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Chikirinの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-09-19 性教育について(生まれて初めて)考えた

この本、おもしろくて勉強になりました。

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ちきりんはジェンダー関連の話にはあんまり興味ないし、性教育についても「ノーアイデア」だったのだけど、他国の性教育ってどんななの?と思って読んでみました。以下、質問形式でご紹介します。



質問1:皆さんはどんな性教育を受けましたか?

ちきりんは「女子だけ集められて、おしべとめしべのビデオを見る」という意味不明な教育を受けた世代ですが、「女子だけ世代」は30代以上だそうです。それより若い世代は、男女とも性教育を受けてるらしい。(地域差あり)

なお日本では1992年が「性教育元年」と呼ばれていて、この年から小学校で性教育が行われるようになったんだけど、その理由は、80年代後半に「エイズが流行ったから。」



質問2:今の性教育の内容を知ってますか?

今の日本の小学生がどんな性教育を受けているか、知ってますか?自分の息子や娘が小学生高学年だという人、子供達がどんな教育を受けてるか、知ってます?

ちきりんは全然知らなかったので、この本読んで「ふーん」と思いました。



質問3:世界でどんな性教育が行われているか、知ってますか?

たとえば世界ではこんなことを教えているらしい。


・アメリカ、メイン州では、幼稚園から高校まで&障害者教育でも、性器の「正式名称」や、性に関する「正式用語」をきちんと教える。その理由は、「レイプや暴行を受けた場合、裁判所で、何をされたかかきちんと説明できるようにするため」なんだって。


・オランダ、アメリカには、木の棒やバナナにコンドームをつける“実習”が小学校で行われる学校もある。


・フィンランドの教科書の内容:13歳向け→体の仕組みや解剖学的な知識と、マスターベーションとはどんなことかといった性行動について解説、14歳向け→コンドームやピル、リングなどの使い方を写真付きで詳細に説明、15歳向け→各種の性感染症の症状、感染経路や治療方法についての説明


・トロントには、いじめで学校に通えなくなったセクシャル・マイノリティの高校生の学習権を確保するための高校がある。教育内容は普通の高校と同じだけど、先生自身もゲイ、レズビアンなどセクシャル・マイノリティで、傷ついた子供たちの「自己肯定感」を高めるよう工夫されてて、「カミングアウトの手紙」について習う授業もある。


・中国では「生身の人間を使った、実写版の思春期性教育教材シリーズ」が広く使われていて、その中身は日本だと刑法175条に規定されてる「わいせつ物頒布罪」に問われそうなものばかり、、、、らしい。13億人がそんなの見てるのか。。あたしもちょっと見てみたいかも。。



質問4:もし「日本の性教育の内容を、あなたが自由に決めていいよ!」って言われたら、いつ何を教えるべきだと思いますか?

これ、結構悩むよね。この本を読んでいて、「性教育」ってすごく範囲が広いのだと知りました。たとえば、

・生物学的な性別、体の違いについて

・性行為と妊娠の仕組みについて

・思春期の気持ちの変化や、恋愛感情について

・性欲、生理や射精、マスターベーションなどについて

・社会的性差について

・性的指向について

・性病防止教育

・避妊教育

・子供を持つ、育てるということについて

・性犯罪、デートバイオレンスなど犯罪知識、防止策について

・禁欲教育、貞操教育

これだけ広い範囲のことを、「いつ」、「どのように」、「どこまで」教えるか、って、大きな問題だよね。誰かが決めた現状について文句を言うのは簡単だけど、「じゃ、自分で決めていいよ」って言われたらすごく悩みそう。



質問5:性教育の選択権は誰にあるんだろ?

性教育に関しては、「寝た子の目を覚まさせるな」という考えと、「そんなこと言って何も教えないと大変なことになる!」現状の間で、どの国でも保守的な人と進歩的な人の意見の隔たりが大きいのですが、加えて、海外では宗教も絡むから大変です。

欧州にはイスラム系の移民がたくさんいて、「義務教育で何をどう教えるか」は必ずしも欧州的な価値観だけでは決められないし、アメリカには避妊や中絶を神に対する犯罪だと考える宗教があり、韓国みたいに儒教の影響が強い国もあります。

また、「自分の子供にどんな性教育をするのか、誰が決めるべきか?」というのも大きな論点です。もし「国」が決めるのであれば、何をどう教えるかは義務教育で定めるべき。けど、「親」が決めるべきだというなら、「うちの子供にはそんな性教育は受けさせない!」という拒否権が親に与えられるべき、となります。

さらに、「親でも国でもない。あくまで子供本人が決めるべき」という考えもあって、親が同意しなくても中学生に(本人が求めれば医師が)ピルを処方する国もある。

こういった、「性教育は、誰の価値観に基づいて行われるべきか」という点についても、「ちきりんの意見は?」って問われてもすぐには答えられない。「あたしってこういうことについて、一度も考えたことがなかったんだなー」ってことがよくわかりました。


★★★


ところで、アメリカの性教育の一環で、中学生に「これはあなたの子供だから、一時も目を離してはいけないよ。ちゃんと抱いていてね」といって紙袋を渡し、一週間すごさせる、っていう模擬教育があるそうです。

一週間後、生徒は「子供をずっと抱いていると日常生活がすごく不便で、やりたくてもできないことが多い。子供をもつってすごく大変なんだとわかった」という感想をもつそう。

これ、めっちゃいい教育だよね。

子供を育てるということへの想像力を欠いたまま、避妊せずに性行為を経験し、気軽に子供を生んじゃってから「困って、戸惑って」育児放棄してしまったり、虐待したりするのって、事件が起こってから逮捕するという対処方法に加えて、こういう事前の教育もちゃんとやるべきじゃん!って思いました。

この「紙袋もって一週間」っていうの、日本では男女ともやったほうがいいんじゃないかな。てか、男性なんて30才になってからでもいいから、一週間、紙袋もってすごしたらいいかも。


★★★

もう一点、示唆深いなと思ったのが、あとがきに書いてあった下記の文章。

日本の教育を発展させるために、私たち研究者は長年にわたって海外の性教育を研究してきました。その成果は、出版物の形でときどき世に送り出すのですが、読者層がきわめて限定的なため、一般の人たちの目に触れる機会はあまりないといっていいでしょう。

今回、「新書」という形で本書を出版しようと考えたのは、ひとりでも多くの方に、日本の性教育の現状を知ってほしかったからです。そのためには、性教育が多少興味本位に扱われることも、よしとしました。

たしかに研究者の人って、せっかくいろいろ研究しても、その内容は一般の人には全然伝わらない。だから予算もすぐに仕分けられそうになる。

専門書の出版や学会発表だけではなく、新書みたいな気軽に読める形で、かつ一般の人にわかるような言葉で、自分の研究内容を発表することを、公的資金をもらう研究者の義務のひとつにしてもいいんじゃないの?って、この本を読んで思いました。

ちきりんは研究者は日本にはもっと増えていいと思ってるんだけど、その研究がどんな形で社会に関わってくるのかは、もっと(研究者側が)努力して世に問うべきだよね、って思ってます。そうしないと、こんな財政赤字の国で、明日のおまんまにつながらないことにいつまでもお金はつかないでしょ。

新書で一般向けに本を出したり、年に一回でいいから一般向けの講演会をしてくれたり、そういうのがあれば、納税者の納得感もすごく高くなるんじゃないかな。


というわけで、親として自分の子供にどういう性教育をすべきか迷ってる人はもちろん、それ以外の人にもなかなか興味深い内容の本だよん!


そんじゃーね!



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