大震災・半年

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大震災半年:放射性物質処理 廃棄物、法の想定外

 大量の放射性物質が放出された東京電力福島第1原発事故から半年。原発の敷地外が放射性物質で汚染され、廃棄物の処理が必要になることは法の想定外の事態だった。福島の復興は行き場のない廃棄物に妨げられ、首都圏でも処分先探しに苦労する自治体は少なくない。対策の特別措置法も施行されたが、解決への道のりは遠い。

 ◆福島

 ◇仮置き場の確保難航 井戸水の汚染、住民懸念

 福島県では、住宅や通学路などの放射線量を下げる除染を本格化させる必要に迫られる中、放射性物質を含んだ泥などの仮置き場の確保が難航している。国は「中間貯蔵施設」を県内に設ける方針だが、実現のめどは立っていない。沿岸部のがれき処理も進んでいない。

 「放射性廃棄物をずっと置いたら、地下に染み込んで井戸水が汚染されるんじゃないか」。年間被ばく線量が局地的に20ミリシーベルトを超える恐れのある「ホットスポット」が見つかった伊達市霊山町の上小国地区。自宅が特定避難勧奨地点に指定されたものの、故郷に残ることを選んだ区民会長の菅野康男さん(74)は、蛇口から流れる井戸水を不安げに見つめた。

 伊達市は全域で除染を計画している。合併前の旧5町ごとに、放射性物質のたまりやすい雨どいや庭などから取り除いた泥や草などの保管場所を探しているが、当面は住宅の敷地などに仮置きしてもらう考えだ。厚手のビニール袋に詰めて地下への影響を防ぐとの説明に、ポンプで井戸水をくみ上げて生活する住民は納得していない。菅野さんは「早く除染し、避難した若い人に戻ってきてほしいんだけど……」と複雑な表情を見せる。

 福島県は面積が全国で3番目に広く山間部が多いため、上水道普及率が92・4%と全国平均の97・5%を下回る。上小国地区のように放射性廃棄物の地下水への影響を懸念する住民は少なくない。

除染で出た放射性廃棄物の仮置き場。奥に麻袋に詰めた状態で野積みされ、土のうで囲んで放射性物質の拡散を防いでいる=福島市大波で2011年9月5日、田中裕之撮影
除染で出た放射性廃棄物の仮置き場。奥に麻袋に詰めた状態で野積みされ、土のうで囲んで放射性物質の拡散を防いでいる=福島市大波で2011年9月5日、田中裕之撮影

 仮置き場確保は都市部でも悩みの種だ。福島市は複数の公有地に仮置きする計画だが、場所が決まったのは中心部から離れた大波地区だけ。民家から約180メートル離れた約7000平方メートルの市有地だ。自治会長の男性(60)は「苦渋の選択として容認しただけで、他地域の汚泥は受け入れたくない」と断言する。

 除染に伴う放射性廃棄物について、国は8月26日に「当面、市町村またはコミュニティーごとに仮置き場を持つことが現実的」とする基本方針を決定。国の原子力災害対策本部は「仮置き場が確保できない状況は聞いているが、地元で決めてもらうしかない」との立場だ。

 中間貯蔵施設も候補地や構造は具体化していない。「国は帰郷が難しい原発周辺の地域に中間貯蔵施設を押しつけるのだろう」「住民の理解を得るには相当な時間がかかる」「ゴールが見えないまま走り続けているのと同じ」。復興の最前線に立つ県や市町村の職員からは、国の対応にいらだちの声が上がる。

 放射性物質に汚染された沿岸部のがれき処理も行き詰まっている。南相馬市のがれきの総量は推計約61万トン。警戒区域などを除き、住民が生活できる地区のがれき約40万トンは9カ所に山積みされている。国はがれきの焼却灰の処理方法を8月末にようやく示したが、市職員は「がれきの量が多すぎて分別作業が進まず、焼却や処分場への運搬の見通しはたたない」と嘆く。【田中裕之、神保圭作】

 ◆千葉

 ◇焼却灰搬入、拒否拡大 炉の高性能裏目、セシウム濃縮

 大気中の放射線量が比較的高い千葉県北西部。子供を持つ母親らから「行政の対応が鈍い」と抗議を受けた各市は、公園や保育園などで草刈りなどを進めるが、草木を燃やすごみ焼却場の焼却灰の汚染濃度が急上昇する状況に陥った。

 焼却炉の性能が高いことが裏目に出る事態も起きている。性能が高いほど焼却灰の体積が小さくなるため、放射性セシウムが濃縮されるからだ。柏市の2カ所の焼却施設では、性能が高い炉は1キロあたり7万800ベクレル、低い炉は9780ベクレル。千葉県の担当者は「環境対策に積極的な施設ほど、高濃度の焼却灰を抱える。皮肉な結果です」と顔を曇らせる。

 こうした中、焼却灰の搬入先で受け入れ拒否の動きが拡大した。柏市内にある埋め立て施設の周辺住民が猛反発。最高同5万ベクレル弱の灰を再び掘り出し、清掃工場敷地内に戻す方針を表明する事態に発展した。

空きスペースが少なくなり、2段に積み重ねられて一時保管される汚染焼却灰=千葉県流山市クリーンセンターで8日午後2時半、橋口正撮影
空きスペースが少なくなり、2段に積み重ねられて一時保管される汚染焼却灰=千葉県流山市クリーンセンターで8日午後2時半、橋口正撮影

 秋田県小坂町の処分場への搬出停止が遅れ、同町に向け汚染焼却灰を搬出してしまった柏の西隣の流山市は、市長自ら搬入先を訪ね、「被害者だと思っていたが、加害者になってしまった」と謝罪した。連絡が埋め立て処分に間に合わなかった南隣の松戸市については、同町が焼却灰の受け入れ合意自体を破棄。途中駅で止まっていた両市からの焼却灰はコンテナごと送り返された。

 保管中の焼却灰は柏市で300トン、流山市で200トンを超える。流山市は施設内の空き地や駐車場に張ったテントで管理するが、9月下旬には保管スペースがなくなるため、新たな保管場所確保を迫られている。

 埋め立て可能にするには、焼却灰の汚染濃度を下げるしかない。3市は草木を分別収集して焼却しないことにしたが、草木はビニールシートをかけて市有地などに保管されたまま。担当者からは「先送りに過ぎない。秋の落葉シーズンを乗り切れるのか」との声も漏れる。3市の市長らは8月31日、森田健作知事を訪ね、「一つの市だけで対応できない」と窮状を訴えた。

 「不安に適切に対応できていないとのお叱りを受けます。大変申し訳ありません」。柏市の秋山浩保市長は1日配布の広報紙に、異例の謝罪コメントを掲載した。【早川健人、橋口正、斎藤有香】

 ◇谷間に「ダム」/コンテナで遮断--専門家提案

 政府は放射性物質で汚染されたがれきなどについて「放射性物質に汚染された恐れのある廃棄物」と位置づけ、警戒区域などを除く地域で廃棄物処理法を適用し処理することにした。「8000ベクレル以下は管理型処分場に埋め立て可能」とする考え方を示している。

 だが、処理は進んでいない。下水処理場の汚泥や焼却灰の場合、従来はセメント業者に引き取ってもらっていたが、原子炉等規制法で「放射性物質として扱う必要がない」とされる基準の1キロ当たり100ベクレル(製品段階)を超える汚泥が多い。国土交通省は「汚染の濃度を下げられればいいが、かなり難しい。自治体に処分場を確保してもらうしかないが、処分業者や住民の理解をどう得るかが課題」と話す。

 処分法について、福島県伊達市の除染アドバイザーを務める田中俊一・元原子力委員会委員長代理は、生活圏から離れた谷間にダムのような施設を作って廃棄物を入れる「管理型仮置き場」を提案する。谷底には放射性物質を吸着する鉱物のゼオライトや遮水シートを敷き、上から汚染されていない土をかけて放射線を遮断する。地下水などに放射性物質が漏れていないかを監視する態勢を取る。

 最終処分の量を減らすため、圧縮などで体積を小さくすることも考えられるが、田中さんは「分別が欠かせないため、作業員の被ばくの危険性が増す。時間もかかる」として否定的だ。

 一方、南相馬市の除染に協力する児玉龍彦・東京大教授は、汚染土壌を入れたコンテナを浅い地中に埋める「人工バリアー(障壁)型処分場」を提案している。長期の管理を見据え、児玉教授は「埋めた場所が分からなくなると掘り直しが不可能になるので、どこにコンテナを埋めたか分かるように住民への情報開示が重要」としている。【江口一、樋岡徹也、久野華代】

毎日新聞 2011年9月9日 東京朝刊

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