要約:大学図書館において、利用者視点を考慮するとどのようなOPACが求められるのかという事を京都大学付属図書館で話してきました。その発表内容について。
中の人にお誘いを頂きまして、3月6日に京都大学付属図書館にて「利用者中心視点からOPACのあり方を考える」というお題でお話をしてきました。
要約や感想などは同大学私設ページに書かれていますのでそちらを参照いただくとして、こちらでは当日いらしてない人向けに当日喋らせていただいたことも含めまして、なるべく内容を共有できるように内容を公開しておきます。
(なお、自己紹介部分など一部のスライドは削っております。あしからず)
スライド&スクリプト
1枚目
えーと、さて今日は大学図書館のOPACがどうあればよいのかということについて考えていきたいと思います。
2枚目
OPACが何かというのは、この場で話すのは失礼な気さえするのですけど、一応さらっておきますと、オンライン蔵書目録のことですね。利用者がリクエストした言葉を含む資料の一覧を返して、またその各書誌の情報や配架場所・貸出状況などが確認できるサービスを指す、というのが一般的なところかと思います。
3枚目
こと今回は大学図書館のOPACで話をしようと思っているのですが、慶應大学の上田先生の集計によりますと、去年の今頃の時点でだいたい平均してみると8割弱、78.6%の大学がウェブ上でOPACを提供しているそうです。21世紀になる手前、2000年では全体の半分も無かったことから考えますと、まぁ、おおよそ普及段階にあって、かつ一般に認知されてきたと考えていいんではないかと思います。
4枚目
そんなOPACですが、どうも見直しの時期に来ているのではないのでしょうか。日本の大学についてのものでなくて恐縮なんですが、アメリカのOCLCというところがアメリカ・イギリス・オーストラリアなどの6カ国の14歳以上の人達3000人程度にインタビューを行ってみたところ、情報探索するにあたってまず検索エンジンから検索しますよと答えたのが全体の84%、図書館ウェブサイトーこれはOPACと解して問題ないかと思いますがーから調べますと答えたのは1%でした。こと、対象を大学生に絞ってみても、同じく検索エンジンからと言うのが72%, 図書館からというのが14%, 図書館ウェブサイトからというのが10%でした。信頼性や正確性では図書館の方が優れていると答えているので、図書館そのものではなくOPACに何らかの問題があるのではと考えられるわけです。
5枚目
このいわばOPAC離れ…についてより詳しい原因はこれから考察するとして、ここで背景を簡単に考えてみますと、2点あるのではと思います。まず1点目にOPACが先に行ったように普及し、一般化したことで利用層が増えた結果、例えば論文はタイトルをそのまま入れても出ないから雑誌タイトルを入れて見つけるとか、あるいは新しいトピックに関してはまだまとまった本がないことが多いから新聞・雑誌記事データベースを使いましょうとか、そういうお約束をしらないで検索して失敗するということが目立ってきているのだと思います。もちろんこれはOPAC側でなんとかするべき事だと思いますが。
そして、その利用者が面倒見の良い、例えばスペルミスを訂正してくれたり、入力語全部を含んでいなくてもあるいは自然語で検索しても適当な資料をみつけてもってきてくれるだとかそういう柔軟な検索エンジンが普及した結果、OPACとのいわば「溝」が目立っているのだと考えられます。
6枚目
その検索エンジンの利用が利用者のOPACの利用に与えている影響も観察されていまして、ある研究ではサーチエンジン使用歴が長い利用者ほど、ある特徴的な傾向が認められるそうです。1つは、OPACでも検索結果が20万件でも2000件でも、その件数を見ないで、それに関わらず、だいたい最初の1,2ページだけを見て結果を判断する、という傾向です。サーチエンジンはページ数が進めば要求した情報とは離れていくような性質があるかと思いますが、これはそうした経験をふまえての行動だと考えられます。
また、サーチエンジンに特徴的な探索パターン、例えば自然文に用いる言葉(逮捕、検挙)を利用したり、検索語を多く設定するといった行動がそのままOPACでも使われるということです。そして、結果として、検索失敗つまり一件も検索結果が出てこなかったケース、ゼロ・ヒットが多発するようになったのだと考えられます。サウスカロライナ州立大学を対象とした調査では実行した検索の過半数でゼロ・ヒット、日本の短期大学を対象とした調査では全体の3つに1つくらいでゼロ・ヒットになっていることが判明しています。
皆さんもGoogleやYahoo!で検索することがあると思いますが、例えばその時に3回に1回全く結果が出てこなかったら、イライラするのではないかなと思いますが、同じようなことがOPACに起きていると言うことでOPAC離れさもありなんという感じはします。
7枚目
さて、その見直しの動きとして、使いやすいOPACを作って図書館サービスを向上させましょうと言うことでアメリカなど諸外国で次世代OPACと呼ばれる新たなOPAC開発の動きが盛んになっています。次世代OPACって何なのですか、というと、これはいろんな答え方があるんですが、久保山先生の書かれた論文にある具体的な記述を抜粋して表にしてみますとこういう感じになります。
このように伝統的なOPACに対して次世代OPACがありまして、伝統的なOPACでは一定の検索技術、例えば同志社のOPACで1990年代の資料だけ絞り込んで欲しいという時に年代欄に199*といれれば望みの結果が得られるわけですが、そうではなくてUIを整理してダブルスライダーを使うなりして、検索スキルがなくても直感的に絞り込みができるものにしましたと。
また、検索欄も特に詳細検索はそうですが、テキストボックスがダーッとおいてあって、普段耳にしないような言葉もダーッとあってというのではなくて、もっとシンプルでわかりやすく設計されていると。
加えて、検索結果も情報を文字だけではなくて、表紙や内容など資料に関連した情報も出すようにしましたと。具体的にはこういう風に対比できるわけですね。
8枚目
で、まぁ百聞は一見にしかずと言いますので、実際に次世代OPACと言われるもの、今回はノースカロライナ州立大学図書館(以下、NCSU)のOPACについてざっと見ていきたいと思います。
これがNCSUのトップですね。ここからCatalogを選んで…
これが検索画面のトップです。NCSUに加えて(横断検索サイトを別に用意するわけではなくて)他大学を含めた検索も可能になっています。
今回、例えば選挙制度について調べてみようと思って、”election system”で検索してみました。
左側に見えるのが分類別の結果一覧ですね。図書館員の方ならよくご周知だと思いますが、本にはいろんなメタ情報が付いています。書名、著者名、出版年、書誌形態…。そのファセット―切り口と訳されますが―毎に検索結果を分類し、直感的に絞り込みが出来るようになっています。カカクコムでご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
右側の結果一覧は、まぁ割と普通なんですが、検索語との適合度(レリバンス)で並び替えられています(アルゴリズムは不明なのですが)。タイトルがあって、著者名、出版年、形態とまぁ普通ですが、所蔵状況が見られるになっていていちいち詳細画面で確認する手間が省けますね。
さて、左側のファセット分類から件名をもうちょっと詳しく出してみました。正直、似たような件名も多くあって若干探しづらいなと思うところはあるのですが…この中から…政治への市民参加を図るためには選挙制度をどう改善したらよいかを調べようと思ってたので、”democracy”で絞り込んでみました。
それで、その中からこの本を選んでみました。タブが使われていて、それほど情報がぎゅうぎゅうに詰まっているという印象はありません。「情報が多すぎる」という批判を受け止めた結果かもしれませんね。所蔵状況には、この本は貸出中ですがいついつまでに返される予定と書かれています。
他のタブを見ていくと、目次があって、本の紹介情報があって、全体として読者が自分にこの本は合うのかどうか判断しやすくなっています。
9枚目
次世代OPACの機能は今見た機能も含めて、ファセット分類による絞り込み機能、関連語の表示、適合度による並び替え、 コメント・レビュー機能、あるいはAmazon的なリコメンド機能など様々なものが考えられます。ここに挙げたのは一例で、次世代OPACと言われるものの機能要件を網羅的に集めていくとかなりの量になるのではと思います。
10枚目
それで、ではOPACを便利にするためにはこれらの次世代OPACの機能を取り込んで、開発していけばよいのかというと、これは単純にはYESとは言えないのですね。
11枚目
それは次世代OPACを取り込もうとする際に解決しておかないといけない課題が出てくるからです。それはつまり、取り込むための根拠があるか否かです。根拠というのは利用者に便利かどうかということです。便利にするためにOPACの開発を進めるわけですから、便利で使われる機能をつけなければ無用の長物です。むしろ今までのインターフェイスになれた人の行動をただ邪魔するだけになるかもしれません。
ですから、取り込んで新たに実装しようとする機能があるならばそれが本当に使われる機能なのかということはきちんと確認しておかないといけません。そのためにはただ便利であるという以上に、利用者の行動や要求にフィットしたものであるかどうかと言うことが考えられなければならないと思います。
また、現実OPACを開発されるベンダーの人としても開発資源が無尽蔵にあるわけではないですから、この機能を重点的に開発するといった指針やプライオリティを決めないといけません。その指針は取引先の図書館や何よりも利用者へのアピールという意味でも重要になってくるわけです。
12枚目
その根拠は利用者自身の行動を観察することによって導出できるのではないかと考えています。観察に基づく改善とありますが、まず利用者が普段どういう風にOPACを使っているのか、実際の利用風景を観察することで把握します。OPAC開発に限らず、ウェブシステムの開発では開発現場では利用者はこう考えるんじゃないか、いやいやそれは難しすぎるからきっとこうするよというユーザ像議論があると聞きますが、そのような個々人の考え方でどうにでもなるゴムのようなユーザ像ではなく、実際の現場という事実をベースにして考えていくわけです。
そして、その観察から得たことを整理して、つまり各シーン毎に利用者はこういう心境にあって、だからこういう風に行動するんだというように利用者の行動を整理して、利用者の考え方にあった情報を提供することで、開発者と利用者のギャップを埋めて、使いやすいサービスを提供するというわけです。
13枚目
ちょっと抽象的な話になったので具体的な話をしますと、アメリカにIDEOというデザインコンサルトタント屋さんがありまして、ここも観察による改善をデザインプロセスに取り入れています。あるテレビ局がこの会社で特集を組みまして、曰く5日間でショッピングカートをデザインし直してみてくださいというちょっと無茶ぶり気味なお願いをしたんですね。
彼らがどうしたかというと、まずショッピングセンターに出かけて人々が買い物をする様子を観察したんです。
- レジカートを基地にして店内を駆け回っている業者の様子
- 子供が店内を駆け回っている様子
- 店内が混んでいてレジがごった返している様子
- ショッピングカートを持っていて、ノロノロした人を追い抜くときや反対側から来た人をよけるときに、カートの後輪を持ち上げる様子
そして、そうした観察を踏まえてみんなでブレインストーミングをしながら、最終的にお披露目をしたのがコレです(スライド参照)。
カートはよくあるでかいカゴが一個入るのではなく、規格サイズの小さな手提げカゴが6つ入るようになっています。どうするとかというと、買い物客はこのカートを基地にして、このカゴを持って買い物に出かけます。そしてカゴをレジに持って行って、清算後に袋に詰め替えると、さっきカゴがあったところに袋が引っかけられるようになっています。レジカートを頻繁に持って歩く必要が無くなり、カートにまつわる煩わしさが無くなったわけですね。
その他にも、レジが込んでいるときに使えるレジスキャナ、子供を座らせるチャイルドシートなど買い物に関わる様々な工夫が凝らされています。もちろん、防犯上の点などまだ考えないといけない点は残されていると思いますが、個人的にはその制作プロセスは興味深かったです。
14枚目
ところで、利用者中心にものを作る方法論としては観察だけではなく、他のことも含めて一つのプロセスとして標準化・体系化されています(これ自体を話したいわけではないのでさらっと行きますが)。
まず観察ですが、利用者が製品を使っている現場を観察できればいいのですが、あまりそうも行きませんので、どんな風に使っているか教わるためにインタビューをします。そしてそこで得たデータを元に妥当なニーズ・解決案を導き、それに基づいて即席の解決案を作ります。そしてその試作品を再度ユーザに確かめて使えるかどうかを確認します。良くなかったら試作品にフィードバックして再度テストとそういう反復プロセスになっています。今回もこの方法を用いてやってみました。
15枚目
観察についてですが、今回は同じ大学の大学生8人にインタビューをお願いしました。インタビューにあたってはなるべくOPACだけにフォーカスをあてすぎて利用行動を狭くとらえすぎないように注意して行いました。インタビューの際は、具体的に、答えやすいように「前回図書館でどういう調べ物をしましたか、できればここで再現してみてください」と尋ねて、利用風景を再現してもらいました。
それで、インタビューの内容は音声に録っていまして、終わった後に忘れないようにというのと、共有しやすくしようというので文書化(物語化=シナリオ)しています。そのシナリオについて取り上げてみようかと思いますが、今回は時間の都合上、申し訳ないですが、一人しか紹介できません。
たいへん申し訳ないですが、インタビューは学術的な目的以外で過度に使わないようにというお約束した上で行ったこともあって、インターネット上に広く公開することはちょっとどうだろうと思いますので、シナリオについては非公開とさせていただきます。論旨に大きく関わることなので、できればお見せしたいのですが…。
16枚目
さて、こうやって利用シナリオを見てきましたが、ここからどういうことが読み取れるでしょうか。今回紹介したのは1人だけですが、できたシナリオをザーっと見てとその中でだいたい共通して見られるパターンがありまして、まず1つに「タイトルだけじゃわからない」(註:シナリオ中での発言)というところがありましたが、そのように判断材料が足りなければ棚に行って実際にその本を見てみたり、あるいはWeb上をサーチエンジンを利用して検索していたりするのです。
OPACでの情報探索というのは、欲しい文献があってそれを探して終わりという既知文献の検索だけではなくて、「このテーマについて知りたい」というような主題検索も多くあると思うのですが、その主題検索についても本を見つけてはいおしまいではなくて、まず例えばテーマ名などで検索する、すると概説書なんかが出てきてそれを読んでみる。すると、そこに自分の興味のあるジャンルのことが書かれていて、試しにそのトピックのタイトルでもう一度検索するとそのトピックに関する本がいっぱい出てくるというように本とOPACを往来しながらだんだんと求めている情報が明確化していくんですね。
17枚目
それで、そのようなパターンに近いなと思ったのが、Batesという方が仰っているベリー摘みモデル(berry picking model)です。これはウェブでの検索行動を説明するのによく使われるんですが、その行動が広い庭に散らばったベリーを見つけて、それを見つけたらまた次のベリーを見つけて拾うというように連鎖的に情報探索が進むことからこの名が付いています。
古典的な情報探索モデルは利用者は不変の情報ニーズがあって、それを検索して示すという形だったんですが、それと対照的にこのモデルでは最初は曖昧な要求なんだけれど、検索で得られた文書を読んでみて、そこで学習をしながらそれにつれて情報ニーズも具体的なものに変わっていきます。
例えば、「現代の教育問題について調べてレポートを書いてください」というレポート課題が出たとしましょう。それでとりあえず「教育問題」で検索してみて教育学の入門書を見つけましたと。読んでみると、いじめ・不登校問題、学力低下・ゆとり教育問題など様々なものがあるだろうとわかった。それで、じゃあゆとり教育に関心があるからそれをやってみようと言うことで「ゆとり教育」で本を探して読んでみると、今度は生きる力、習熟度別学習、詰め込み教育批判、総合学習とかまたいろんなものがあるとわかったと。それでそういう風に調査を進める内に最終的には「総合学習の前提となる基礎学力ってちゃんと育成できているのか」という批判があるらしいとなって、じゃあそれを考えてみようと例えばここまで具体的になるわけです。
このように探索過程でヒントを見つけながらだんだんと自分のニーズが明確になっていくというパターンがOPACでも認められると考えています。
18枚目
それで、ようやくOPACに何が必要なのかという話になってくるんですが、まず利用者がOPACを利用して図書を探す際、「タイトルだけではわからない」という声があったとおり、現状では判断材料は十分ではないと考えられます。棚に向かったり、Webを検索したりするのは判断材料を補う故での行動ではないかと考えられると思うのです。
実際に、大学生を対象にしてOPACでの探索行動を分析した調査があったんですが、ここでは結果の評価と判断は目次の情報が最も重視され、書名や件名だけでは十分ではないという報告がされています。また、冒頭にGoogleがOPAC利用に与える影響と言うことで、全体的に検索語に自然語が用いられやすいという話をしましたが、その自然語が目次によくひっかかるために検索ヒットの割合も目次の占める割合が過半数となっています。
そして、この具体策ですが、図書の目次に加えレビュー情報や内容紹介文など書籍の内容面に関わる情報を検索対象とし、また利用者に提示していく必要があるのではないかというところです。
19枚目
次に必要なのが、さきほどベリー摘みモデルということをお話ししましたが、その次のベリーにつながるようなヒントやキーワードをOPAC上で与えられないかということです。
ちょっとよくわからないと思うのでもう少し詳しく話しましょう。さきほどは教育問題を例に取りましたが、最初の「教育問題」や「ゆとり教育」についてリクエストがあった際にWikipediaの該当項目を表示して、ゆとり教育とはこういうもので、こういう流れの元に生まれてきたもので、こういう問題が指摘されていることを理解してもらうわけです。利用者はここから個別の項目について調べていくことができますし、あるいはカテゴリから上位概念である教育問題を概観することも出来ます。ちなみに、ある論文では併記という形ではなくてWikipediaの各項目間の関係を有向グラフにして整理して見せて、あるテーマにはどういう切り口があるのかつかんでもらう手がかりにしてはということも提案されていました。いずれにしろ、初期の曖昧な情報探索に対しては有効なのではと思います。
それとこれに関連して、これは心理学者が言っていることなのですが、一般に人は情報の質とは関係なく、手に入れにくい情報より持てに入れやすい情報を好むと。例えば、今レポートが出ていてOPACで本を探すんだけれども新しいトピックなのであまり出てこないと。でもたぶん新聞記事データベースだといっぱい出てくるんじゃ無かろうと。そうわかっていても、まぁ面倒くさいからOPACで見つかる本で何とかしてしまいましょう、と。
一見不合理とも思えますが、情報探索にはそうした側面もあるのですね。今回も、Wikipediaに限らないですが外部データベースの情報を併記していくことで、図書以外の論文記事などにも目を向けてもらうことが出来るはずです。
20枚目
そして最後3つ目に、検索結果に応じて利用者が情報を見つけやすいようにサポートすると言うことです。検索結果が多いときは多くが離脱するか絞り込みをするかどれかの行動を取っていたのですが、絞り込むにしても自分の情報ニーズを明確に表せるいい言葉が見つからないケースも多々あって、それがゼロ・ヒットを生むことにもなっていました。
そこで、次世代OPACの際に確認したファセット分類による絞り込み機能が使えるのではないでしょうか。ファセット分類では特にあるキーワードに関する図書のみ表示するとか、新しい年代の本のみ表示すると言ったことが割と直感的に行えるようになっていますので、それを利用してはどうかということです。まぁ、特に多い場合に限らず、使っていってもいいとは思います。
逆に結果数が少ない場合、もしくはゼロの場合は、検索がうまくいっていない可能性もありますから、例えばCiNiiやWebcatPlus連想検索などの外部データベースの情報を併記することで、結果として失敗となるクエリからある程度のものは救えるようになるのではと考えています。
ただ、これは表面的な対策であって、根本的にはやはりサーチエンジンで用いているような自然語も使えるように検索対象を広げていったり、検索語の部分的な一致でも拾ってくれるように主題検索機能を改善していったりする必要があると思います。
21枚目
細かな点を上げればこういうことは盛り込んだ方がいいというのは様々あるのですが、ひとまずご紹介するのはこれくらいにして、これをもとに試作品、プロトタイプと言いますが、それを作ってみました。プロトタイプは本番に開発する前に簡単な試作品を作ってそれをユーザに試してもらうことを繰り返しながら、本当に使えるのかどうかを確認して、致命的な誤りを早めに出すために使われます。
今回はペーパープロトタイプという紙でシステムを再現して、うまくタスクが達成できるかどうかを4回生に確かめてもらうことにしました。その時の様子をビデオに録っておいたので、5分に編集したものをお見せしたいと思います。
これも、先ほどと同様にお見せできません(ごめんなさい)。でも、一応プロトタイプは以下にお見せしておきます。結果から言えば、テストはおおむね成功でした。順繰りに検索結果を見ることなく、ファセットによる絞り込みを行い、自分の求める本(ニュートンの人物史的な本)をうまく探せたようでした。書誌についても、想定より多くの情報が示せたことに満足し、より多くの本を見てみようと探索を重ねていました。一方でメモ行為用に用意したチェックカート機能は認知されず、データベースも今回はスルーされており、本当に利用モデルにあっているのか再検討が求められまる結果となりました。
22枚目
ただ、やっぱりプロトタイプレベルだと提案としてはインパクトが薄いですし、実際に動くシステムを作って感触を確かめたいというのもあったので実際にOPACを作ってみました。
作るとは言っても、全くのフルスクラッチで作るのは時間がかかりすぎますし、データがない以上どうしようもないので、今回はデータそのものは同志社大学図書館OPACのデータ(我々が普通にOPACを利用する時に得るようなHTMLデータ)を許可を頂いた上で利用させていただいて、それを加工して新たな画面を構成する、いわば上からインターフェイスをかぶせるような手法を使いました。
以下で制作中のシステム画面を示します。なお、ファセット検索などが盛り込まれていないのはシステム制作上できないためです。
23枚目
さて、観察からのOPACの改善は一応ここまでで、最後に振り出しの疑問に戻ってOPACがどうあるべきかと言うことに関してお話しして終わりにしたいと思います。
現在のOPACは(1) リクエストされた語に対応した所蔵資料の一覧を提供し、 (2) 特定の所蔵資料の基礎情報と有りか(配置場所)を提供するという、ざっくりといえばこの主に2つのサービスを提供していますが、これだけでは利用者の情報探索には十分なものとはいえないんじゃないかというのが私の考えです。
24枚目
ベリー摘みモデルでも見ましたが、利用者は最初から明確に自分の情報ニーズがあってそれを示せるわけではなくて、むしろこの図のように探索の過程でそれを明確にしていくという過程もあったわけです。であるならば、最初に疑問を持ったところから最後にその疑問を解決するところまで、利用者が躓かないようにOPACが利用者の情報探索をもっとサポートしていくべきではないかと思うのです。
このような役割は、人力やリファレンスサービスなどの人的な面で解決を図ってきた所だと思います。もちろん、その役割を否定する意図はないのですが、それに加えてOPACがサポートできる局面もあるのではないかとも思うわけです。
そうした点からすれば、そもそも所蔵検索というシステムに疑義が発せられても良いはずです。なぜなら、利用者が求めている知識が学内に眠っているとは必ずしも言えないからです。そうした点からすれば、まずWebcatなどのデータベースで検索を行い、例えば京都大学であればその京都大学バージョンと言うことで、書誌の横に京都大学ではこれは所蔵しています、していません、これはうちにはないですが近隣の大学に置いていますとそういう風なシステムも考えられるのではないかと思います。
25枚目
まとめますと、OPACを所蔵検索だけではなくて利用者の問題解決をトータル、始めから終わりまで支援するための重要な学術環境と考えて整備していく必要があるのではないかと考えます。
IDEOではショッピング・カートの課題をこなしたあとに、「本当のイノベーションは買い物という行為をデザインしなおすことなのだ」と語られていましたが、それに倣って言うならば「OPACをあるべき姿を考えるには図書館で調べ物をするという行為をデザインし直す必要がある」のだと思います。
26枚目
はい、と、これで私の発表は以上です。多分に荒削りなところはあったかと思いますし、話せなかった点も多いかと思いますが、続いての質問やディスカッションで答えていければと思います。ご静聴ありがとうございました。
発表後の質問(一部)
頭で覚えている分なので不正確である可能性があります、あしからずご了承ください。
- Q. 利用者はAmazonのレビューに違和感は受けなかったのか?また、Amazonのレビューは誰にでも投稿が出来、それを表示するのは不安ではないだろうか。
-
A. プロトタイプはそれほどテストを重ねていないので、あまり断定調では言えないのですけど、ごく自然にレビューに接していました。それはやはりAmazonのレビューを読んでいる人が多いからでは(推測)。それと、レビューの質についてですが、確かにAmazonは参考になるレビューも多いが、言いっぱなしのレビューも見受けられる。その選別を図りたいのであれば、例えば「30人中29人が役に立ったレビュー」のような(1) ある一定の人数に承認を受け、かつ(2) ある一定のレート以上で承認されているレビューのみを表示するようにすればいいのではないでしょうか。
- Q. ファセット検索での絞り込みについて件名を表示することについてその妥当性についてどう思いますか。
-
A. 役に立つ局面もあるが、現状改善の必要があると思います。それは似たような用語が多いことや、曖昧な用語が多く選別には役に立ちづらいこと、「電子計算機」のような堅い件名が馴染みづらいことなどが原因ではないでしょうか。ある研究ではある検索語に対して、Wikipedia, Amazon, Google、これらネットリソースを総合して件名を抽出するというユニークな件名抽出方法が提案されていて、割とよい結果が出ているとのことでしたが、こうした研究を重ねていく必要があります。
- Q. OPACではなくGoogle ブック検索を中心として、大学図書館はその所蔵状況を出すようにすればいいとの研究も出てきましたが、それについてどう思いますか。
-
A. 正直なところGoogleは賢いなぁと感じます。なぜなら、Google検索のように本文情報をきちんと提供しようとして、Google検索に慣れた人もシームレスに探せるようになっているようにしているからです(そういえば最近、Google検索にスカラー検索やブック検索が入り込むようになりましたね)。その点で、Googleブック検索をOPACとして捉えるというのはわからなくもない考え方なのですが、Googleブック検索が「1強」である状況で大学図書館がその選択肢を取ることは(Googleが私企業である以上は)危険なことでしょう。その選択肢が図書館サービスを向上させるとしても、そういったサービスが「3強」「4強」となって、乗り換えの選択肢が豊富に出てきたときに考慮すべきものであると思います。また、Googleブック検索では大学独自のサービス、例えばシラバスと図書詳細結果が連携するようなもの、が行いづらいのではないでしょうか。
勉強会を終えてみて
会場には図書館員の方も、それと今回はOPACベンダーの方もいらしてたのですが、次世代OPACについてはまだ模索段階で足並み揃えてという段階には時間を要しそうな印象を受けました(やってみたいけど、どうすればよいのかという段階)。せめて、同じベンダーのシステムで動いている図書館同士からでも横のつながりが強くなっていけばよいと思うのですが…。個別的に取り組みを進めていくのは難しいと感じた次第です。
ただ、私がこれを変えようにも、自分はあくまで提案レベルでしか物は言えなくて、最終的にどういう流れを作るかは現場の方達ですので、今回は原動力となる差し迫った危機感が共有してもらおうというのと、OPACのあるべき姿の探求への切り口として観察での改善ということを提案しました。勉強会中にも少し触れたのですが、もし実践をお考えなのでしたら以下でどんな感じかはつかめるかと思います。
詳しい話は以下の本で。前者が上流工程(観察と分析)に詳しく、後者は下流工程(実装、テスト)に詳しいですね。
さて、ディスカッションでは、そうはいってもなかなか日々の業務に追われて余裕がない図書館(特に公共系)もあると思うので、ジョイントOPACや統合書誌目録の可能性(現状のNACSISよりもより大きな規模)についても伺ってみました。Worldcat localなんてグローバルな動きもあるそうですが、そういえばこういうのに参加するにもコストがかかるわけでどれくらいのものなのでしょうかね、聞いておけば良かったな。
ちなみに、システム自体は本当は去年末には公開予定だったんで、めちゃくちゃ公開が遅れてるんですよね。今月中になんとかβレベルでも出せるように頑張ります。あと、ユーザ中心設計(らしきもの)をやってみて疑問に思ったこと、うまくできなかったことについてはよい機会なので、それはまた別な記事にまとめてみようと思います。
反応
参加者の皆さん(やこの記事を読んだ人)が感想を書いてくれてるわけですが、みなさんとても丁寧に読み取ってくれていて恐縮します。
- システム担当ライブラリアンの日記 – 京都大学の図書系職員の勉強会
- egamiday3 – 次世代は永遠にやってくるのだ、幸にしろ不幸にしろ、というOPAC考え話。
- ウェブと図書館の狭間で – 次世代OPACに必要な視点
egamiさんが継続的な改善手法として提案を捉えてくださった点はその通りで、そこまで活かしてもらえれば御の字です。
それでじゃあまずどうするか、なんですが、えっと、ユーザテストをしていると、言及されている通りハッキリ結果が出てくるので、自分の描いたシナリオとどれくらいズレているかがよくわかるんですね(もちろん行動が理由とセットになっていて納得できるものでないとフィードバックに持って行きづらいのですが)。それで、まずはそうしたズレを感じる現状認識から始めるのがよいかなと思います。ズレは勉強会のように言葉でまとめて言っても伝わらない部分が多いですから、とっかかりとしてはショック療法的にユーザテストを体感してみるのがよいのではと。私が図書館員ならそこをひとまずのスタートにするだろうと思います。
参考:ユーザー目線を保つための、「簡易」ユーザビリティテストのススメ – Feel Like A Fallinstar
参考・引用文献
文献自体は探せばもっとあると思います(文献研究をしたい訳じゃないので、ある程度にとどめましたが)。ぐるぐるノオトやかめの歩みとライブラリアン再考を参考に探してみると良いかと。
- 逸村宏, 種市淳子
- 「短期大学図書館における情報探索行動:目次を付与したOPACのログ分析と検索実験をもとにして」『名古屋大学附属図書館研究年報』, vol.5, 2007, p.57-68.
- 「Webの探索行動と情報評価過程の分析」『名古屋大学附属図書館研究年報』, vol.3, 2005, p.1-11.
- 「大学生のサーチエンジン情報探索行動の分析:タイムサンプリング法を用いて」『名古屋大学附属図書館研究年報』, vol.4, 2006, p.1-12.
- 上田修一, 吉野貴庸, 石田栄美, 倉田敬子
- 「WWW上のOPACにおける既知事項検索の諸問題」『Library and information science』, vol.41, 1999, p.1-15.
- 「図書館目録利用者像の転換とOPAC」『第47回日本図書館情報学会研究大会発表要綱』, 1999.
- 石田栄美, 小泉公乃, 宮田洋輔, 國本千裕, 汐崎順子, 三根慎二, 倉田敬子, 上田修一
- 「大学生は OPAC をどのように見ているのか」『第55回日本図書館情報学会研究大会発表要綱』, 2007, p.101-104.
- 「画面遷移と利用者特性からみた大学生におけるOPACの閲覧」『2007年度三田図書館・情報学会研究大会』, 2007.
- 寺井仁
- 「図書館利用者の情報探索行動に関する実証的研究」『東海地区大学図書館協議会誌』, No.52, 2007, p.9-17.
- 松井純子, 河手太士
- 「図書館目録の将来設計:主題検索機能の提供を中心に(日本図書館研究会 第49回研究大会グループ研究発表)」『図書館界』, No.341, 2008, p.102-113.
- 工藤絵里子, 片岡真
- 「次世代OPACの可能性―その特徴と導入への課題―」『情報管理』Vol.51, No.7, 2008, p480-498.
- 久保山健
- 「次世代OPACを巡る動向:その機能と日本での展開」『情報の科学と技術』Vol.58, No.12, 2008, p.602-609.
- 増田英孝, 清田陽司, 中川裕志
- 「自動レファレンスサービスにむけて」『情報の科学と技術』, Vol.58, No.7, 2008, p.347-352.
- 越塚美加
- 「視点:図書館の使いやすさ」『情報管理』, Vol.47, No.5, 2004, p.358-360.
- 上田修一
- 『大学図書館OPACの動向』 http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/libwww/libwwwstat.html (確認:2009/3/1)
- Marcia J. Bates
- “THE DESIGN OF BROWSING AND BERRYPICKING TECHNIQUES FOR THE ONLINE SEARCH INTERFACE”,1989,
http://www.gseis.ucla.edu/faculty/bates/berrypicking.html (確認:2009/3/1)
スライドと著作権表記
資料内で用いた各画像は引用として用いましたが、権利は各著作権者に帰属いたします。なお、以下の画像はCreative Commonsの権利に基づき使用しました。
- ダウンロード(PDF)
- 勉強会キーノート
Popularity: 12% [?]
- キーワード:
読者のコメント
1件