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「自炊」代行者と出版社対立

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「自炊代行」問題の構図

 紙の書籍を裁断してスキャンし、自分で電子化する「自炊」が流行している。代行する業者も増えた。大手出版社や作家が今月、業者約100社に自炊代行は認めないと宣言し、今後も代行を続けるかをただす質問書を発送。対決姿勢を鮮明にする業者も出始めた。

 「熱烈歓迎!質問状」

 刺激的な反論をウェブ上で発表したのは「自炊代行ドットコム」を運営するグローブコム(東京都)だ。

 「出版社様が『本気』で書籍の電子化に取り組んで頂く姿勢を熱烈に歓迎致します」。電子化が進めば自炊代行は不要となるだろう、とも。裏を返せば、電子化が不十分なままなら、今後もビジネスを続ける、という意思表示でもある。

 また、自炊代行を了承しない作家の本はスキャンしないと宣言したが、作家本人や出版社の代表者からの正式な通知を求めている。

 グローブコムが代行を始めたのは今年3月。当初は顧客が自分で自炊する形だったが、「裁断機が怖い」「スキャナーの使い方が分からず、時間がかかる」という声に押され、1冊100円程度で代行を始めた。中村賢司代表取締役は「出版社が同じ仕事をやるなら潔く身を引く」と語る。

 「質問書の内容は上から目線で、あまりに一方的。完全に無視する」と語るのは「らくらくPDF」を運営するカオス(東京都)の伊藤裕一社長だ。都内のマンションの一室に約20台のスキャナーを置く。

 新刊本をネット書店で大量購入して直接送ってくる海外在住の客もいる。「日本の本を海外の書店で買うと非常に高い。自炊代行なら1冊あたり日本の定価プラス100円程度で済む」

 伊藤社長は「裁判で判決でも出たら従うが、それまではやめるつもりはない」と話す。

■電子書籍が不足

 代行花盛りの背景には、電子書籍用の新端末が続々発売される一方、コンテンツは不足していることがある。従来の電子書籍市場は携帯電話向けのコミックやアダルト系が主力だった。

 これまで2回、代行業者を利用した兵庫県の会社員は「買って読める電子書籍はまだまだ少ない」。

 月5、6冊ペースで小説を読む。子供が生まれ新たな居住スペースが必要になり、たまっていた本を300冊ずつ代行してもらい、通勤電車で端末を使って読む。「電子書籍がもっと増えれば、すべての蔵書を電子で買い直してもいい」

 自炊は若い世代にも広がりをみせる。横浜市内の男子高校生はこの春、教科書と参考書を自分で電子化。データをiPadに入れた。「本を何冊も持ち歩くのに比べて、1台ですむから楽。図や数式は画面上で拡大できるし見やすい」。学校でもiPadを机上に出して授業を受けている。

■海賊版の拡大 懸念

 著作権法は、個人的使用が目的なら「使用する者」の複製を認める。自炊は合法だが、自炊代行は使用者と複製者が異なり、合法かどうかはグレーゾーンだ。

 著作権に詳しい青山学院大学法科大学院客員教授の松田政行弁護士は「最高裁は、日本のテレビ番組を海外在住者向けに転送するサービスについて、著作権法が許容する私的利用ではなく、業者が転送の主体だと判断している。他人の著作物の複製を料金を取ってビジネスとして行っている自炊代行も、本人が複製を行っているとは言い難く、著作権を侵害している。最高裁まで争うことになれば、違法と判断される可能性は高い」と指摘する。

 テレビ番組についての最高裁判決では「業者の行為がなければ利用者が複製することは不可能」という点が重視された。自炊代行問題が訴訟になった場合にも焦点になりそうだ。

 今後について講談社の鈴木哲・取締役は「違法性を理解してもらえない業者の方がいるなら、これから先どうするか相談しながら考えていきたい」。出版社は電子データの流出で海賊版が広がることを危惧。代行業者は「不正流出業者こそ摘発すべきだ」と訴える。

 「ネット上のライトノベルを無料で読む」という川崎市の男子高校生は「1冊2、3時間で読み終わる小説に金はかけられない」。

 日本書籍出版協会が今年実施したウェブアンケートでは、「出版物をスキャンしたことがある」と答えたのは3876人中1058人で、そのうち、「スキャンした出版物の電子データをネット上に公開したことがある」は約6%だった。(竹端直樹、山田優)

    ◇

〈自炊〉 本の背表紙を取り除きバラバラにした上でスキャナーで1枚ずつ読み込み、自ら電子データ化すること。パソコンや電子書籍端末、iPadなどで読めるようになる。

 語源はデータを自ら「吸い出す」ことに由来する(「炊」は当て字)との説が有力だ。元々はCD―ROMなどのデータについて使われた言葉という。

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