東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、初めて開かれている「日本原子力学会」の大会で、津波の危険性を長年指摘してきた研究者が講演を行い、自然を相手に被害を想定するには、想像力を働かせることが重要だと訴えました。
北九州市で開かれている「日本原子力学会」の大会は、2日目の20日、津波の研究者として世界的に知られる東北大学の首藤伸夫名誉教授が講演を行いました。首藤さんは23年前、雑誌に掲載された論文で、津波によって原発の電気系統の設備が障害を起こす危険性を指摘し、「過去に被害の例がなくても対策を講じるべき」と訴えていました。その後も想定を超える津波への備えを訴えてきましたが、原発の安全対策には生かされませんでした。今回の講演で首藤さんは「津波対策にお金をかけませんかと聞くと、大事なのは分かっているがどれくらいの頻度で起きるものか聞かれるだけだった」と述べ、電力会社の間に、想定を超える津波への対策は経営上難しいという考え方が支配的だったことを指摘しました。そのうえで、「津波の被害は地形や構造物の形の違いでどうなるか想定が難しい」と述べて、自然を相手に被害を想定するには想像力を働かせることが重要だと訴えました。首藤さんは、原子力学会の会員ではありませんが、学会では津波研究の最前線を学び、今後の原発の安全対策に生かそうと講演を依頼しました。講演を聞いた原発内部の熱エネルギーについて研究している大学教授は「人間が造った構造物に自然がどう影響を及ぼすか予測することは難しいことが分かった」と話していました。原発から出る廃棄物の処理に詳しい研究者は「津波のことはあまり知らなかったが、研究の蓄積があることが分かった。ぜひ、原発の安全対策に生かしてほしい」と話していました。