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使用人から億万長者へ-ダコタハウスで生まれたアメリカンドリーム


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 インドラ・B・タマングさんは、ネパールの農村に生まれ、泥壁の家で育った。彼は米国に渡り、著名人一家の執事、料理人、世話人などを30年以上にわたって務めた後、社会の頂点に上り詰めることになった。

タマングさん Brian Harkin for The Wall Street Journal

ダコタハウスの前に立つタマングさん

 タマングさんは、ウェストサイドにある伝説の高級アパートメントビルの2区分と、ロシアのシュールレアリストアート「チェリチェフ」の高価なコレクションを遺産として相続した。元の所有者は、昨年98歳で死去したルース・フォードさん。映画や舞台で活躍した女優であり、往年のハリウッドスター、ザカリー・スコットさんの妻としても知られている。

 多くの米国人は今、パキスタン移民のファイサル・シャザード氏が、なぜ第二の祖国である米国に牙をむき、タイムズスクエアに爆弾を仕掛るなどという凶行に走ったのか、理解に苦しんでいる。その一方で米国籍を取得したばかりのタマングさんが手に入れた幸運は、もうひとつの移民の人生を教えてくれる。それは長年の献身的な奉仕が十分に報われることもあるということだ。

 先月マンハッタンのサロゲート(遺産・遺言検認)裁判所に提出されたルース・フォードさんの遺言状に基づいて、衣服と宝飾品を除くルースさんの全財産(アパートメントや美術収集品なども含む)がタマングさんに譲渡された。

 具体的に言うと、ルースさんは、実娘のシェリー・スコットさんと2人の孫娘よりも、ネパール人の使用人を優先し相続権を与えたことになる。本人はその理由を説明しなかった。

 裁判所の記録によると、シェリーさんは母親の遺志に異議を申し立て、わずかな和解金を受け取ることになった。シェリーさんの弁護士、アーニー・ハーツ氏によると、彼女はタマングさんの相続には納得しているという。

 裁判所の記録では、遺産は840万ドル(約7.8億円)相当になるが、不動産市場の低迷で多少価値が下がる可能性がある。

 タマング氏がルース・フォードさんの実弟チャールズ・ヘンリー・フォードさんにネパールから米国に連れてこられたのは1974年。チャールズさんは、シュールレアリズムの芸術家として、詩、小説、写真、コラージュ作品などを手がけ、ネパールの首都カトマンズに数年間住んでいた。1940年代にはパブロ・ピカソやアルベール・カミュなどの作品を掲載した前衛芸術雑誌「ビュー」を刊行している。

 20代前半で米国に足を踏み入れることになったタマングさんは、さっそくチャールズさんに仕えた。02年にチャールズさんが死去した後は、姉のルース・フォードさんの下で働いた。

 現在57歳のタマングさんには、妻と3人の娘がいる。またクィーンズ・ウッドサイド地区に二世帯住宅を所有する。さらにタマングさんは、ネパールのカトマンズにも家がある。チャールズさんの下で働き始めたのはその家からだった。

 今やタマングさんは、巨額の遺産相続人となり、ダコタハウスの役員会が行う入居審査の対象になるほどになった。タマングさんは20年以上前から申請していた米国籍を、昨年ルースさんの協力によって取得することができた。

 「(ネパールにいる頃)米国のことをいつも耳にしていた。チャンスをつかんで米国にやってきた。この先仕事がどうなるのか、いつまでこの国にいるか、自分には分からない」とタマングさんは語る。

 チャールズさんはネパールから帰国した後、タマングさんを伴って、セントラルパークウェストにあるダコタハウス10階のスタジオアパートメントに移り住んだ。ルースさんが所有するその部屋は、屋根の軒先の下にあり、セントラルパークの景観が望めるにもかかわらず、かつてはメイドの部屋として使われていた。

 タマングさんはチャールズさんの身の回りの世話し、彼に付き添って世界中を旅した。写真撮影を補助し、コラージュなどの芸術活動でもチャールズさんを手伝った。フォード姉弟が年老いて体も弱ってきたこの数年は介護人になった。

 ルースさんは1950年代初めにダコタハウスの寝室が3部屋ある広いアパートメントに引っ越した。ルースさんは半世紀以上後にこの世を去るまでそこに住み続けた。

 ルースさんはアパートメントをサロンに変え、芸術家、劇作家、小説家、作曲家などを招いてパーティを開いた。当時パーティに集まった顔ぶれにはレナード・バーンスタイン(作曲家・指揮者)、ウィリアム・フォークナー(小説家)、トルーマン・カポーティ(小説家)、エドワード・オールビー(劇作家)、テネシー・ウィリアムズ(劇作家)、アンディー・ウォーホール(ポップアーティスト)らがいた。

ダコタハウスの内部 Brian Harkin for The Wall Street Journal

ダコタハウスの内部

 金色に輝く壁紙で覆われた高さ14フィートの壁一面に、パヴェル・チェリチェフの絵画やスケッチが飾られている。ロシア生まれのシュールレアリストであるチェリチェフは、1957年に死去するまで何十年もチャールズ・フォードさんのパートナーだった。タマングさんはルースさんの主催する夜会の補佐役をよく頼まれたという。

 ニューヨークで最も審査基準が厳しいとされるダコタハウスの役員会は、元従業員の入居を許可する可能性は低いと複数の不動産仲介業者が指摘する。ダコタハウスを管理する不動産会社プルーデンシャル・ダグラス・エリマンの広報担当はコメントを控えた。

 相続人が役員会の共有部分の受取人になれたとしても、役員会は共有部分の譲渡の承認を拒否したり、役員会の規約に従って、受取人の居住権を阻止することができる。

 だがこういった問題が持ち上がることはなさそうだ。ルースさんの遺言執行人である不動産担当弁護士のカーリン・ガスタフソン氏によると、タマングさんは、遺産の税金や費用を話し合った後、寝室が3部屋あるルースさんのアパートメントを売りに出すことに同意したという。

 タマングさんに役員会から承認されると思うかと尋ねたところ、彼は分からないと答え、「自分が今住んでいる場所が気に入っている」と付け加えた。広い方のアパートメントは、12月にプルーデンシャル・ダグラス・エリマンから750万ドルで売りに出された。だがそれ以降価格は5回にわたって引き下げられた。4月末には10%下がり、450万ドルになった。

ルース・フォードさん Sotheby's

ルース・フォードさん(1967年)

 そのアパートメントは、北側は73丁目、南側はダコタハウスの中庭に面している。

 同じ建物のもっと高いアパートメントのようにセントラルパークを一望することはできないが、リビングルームの窓から公園の一部を望める。

 提示価格が引き下げられた分は、チェリチェフの作品の価格上昇によって相殺されるかもしれない。ルースさんの肖像画はダコタハウスの部屋の暖炉の上に長年飾られていた。この肖像画は、チェリチェフが、1937年、ミシシッピーからニューヨークに移ってきたばかりの26歳のルースさんの姿を描いたものだ。

 先月、この肖像画は競売大手サザビーズが開催した春期ロシア絵画オークションで手数料込み98万6000ドルという価格で落札された。スタート価格15万ドルから大幅に値を上げ、チェリチェフの作品では過去最高となった。

 シェリー・スコットさんは、ルース・フォードさんの実娘だが、何十年間も母とは疎遠だった。だがハーツ弁護士によると、シェリーさんに実母の状況を把握することに努め、タマングさんと連絡を取ることもあったという。

 「タマングさんがルースさんの世話をし、皆に好かれ尊敬されていることは誰もが認めている。シェリーさんもタマングさんのことは好きだと言っている。遺産のことも納得しているようだ」とハーツ氏は語る。

 タマングさんは、ダコタハウス10階のスタジオアパートメントをしばらくは売りたくないと言う。そこにはチャールズさんの写真と芸術作品が多数あるからだ。

 一方でタマングさんは、突然転がり込んできた財産をクィーンズにある自宅のローン返済に充てること以外は、どうするか決めていないという。

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