東京電力福島第1原子力発電所の事故は、半年たってなお収束のめどが立たない。3機の原子炉が炉心溶融する未曽有の事態を受け、これまで1万人を超える作業員が危険な作業に従事した。しかし、極度の混乱の裏で作業員の労務管理は置き去りにされ、今も被曝(ひばく)線量検査を受けないまま行方が分からない作業員が65人もいる異常事態となっている。
「最初は何が起きているのか、意味が分からなかった」。厚生労働省労働衛生課の安井省侍郎専門官はこう振り返る。6月20日、省内で東京電力の放射線管理グループの担当者から報告を受けたときのことだ。
担当者は事故直後の3月の緊急作業に従事した作業員のうち125人が省令の定める検査を受けていないと報告。「しっかり検査をさせてください」と求めた同専門官は、東電側の返答に言葉を失った。「でも67人は行方が分からないんです……」
67人の多くはその後、所在が判明し検査を受けたが、4人は今も不明。4~6月の緊急作業でも計61人と連絡が取れず、16日現在、計65人が検査を受けないままだ。なぜこんな事態が起きたのか。
平常時、原発内で作業する場合は財団法人「放射線影響協会」が発行し、被曝量や健康診断結果などを記載する「放射線管理手帳」を取得して放射線管理区域に入る。誰が、どの程度被曝したかは仕組み上は把握できる。
だが事故後の福島第1では、当初は手帳を取得しないまま緊急作業が展開され、作業員を把握する手段は「線量計貸し出し記録」だけだった。作業員が社名と名前、自ら測った1日の被曝線量を紙に書き込む簡単なものだった。
書き方は統一されず、下請け業者の所属なのに元請け業者の社名を書いたり、片仮名で名字だけ書いたりするなど、被曝線量の記録が誰のものか分からないケースが続出した。
カード型の作業員証が発行され、氏名と社名がデータ管理されるようになったのは構内の免震重要棟に出入りする作業員の場合で4月6日。それ以外の作業員が拠点とする前線基地のJヴィレッジ(福島県楢葉町)では6月16日に始まり、7月の所在不明者はゼロになった。厚労省は今後、作業員の被曝線量をデータベース化する予定だ。
連絡が取れず未受診の作業員に重い健康被害があった場合、補償に大きな支障が生じかねない。例えば将来がんを発症しても、労災認定を受けられない可能性がある。
厚労省によると、認定基準が定められた1976年以降に放射線被曝が原因のがん(白血病・多発性骨髄腫・悪性リンパ腫)で労災認定されたのは10人。認定には、業務以外の要因が考えにくいことに加え、相当量(5ミリシーベルト×従事年数)を被曝したことを証明しなければならない。同省幹部は「被曝線量の検査記録がない場合、因果関係を証明することは極めて難しくなる」と話す。
作業員の労務管理は所属会社と元請け業者の責任とされている。日本弁護士連合会の原子力発電所事故等対策本部委員を務める秋元理匡弁護士は「発注者が実質的に指揮・命令をしているようなケースは、発注者にも作業員の安全に配慮する義務がある。東電は作業員の労務管理により責任を負うべきだ」と指摘する。
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