果はすぐ出ない」「補助金でやるのが筋」などと慎重論が相次いだ。厚労省幹部も「被災地に追い打ちを掛ける」と消極的で、災害拠点病院への報酬配分を手厚くする程度にとどめる意向だ。

 ◇「施設から在宅」強化

 厚生労働省は今回の同時改定を機に医療と介護の連携を進め、「施設から在宅へ」の流れを強めたい考えだ。11年度予算ベースで医療33.6兆円、介護7.9兆円に達した給付費の膨張を抑える狙いがある。病院を退院した後、地域で安心して暮らせるようスムーズに在宅介護へつなぎ、医療費がかさむ入院の平均日数を短縮できる報酬体系の構築を目指している。

 具体的には在宅医療を受け持つ診療所や在宅介護を支えるケアマネジャーらが、退院した患者の情報をその病院と共有すれば報酬を増やすことを検討する。医師が在宅の患者をみとった際も評価する。また医療・介護双方のリハビリを整理し、回復を重視する医療リハの必要性がない人には機能維持に力点を置く介護リハへの移行を促す。

 診療報酬改定の中心は、医療機関ごとに役割を明確化することだ。前回は救急の重症患者を受け入れる大病院への配分を増やしたが、今回はお金のかかる救急医療を担う病院を絞り込む半面、症状が和らいだ人や軽症者ら救急医療の対象外となる患者の受け皿が増えるよう、中小病院などの報酬を工夫する。

 一方、介護報酬改定の最大の焦点は、低賃金とされる介護職員の処遇改善費を含めるか否か。今は賃金を月額1万5000円アップするための交付金(年間約2000億円)を一般会計から支出しているが、交付金は来年3月で底をつく。

 ただ、賃上げ分を介護報酬で賄うなら報酬を2%強引き上げる必要がある。国費は500億円ながら、65歳以上の人の平均月額保険料が100円程度アップし、5000円を超えかねない。さりとて財政難の折、2000億円もの交付を続けるのは困難で、年末の予算編成の大きな課題の一つになりそうだ。

 【ことば】診療報酬と介護報酬

 医療機関や介護事業主に支払われるサービスへの対価。診療報酬は手術料などの本体部分と薬価で構成される。前回の10年度は本体1.55%増、薬価1.36%減で全体では0.19%増だった。1点10円で治療ごとに全国統一の点数が決まっている。医療機関は患者に合計額の原則3割を窓口で負担してもらい、残り7割を健康保険組合などに請求する。

 介護報酬は1単位10円が基本で、利用者の自己負担は1割。人件費などの違いを考慮し、五つの地域別価格が設定されている(来年度から7区分に細分化される見通し)。改定は診療報酬がほぼ2年に1回なのに対し、介護報酬は3年に1回。前回09年度は3.0%増だった。

毎日新聞 2011年9月19日 9時40分(最終更新 9月19日 10時31分)

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