きょうの社説 2011年9月21日

◎北陸の基準地価 都心復権の流れを鮮明に
 北陸の基準地価で見え始めた明るい兆しは、金沢、富山市都心部の商業地の持ち直しで ある。金沢では下落率が軒並み縮小し、富山では前回より横ばい地点が増えるなど、下げ止まり傾向が一段と鮮明になった。

 上昇地点こそなかったものの、地元関係者から数字以上に前向きな声が聞かれるのは、 今後の地価動向に影響を及ぼす好材料が増えているからだろう。

 金沢市都心部では複合ビル「香林坊ラモーダ」が3月にオープンし、今月に人気セレク トショップ2店が開業した。香林坊大和や香林坊109はフロアを改装、旧農林中金跡ではホテル建設計画が具体化し、南町のオフィスビルでは来春に専門学校が開校する。

 一方、富山市都心部でも複合映画館を核テナントとする総曲輪西地区の再開発事業など が動き出し、市内電車の環状線と連動した街づくりが前進している。

 北陸新幹線開業が2014年度に迫り、県都の顔である香林坊、総曲輪を中心に都心復 権への動きが本格化してきたのは心強い。集客力の高い店の進出は、他のテナントの出店意欲を促す好循環も期待できる。絶えて久しかった都心のダイナミックな動きであり、官民が一丸となって、この流れを鮮明にしていく必要がある。

 今回の基準地価では、地方圏の上昇は21地点にとどまり、そのうち11地点は3月に 全線開業した九州新幹線沿線の福岡、熊本、鹿児島3市が占めた。

 新幹線効果の大きさをうかがわせるが、上昇地点は駅周辺が中心で、熊本、鹿児島では 駅から少し離れた繁華街では下落傾向が続いたままである。新幹線で駅周辺は投資が進み、土地の収益性は高まるものの、その勢いを面的に広げるのは容易でないことが分かる。

 北陸新幹線開業でも都市全体における駅への比重はおのずと増すだろう。だからこそ、 行政に求められるのは都心を強化するための思い切った戦略である。

 歴史や文化ストックが集積する都心のにぎわい創出は公共性が高く、行政は商業支援な どにもっと積極的に取り組んでいい。この機を逃さず、民の動きを後押しする施策を重点的に講じてほしい。

◎「野田外交」始動 「演説の力」で信用回復を
 野田佳彦首相が米国を訪問し、国連総会での演説やオバマ米大統領らとの首脳会談を行 う。首相が先の所信表明演説で「危機にひんしている」と言った「国家の信用」を回復する第一歩としてもらいたい。

 日本の政治に向けられる国際社会の視線は厳しい。米紙は「回転ドア」のように次々代 わる日本の首相との付き合いに「ワシントンはうんざりしている」と指摘している。今度の日本の首相はどんな人物かと好奇の目で見る向きも多い中で初めて外交舞台に立つ野田首相はまず、自身に対する信頼の獲得から始めなければならない。その際の唯一の武器は言葉の力であり、得意といわれる演説の力を十二分に発揮してほしい。

 語るべきことは多くある。福島第1原発事故の収束の道筋と放射性物質の放出状況を説 明し、国際社会に安心感を与えることがまず重要である。野田首相は国連演説で、原発の安全性を「最高水準に高める」ことを表明する予定であるが、原発の安全技術と対策を世界最高レベルに高め、事故の教訓を生かして原発の新たな国際安全基準の確立に寄与することは日本の責務である。

 大震災からの復興はむろん、それをバネに日本経済全体を立て直す道筋と具体的処方せ んを示す必要もある。世界経済をけん引する力が日本になおあるかどうかを国際社会は注視している。

 野田首相は所信表明演説で、日本人が「希望」と「誇り」を取り戻すために「内向きに 陥らず、世界に雄飛する志を抱くこと」の大切さを説いた。このことを国際社会に向かっても訴えてもらいたい。日本は決して斜陽の国ではない。必ずよみがえり、国際社会に貢献する国であり続けるという強い意思で各国の心をつかむことを野田首相に望みたい。

 そのための具体的な取り組みとして、たとえば、南スーダンPKOへの参加要請に応え ることがある。日米同盟は、アジア太平洋地域だけでなく、世界の安定と平和のための「公共財」であるという首相の認識を言葉だけに終わらせないことも重要である。