回答する記者団
概要 | 詳細
回答日:2009年09月04日
回答者:佐藤裕一(回答する記者団)

東急不動産のマンションは「買ってはいけない」

だまし売り裁判に完勝した林田さん、本質を見抜いた経緯を語る

林田力さんは東急不動産の新築マンションの一室を購入した。セールスポイントは採光・通風・眺望の良さ。しかし入居から1年も経たないうちに、それらはすべて失われた。東急の騙し売りが原因だった。林田さんは東急グループを「悪質リフォーム業者と同種」と言う。
  • 「東急ブランド」が決め手だった
  • 入居1年もせず「屑物件」に
  • 「知らない」「分からない」でたらい回しに
  • 電話に出ない「担当者」
  • 「弁護士でも都庁でも裁判所でもマスコミでも行ってください」
  • ワナに落ちた者をグループで襲う
  • 裁判中に買い替えを勧誘する東急リバブル
  • マンションは業者で選べ
  • 訴状、準備書面、陳述書、判決、和解調書の閲覧


アルスの階段踊り場から臨む洲崎川緑道公園。301号室からも同様の眺望が得られたのだが…。05年7月24日に林田さんが撮影。
アルスの階段踊り場から臨む洲崎川緑道公園。301号室からも同様の眺望が得られたのだが…。05年7月24日に林田さんが撮影。

右はアルス、左は建て替え中の隣地。すぐ目の前まで壁が迫ることが分かる。05年7月24日に林田さんが撮影。
右はアルス、左は建て替え中の隣地。すぐ目の前まで壁が迫ることが分かる。05年7月24日に林田さんが撮影。

建て替え工事中の隣地は白いシートで覆われた。窓を開けると目の前にシートがあり、採光・通風・眺望は完全に失われた。05年7月24日に林田さんが撮影。
建て替え工事中の隣地は白いシートで覆われた。窓を開けると目の前にシートがあり、採光・通風・眺望は完全に失われた。05年7月24日に林田さんが撮影。

和解条項。冒頭には「本件に関し和解金3000万円の支払義務のあることを認め、以下のとおり支払う」と書かれている。
和解条項。冒頭には「本件に関し和解金3000万円の支払義務のあることを認め、以下のとおり支払う」と書かれている。

林田さんの本『東急不動産だまし売り裁判』(ロゴス社)の表紙。裁判で東急不動産代理人が何をしたかが詳しく書かれている。
林田さんの本『東急不動産だまし売り裁判』(ロゴス社)の表紙。裁判で東急不動産代理人が何をしたかが詳しく書かれている。

 林田力さんは2003年6月、東急不動産の新築マンション「アルス東陽町」(東京都江東区)の301号室を2870万円で購入した。セールスポイントは採光・通風・眺望の良さ。しかし、入居から1年もたたない翌年の夏、隣地の建て替え工事にともない採光・通風・眺望はすべて失われ、301号室は無価値の「屑物件」になった。東急不動産は、隣地を3階建てに建て替える計画を知っていたが、建て替えの影響を受ける林田さんと2階の入居者には説明しなかった。

 東急不動産の騙し売りに気付いて提訴した林田さんは、日本初となる消費者契約法によるマンション購入の解約と代金全額を取り戻すことに成功。東急グループを「悪質リフォーム業者と同種」と言い切る林田さんにインタビューし、東急グループの正体を見抜くまでの経過をまとめた。裁判の過程は林田さんの著書『東急不動産だまし売り裁判』(ロゴス社)にまとめられている。

「東急ブランド」が決め手だった

 林田力さん(1976年生まれ)は2003年6月下旬、東急不動産が東京都江東区に建てた新築マンション「アルス東陽町」の301号室を35年ローンで買った。購入価格は2870万円。林田さんがそれまでに買った品でもっとも高価だったのは、ウィンドウズ98が搭載された20〜30万円のパソコンだった。

 301号室の間取りは57平米の2LDKで、日中の日差しが安定する北向きの角部屋。8階建て27戸の「アルス東陽町」はすべて角部屋で、採光、通風、眺望の良さがセールスポイントだった。販売のパンフレットやチラシでは「風通しや日差しに配慮した二面採光で心地よい空間を演出します」「緑道に隣接するため、眺望・採光が良好!」と謳っていた。1階エントランスの外壁は黒っぽいタイル張り、照明は暖色系で、外観には落ち着きがある。

 林田さんの勤務先は東京都中央区にあり、最寄り駅は東京メトロ東西線の茅場町駅。「アルス東陽町」は、同じ東西線の木場駅と東陽町駅の中間に位置し、2駅とも徒歩7分ほどで行ける。301号室から勤務先まで30分もかからない。ラッシュ時の混雑は国内最悪クラスと言われる東西線だが、木場駅から茅場町駅まで2駅、乗車時間にして5〜6分だから、通勤の便は非常に良い。

 「アルス東陽町」の北側は箱庭のようなたたずまいの洲崎川緑道公園に面していて、夜桜を楽しむことができ、新緑の季節には並木がトンネルのようになる。この公園とさらに1区画の向こうは片側3車線の大通り(永代通り)だが、アルスには騒音も届かず、周囲は静かな住宅街だ。スーパーやショッピングセンターも徒歩で行ける範囲に複数あり、幼稚園から中学校に加えて図書館もすぐ近くにある。

 アルスに移る前は同じ東西線の隣駅、門前仲町で一室を借りて住んでいた。もともとJR中浦和駅から埼京線で茅場町に通勤していたが、勤務先まで一駅の門前仲町に引っ越したことで、やはり日本最悪クラスと言われる埼京線のラッシュが解消された。東西線のラッシュも酷いが、乗車区間は圧倒的に短くなった。ただ、借りていた部屋は商店街の一角で永代通りにも直面していたから、騒音があった。しかも通風は最悪で、「しまっておいたコートにカビが生えたこともあった」ほどだ。この住環境の悪さを改善するためにマンションの購入を検討した。

 だから、アルスの301号室は林田さんにとって、採光も通風も立地も周辺環境にも優れ、買ったことに大きな喜びを感じられる物件だった。

 マンションを検討していたときは、同じ木場駅近くのダイナシティの新築マンション「デュオ・スカーラ東陽町」も気に入っていたが、東急というブランドがアルス購入の決め手になった。販売担当者も、東急不動産と東急リバブルという大企業の信頼性を強調していたという。

 しかし、2003年秋に入居してから1年もしないうちに、301号室はまったく無価値な「屑物件」になってしまった。

入居1年もせず「屑物件」に

 アルスと洲崎川緑道公園のあいだには2階建ての小さな作業所があった。2階建てといっても低い建物で、アルスの3階だけでなく2階の部屋でも、採光や眺望が損なわれることはなかった。しかし、入居翌年の2004年6月になると、この建物を3階建てにする建て替え工事がはじまり、その年の夏には鉄筋が組まれ、工事用の白いシートで覆われた。301号室の窓からシートまで50センチほど。完成後には外壁になる位置である。このため、「日中でも、深夜のように一面が真っ暗になってしまった」(訴状)。緑道公園も臨めなくなり、通風が悪化したことから同年の冬には結露が大発生し、「窓のサッシが水溜りなり、あふれて流れ出てくるほど」になった。セールスポイントだった採光、通風、眺望は完全になくなった。

 東急不動産は、アルスの隣地が3階建てに建て替えられることを知っていたが、林田さんにはいっさい説明しなかったという。建て替えのことを知っていれば窓から50センチ先が壁になることも分かるし、セールスポイントだった採光、通風、眺望が完全になくなることも分かるから、301号室を購入することはなかった。

 隣地の建て替え工事は、鉄骨が組み立てられた状態のまましばらく進まなかった。林田さんの説明よると、隣地所有者のAさんが「東急への抗議の意思として工事を止めていた」ことが理由だった。どういうことか。






本文、表、リストなど約9700字のうち約2200字を表示しています。これより先は会員のみ閲覧できます。会員はフルサイズの画像を見ることができます。会員の方はログインしてください。まだ会員でない方は会員登録を済ませてください。




Copyright © 回答する記者団