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[25408] 【ネタ】プロジェクトR! (R-TYPE二次)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 02:23
『プロジェクトR』



作者のヒナヒナです。
その他板で普段書かせていただいているのですが、
唐突に電波を受信したため、別枠で書いてみました。
その他板の「提督が往く!」とは微妙に相関があったりなかったり。



拙作を読んでくださる方にご案内します。
以下の事項にご注意ください。




・R-TYPEの二次小説です。

・完全なるネタです。宇宙から電波を受信したので書くことになりました。

・設定はR-TYPE FINAL準拠です。設定が多すぎるので書いていません。
 初めての方は、バイドっていう生物・無機物に憑いてゾンビっぽくしてしまう、生命体と戦っている世界で、
バイドに抵抗するために異相次元戦闘機R機っていう戦闘機を作っているTeam R-TYPEという開発チームがいると思って頂ければ。

・その他板で連載中の「提督が往く!」のスピンアウト小説ですが、
根本的に世界が違うため、むしろドロップアウト小説かもしれません。
「提督が往く!」でギャグ成分が切れたのでこちらで補給。

・「提督が往く!」のキャラが一部出てきますが、名前とか性格を新しく考えるのが面倒だっただけです。本編には関係ありません。



ではお楽しみください。



[25408] TL-T “CHIRON”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 02:14
・TL-T “CHIRON”



散乱する書類、所狭しと置かれた端末、大型の機器類。
それはいかにも研究施設ですといわんばかりの光景だった。
端末のキードードを叩く、気だるそうで無精ひげを生やした中肉中背の男と、
機器の調整をする、眼鏡を掛けた細身の男がいた。
首から下げたセキュリティカードにはそれぞれ、メイロー、フェオと書いてあった。
両方とも肩書は研究員…つまり下っ端だ。
そこに、突然扉が開き、血色の悪い男が入ってくる。


「やばい、皆聞いてくれ。」
「うっ、班長。顔青い上に酒臭いぞ。」
「どうしたー。二日酔いで、重要書類にゲロぶっ掛けたか?」


メイローが鼻を摘まみながら嫌な顔をすると、フェオもはやし立てる。
この3人がこの研究室の主だ。


「いや、昨日の会議の後、軍部のお偉いさんと飲む事になったんだけど、
そこで昔のアニメーションについて、意気投合しちゃって…
そっから記憶無いんだが、さっき気が付いたら、この構想書もって、床で寝てた。」
「ん~。人型R機構想書。人型ってお前いつの時代の…うわ、これ決済印付いてるぞ!」
「メイローそれ貸して。…マジだ、ありえねぇ。決済印ついたら仕様書だけでも作らなきゃやばいだろ。」
「酔った勢いで、上に構想書出すとか班長やるな。俺も次から決済は酒の席で取る。」
「俺、人型の仕様書作らなきゃダメか?」
「だって決済印ついてるじゃん。引き戻しとか許されないだろ。処理済だから、引き戻すなら相当上の人に頼まないと無理じゃね。」
「…」


フェオが良い笑顔で止めを刺すと、二日酔いで青くなっている研究班長は撃沈した。



________________________________________



「と、言うことで人型R機の検討会を行います。」
「班長唐突じゃない。なんで、ホワイトボード持ってきてんのさ。」
「良い事に気がついたなフェオ。班長である俺が決済取ったので、この件は自動的にウチの班の連帯責任になります。」
「ふざけんな、俺たち巻き込むな。」
「聞こえんなぁ。大体お前ら俺すべてを押し付けて、面倒な会議欠席しやがったろ。その報いだ。」
「自分のミスだろー。」
「だべっていても始まらん。さあ、方向性をきめるぞ。ブレインストーミングだ。人型兵器といって想像するものを言え。メイローから交互に!」


強引に話を進める班長。とりあえず何でも良いから案を出させる事にしたようだ。


「無駄に足がある」
「機動兵器なのに超近接武装」
「センサー類は頭部につける」
「コックピットは胸部」
「精神論でリミッターが外れる」
「変形する」
「宇宙でチャンバラ」
「恥ずかしい二つ名がつく」


「…誰がダメだしをしろと言った!しかもそれほとんど昔のアニメーションの事じゃねーか!」
「人型兵器なんて真面目に議論する馬鹿は居ないから。発想が偏るのは仕方が無い。」
「お、じゃあ真面目に議論するの、俺ら世界初じゃね。」
「もういいや、仕様書だして突っ返されれば終わるだろう。
とりあえず、議論だけ詰めるぞ。人型兵器を想像して。はいもう一回メイローから。」


「軍人より素人のほうが操縦が上手い。」
「軍人の方は後で訓練施設送りだな。何故か量産機より試作機の方が強い。」
「むしろ本当の試作機は不具合の数が尋常じゃないんだがな。最後は愛でどうにかなる。」
「ちょ…バイドに愛を説くのかよ。さすがメイロー。あ、設計者は父。」
「フェオ…俺ら子供いないから無理だろ。家族…特に兄弟は裏切る。」
「甘い。裏切るが、終盤に古巣に戻ってくる。」
「裏切って戻ったら普通死刑だろ。むしろ固定武装を使わず殴る。」
「一発でマニュピレータがイカレそうだな。無駄に感情的なAI」
「ギャルゲーの仮想人格インストールしとけ。必殺技が音声認証式。」
「おい、波動砲撃つたびに叫ぶのかよ。物量には根性で勝つ。」


「おまえら、これまとめて提出するんだぞ!少しは使えるのをだせ!」
「誰の所為だ!」
「班長も意見だせよー」





________________________________________



ぐったりとした三人。
ホワイトボードは真っ黒になり、所々に丸や×がついている。


「なぁフェオ、俺たち一日かけてなにやってんだ。」
「いうなよメイロー、班長、俺達帰って良い?」
「仕様書の確定まで帰さん。この案の中から怒られない程度で、実現不能と思われるものをチョイスする。そうすれば課長に書類を突っ返されて終りだ。」
「もういいから、とっととやろうぜ。」
「じゃあこれとか。」
「これ無理過ぎて良いんじゃない。」
「さすがにそれは怒られるだろう。」
「どうせマトモなのないだろ。」
「あ、これ使える。」






________________________________________



「課長:レホス」と書かれた研究室の執務机の前には、班長が立っていた。
席には30代くらいの男。仕立てのいいシャツ、折り目正しいスラックス、ブランド物の靴下、
そして汚れた白衣を着て、履き潰したサンダルを履いている。
課長席に座っているから彼がレホスだろう。
レホスは仕様書と書かれた書類を見ている。


「ふうーん、で?これが仕様書?‘局所戦闘用人型R機について’ねぇ。」
「は、はい。その…これは…。」
「可変機、背面スラスター、武装はビームサーベル・鞭・背負い式波動砲…」
「………」
「音声認証式コマンドってなんのため」
「え?あー、えーと、それは、あれです。今のR機のように全てパネル選択式にすると、手が足りなくなります。音声認証式にすれば、操作の簡略化に繋がります。」
「ふーん…」
「…(やばい)」
「この外付け集中センサードームっていうのは何さ?」
「今のシステムですと、センサー類に不備が生じた際に、
機体を分解してそれぞれのセンサーを取り出す必要があります。そこですげ替えが簡単な外部ユニットとして取り付けます(誰だよ頭付けろって言った奴。)」
「これは何?」
「これはアレです。えーと…」
「こっちはどうすんの?」
「あー、あそこの技術を引っ張ってきて…」
「何これ?」
「うーあー…」






______________________________________



自分達の研究室で、寛いでいたメイローとフェオ。
そこに、息も絶え絶え帰ってきたのは彼らの班長だった。


「やっと終わった…」
「お、班長帰ってきたのか。」
「班長、ドアの前に寝られると邪魔なんだけど。踏むよ。」
「ふっふっふ…レホス課長の質問地獄に耐えたぞ。」
「…もうダメだな。おいフェオ、班長はほっといて飲みに行こうぜ。」
「外でなくても、精製水に炭酸ガスを注入した奴で、エタノールを割ればいだろ。」
「何だその不味そうな酒は。アルコールを摂取すればいいってものじゃないぞ。」
「体に入れば同じだろ。」
「ほう、ではそんなフェオ君にエタノールを直接注射してやろう。」
「ちょ…ばか、注射器でかい。99%エタなんて死ぬから。」
「大丈夫だって、実験用の特級試薬だから、変な不純物ないし。」
「ホントに血管注射は洒落にならん。メイロー迫ってくんな。」


平和なじゃれあいをした後、フェオとメイローは復活する気配の無い班長を残して帰って行った。


_____________________________________



翌週。再び課長室。
課長のレホスと班長が再び向かい合っていた。



「あのレホス課長。なんですか?これ?」
「ん?命令書。」
「…なんのです?」
「この前、君が持ってきた仕様書あったでしょ。ちゃんと上に上げといたから。」
「…。」
「顔が青いけど、どうしたのかなぁ。」
「い、いえ…。」
「あ、君の班は人型R機開発班ということで専属にしたから。あの仕様書盛りだくさんだからねぇ。
一機じゃ盛り込めないだろう。系統化することになったから。計画書よろしく。」



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「こんのアホ班長っ!頭悪いぞ。」
「人型R機開発班…うわぁ、マジかよ。」
「…スミマセン。」



班長が課長の部屋から戻ってきて10分後、
土下座する班長と、怒り狂うメイロー、ドン引きするフェオの姿があった。



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6ヵ月後…
人型可変機体のプロトタイプ
TL-T ケイロンが完成した。



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すみません。
その他版の「提督が往く!」を書いていて、ギャグ分が切れてしまったんです。
どうにかギャグ分を摂取しなくては…って結果がこのアホな短編です。
でも、書いていて楽しかったから、後悔はしていない。

またギャグ分が切れたら続くかも。



[25408] R-9DV“TEARS SHOWER”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/07 20:20
・R-9DV“TEARS SHOWER”


「なあ、羨ましいよな。俺もあんな開発したかったさぁ。なんでうちはこんなんなんだ。そう思わないか、トレン。」
「目的語がないから分からん。」
「人型兵器だよ。ヒ・ト・ガ・タ。機械が好きでここに来たんだけど、やっぱり戦闘機タイプじゃ燃えないよな。ちゃんと二足歩行して、手にはビームサーベルかライフルを持ってさ。」
「ああ、5班のやつらのことか。」
「5班じゃなくて、名前も人型兵器開発班に変わったんだぜ。いいよな、憧れるさぁ。番号じゃなくて名前付きだし、研究室も広くなってるし。」
「黙って作業できないのか。エル。」
「あいつらがキャッキャウフフと人型の図面と戯れて、新型機を開発しているのに、
俺たちは、防護服着てバイド種子にエネルギーを食わせる作業なんて…研究者として間違ってる!」
「真面目にやれ。手元狂ったらバイド汚染だぞ。」


そこは部外者立ち入り禁止と書かれたエリアで、
(そもそも、この研究区画自体、部外者が入れないので無意味な張り紙である)
フォースの元となる‘バイドの切れ端’からバイド種子を培養する施設だ。
様々な形をしたコントロールロッドがそこかしこに置いてあり、中には溶液に漬けられているものもある。
バイド種子と結びつく、シナプスツリーの原基を育てているのだ。
外部装甲が取り付けられていないコントロールロッドはなかなかにグロテスクだ。


そんな、一般人は頼まれたって立入りたくないエリアに居るのは、
防護服を着込んだ2人組みだった。
まだ、2mくらいのバイド種子にエネルギーを注入しているのだ。
防護服ではっきりした体形や顔は分からないが、背の低い方がさっきからしゃべり倒している。


「くっそ、なんで、こんなことをやっているんだ俺は。ラヴィダは何処へ行ったんだ。」
「班長は、班長会議に出ている。…これで終りだ。」
「おしトレン。こんな暑苦しい防護服を脱いで、空調の効いた研究室に行こうぜ。」
「そうだな。」


_____________________________________________________________________________


「あー、なんだラヴィダいるじゃんよ。なんだよ、サボりか?班長会議はどうした。」
「お疲れ、エル。バイド漏れ事故起きたんで途中で中止になった。」
「バイド漏れ?ラヴィダ班長それは?」
「お、トレンもお疲れ様。新型機のフォースを開発していた班がやらかしたらしい。
まったく、誰も5番ドックには居ないからよいものを。」
「5番にフォースなんてあったっけ?特殊研究班の機体が調整中じゃなかったん?」
「そうなのか?でも大事は無いって言ってたから大丈夫じゃないかな。」


研究室にいたのは、白衣よりはラガーシャツが似合いそうな男だった。
肩幅があり、胸板も厚い、腹筋も6パックになっているのが容易に想像できる。
どうみても、アメフト選手で、タックルだけでここの研究員を制圧できそうだ。


彼、ラヴィダは学生時代はスポーツ一筋で、大学ではスカウトも来たほどだった。
しかし、在学中にバイド襲撃にあい、人生が変わる。
試合中にバイドが来襲したのだ。
どんなに体を鍛えていてもバイドに侵蝕されれば肉塊になるだけ。
スタジアムを出て、キャンパス内を逃げ惑っていたところを、市警のR-11Bに助けられたのだ。
建物を縫うように表れてバイドを一気に消滅させた白い機体は、眩しかった。


消防士に救われた子供が憧れるように、大病を完治した患者が医者に憧れるように、
彼はR機に憧れ、猛勉強した。脳筋な部活にいた彼だが、猛勉強の末に望みをかなえる。
…研究職としてTeam R-TYPEに入ったのだ。
友人達は明らかに入る場所を間違えていると感じ『何故パイロットにならなかった』と言ったが、
本人は天職であると考得ていた。
実際、真面目な性格で、仕事が丁寧なので基礎研究には適性があるのだが…
ちなみに彼のチームメイトは士官学校に行ったらしいが、こっちが正しい道だろう。


「そうそう、ラヴィダ、人型開発班来てたん?今、新型やってんだよね?アスク…アスクレなんとか。」
「アスクレピオス。」
「そうそう、それ。トレンよく知ってるな。さすが雑学マニア、でもインプットだけじゃなくアウトプットもしないと本当に無駄になるぞ。…で、ラヴィダどうなん?」
「来てたけど、なんか人型開発班の班長、げっそりして血色悪かったぞ。鬼気迫るというか…話しかけられる雰囲気じゃなかったな。」
「くぅぅ、俺も人型やりたいな。そうだラヴィダ。俺らも人型の企画立ち上げよう。ラヴィダも好きだろ、そういうの。」
「んーまあ、個人とすれば確かに燃えるものはあるが、趣味で機体を開発するのはな…。
同じコンセプトで2系統開発しても意味無いだろう。」
「たしかに二番煎じはカッコ悪けどぉ…。いやでも人型のコンセプトを変えて…」
「諦めろ。そういえば、種子0143の調子は?」
「あー元気元気。今日もエネルギーガブ飲みだったさぁ。」
「よし、そろそろこの試験も終りだな。エル、トレンそろそろ昼だ食事に行こう。」


ラヴィダはそう言うと、食堂に向う。エルとトレンも後に続く。


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肉体労働者向けの量の多い料理に挑戦するには、研究者の基礎代謝ではつらい。
山盛りのポテトの乗ったバーガープレートを前にゲンナリして、つついているのが
エル、トレンで、ラヴィダはすでにプレートの半分を胃の中に収めている。

「ラヴィダ。なんでそんなに食べれるんだよ。俺このポテトの山だけでお腹いっぱい。
フレンチフライを腹いっぱいに食べるのが、子供の頃の夢だったけどコレは無い…」
「夢…叶ってよかったな。」
「嫌味かトレン。」
「エル、食べきれないならせめてバーガーとサラダを食べろ。ポテトだけじゃ栄養が偏るぞ。」


マッチョ体形のラヴィダは軽々とバーガープレートを平らげていく。
普通、白衣は大きめに作られているのだが、パッツンパッツンだ。
190cm超の身長に、ぴっちりサイズになっている白衣。
捲られた袖から見える筋の波打つ腕。首も太い。
明らかに異様だ。


「トレン、バーガーあげるさぁ。」
「押し付けるな。」
「なんで、わざわざチーズバーガーなんだよ。」
「エルは小食だな。」
「ラヴィダがおかしい。なにコーヒー飲んで寛いでるん?」


ゲイルロズの食堂のうちの一つで食事を取る3人。
ここのTeam R-TYPEはゲイルロズに間借りしているため、
食堂、購買などの施設は一般軍人と共有のものを利用している。
しかし、3人は座っている席の周囲は微妙に空席だ。
別に食堂が空いているわけじゃない。
なぜか?


答えは彼らが白衣だからだ。
ゲイルロズで白衣を着るのは軍医か、研究員だ。
お世話になることの多い医師は、みな顔を覚えているし、大概彼らの白衣はきれいだ。
医務室で見たことなくて、汚れた白衣を着ている連中は、Team R-TYPE。
平和を愛する基地要員にとって絶対に関わってはならない要注意人物達なのだ。


曰く、Team R-TYPEでは試作機でバイドの群の中に叩き込まれる。
曰く、Team R-TYPEでは犯罪者や浮浪者が輸送されている。
曰く、Team R-TYPEの研究員と目が合ったら、異動命令が来た。
曰く、Team R-TYPE研究区画の近くの通路を一人で歩いてはいけない。
曰く、Team R-TYPE行きは拷問代わり…
など…


総括すると「狂科学者集団」というのが一般的な評価だ。
何をおいても白衣に近づくべからず。
ゲイルロズの新しい不問律だ。
ぴっちり白衣マッチョが目の前に居れば尚更だ。


………


しかし、Team R-TYPEの研究員という人種は、基本空気を読まない。
警戒心を伴った無関心が漂う食堂で、彼らは今日も食事を取っている。


_______________________________________________________________________________


昼食を終えると研究室に戻り、備え付けの席について班会議を始める3人。
ホワイトボードが引っ張り出される。


「今回のテーマはなんだラヴィダ班長。」
「トレン、やる気あるな。俺はもう気持ち悪くてダメ…」
「エル、だからフレンチフライだけじゃなくサラダを食べろと…。
まあ、フォースの評価試験は直に終わるから、次の研究課題を選定する。」
「マジで!次は基礎研究じゃなくてちゃんと開発しようぜ。俺がんばるから。」
「エル、現金だな。」


膨れた腹を抱えて、机に伏していたエルが突然元気になると、
トレンとラヴィダだ呆れる。


「ただし、人型はNG。すでに研究班が立ち上がっているからな。」
「…ラヴィダのけち。」
「けちで結構。すでにメイン系列機には専属開発班がつけられているから、
開発なら独自案を提出するのが望ましい。もしくはフォース、波動砲の技術検証などとなるな。」
「エルじゃないが、フォース、波動砲の研究は基礎研究班の範疇だろう。我々は開発を行うべきだと思う。」
「方針を決定しよう。現在のR機に無いもの、欠点はなんだ。」


「浪漫に決まって…」
「却下。」
「じゃあ変形機構を。」
「目的を先に述べろ。」
「大型バイド殲滅のために必殺技を。」
「なんのための波動砲だ。」
「サーベルを…」
「単純にバイド切っても増えるだけだろ。」
「あとは…」


エルが意見を出してラヴィダが切る。切る。切る。
5分ほど続けた後、今まで黙っていたトレンが発言する。


「対小型バイド用の攻撃方法が少ないことが問題だ。」
「それは必要か?基本的に小型バイドは固定武装のレールガンで十分撃破できるだろ。」
「トレンの意見は聞くのかよ…」
「突入戦では、四方から狙われる。」
「ああ、確かに小型機に波動砲を使用するのは効率が悪いし、実際小型機の群に飲まれるパイロットも多いな。」
「固定武装はレールガンだけだからな。数で押されたらそらー飲まれるさー。オプションも通常はミサイル、フォースくらいだしー。ビットはエース専用だろー。」
「エルふてくされるなよ。
フォースシュート中、R機の武装は非常に限られる。レーザーはフォースなしに撃てないし、
ビットは予算上ほとんどの場合つけられない。
ミサイルは発射スピードが遅いから手数が明らかに足りない…か。」
「人型ー、ビームサーベルー、可変機ー…」
「そう…だから、波動砲をバルカン式にするのはどうだろう。」
「波動砲をあえてばらすか。面白い案だなトレン。バイドの群を突破するための支援機として有用かもしれんな。」
「どうせ、オリジナリティの無い2流研究者ですよー…」
「障害物の少ない宇宙空間の支援ではR-9D系列の長距離精密射撃機が有用だが、
突入作戦時に閉所で使うには取り回しにくい。」
「威力は無くとも手数を増やすか。」
「ラヴィダもトレンも無視しやがって、それでも仲間か。」
「火線を集中すれば、大型バイドにも対抗できるように調整しよう。」
「よし、それでレホス課長に上げよう。」
「…」





「トレン、企画書の素案を頼むよ。内容は明日検討しよう。」
「分かった。数字を出して置こう。」
「ああ、威力不足で波動砲が豆鉄砲だったなんて笑いものだからな。」
「どうせどうせ俺なんて…」


机の上に「の」の字を書いてふてくされるエルを置いて、
ラヴィダとトレンが書類を片手に部屋を出る。


_______________________________________________________________________________


【課長室】


「ふーん、バルカン式波動砲ねぇ。」
「はい、閉所突入支援に特化したR機です。」


ラヴィダが課長席に企画書を提出して説明している。
課長のレホスは、清潔感のあるワイシャツに、落ち着いた色のスラックスと靴下。
そして全てをぶち壊す汚い白衣と、かかとの潰れたサンダルを履いて席に座っている。
何時も通りだ。


「どっかの誰かさんみたく、遊んでるのかと思ったけど意外と真面目な内容だねぇ。」
「どっかの誰か?…はい、実地検証はまだですが、支援機があれば突入時の事故も減少するかと。」
「裏づけ資料もある…と、そうだね。
ここの所データも取れないうちにR機を壊してくれるお馬鹿さんが多いからね。」


書類から目を上げずに、資料を読み続けるレホス。
口調はふざけているが、書類を読んでいる表情は真面目だ。


「波動砲の特殊化、高威力化が進みチャージ時間も増加しています。
もっとも事故率が高いのは波動砲発射後で、チャージ中に迎撃態勢が取れずに、
バイドに落とされる例が多いのです。支援機があれば、突入の際の突破率も上がります。」
「大型バイドに対する効果は?」
「火線を集中することで、スタンダード型の波動砲に匹敵する威力はでます。
ただ、一発一発の威力は大きく無いので、貫通能力には乏しいですが。」
「よろしい。では上に上げておくから、詳しく説明できるようにしておいてね。」
「わかりました。」
「あ、でも、この内容なら支援機じゃもったいないから、一応単独運用も視野に入れてね。」
「はい。」


________________________________________________________________________________


カチカチカチカチ


一人残された研究室。すねたエルが机に突っ伏して、
手元にあるノック式のボールペンを弄くりながら、呟いている。


「くっそー。ラヴィダもバルカン機なんて企画とって来て、浪漫って物が…」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「トレンの奴も、言ったもん勝ちってか?俺も次のために考えておけばいいのか。」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「人型は2番煎じだからダメだし、波動砲は粗方改良されたし…熱い企画は…」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「でもしょうがないのかなー。俺、器用貧乏だからなーオリジナリティ無いし。」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「んー…ん?」


カチ。


「これって…」


カチリ。


「ふふふふ…。熱い企画あるじゃないさぁ。」


椅子を倒して立ち上がり、不気味に笑うエル。
そのまま、ボールペンを掲げて叫ぶ。


「パァーイルッバンカァァァーーーー!!!」


________________________________________________________________________________


3ヵ月後
光子バルカン装備型R機 
R-9DV ティアーズ・シャワー完成


派生系統機、帯電式パイルバンカーテスト機の開発開始。



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そうだね。またなんだ。
昨日の睡眠時間が1時間でね。頭がジンジンするから、アホ短編かいてみたよ。
でも今回の夜更かしはネット小説の一気読みした所為なんだ。読書ジャンキーだからね。
会議中に寝てしまって、先輩に起こされたよ。

今回も思いつきで書いた。ティーズシャワーと見せ掛け、落ちはパイルだったり。
どっかで、バルカン機からパイル機が派生するのはオカシイってかいてあったから、つい。
「分の悪い賭けは…」ネタにしようかとも思ったけど、ケンロクエンじゃないとアルトにならないからね。



[25408] R-9WF “SWEET MEMORIES”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/20 13:26
・R-9WF“SWEET MEMORIES”


Q.R-9W系統機についてどう思いますか?


A.
 ・パイロット殺し
 ・悪夢の試験管
 ・人間の生物学的スペックを無視している
 ・パイロットは部品
 ・パイロットは充電池
 ・精神クラッシャー
 ・もう高性能AIを開発しろ
 ・バイドに殺される確率<機体に殺される確率
etc.


「…ですって。ワイズマンのイメージ最悪ですね。」
「ほとんど、ハッピーデイズは無かった事になってるじゃない。」
「なんでこんなアンケートが…」


3人が居るのはWシリーズ開発室。
中肉中背の男は影が薄いと評判のランド。一番年少でまだ勤めだして2年だが、
存在を忘れられて実験室に閉じ込められ、何回かフォースの明りで夜を明かすという経験をしている。

紅一点のセフィエは30代でジーパンにタンクトップで痛んだ金髪を結い上げている。
白衣を着ていなかったら仕事をしているとは思えない格好だ。

太り気味の男はジョー、眼鏡をかけて、サスペンダーでズボンを吊っており、
外見は完全にとっつぁん坊やだ。一応班長。


彼らが覗き込んでいるのは、パイロットに行ったアンケート結果である。
皮肉の効いた抗議文として、パイロットの有志達から送付されたそれは、
R機各機への意見を図ったアンケートだ。
今見ている項はR-9W系統の代名詞ワイズマンなど…所謂‘試験管機’を問うたものだ。


試験管機R-9Wワイズマンは、搭乗パイロットに精神面での大きな負担を与える機体として有名だ。
試験的に実装したナノマシン波動砲(誘導式)を装備しているが、
この武装はパイロットの意識で軌道を変えられるが、代償にパイロットに多大な精神負担を強いる。
トレードマークである試験管型のキャノピーは脱着可能になっており、
消耗の激しく自力で機体を降りることができないパイロットの乗り換えを簡単にするため、
パイロットをキャノピーごと入れ換えるためだ。
試験管の中で、動けないまでに消耗した同僚が、部品のように換装される様子は、
多くのパイロットに恐怖心を植え付けた。


そんな機体を生み出したのはこのWシリーズ開発班だが、
ワイズマン開発当初のメンバーの内2人はすでに入れ替わっており、
現在残っているのは、当時一番下っ端だった班長のジョーのみだ。 
Wシリーズは、もともと特殊な波動砲をテストするために開発されている。
ワイズマンの誘導式波動砲やハッピーデイズの分裂波動砲だ。
誘導式波動砲の有用性が確認されながらも、独自の系統機に派生しない当たり、
試験管機が軍部で問題視されているのが分かる。
まあ、テスト機にはピッタリなのでワイズマン以降のWシリーズにも引き継がれている。


________________________________________________________________________________


「なんで、私達のワイズマンばっかりこんな言われなきゃならないの。
何よ精神クラッシャーって。このくらいの精神衰弱、一日寝てれば復活するわよ。
大体ワイズマンが精神クラッシャーなら、ピースメイカーは肉体クラッシャーでしょ!?
なんで、あっちは人気で、こっちはぼろ糞に言われなきゃならないの。」
「落ち着いてください。セフィ。気にしちゃだめですって。」
「ピースメイカーは市民の味方だからな。’Police’って堂々とマーキングしてあるし、軍のパイロットにも人気がある。」
「中の人間の死亡率で言ったら、ピースメイカーの方が高いのよ。そもそも、マイクロマシン波動砲ほど有用な…」


ジョーとランドは顔を合わせ、また始まったという顔をする。
セフィエは自分の関与するR機への愛情が尋常でないのだ。
長続きすることの無いボーイフレンドの10倍以上の愛を注いでいるだろう。
もっとも。セフィエはハッピーデイズからの参加で、ワイズマンを開発したわけではないが、
研究班の担当として、追研究をおこなっているため、『自分のR機』と認識している。
自分の機体が馬鹿にされれば、いらだつ。そして周囲にまき散らす。
まあ、Team R-TYPEの研究員は、これくらいのヒステリーは可愛いと思えるほどの個性の持ち主が多いので、問題にもならない。
言いたい事を言ったら収まるので、仕事の片手間に適当に話を聞けばいい。


_______________________________________


「さて、何時ものがおさまった所で、新規機体開発案を検討しようか。」


セフィエのヒスが収まったのを見計らって班長のジョーが切り出す。


「今のトレンドは高出力機だったかしら?」
「主機の改良が足踏み状態だからな、波動砲をいかに効率よく撃てるかだろう。」
「では、僕らもその路線で行きますか?」
「いや、それならWシリーズで無くとも良い。我々に求められるのは技術革新だ。」
「ブースター機能は無いかしら?波動砲を何らかの手段で増幅するの。」
「増幅ですか…。出来ます?」
「ランド、出来る出来ないじゃない。試すか試さないかだ。ふむ、方向性としてはあり…だな。」
「さすがジョー、あなた大好き。」
「R機に人生を捧げている君に言われてもね。他に案が無いならこの方針で行こうと思うけど。ランドは何かあるかい?」
「いえ、それでいいと思います。」
「じゃあ、明日までに波動砲ブースター機能の構想案を上げくること。検討するから。解散。」


先ほどとはうって変わって機嫌が良くなったセフィエと、常に平常心のランドが部屋から出て行く。


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「これで決定かな。…感情制御によるナノマシン活性の誘発と、それによる波動砲のブースト。」
「そう、精神論に近いけれど、ナノマシンの可能性を追求する案よ。
感情によるナノマシンの異常活性を逆に利用するの。」
「ランドは?」
「僕の波動砲螺旋収束案より、想定最大威力が高いですし、そちらの案で良いと思います。」


ランドが役に立っていないが問題ない。
彼の神髄は、淡々と、ひたすら淡々とそれが可能になるまで、ひたすらと試行錯誤を続けることだ。
どちらかというと研究というより、技術に偏っている。


「それでは、R機自体はハッピーデイズからのマイナーチェンジで問題ないな。」
「ナノマシンと波動砲の同調機能はワイズマンのものを、箱だけ再利用しましょう。」
「問題は、ブースター機能と、パイロットインターフェイスの改良ね。」
「じゃあランドは、ナノマシンによる波動砲ブースターの開発、
セフィエはインターフェイスプログラムの作成草案を頼む。私は問題の洗い出しと上への書類作成だ。」


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【課長室】


今日のレホス課長のシャツはワインレッドのストライプで、全体に暖色系で揃えている。
白衣の袖も赤インクで塗装してあるのはご愛敬だ。


「…というわけで、ナノマシンブースト機能を持った幻影波動砲と、その機体を提唱します。」
「ふむ、少々イロモノ感が否めないが、Wシリーズならばそれもありかねぇ。
波動砲の威力向上に陰りが見えたのも事実だし。」
「パイロットには嫌がられますが、やはり試験管コックピットです。パイロットの育成も同時に行います。テストパイロットを下さい。」
「ああ、先週来た検体から好きなの見つくろって良いよ。
派閥争いでこっちに来た軍人だからパイロット適正が低いけど。」
「まあ、ある意味問題は感情の起伏なので、それでも構いません。」
「神経接続は従来性のものを使うの?」
「接続機器は従来性を使いますが、新しくプログラムを起こそうかと。」
「…へぇ。じゃあプログラムも実装前に提出してね。」


ニマリと笑顔になるレホスと、その笑みに引くジョー。


「レホス課長…いやなんでもないです。」
「さすがジョー。僕の事分かっているね。」


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【二ヶ月後_実験検証室】


R機は幻影波動砲ですべて撃ち落とした後、沈黙している。
生命反応はあるが、脳波の特定領域がフラットになっている…ようは「落ちている」状態だ。
幻影波動砲の威力は素晴らしく、デコイの周囲の岩礁ごとえぐり取っていた。



「で…レホス課長。何を仕組んだんです?」
「なにかなぁ、証拠も無いのにそんなこと言って良いワケ?」
「たしかに体力を取る設計になっていますが、コネクタによる精神汚染は設計していないのですが。」
「だからなんで僕だと…、でもまあ生命エネルギーを使っているんだから、精神衛生なんか瑣末なことだよね?」
「何年あなたと付き合っていると思っているんです?
課長しか居ないじゃないですか、R機のプログラム仕様書とか隅から隅まで読む人。
パイロット達の神経接続デバイスに変なプログラムが書き加えられてあったんですよ。
相当巧妙に書かれていて、専門で無い限り分からないでしょう。」


喚くセフィエと、彼女をなだめようとして殴られるランドを横目で見ながら話す2人。


「ちょっとねー。人間の空想ってさ、意外と一定の枠を出ないんだね。
夢っていうのも記憶を反復する作業でさ、脳の入力作業の余波みたいなものだし、
起きた瞬間に忘れちゃうくらい印象薄い。でもさ、悪夢だけは非常に強い精神活動を伴うんだよね。
感情は強く現れるし、肉体活動も誘発する。」
「…で、ナノマシンをコンスタントに活性化させるために悪夢を誘発させたと。」
「そう。プログラムに手を加えて、‘恐怖’の刷り込みを行ったんだよ。
脳接続器具内に常駐して、恐怖を感じたときに特定の刷り込みを行う様にしたり、
睡眠中に、そのイメージを開放して、刷り込みを強固にしたりね。」
「それで、毎日悪夢を見るようになったパイロットが多かったのですね。
…でも、あれだけで落ちるとなると、改良が必要ですね。」
「まあ、作戦継続中は落ちないようにしてね。POWや工作機で機体回収ってさすがに面倒だし、未帰還率が高まるからデータ取れない。」


「ところで、…なんなんです?あのパルテノン神殿や五重塔は?」
「んー。僕の端末の壁紙集だよ。あまりありふれているものに恐怖を持たせると、
日常生活に支障をきたすからね。普段あまり見ないものにしてみたよ。」
「…選ぶのが面倒だったんですね。土星に恐怖を抱くパイロットが多くて困るんですけど…」


ここはゲイルロズ…木星―土星圏に浮かぶ軍事基地だ。


「これでまた、Wシリーズは悪評を抱えるわけですね。」
「今更だから。というか試験管式コックピットを考案したのはジョー、君だろう。」
「あれは当時の先輩達からプッシュされたんです。
ワイズマンは次期主力機になるから、どうにかしてパイロットの乗換え問題を解決しろって、
冗談であのコックピットユニット構想を考案したら、採用されてしまったんですよ。」


「常識人ぶっているけど、冗談であの発想が出る辺り、君も狂ってるよね。」
「なんですかそれ、ほめ言葉ですか?」


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R-9WF スイートメモリーズ試作機完成。


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本編がシリアス過ぎて息抜き。
ぶっちゃけ最後の言葉を言わせたかった。

初代R-TYPEの進捗は現在STAGE5です。ベルメイトが…



[25408] B-1A “DIGITALIUS”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/17 02:00
・B-1A “DIGITALIUS”



「おい、エント。これ見ろすんげーぞ。」
「んん。『低汚染でのバイド素子の利用法について』。また基礎研究班の奴らか。
アホな論文を上げて…。」


オガールと呼ばれた栗毛天然パーマが分厚い論文を持ってきて、エントと呼ばれた男の机に乗せる。
読んでいた書類の上に論文を載せられたエントは、一瞬ムッとした顔をするが、
題名を一瞥して鼻で笑うとそのまま、脇にあるゴミ箱に落とそうとした。


「あ、おい題名だけで捨てるなよ。すげーんだって。あ、ラミちゃんもちょっと。」
「なーに、オガールくん。またエントくんに絡んでるのー?」


廊下から現れたのはロングスカートに白いブラウスを着た、いかにもお嬢様な格好をした女性だ。
ゆったりとした口調だが、首から提げたカードには班長と書いてある。


「ラミ班長か。問題ないオガールに絡まれているだけだ。」
「ラミちゃん、良いもん仕入れてきたんだ。これ読んでよ。」
「『低汚染でのバイド素子の利用法について』?文章は硬いけどずいぶん挑戦的な内容ねぇ。あら…これ。」


表紙を手にとって眺めていたラミが、呟いて小首をかしげる。


「さっすがラミちゃん。気付いたな。そうこの論文発表者こそ基礎研究班のやつだけど、連名がすごいんだ。レホス課長に、バイレシート開発部長がいるんだぜ。」
「え?お、おいこれ他の連名も主任クラスばっかりじゃないか!なんでこんな論文が今まで埋もれてたんだ。」
「…これ第1種機密指定が解けたってこと?」
「ああ、なんでか会議なんかで持ち上がらず、シレッと第2種機密指定データベースに降りていたんだ。」
「意図はわからないけどー、きっと早い者勝ちってことね。」
「そうそう、始めに開発を始めた班が、新技術一番乗りの栄誉を手に入れるって寸法だ。」
「俺たちは今開発計画がひと段落してフリーだ。これはチャンスだな。」


無言で顔を見合わせる3人。


「エントくん、オガールくん。明日の昼までにこの論文の調査を行って、内容を読み取るわ。それから機体開発計画の発案をするわ。みんなやるわよぅ。」


ラミの笑顔が深くなり、エントもオガールもそれに釣られて笑う。


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周囲では…


「あそこの部屋また3人で篭ってんのか。」
「本当に仲いいな、あそこの班は。」
「仲がいいというより、お嬢様とその付き人だろ。」
「ちがいない。」


という会話があったが、論文をむさぼり読んでいる3人には聞こえなかったし、
聞こえたとしても3人3様で満更でもないので、軽く流しただろう。


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「では、この論文についての、調査発表を行います。じゃーまずはオガールくんからねー。」


35時間ぶっ通しでの調査の後であるが、ラミには疲労の色は見えない。
機嫌がよさそうで、いつもよりさらにニコニコしている。
対する二人は少しクマが出来ているが、意識はハッキリしていた。


「オレはこの背景にあるレホス課長のプロジェクトについて調査した。レホス課長に資料を貰うのは大変だったよ。」
「レホス課長に頼みごとをすると、後が大変だぞ。」
「そうなんだよな。まあバイド素子添加プロジェクト試作機BX-T‘ダンタリオン’の開発だったんだが、開発部長も巻き込んだ一大計画のようで、ヒラ研究員のオレらには伏せられていたらしい。内容は論文に在るとおりバイド体を機体の装甲に用いた機体を作ることだ。結果からいうとこの研究は成功している。」
「ダンタリオンねえ。ソロモンの悪魔の一柱ね。たしか知識を司る悪魔でー、
その手には全ての生き物の過去、現在、未来にわたる思考が書かれた本を持っているのだったかしら。」
「しかし、バイド素子を装甲に、か。…制御が難しいだうろうに。」
「この研究の特筆すべき点はもう一つある。サラリと書いてあったのだが、ダンタリオンに付属するのはライフフォース。これだ。」


複製禁止と書かれたデータを見せる。


「! コントロールロッドが無い…どうやって制御しているんだ。」
「これ…制御しているのではなくて、機体とフォースが同調しているの…?」
「ああ、このプロジェクトはR機のブレイクスルーだ。実際に機体番号もRシリーズではなく、BX-Tになっている。この機体はテスト機だから、ここから新たなR機の新系統が始まるということだろ。」


オガールがデータを見ながらいう。
ラミが笑顔で、仕切る。


「ありがとう、オガールくん。次はエントくんね。」
「ああ、俺はこの論文技術を実機に適用させるための問題点の洗い出しだ。」


「まず、これを見て欲しい。ダンタリオン稼動実験のときの各実測値だ。」
「実験一発目で成功かよ。レポス課長パネェな。」
「あら、これは酷いわね。パイロットのバイタルイエロー入ってるわぁ。2回目では一瞬レッドまでいってる。」
「そう、機体にバイド由来物質を用いると、パイロットが精神侵蝕を受ける。
それを緩和するためにこの実験では、パイロットの選定と、
深層精神障壁の形成、投薬処理、を行っているところがミソなんだ。
関連論文みたら、処理なしでやるとだいたい15分くらいで発狂するそうだ。」
「えげつねぇ。」
「うーん。その処理時間が掛かるし、パイロットを選ぶなんて、
テスト機ならともかく量産機では許されないわね。」


論文中にも結構エグイ画像が埋め込まれているが、
それくらいで気分が悪くなるようではTeam R-TYPEはつとまらない。
オガールの発言もパイロットが可愛そうと言う意味ではなく、
周到に準備して無理やり実験を成功まで導く熱意が、尋常ではないという意味だ。
ひとしきり感想をいったあと、ラミはエントに次の課題を促す。


「次だな、知ってのとおり素子を純粋培養するとフォース原基になる。
不純物がはいるとバイド化してしまうのだが、
機体に用いるには不純物を加えて物質化しつつ、急激なバイド化を抑える必要がある。
この不純物=誘導体の種類と環境によって、物質化が異なり、
条件によっては著しい不活性を示す…R機の装甲に使えるほどにな。」


「つまりー、誘導体の選択とノウハウの蓄積が必要になるのね。」
「素子研究か…。フォース実験とかいって素子を貰って、実験できるな。」
「楽しそうな実験ね。でもー、セキュリティの高い実験区画の申請が必要ね。」
「この論文ではテストが目的だから比較的安定するゲル状を選択したと言っている。
だが、数値をみるに装甲としては今一だな。」
「なにが装甲に適するか。調査実験か…グッドだ!」
「装甲適性だけでなく、活性値と生産性もみないとねー。」


新しいおもちゃを手に入れたような、楽しそうな雰囲気。
徹夜上がりとは思えない。


「いいわ、これで行きましょう。エントは誘導体選定実験計画の策定。できたら言って、実験は手数で勝負よ。
オガールはパイロット処理の最適化を調べて、私は実験申請と材料の確保をするわ。」


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クマが増えた三人が居た。ラミも化粧で隠し切れないクマが見え隠れしている。
一週間の睡眠時間が3人合計で24時間を切っているためだ。


「どうかしらー。誘導体実験の結果がでた?」
「量がすごいな。エント根性出したな。」
「俺、反復実験で死ぬかと思ったぞ。」


「とりあえず、使えそうなのをピックアップしてみた。選定条件は硬度、コスト、安全性と俺の勘だ。」
「…疲れてるな。」
「じゃあ、検討しましょうか。ダメだったやつのデータは後でまとめて論文にでもすればいいわ。」


全員発言が緩慢で、動きも怪しいところがある。
しかし、目だけぎらぎらさせてデータを見る姿は、
正にパイロット達の恐れるTeam R-TYPEの姿だった。


「硬度は機械系が成績いいが、コストに難が在る…、正直どれも一長一短なんだが、総合的に取り回しやすい一押しはこれだ。」
「なに、植物細胞を誘導体にしたの?」
「植物はさっき誘導体として没って書いてなかったか。」
「実際には、植物体のDNAを切り取った物を与えた。そのままやるとただの植物性バイドになる。」
「いいわねこれ。可愛いわ。胞子状の波動砲なんて素敵ね!」
「…」
「…」


オガールとエントが顔を見合わせる。
また始まった。と、趣味が分からない。というアイコンタクトだ。
二人ともラミのことを尊敬しているし、女性としても魅力的と思っているが、
未だに趣味やツボが分からないでいた。


「まあ、その、俺が勧めたし、気に入ってくれたようで何よりだ。」
「初期機は安定性こそ命だな。」
「やったー。じゃあ誘導体はこれで決まりね。」


無理やりまとめる二人、と喜ぶ一人。
オガールとエントはとりあえず喜んでいるから良いと考えて、
藪はつつかないようにした。


「さて、オガールくんは?」
「目処、たったぞ。とりあえず、深層精神障壁は時間とコストがやたら掛かる上に、
結果が安定しないからオミット、その代わりに投薬処理をふやすことにした。」
「5回か。多いな。」
「無茶言うな。これでも3割減だ。試行錯誤でちょうどよいバランスを探したんだから。
見ろ、オレの芸術的な投薬メニューを!」
「…綱渡り的なバランスねー。でもいいわ。これで本申請上げましょう。明日、課長がきたら上げるわー。」
「あとは実際やってみての試行錯誤か。」
「とりあえずこれで寝れるな…」


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周囲では…


「あそこの部屋まだ明りついてるよー。」
「明りつけたまま寝てるのかと思ったら、たまにうめき声とか聞こえるんだぜ。」
「一週間徹夜か。チームゾンビだな。」
「あそこの班、なんか怖え。」


という会話があったが、死んだように椅子で寝ている3人には聞こえなかった。


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【課長室】


今日も今日とて、完璧な服装を汚い白衣と履き潰したサンダルで粉砕している部屋の主。


「あら、レホス課長。今日のタイピン素敵ですねー。注射器ですか?」
「もらい物だ。で、君が一番手とはねぇ。外見に似合わずガッツクのだね。」
「あらいやだー。私じゃないですよ。オガールくんが見つけてきてくれたんですよ。」
「でも10日で資料をまとめて、新型の設計書を持ってきたんだから、敏腕リーダーってところかなぁ。」


レホスはデスクに座って端末を見つめる。


「ところでレホス課長。なんであの論文を会議で話さずに放置したんですか。」
「ふうん。何でだと思う?」
「釣り針…かしら?」
「言いえて妙だが、正確には試薬だねぇ。研究者はどんなときでも貪欲でなければならない。
なぜならTeam R-TYPEだから。我々の前には倫理も、理屈も、法だって意味を成さない。
そういう研究者を選定するための試薬だ。」
「あら、それは光栄ですわ。私は合格?」
「これだけのものを10日でまとめる熱意と狂気を認めて、実験と開発のGOサインを出そう。」


そういうと端末にカードキーを通して、承認と予算をつける。
それを見たラミは満面の笑顔になって、礼を言う。


「さて、一番乗りに敬意を表して、この機体はB-Aシリーズとしようか。」
「わあ、A番をもらえるんですか!」
「そう、で、君のB-1Aになんて名前をつけるんだい?」
「それはですねー…」


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B-1A ジギタリウス完成。



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前にコメで、タクティクス参戦機は書かないって言ったきがするけど、バイド機は例外です。
名前ストックが切れてきた…なんで毎回登場人物変えるとかメンドイことしたし…



[25408] B-1A2 “DIGITALIUSⅡ”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/17 01:59
B-1A2 DIGITALIUSⅡ 


「みんな、集まってー。」
「ラミちゃんなにさー、ジギタリウスが完成したから、とりあえずは基礎研究に戻るんじゃないの?」
「やっと、誘導体の論文があがったのに…眠い。」


汚い研究部屋に似合わない明るい声によって、
書類の隙間で丸まっていた男二人がもぞもぞと起き上がる。
オガールとエントだ。


「実はジギタリウスに問題が見つかってねー。対策を練らなきゃならないのー。」
「ラミちゃん、問題って?」
「ほら、あの機体ってバイド装甲維持のために保存液に漬けて保管するでしょう。
その保存液が人体に猛毒である事が分かったのよー。神経系に作用するんだってー。」
「なぜそこが問題になるんだ?保存液なんて素手で触んないし、ましてや飲まないし、
体内に入る要素ないだろう。」
「それがー、現場の作業員とかパイロットは軽装備だから、結構保存液の扱いが雑らしいのよね。」
「機体性能間に合わなかったらどの道死ぬんだから、問題ないだろ。それより波動砲を…」
「そうそう、パイロットは消耗品。機体返してくれればいいよ。」
「それがねー。軍のお偉いさんからの苦情らしくて、開発部長から直々に言われちゃって、改良しないと予算凍結するってー。」
「「それは問題だ!」」


上半身だけ起こして半分目蓋が落ちかけていた二人だが、
研究の存続に関わる事態に一気に覚醒する。
そして、ラミはホワイトボードを引っ張り出して、会議仕様に部屋を変える。
その前に男二人が椅子を持ってきて座る。


「うーん、要はパイロット、作業員が保存液に触れなければいいんだろ?」
「しかしなー微量だけどパイロットスーツを透過する上に、
アレ乗ったやつって自力で出てこれないやつ多いだろ?
そうすると、作業員の安全性も結構考慮する必要もあるな。」
「そうねー、さすがに作業員全員に特殊防護スーツを貸与するわけにもいかないし、
そもそも費用も手間も現実的では無いわ。」


ちなみに今日はこれをどうにかするまで寝れません。とラミが発現すると、
全員が唸り思い思いの格好で思索する。


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周囲では…


「ああ、またこの班が何かやりだしたな。」
「バイド機作った班だったか?」
「ああ、なんか狂ったように研究している時期あったろ?そのとき開発してたらしい。」
「…ここではこれが、普通なのかな?俺来たばかりだけど自信無くしてきた。」


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「なあ、俺達一晩かけて案を出してきた訳なんだが、現実的な改良案は浮かばなかった。」
「エント、疲労感を増やすような事を言うな。」
「エントくん、何か思いついたのー?」


「発想の転換だ。問題点は二つ、保存液の処理とパイロットの保護だ。
今までの実験から保存液無しでは機体を維持できない。
だから、パイロットの保護になるわけだが…」
「だーかーらー、その話も現実的に運用できるような案はでなかっただろー。」
「オガールくん、混ぜっ返さないの。」
「いや、ラミ班長、オガールの言うとおりだ。パイロットが頻繁に搭乗する関係上、
現実的な案は無い。ここで逆転の発想だ。パイロットが乗り降りしなけりゃいいんじゃないか?」
「は?」
「無人機ってことかしら?」


明らかに何言ってんだって顔をするオガールとラミ。
R機は有人でこそ意味のある、対バイド兵器だからだ。
そしてオガールの顔がかわいそうな者を見る目になる。


「エント、論文で疲れてたんだよな。とりあえず寝ろ。」
「病人あつかいすんな。俺は正常だ。」
「でも、無人機化は無理じゃないかしら。」
「無人機化じゃない。要は一度乗ったら次のメンテナンスまで降ろさなきゃいいんだ。
そうすれば保存液で汚染される心配もない。とりあえず栄養補給とか生命維持関係は、
パイプで外と繋いでおいて、保存液で補完できるようにすればいい。
作業もアームで生命維持パイプ繋いで、保存液にボチャンだ。」
「なんという、暴論…。」
「エキセントリックな案だけど…一考に値するわね。」


ラミは面白いものを見つけた顔をし、
それを見た男二人は今日も寝れない事を悟った。


「さあ、じゃあ今晩はこの案を検討しましょう。」


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周囲では…


「またか、チームゾンビ。」
「ここのやつの生態は72時間単位なんじゃないだろうか。」
「このむちゃくちゃな生活で結果を出せるのが不思議だ。」
「俺、ここの班に配属じゃなくて良かったって心から思うぞ。」


そろそろ、奇人認定が板についてきていた。


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「検討した結果をまとめましょう。」


「まず、結論としてパイロット封入案は実現可能であることが分かったわ。運用上も艦艇やドック設備にもっとも負担が少ないし、従来の器具で対応可能だわ。」
「ただなぁ。」
「そうだよなぁ。これどうみても改良って段階じゃないぞ。」
「なら、後続機にすればいいわ。装甲の硬度・軽量化もさらに研究進んでるでしょう?
その成果も盛り込んで、次の機体にしちゃえばいいのよー。」
「もー、それでいいか。」


「じゃあ、また検討して、来週には新しい計画案を提出するわよ。」
「研究に殺される…。」
「過労死って戦死になるかな?」


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【課長室】


「いつもの」格好をした課長のレホスが座っている。


「で、出来たぁ?」
「はい、是が計画書になります。改良案ではなく改良を盛り込んだ後続機の設計です。」
「あー適当でよかったのに、どうせお偉いさんになんて設計わからないし、
現場の監督不十分って言い張れば流せたんじゃない?」
「それでも、開発をしらない現場の人間に欠陥機なんて言われるのはプライドが許しません。
やるなら徹底的に、です。」
「君、いつも思うけど、結構マッドだよねぇ。」
「あら嬉しい。」
「まぁ、良いでしょう。現場の声に対応したという事実が必要なんだ。
改良型という事で開発すればいいやぁ。はい、案件通したよ。」


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ジギタリウス2開発。


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3は書くか微妙、それより他のバイド機書きたい。
ぶっちゃけこの話は「劇薬溶液」のエピソードを1の方に盛り込み忘れたので、
補足だったり…。ちょっと手抜き気味なのもそのせいです。



[25408] B-1B “MAD FOREST”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/20 22:57
B-1B “MAD FOREST”


「皆聞いているな。そう、ラミ班の上げたB-1Aの話だ。」


そう机に両手をついて話し出したのはクアンド。
黙っていれば二枚目なのに、その言動と明らかにダークサイドの三枚目に落ちている。
しかも良くて中堅幹部職といった微妙な小物臭がする。


「ああ、そうだね。」
「うちの班もフリーだったから、気付くのが早ければレースに参加できたのに。」


クアンドの投げかけに対して発言したのは男女2名。

根暗な感じのする伏せ目がちな、地味な男性と、
10代後半くらいの、まだ子供らしい顔を残した女性。
班員のECとフローレスカだ。


「で、班長。それがどうしたの。まさか最近の話題でお茶会しようってんじゃないんでしょ。」
「僕、デスクに戻っていいですか?」
「ふん、これだから先走りは困る。」


非常に偉そうな態度であったが、ECにとって自分を苛めない良い上司だったし、
フローレスカにとっては、誇大妄想的だけど常識に囚われない面白い友達だったので、
二人は彼のいつもの言動を受け流して、話が進むのを待った。


「分からなければこの私が説明してやろう。これはバイド機を開発するチャンスと言うことだ。」
「どこが?すでに2班が開発競争に参加しているし、レースに乗り遅れてるんじゃない?」
「正式に許可が下りたのはまだ、ラミ班だけですけど、もうじきクールダウンじゃないですか?」


Team R-TYPEにとって開発とは戦争だ。
彼らは日夜新しい技術と発想を競い、
より強い、より早い、より効率の良いR機の開発に取組んでいる。
…たまに電波が混じるが。


そんな世界なので、革新的な技術やブレイクスルーが起きると、
一斉にその技術を用いた機体を開発する傾向にある。
なので、新技術機は審査も厳しくなるし、強制的に一定数集まるとクールダウンと称して、
第一世代機が運用・データが取れるまで、その技術の機体の開発に待ったが掛けられるのだ。


そのなかでバイド機はかなり大きく魅力的な技術だった。


「私が調査したところクールダウンまでの枠は4系統だそうだ。実際に開発に入ったのはラミ班のみ。まだいける。」
「いや、だから、もう出遅れてるでしょ。ラミ班の誘導体論文見て、みんな新しい誘導体の研究に着手しているじゃない。今からムリムリ。」
「フローレスカ、君は試しもしないで諦めるのか。開発は挑戦だ。そうだろうEC」
「いえ、現実的に無理な物は無理です。」


「…ふん、始まる前から諦めおって。しかし、私の天才的な頭脳がひらめいたのだ。
論文データで詳細が乗っている項から引っ張ってくれば基礎研究を大幅に短縮できる。
具体的には植物性バイドだ。」


沈黙が落ちる。


「…クアンド、それって二番煎じっていうんじゃ。」
「二番煎じ?それがどうかしたのか。私はバイド機を作りたいんだ。」
「さすがに同じ開発テーマでは許可が下りないと思います。」
「同じでは無い。ラミ班の構想は植物的性質のバイド化装甲を使ったR機の開発だ。
しかし、私は以前遊んでいて発見したのだが、植物性バイドのBI因子を操作してやれば、
R機の骨格に添って巻きつき、装甲化することが可能だ。
バイド化装甲を取り付けるのではなく、バイドを装甲化させるんだ。」


ECとフローレスカが目を合わせる。
構想を考えていたのか。という驚きと、
なぜ、それをまともな方向に発揮できないのか。という諦めが二人の間で交換される。


「さて、二人とも意見はあるか。その他の開発方針が無いならこのまま行くぞ。」
「そこまで、方針が固まっているならそれでいいわ。というか他の案採用するつもりあるの?」
「ない!私の案に敵うわけ無いだろう。」
「ああ、じゃあ、もうとりあえず、それで。」


クアンドが当然と言った風で、まとめに入る。


「では決定だ。午前中に試験スケジュールをまとめるから、午後は実験準備。実験は明日からだ。」


高笑いしながら部屋をでていくクアンドを見送り、どちらともなく話す。


「クアンド、発想は良いし、才能あるのになんで明後日の方向にむかってっちゃうんだろ?」
「あれで、性格普通だったらきっと凄く付き合い難い人ですよ。僕はこのままでいいです。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【第一種バイド実験設備】


ここにはバイド実験槽と書かれたシリンダーが横たわっており、実験区画と実験体を仕分けている。
シリンダーの中にあるのは、R機のフレーム…だったもの。
巨大な蔦に絞め殺されるようにひしゃげていて、コックピットもヒビだらけだ。
よく見ると蔦とフレームの接合部に血管のような物が浮き出ていて非常に気色悪い。


「さて、なにか意見を言ってくれたまえ。」
「なんで、誘導体の実験もなしに行き成り実機で試験なの?どう考えても失敗するでしょう。」
「ふん、失敗を恐れるとはなんたる小者。」
「あんた、食事にバイド素子仕込むわよ。」
「…クアンド。バイドが過剰反応を示してるフレームも一部と思わせれば潰されない。」
「たしかに…これはバイド素子を機体にまぶしてみるか。さあ、もう一度実験を」


アームが操作されて、新たなフレームと植物体を投与したバイド種子が運び込まれる。
そしてエネルギーを与えると、オレンジ色の光だったバイド種子がどす黒い色に染まり、蠢動し始める。
R機フレームとの間仕切りを外すと、バイド体からは細い蔦のような物が伸びる。
フレームに巻きついたそれは見る見る太くなりフレームが隠れていく。
しかし、破砕音は聞こえず順調にフレームを包み込んでいく。


「おお、成功か!ECもやるではないか。」
「…そうだね。」
「ちょっとあれ…、何処まで広がるのよ。なにか不味くない?」
「あ。」


無表情ながら少し照れたようなECを尻目に、フローレスカが実験槽を指差す。
そこにはR機のフレームを覆いつくし、さらに蔦を伸ばしてシリンダーいっぱいに成長して、
なお大きくなろうとしている狂った植物があった。
ミシミシとシリンダーが嫌な音を立て始めた。


「これは…バイドが暴走している?」
「そんなことよりっ!緊急廃棄!」
「わかった。」


ECがコンソールにある赤いスイッチを押し込むと、大きなブザーが鳴り始める。
シリンダーの一端に設置された、固定式の波動砲ユニットが稼動し、
シリンダー自体が発光するように波動砲が発射された。
内部にあるバイド化したR機ごと全てを消し飛ばして、平静が戻る。


「…」


無言の三人。一様に顔が青白い。


「…まあなんだ、無事で何よりだ。」
「あれは、R機に付着させたバイド素子が多すぎて、バイド係数が一気に上がりすぎた。
たぶん、もっと量を少なくすればいいと思う。」
「おお、そうだよなEC。失敗にめげずに前に進むことが必要だな。」
「クアンド。あんたは反省しなさいよ。」


____________________________________________________




「よし、なかなか有意義な実験だったな。」
「実験区画を汚染しかけたことを除けばね。」


3人が座って実験結果を読んでいる。


「何を言っている。研究の基本はトライ&エラーだ。」
「それじゃただの行き当たりばったりよ。サーチをいれなさい。」
「でもこの実験で面白い性質が分かった。」
「そうだな。特に装甲の自己修復能力はまだ実戦に堪える内容ではないが、保管中の修繕と言う点ではいいかもしれん。」
「波動砲もユニットが内部に取り込まれているせいか、なんか変質しているわね。」
「この波動砲はなかなか面白いな。蔦状のエネルギー体によるパイルバンカーだな。
すでにスタンダード波動砲の面影は無いし…波動砲の名前はどうするか?」
「地獄づ…」
「アイビーロッドはどうでしょう?」


フローレスカの声にかぶせるように、ECが発言する。


「それでいいか。では早急に計画書を課長に提出してくる。」


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【課長室】


「レホス課長は何時もながら素晴らしいセンスですね。」
「それはどうも、テストパイロットに志願しに来たのかい?」


悪意は無いのだが明らかにけんかを売っているクアンドに、
にこやかに対応するレホス。


「ん?いえ、やはり研究者たるもの人目で研究者と分かる格好をしていないとならないですから。」
「…君、絶対研究者以外の職にはつけないよねぇ。とりあえず、何しに来たの。」
「もちろん計画書を提出に。」


クアンドは胸ポケットから記録媒体を出してレホスに渡す。


「なんで後発組の君の班が2番手なの。基礎実験は…ふうん、ブッツケ本番したのか。」
「ええ、基礎理論があるならば、あとは実験で試行錯誤した方が早いですので。」
「あまり場当たり的にやると実験費カットするよ。実験は確認手段だからね。分かってる?」
「少々急いでいた物で。」
「このレースも少し加熱しているね。クールダウンを早めるかねぇ。」
「えっ。」
「余り系統ばかり増えてもねぇ。」
「問題ありません。このプランはラミ班のB-1Aとは違い、
BI性質と装甲の自己修復能力の開発研究を目的としています。」
「その方針自体は結構だけど、外部向け資料に研究が目的とか書かないようにね。
最近、軍部が五月蝿くて。Op.Last Danceに必要な研究なんだがねぇ。」
「ラストダンス作戦?あれは軍部主導の対バイド作戦ではないのですか?」
「世の中には、君らの知らないことがいっぱいあるんだよ。はい、決済。
…くれぐれも、計画を立ててから動くように。
あまり適当なことすると、本当にテストパイロットにするよ?」


さすがに、少し青くなったクアンドが部屋を出て行く。
一人になったレホスは通信端末を手に取り、どこかに連絡を取る。


「もしもし、レホスです。ええ開発レースは順調です。
ここまで白熱すれば軍部の本格的な横槍が入る前に大方の開発を終えられるでしょう。」


手にもつ情報端末にはOp.Last Dance(極秘)と書かれたデータがある。


「ええ分かってますよ。もう趣味だけで研究を追っかけるようなバカはしませんよ。
そうでしょう?Team R-TYPEとしての、バイド機の開発目的は技術集積ですからねぇ。」


____________________________________________________


「さあ、皆の衆2番手で開発が決定したぞ。問題は栄えあるこの機体の名前はどうするかだ。」
「はいはーい。フリントロッ…」
「マッドフォレストがいい。」


またも声をかぶせるECと、なにか恨みでもあるのかと睨みつけるフローレスカ。


「ふむ、まあ開発が順調だったのはECの功績が大きいし、私もその名前は気に入った。」
「ありがとう。」
「また、私を無視して…」


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B-1B マッドフォレスト完成。


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ネタにした「XEXEX」ですが、作者はくわしく知りません。
でもマッドフォレストに似た主人公機って時点で、なにかもう致命的にだめな気がする。

最近、「提督が往く!」本編よりこっちのほうが筆が進んで進んで。
やっぱり作者はTeam R-TYPEが大好きです。



[25408] B-1D “BYDO SYSTEM α”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/05 23:03
・B-1D “BYDO SYSTEM α”

【開発部長室】



「出張ご苦労様。その辺に座って。」
「これくらい問題はありませんよバイド機の開発は一般研究員の手に渡りましたから。
決済が滞るだけで。」


部屋の中の応接セットにはTeam R-TYPEの開発部長バイレシートと開発課長のレホスがいた。
Team R-TYPEの実働部隊のなかの中心になっている2人だ。
無駄が嫌いな二人は挨拶もそこそこに仕事の話を始める。


「さて、いい時期だからね。これを一般研究員にも公開しようと思ってね。」
「…これはバイド機?いや違いますねぇ、バイド汚染されたR機ですか。」
「そう。軍の基地守備隊が鹵獲した機体よ。」
「ああ、ダンタリオンの技術の元ですね。この戦役の最初の突入時に地上に現れたバイド体でしたっけ。」
「R-9Aアローヘッドが突入作戦を開始した直後に、これがコロニー跡から出現。
これを撃墜するためにR-9Aの突入支援を行っていた試作機が大量に投入されたわ。
結構な量のR機が投入されたけど、パイロットがへぼかったのか撃墜できなかったの。」
「ああ、覚えています。あの研究所からも試作機が投入されましたよね。」
「このバイドは始めこそ逃げるだけだったけど、しだいに凶暴性を増していったの。
で、手に負えなくなった守備隊が試験的にフルチューンしたR-9Aと、
前大戦からのエースパイロットを投入して止めようとした。
結果的には守備隊のR-9Aは撃墜されたけど、敵フォースを引き剥がし、バイド体にもダメージを与えたわ。
その後この機体が海上をふらついて居たところを、水上艦で攻撃。撃墜機を回収したってわけ。」


一気に話したバイレシートはコーヒーを口に運ぶ。


「色々突っ込みどころがありますけど、どうやってフォースを奪ったんです?」
「…R-9Aが足止めしている間に、地上カタパルトに予備のフォースロッドを用意させて射出。
敵のフォースに打ち込んで無理やりフォース化したわ。」
「それ、最後にはフォースロッドシステムが破綻してバイド化しませんかぁ?」
「したわよ。まあ、軍人の思考は、その時どう対応するかだからね。」


「面白いですね。で?部長、肝心なことをしゃべっていませんねぇ。」


コレの中身です。とニヤリと笑うレホスに、同じ笑みで返すバイレシート。


「あらあら、さすがに分かるかしら?」
「そりゃ、僕も部長に鍛えられましたから。」
「コレの中身はR-9Aよ。」
「前戦役時にバイドに侵蝕された機体ですか?」
「50点。これはこの‘Op.Last Dance’作戦当初に飛立ったR-9Aよ。」
「? その当のR-9A出発時に確認されたんじゃないんですかぁ?」
「ええ、機体番号も同じだったわ。」


これが噂の何かの間違いではないのか。ってやつですねと意味不明な事を呟いて、
少しの間、真面目な顔をして黙考したあと、レホスが笑みを浮かべる。


「バイドが送り返してきたと言うわけですか。」
「そう、大規模なものも、一機単位での時間跳躍もバイドに先を越されたわね。」
「でも、この技術は有用ですね。そういえばそのR-9Aの中身はどうなったんです?」
「中身なんてもうなかったわよ。」
「ああ、機体周囲の生体組織材料になったんですね。」


データを見始めるレホスと、コーヒーを口に運ぶバイレシート
暫く、沈黙が降りる。


「ふむ、分かりました。まぁダンタリオンの時点でこの機体の話は知っていましたけど、
で、今、コレを出してきてどうするんです?」
「言ったでしょう。一般研究員に公開するって。これが出ればさらに開発は加速するわ。
だから、あなたが秘密プロジェクトで開発したことにして、バイド装甲機として公開する。
型番は適当に決めなさい。あ、ちなみに解析班での愛称はバイドシステムよ。」
「開発レースをさらに加速させる起爆剤ですね。確かにOp.Last Danceには必要な研究材料ですねぇ。」




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【開発課長室】

「バイドシステムαの発表はあと一系統発案されてからだね。一応僕が開発した事にして…」


固定端末で開発書類を偽造しながら、ブツブツと呟くレホス。
端末のキーを打つ音と呟きだけが部屋に響く。


「…でもさぁ、これ。継続機を開発しちゃいけないなんて事は無いよね。」


しばらく、課長室から高笑いが響きわたる。
B-1Cの開発案をもってきた班長が、ドアの前でその様子に気づき、
出直したのはまた別の話。



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3日後。
B-1D バイドシステムα情報公開


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チラ裏に新しいR-TYPE小説が挙がっていて、これはいかんと思った。
なにがいかんと思ったのかは自分でもよくわからない。

ギャグにならなかった。
このあとレホス課長が暴走してこのβ、λを開発します。
てか、αってつける時点で、すでに後継機を作る気満々です。

次回は飛ばしたアンフィビアンちゃんです。



[25408] Eye Ball Missile
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/12 21:22
・アイボールミッソー


【Team R-TYPE開発部会議室】

「月例課内会議を始めます。今月の司会は私、人型機開発班班長ブエノです。…いつも会議がフリーダム過ぎるので、少しでもまともな会議に近づけるよう努力するように。」


班長のブエノが会議室を見回すと、書類をまとめていたり、論文を読んでいたり、
明らかに意識がここに無かったりと、課員の半数が聞いていなかった。
しかし、ある意味これはまだ大人しい方なので、無視して進める。


「…では、レホス課長、開会の言葉をお願いします。」


「課長のレホスだけど。みんな死なない程度に研究してね。やらかしたら、ちゃんと後始末をすること。以上―。」
「えーと、課長、ありがとうございます。では各班の月例報告を…えーとじゃあ、まずは人型機開発班からということで、班長のブエノです。現在2世代機が出揃ったので後継機候補を選定中です。
白兵戦主体としてTL-2Aアキレウス、砲戦主体としてTl-2Bヘラクレスが候補になっています。
詳細は資料で見てください。…とくに質問はありませんね?はい、じゃあ次はラヴィダ班。」


「ラヴィダ班です。光子バルカン搭載機についてはR-9DV2ノーザンライツで開発を凍結。
軍部からの強い要望があったためです。代わってパイルバンカー機の後継機、
R-9DP2ハクサンの開発に取り掛かります。」


「Wシリーズを開発しているジョー班です。
R-9WFスイートメモリーズの運用データがまとまったので添付してあります。
今開発している機体は機密指定を受けているので、発言は控えさせていただきます。
知りたい方はレホス課長に申請してください。審査を通った方についてはお見せします。」


その後も普通に開発の進捗具合が報告されてゆく。
まだ普通の会議らしい。
各班の報告が終わったところで、司会のブエノが仕切る。


「さて、報告はこれで終了とします。次は…連絡事項、一つ目は私から。」


つまらない案件を課長のレホスが無視したので、そのまま司会のブエノが続ける。


「えーとこれは、総務と施設課からです。総務はバイド性廃棄物の低減について、
施設課はバイド性廃棄物の処理に実験施設の緊急用の固定式波動砲の使用をやめる様にとのことです。」


ブエノが顔を上げると、研究員たちが目線を逸らす。
どいつもこいつも、バイド機(Bシリーズ)研究班のメンバーだ。
どうやら、全員やっているらしい。


「…おい。」
「いやだって仕方ない。バイドゴミって勝手に増えるから。
正規に捨てると量が多いって怒られるし、かといって投棄するわけにはいかないだろ。」
「そうそう、波動砲も減るものじゃあるまいし。」
「失敗作が多すぎるだろ。」
「お前は人型機開発班だから分からないだろうけど、
バイド素子添加装甲の培養で思ったとおりに培養するの難しいんだぞ。
一つ間違うと装甲が目玉だらけになるし。」


そうだそうだと声があがる。

「あーあー、分かった。廃棄物削減は検討中…と。次はBシリーズのミサイル相当兵器について。…これはレホス課長でよろしいですか?」


「あぁ。軍部からの要望なんだけど、Bシリーズに搭載するミサイルが無くて困っているらしいよー。
既存のミサイルはバイド組織と相性悪いらしくて、取り込まれて用を成さないらしいさぁ。」


ミサイルが付かないと正式にR機として認められないんだって。と適当な感じでレホスが言う。
ざわめくBシリーズ開発担当の班員達。
何故なら、この問題がクリアできなければ自分達の機体が陽の目を見ることは無い。
つまり運用データが取れなくなってしまうのだ。
今までのダラけた雰囲気が無くなり、すぐに検討が始まる。


「コックピットブロックみたいに対バイドコーティングすればいいのではないですか?」
「それは、予算的に無理よー。消耗品にそんなことしていられないわ。」
「問題は規格でしょう。せめてBシリーズ内で統一しないと。」
「相性的には、バイド素子を添加したものがやはり有効ですね。」
「やはり、費用が問題だ。所詮消耗品だから効率よくないと。」
「培養するにしても、ロスが…」
「そもそも培養槽がいっぱい…」


グダグダといい続ける白衣達と、
会議を無視して自分の資料をまとめだした課長。
ついでに通常のR機製作班はイライラ顔だ。


「お前ら、後でやれ!てかその前に廃棄物をどうにかしろ。いやいっそ廃棄物から作れよ。」


ピタ


そんな擬音が聞こえるくらいに、見事に全員の動きが止った。
ジギタリウスを開発しているラミ班のオガールが呟く。


「それだ。」
「は?」
「それでいこう。」
「意味が分からん。」
「ブエノお前は我々の救世主だ。」
「会話をしろ。」


突然好き勝手に話を進めだすバイド研究班のメンバー。
内職をしていたレホスも手を止めて面白そうに見ている。
ホワイトボードが引っ張り出される。


「使えそうな素材はあるか?」
「あれだ。眼球状肉腫はどうだ。」
「あの培養が失敗したときとか、過剰培養で出てくる目玉か?」
「ああ、あれ放っておくと膨らんで困るんだよな。」
「そうそう、廃棄するときには廃棄槽が巨大な目玉だらけになってるものな。」


「フッフッフ。こんなこともあろうかとあの現象を解析していてだね。
アレは衝撃で膨張しだすのだが、その際周囲の物質を取り込んで内部に蓄えるんだ。
あれに爆発性ガスとかを取り込ませれば…」


マッドフォレストを開発している班の班長クアンドだ。
スゲーとか、やるなとか、賞賛の声が響き盛り上がる。白衣たち。
そこに、冷や水を浴びえる男がひとり。


「クアンド君、また無駄な実験しねてるねぇ。今回は役に立ったかた見逃すけど、
本当に新型エンジェルパックの負荷実験やってみる?」
「申し訳ありませんでした。」
「まあ、これから他の課との打ち合わせがあるから帰るね。じゃぁ頑張って。」


土下座するクアンドを無視して、レホスが立ち上がって会議室を出て行く。
流れ解散的に消えるその他の班も消えてゆく。
残っているのはBシリーズの開発班と司会のブエノだけ。



「この会議はフリーダム過ぎる…。」




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翌月の会議…


「眼窩ユニットを装着すれば、目玉の膨張を規定の大きさで止められるわ。」
「私は、霧状ニトロを封入する方法を考えたわー。これで爆弾にはなったわねー。」
「この鞭毛っぽいの培養して、後ろにくっつけてみたら。推進剤がいらなくなったぞ。」
「どうせ目玉なんだから、視覚情報で敵を追尾させようぜ。」
「中身変えれば、性質も変えられそうね。」


「もうこの会議やだ。」


こうして開発課の会議はくれてゆく…


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Bシリーズ標準武装‘目玉ミサイル’完成。

B-1A、B-1B、B-1C、B-1D正式配備。

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◎<ヴァー   
いえ、なんとなく書いている時に頭に浮かんだもので…グラディウスは未プレイです。

アンフィビアン…微妙すぎたので無視です。
目玉ミサイルはコメントで見つけてしまったから、書いてみた。
今までのキャラを全部出そうとしたけど、
キャラの書き分けが非常に面倒だったので流れました。
とりあえず、ブエノってのが第一話の班長の名前です。

正直やっつけだが反省はしない。



[25408] BX-2 “PLATONIC LOVE”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/12 21:37
・プラトニックラヴ


【課長室】


「まーた頭の固い軍人さん達から文句がきてさー。見た目を改善しろってさぁ。
君の班って全員女性だったよね。一人くらいデザインできそうだからやってくれない?
後継機は認めないけど第二世代Bシリーズの枠一つあげるから。」
「はい、やります。」
「ああそぉ。機体素材については此方で用意したの使ってよ。
ゾイドとかゲルとかあーゆー柔らか系のバイドの研究を進めたくてさぁ。
機体コンセプトは柔軟素材実験機」

第一世代のバイド機の外見がパイロットの精神に悪影響を及ぼすとして、軍部からクレームが来た。
つまり「グロテスク過ぎるんだよ!乗る方の事を考えろ、ボケ!」と怒られたのだ。
そこで、レホス課長からフィエスタの班に話が降りてきたのだ。
もちろん、フィエスタは二つ返事で引き受けた。
新規枠に釣られたのだ。


________________________________________


「レベッカ、あなたがどちらかと言えばフィーリングを大事にしていることは知っているけど、これはどうかと思うの。」


疲れた顔をした女性が持っているのは、第二世代目バイド機のデザイン案と書かれた書類。
そこに書かれているのはビビッドな色で彩色された機体の外形案。
ピンクだとか、紫、グリーンといった色がふんだんに使われている。


班長のフィエスタと班員のセリア、レベッカが卓を囲んでいる。
卓の上にはデザインの草案がばら撒かれている。
イラストとしては非常に上手いのだが、
どう贔屓目にみてもTシャツのデザインにしか見えない。


フィエスタは班員にはかり、一番絵の上手いレベッカにデザイン案を任せた。
機体の技術については、レホスから大体の指示があったため迷うことは無い。
思い込みの激しいフィエスタと無表情なレベッカ、ため息が多い苦労人のセリアは、
原稿をひたすら眺める。


鏡面仕上げの正八面体だったり、星型であったり、何のためにあるか分からない翼っぽいものがあったり…


「これは何。なんで私マンガイラストの原稿みてるの?」
「可愛いじゃない。それにセリア、案を出さずに否定しちゃだめよ。」
「フィエスタが可愛いって言ってくれた。今度結婚してあげる。」
「あらあら、嬉しい。」
「もう何、この人達…」


無表情のレベッカとニコニコしているフィエスタを見て、ため息をつくセリアだった。
セリアは二人を無視して原稿を手に取っている。
とりあえず、最低限任務に支障の無い形状のものを選定してゆく。
一時選定が終わった辺りで、レベッカとフィエスタが此方の世界に戻ってくる。
フィエスタが一つの原稿に目を止める。


「あら、これ…」
「げ…何そのハート型」
「…かわいい。これにしましょう。」
「はい?」
「私の自信作。」


フィエスタが握り締めているのは、ピンクの機体で、
上からみるとハート型をしている。
しかも濃いラインが機体上を走り回り、ひび割れているようだ。
セリアの感性からするとすごく、趣味が悪い。


「これにのってプロポーズを」とか、「愛を感じたバイドが…」とか、
フィエスタの口からはおかしな単語が出てくる。
完全に自分の世界に入っているフィエスタと、無表情ながら(たぶん)満足げなレベッカ。
このなかでは、異端は自分なのだと思い知り、セリアはまた、ため息をついた。


________________________________________



【課長室】


デスクに座る男は、ストライプのワイシャツにブラックのスラックス。
しかし、白衣はそろそろ裾がほつれかけているし、サンダルは底が擦り切れてしまっている。



「失礼します。レホス課長」
「ああ、君か。BX-2の事?」
「はい、書類が出来たのでもってきました。」


レホスはデータの入った記録媒体を端末に読ませると、
出てきた文章とデータの羅列を読み進めていく。
意外と几帳面で隅から隅まで目をと通し始める。
黙って書類を読むレホスに対して、フィエスタがしゃべり出す。


「この形状のモチーフは愛です。この機体は戦場に愛を伝道しようと彷徨うのです。その途中で彼女は、先に出征し戦場で心を磨耗していたR-9に出会います。彼女は擦り切れそうなR-9について献身的に面倒を見ます。R-9は彼女の純粋さがまぶし過ぎて、自分が汚れているように見えるので邪険にしますが、それでもかまってくれる彼女に次第に心を引かれていきます。しかしそこは戦場、出撃毎に味方がどんどん減っていき、ついに二人っきりになってしまいます。R-9はこう思います。彼女を失うのは耐えられない、と。それならばと、R-9は彼女に黙って次の単独突入任務に志願してしまいます。当日にそのことを知った彼女はR-9を見送ることしか出来ません。悲嘆にくれる彼女ですが基地の人を守るのはもう自分しかいないと、気丈にも立ち直ります。それから暫くして彼女にも単独突入の命令が下るのです。その命令を聞いた彼女は先に発ったR-9が失敗したと悟り、失意の中で彼女は単機バイドの巣に乗り込みます。彼女はバイドを蹴散らしながら進みますが、一体の小型バイドがどうしても振り切れません。遮二無二追従して来るバイドを討つために、バイドの巣の最奥で戦うことにします。肉欲を我慢できず彼女に向ってくるバイド。しかし、彼女は愛を忘れた哀れなバイドに純粋な愛を教えようと、正面から挑みます。敵の猛攻をフォースで弾きながら、彼女はラヴサイン波動砲でそのバイドのコアを撃ち抜きます。バイドは、最後に戦った相手が彼女であることに気付き、止めてくれた事に感謝しながら爆発します。彼女は最後の瞬間爆風の中にあのR-9の姿を見つけて…」


「資料読み終わったけど、そちらの話は終わった?」
「はい、これから第二部に続くところです。」
「その話、支離滅裂だけど、機密も含まれてるから他所でしないようにね。」
「大丈夫です。私は基本研究区画からでませんので。」
「あっそ。で、技術的な話なんだけど、この波動砲は性能としてどうなのさぁ?」
「広域を制圧できる攻撃として、有効です。」
「この軌道でぇ?」
「意外と役に立つと思います。」
「装甲は?スペック上はデブリなんかの衝突に耐えられるようになっているけど。」
「それに関しては今までとそれほど代わりませんね。
どの道コックピットブロックは剛体ですから、一定以上の力が掛かれば潰れます。
装甲の厚みに制限がある以上耐久度は変わりません。」
「なんだぁ、低質量物体の衝突振動がカットされるだけか。」
「でも低速時ならば、通常機体より衝撃に強いです。」
「ふーん、まあ此方の要望はだいたい盛り込んであるから良いか。」


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BX-2プラトニックラヴ完成


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【後日】


「ああ、フィエスタ君かぁ。はいこれBX-2の軍部からの評価書。」
「あ、レホス課長。運用データもう来たんですか?今回はやけに早いですね。」
「運用データというより、一緒に来た意見書を此方に回したかったんだろうねぇ。」


はい、といって渡される意見書。フィエスタが読むとこんな事が書かれていた。


第二世代のバイド装甲テスト機についてTeam R-TYPEとして対応を行ったことについては考慮するが、現場の意見としてBX-2の外見及び武装は、搭乗パイロット及びその寮機パイロットの戦意を甚だ低下させるという結論が出ている。これらのことから鑑みて、地球軍としてはR機の外見の正常化を求める。ここでいう正常な外見とはR-9及びその派生機のうちR-13BまでのR機を指す。機体の特性上、確実にそれが不可能であるならば、第一世代バイド装甲機に類似した外見もやむを得ないものとする。なお…


その意見書には要約すると、
「俺たちが悪かった。元のデザインでいいからアレはやめてくれ。」
であった。
フィエスタが「可愛いのになんで!?」とか「レベッカが可哀想」とか言って、
憤然とした表情になる。


「さて、これで、横槍を入れられずに開発に励めるねぇ。」
レホスは二マリと笑って、そう嘯いた。


==================================================================
妄想話で1500字を目指しましたが、無理でした。
書いている間、背中が痒くて痒くて。なんだこの苦行。
ネタを思いついたはいいけど書いていて心が折れそうだった。
精神的になんか疲れた。

あと、武装がみんなハート型なのに、ミサイルだけ目玉なのがシュールです。



[25408] B-3A “MISTY LADY”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/06/10 00:06
・ミスティレディ



時刻は標準時で昼下がり。
一般には仕事の真っ最中にあたる時間ではあるが、
この研究室では紅茶が供され、和やかなティータイムとなっていた。


「新しい発想とな?」
「バイド装甲機だったか。あれは装甲性能だけではないということか?」
「そう、第三世代機にはそれが求められている。」


発言順にデステム、プエブロ、ドンだ。
平均年齢は50後半で、開発班の中では高齢のグループだ。
特にひらめきを重んじる風潮の強い、バイド機の開発に挑戦する班のなか断突だ。
実際、現在のReam R-TYPEの中でも古老と言ってよい面子だが、
出世はいらないから現場に、と拘って今でも末端の研究班に籍を置いている面々だ。
彼らも彼らで変人なので、例えかつての部下や後輩に命令される立場になろうと、
研究さえできれば全ては問題ないと言い切っていた。


デステムは頭の薄くなった長身の男で、低い声と鷲鼻が特徴的。
プエブロは、しわがれ声の老博士といった風情をした白髪初老の研究者だ。
班長のドンは痩身中背の男で、白髪交じりの茶髪。ちなみに本名は誰も知らない。


紅茶を飲みながら静かに話す三人。
研究室の外からは喧騒―たまに破壊音―が聞こえるが、室内は静かだ。
ドンは開発方針を詰めることから始める。


「若者の役割はその溢れんばかりの活力で、開発を進めることだが、我々にはちとキツイ。
レホス課長の意図がどこにあるか。それこそが我々が考え開発すべきものだ。
お前はどう思う?レホスの教師だったプエブロ。」
「ふむ。アレは学生の時分から自分の趣味や興味を優先するところがあったが、それを直して出世した。
少なくとも今更興味だけで、このお祭り騒ぎを助長しているとは思えんの。」
「興味だけではない。バイド機の開発によって何か得る物があると?」


少し前から新たな発想の機体、通称「バイド機」の開発が急ピッチで進められている。
それこそ、若者―3人は40歳以下をそう呼んでいる―達の間で、開発枠の争奪戦になるほどだ。
今まで、三人の老博士達はこの研究班では静観してきたが、話題としては知っていた。


「レホスの出したレポートにヒントがあるのではないかな。
あのB-1Dは恐らくレホスの作ったものではないだろう。遊びが多すぎる。
アレの趣味ではないの。」
「プエブロが言うならばそうなのだろうが、レホス課長ならば喜んでおかしな機能を付けそうだが…」
「いや、デステム、それだけで課長職にはなれんさ。
レホス課長が今まで関わった機体を見ると、一応発想こそ奇抜だが、洗練すれば発展可能な技術だ。
課長は根っからの研究者のようなので、改良は余り重きを置いていて居ないが。」
「B-1Dが彼の作ったものではないなら、どこかから手に入れたものだろうな。
おそらく、‘バイド機’ではなく、‘バイド’なのだろうが、
所内で出所すら明かせないほどのものを公開してくるとは。本気だな。」


三人の目の前のディスプレイにはレホスの書いたB-1Dの設計企画書が映っている。
その横には膨大なバイドのデータ。
ドンはそれを全て消して、新たな文面を呼び出す。
表紙には「バイド素子添加プロジェクト」と銘打たれている。
それを見ながら、ドンが独り言のように言う。


「今、若者たちは自分の思いついたアイデアを開発することにご執心だが、そうじゃない。
我々の役目はそれで何が出来るかを示すことだ。最強の機体を作ることじゃない。」
「若者はオモチャを与えられれば、直ぐに飛びつきたがるからの。」
「若いものが手数で勝負するなら、我々は少し頭を捻って考えるか。
確かに上層部の者たちの考えは、若者には読めんな。我々の考えるのはそこだろう。ドン?」
「若い者達は、反応の鋭敏性、防御性能、攻撃性など、所謂バイドらしさに拘っているようだが、
そこは余技だろう。それが欲しいなら単純にバイドを捕まえてくればいいだからな。」
「バイド素子はどのような可能性を秘めていて、どのように技術として転化できるか。かの。
レホスも大人になった。一番参加しそうであったが、抑えて起爆剤の投下に留めておる。」


方針を次第に固めていく三人。
データを次々に立ち上げながら、プロジェクトの構想に添って計画を立てていく。
昼過ぎから続いた打合せは、夕刻に差し掛かった時点で一時休止となった。
そして、彼らは仕事の話を切り上げて、食堂に向っていった。


________________________________________


午前の始業時間開始とともに、三人が研究室に入り、打合せを始める。
多くのTeam R-TYPEの面々は、基地内に設定された就業時間など守らない―主に超過勤務という意味で―のだが、
この研究室では奇跡的に機能しているようだった。


「今日の打合せを始める。ではまず昨日の夜の確認から。バイド装甲と通常装甲の相違点は?プエブロ、デステム。」
「常に活動している点かの。」
「常時発現型の機能として有用なもの…それは攻撃には向かず、防御機能になる。」
「ああ、しかし、バリアはフォースとビット以上に有用な物はつくれん。
ここまでが、昨日の内容だが、私が考えたのはサポート機能を付与することだ。」
「しかしドン、単機突入機にそれは必要か?」
「デステム、必要かどうかではない。出来るかできないかだ。」
「班長の言うと居りだの。
このプロジェクトの真の目的は最強や有用な機体を作ることではないようだから、
出来うる技術を余さず実現することに意義があるのではないかな。」
「プエブロのいうとおりだ、だから私はこれを提案する。」


ドンが草稿をプエブロとデステムの端末に送信する。
端末を操作して草案を見る二人。
概要を流し読みして、ほう、と息をつく。
そして、すぐに面白そうに目が細めて、直ぐに関連技術の論文を検索し始める。
しばらく無言の時間が続いた後、代表したようにデステムがそれを読み上げる。


「霧状防護膜実験機。そうか、装甲そのものではなく代謝物に目を向けるということか。」
「これはこれは、班長も面白い物を考えるの。
物理防御性能ではなく、煙幕のような物で被弾率を下げると。」
「第二世代実験機は柔軟な装甲を追求したもの。しかし、性能は今ひとつだ。
では装甲そのものの物理耐性ではなく、装甲の意義を変える機体を考えてみた。」
「ふむ、そもそもあのプラトニックラヴの発想もレホスの息が掛かっていそうだの。
他の班の名義で出したのは露骨な誘導では、その他の発想の種を潰しかねんからか。」


一見、穏やかに談笑しているようで、会話自体は非常に物騒だった。
明らかに外見と会話の内容が合致していない。


「そう、ただ他の技術で代用が効くものを作っても意味が無い。
いかにバイド由来の特殊性能を引き出せるかが、このプロジェクトのミソだ。」
「では、我々の午後の仕事は考えうる特殊性能と、その材質を探ることか。…プエブロ何か案は?」
「我々は今までバイド機には携わっていないから、今すぐには出んの。
しかし、我々に情報提供を申し出ている者がおる。」


プエブロが関連論文を引っ張ってくる。
他の研究班―彼らの言葉で言うと若者―がまとめた、素子培養の失敗実験をあげた論文だ。
それを見て、にやりと怪しい笑みを浮かべる三人。


「プエブロの言うとおりだ。情報提供者はいっぱいいるらしいな。
なんとももったいない、若者達はこの宝の山には興味が無いらしいぞ。」
「彼らの開発思想と我々の開発思想は多少違うからな。同じ見方をするなら我々がいる意味が無い。」
「せっかく、パーティーの準備をしてもらったのだから、招待を受けるのが紳士というものだの。」


デステムが大仰に肩をすくめて、演技がかった口調で言うと、
ドンとプエブロが苦笑しながら、続けて皮肉を言う。
他の開発班が失敗と判断したデータから、候補を拾い上げてゆく。
物理耐性が低くても、特異な反応を見せるものが集められる。
やがて、三人の老研究者達はそれぞれの実験の用意を始めた。


__________________________________________________


【第一種バイド実験設備】


実験区画では、バイド機の研究を行う研究者用に、特別区画が設けられている。
‘バイド性廃棄物処理にについて、緊急用の固定式波動砲の使用を禁止します―施設課’
と書かれた張り紙が入り口にはしてある。
バイド機開発ブームもあって、区画は全て埋まっており、活気がある。
その中の1つの区画に、防護服に身を包んだ3人の老博士達がいた。


「これはどうだろう。ドン。」
「霧状防護膜試作No.26か。これはなかなか拾い物かも知れんな。」
「ああ、物理耐性は皆無だが、この情報遮断する性質はいい。」


正面のシリンダーの中にはR機のコックピットブロックに装着されたバイド装甲があるはずだが、
真っ白に煙っていて何も見えない。
ついでに、その煙幕はレーダーやその他の実験機器の探査をことごとく無効化しているので、
三人は旧式の赤外線探知型のサーモグラフィーを引っ張り出して観察している。
が、画像が荒く、データ精度にも難があるため、実験は難しいものとなっている。


「煙幕の発生濃度も比較的良好だの。あと波動砲との親和性もある。」
「それは重要だな。何せ波動砲を撃つたびに丸裸になっては意味が無い。」
「ただ、余りにも波動砲が非力だ。」
「そうだな、ドン。装甲維持にエネルギーが必要だから波動砲が非力だが、
もし威力がたりないならば補えば良い。」
「…もしやデステム。あの失敗作の酸性ガスを添加するとな?」
「ふむ、単体では役立たずだが、ありだな。やってみよう。」


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【課長室】


デスクには清潔感のあるワイシャツにグレーのスラックスをはいた部屋の主。
しかし、足元はサンダル―とうとう寿命が来てガムテープで補強されている―で、
メーカーものの上着の変わりに、数々のシミの付いた白衣を着ている。


「プエブロ教授の班のドン班長ですか。珍しいお客さんですねぇ。」
「別に先週あったじゃないですか。レホス課長。」
「まあ、定例会議があるから顔は合わせるけど、課長室にわざわざくるなんてねぇ。」
「最近基礎研究が多かったですからね。企画書を提出しに着ました。」
「企画書?今は新しいR系統機は出してなかった気がしたけど…ん?B系統機?」


記憶媒体から企画書データを呼び起こしてみると、レホスが驚いた顔をした。
目の前の男の班は、昔ながらのR機の開発に関わっており、
今までバイド素子添加プロジェクトには全くアクションを起こしてこなかったのだ。
その班から第三世代バイド装甲機とかかれた資料を見せられるとは思わなかったのだ。


「珍しいこともあったものですね。あなた方がバイド機の開発に参加するとは。」
「なに、若者のやり方を見ていたら、ちいと助言したくなりましてな。」
「助言?」
「上の意図を読んで開発するということですな。」
「口で伝えればいいのでは?」
「それでは若者のためになりますまい。」
「それで態度で示すために、これを?」
「ええ、もちろん中身は詰めてありますよ。」


以下に年上の相手だろうと、態度を変えないレホスだが、
―その所為で外部からの評価は最悪に近い―
流石に自分の子供の頃からR機を開発している、目の前の科学者には、
最低限の敬意を払っており、無意識の内に口調が微妙に改まっている。


「このレーザーの仕様は?」
「指向性の問題ですな。機体形状から上方へ向けることは出来ません。」
「もしかして波動砲もぉ?」
「波動エネルギーをスプレーに載せているので、どうしても指向性が付きますな。」
「このジャミング性能は見所があるけれど、視界最悪では?」
「滅多なことでは姿をさらけ出さないのが淑女というものです。
眼球状肉腫を改良したレーダーを神経に直接接続しますので、そこまで問題ないでしょう。」


何時もなら、機体性能を口実に追い返すが、
相手が此方の手の内を読んでくるので対応に困るレホス。
少なくとも目の前にいる老人は、バイド機に戦闘能力が求められていないことを知っている。


「…なんてパイロットに優しくない機体。」
「あなたに言われたくは無いです。そもそもバイド機で勝つつもりは無いでしょう?」
「そこは、余り他所で言って欲しくないですねぇ。」
「その辺りは心得ています。」
「まぁ、集団戦法に向いた機体の研究と思えばぁ…何とかなるのか?」
「どうでしょう。実証するのは外の人間でしょう?」
「確かに。…まあ、技術革新は行っているから許可します。
明日書類を上げるので正式開発はそれからにしてください。」


ドンが後ろ向きのまま一言呟いた。


「そうそう、管理職はどっしり構えて指導するのが仕事です。説明が面倒だからと言って、
餌で釣って、部下を操縦しようと言うのはいけませんな。それではGood Afternoon!」


ドンがTeam R-TYPEに似合わない挨拶をして部屋から出て行くと、
余裕のある表情をしていたレホスが、ため息をつく。


「…これだから、じいさん達は苦手なんだ。」


________________________________________


【試験格納庫内】


「AIによる仮想性能テストをみたかね?」
「ああ、あの劣化AI試験か。私は見ていないのだが。」
「とうとう、あの試験でR-13系統を破ることが出来たようだの。」
「まあ、あの試験は余技だし、AIもバイドを模したらしくて頭悪いからな。」


新規機体の指標の一つとして行われる試験で、
AIを搭載してR機同士の演習を行わせるのだ。
その昔、バイドが鹵獲できないころに考案された試験だが、
バイドが培養可能になった今では、正直時代遅れの実験だ。
それでも続けられるのは、対外的にはバイドの培養が伏せられているので、
一般に落とせるデータが必要だからだ。


今までの結果ではR-13ケルベロスの系統が最強系統となっていた。
これはひとえに誘導性の高いライトニング波動砲のおかげだ。
これは頭の悪いAIの思考ルーチンの影響が強く、
本来性能を表さないとしてTeam R-TYPEから嫌われている。


「最強が最良とは限らないな。」


ドンが紅茶を飲みながら、呟く。


「昔、戯れに話していたものだの。
実用面における最良とは飛びぬけた性能ではなく、最高の汎用性だと。」
「最良の機体か。是非に作ってみたいものだ。」
「それは我々の仕事ではない。我々老人は筋道をつけるだけ。あとは若者の仕事だ」
「違いない。」


その日、三人の紳士に一機の淑女を加えて、試験格納庫でお茶会が開かれた。


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B-3A ミスティ・レディ開発完了。


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こんにちは。失踪していた作者です。
最近、理想郷が過疎り気味と聞いて来てみました。

今回のテーマは「英国紳士」でした。名前がスペイン語なのは気にしちゃいけません。
男だらけのお茶会。ミドルもいいですけどお爺ちゃんもいいですね。
「淑女」って響きが英国っぽいのでこうなりました。

FINALではネタ機扱いされる霧女さんですが(TACTICSⅡでは強いんですが…)、
なにか理由をつけようと思ったら、こうなりました。
乗る人のことをまったく考えていないのが、Team R-TYPEです。



[25408] B-3C“SEXY DYNAMITE”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/04 21:19
B-3C SEXY DYNAMITE


※警告!警告!
本作品には【R-15_ELO】が出撃中です。
下ネタ耐性の無い戦闘員は退避してください。
 (ゴマンダー様で笑えるR-TYPERなら問題ないと思います。)













培養槽の中に湛えられているのは、
流動性の低い高分子が結合した液体のようだった。
特定の可視光を反射するため、人間の目には鮮やかなピンク色に見える。
シリンダー状の培養槽で照らされる様子は、前衛的なオブジェのようだ。
シリンダーを通して向こう側を見ていると、稀に揺らぎがみえることから、
中の流体が蠢動していることが伺える。


培養槽に防護服を着た若い男が近づき、横に備えつけられた操作ボードを弄る。
短い警告音を発して、培養槽に備えつけられた排出バルブが開く。
ビチャリという形容し難い音を立てて、排出バルブから滴る高粘度の液体。
液体が滴る先には、底の浅い容器が用意してあり、
トロトロと容器の形に添って液体が溜まっていく。


その様子を見ているのは三人の防護服の男達。


「これは…」
「いや、材料はともかく。」
「…ローションだな。」



三人の研究者たちはゴクリと唾を飲み込んだ。


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「………ふぅ。」
「その発言はどうかと思うぞ。レクエルド班長。」
「精神的抑圧から身体を開放した後に発する感嘆詞だ。」
「精神的? 肉欲的の間違いだとおもうのだが、どう思う? テラー。」
「どうでもいいよ。」
「ジェガール。テラーも賢者モードだから、何を聞いても無駄だとおもうぞ。」
「変態どもめ。」
「いや、お前も魔法使い候補だろ。」


白衣のそろそろ青年と言えなくなりつつある三人の男達。
研究室に集まってぐったりとしている。
気だるい雰囲気が支配していたが、リーダーのレクエルドが仕切り始める。


「さあ、みんな研究を始めよう。古くからインスピレーションは性欲と密接に関わっているというからな。」
「まあ、いつまでもこうしているわけにも行かないよな。やろうか。テラーもほら。」
「ああ。」


未だ、此方に帰って来られないテラーをほおって話を始めるレクエルド班長とジェガール。
端末にデータを呼び出し、ホワイトボードに字を書き連ねる。
『新型バイド装甲の可能性について』
汚い字が書き連ねられる。


「さて、今回失敗と思えたバイド素子培養実験だが、俺としてはアレもありじゃないかと思う。」
「流石に液体では使えないだろう。」
「いや、さっきわかったのだが、あのゲルは外部からの衝撃で固化するようだ。」
「ダイラタンシーかい?」
「うわっ、テラー復活したのか。ダイラタンシーって片栗粉と水を混ぜたときのアレか。」
「それに近い性質だ。」
「ふうん、装甲表面に個体相をもってこられれば装甲化は一応可能だな。」


ダイラタンシーとは液体と粒子の混ぜたときに起こる現象で、
力を加えて粒子が密集すると強度が増し固体になり、力を加えるのを止めると液体に戻る。


「…ところで、レクエルド班長。なんでそんな事を知っている?
さっきは実験する暇なんてなかったろ。」
「…。」


テラーの素朴な疑問に、目を逸らすレクエルド。
それを見て不審に思ったジェガールが更に突っ込む。


「レクエルド? 何をしたんだ。怒らないから言ってみろ。」
「…実はちょっと、どんな感触なのかとか、こう、ムラムラ来てさ。」
「………感触? お前まさか…!」
「ちッ違う! 流石にバイドの中に直接なんかじゃない。ちゃんと防護したさ!」
「そういう問題じゃない!」
「分かるだろう。そういう時の男がいかに頭が悪くなるか!」
「…で、どうだった。」
「培養していたやつだからな。初めは暖かくて良かったが、
いざ圧力を加えたら固くなって折れそうになった。」
「…病気だな。」
「Team R-TYPEだからな。全員病気だよ。」


冷たい空気が流れる中、今まであまり会話に参加していなかったテラーが発言した。
目の泳いでいたレクエルドと、ジト目のジェガールも理性を取り戻す。


「で、どうするの?」
「ん、ああ、面白い性質だし研究してみよう。」
「そうだな、目処が立ったら新型バイド装甲機に上げてみよう。」
「とりあえず、計画を立てよう。」


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一週間後、研究室には実験結果を睨む男達。
端末には多くのグラフや数値が浮かび、処理結果を吐き出し続けている。
モニタには実験のスローモーション映像。


「なんというか、意外と高性能だな。コレ」
「低速のデブリくらいなら、衝突面を固化させれば良いし、
小型レールガンクラスの銃弾までくらっても、液化させれば装甲は再生可能だ。」
「ああ、エネルギーを疑似質量変換して、切り離す事もできる。」


バイドゲルは意外と高性能で、三人の本能に根ざした冗談で始めた研究は、
いつの間にかメインの研究テーマとなり、
本気でBシリーズへの登用を考え始めていた。
三人はこの特殊な性質のバイド物質にBJ(Bydo Jerry)物質という名称をつけた。


「これ波動砲に応用できないかな。」
「?」
「波動エネルギーをバイドゲルで疑似質量変換するのか?」
「そう、あの相対速度で疑似的とはいえ、相当量の質量をもった物体と衝突させれば、
かなりの破壊力を期待できる。」
「…有り、だな。」
「見た目がきっとアレな事になるが、いいんじゃないか?」
「あと問題はあれだな。」
「…ああ、あったな致命的なのが。」


テラーが端末を操作すると、画面に実験映像が再生される。
画像を面倒臭そうに覗き込むレクエルドとジェガール。


R機のコックピットブロック内部のカメラで撮影された画像。
グチャリという衝撃音や、振動が見て取れる。
簡易テストでの装甲耐久実験の映像だ。
しばらく、単調な画面が続くが、ある時を境に異変が起こる。
コックピットブロックのパッキンの隙間からBJ物質が侵入してきているのだ。
そのまま、じわじわと内部に侵入してくるBJ物質。
15分経過したころにはコックピットは半分以上がピンク色のゲルに侵蝕されていた。
そこで、ブツリと映像が切れる。


「…コックピットでパイロットのローション漬けが出来上がるな。」
「気持よさそうだな。きっとそのまま本当に昇天できるだろうさ。」
「死ねるのか。それ?」


レクエルド、ジェガール、テラーがそれぞれ意見を言う。
このままでは、どのようにしてもコックピットに侵入してくるBJ物質は欠陥装甲となってしまう。


「とりあえず開閉部を溶接して物理的にBJ物質とコックピットを切り離そう。」
「当面はその方法しかないな。」
「もったいないな、せっかくの神経伝達触媒物質なのに…。」
「無茶言うなよテラー。非接触でも反応速度の向上がみられる。これから研究すればいいさ。」


_______________________________________


【課長室】


デスクに座っているのは、汚い白衣ときっちりとキメたワイシャツ、スラックスを装備した、開発課長のレホス。
サンダルはとうとう寿命を全うしたらしく、真新しい便所サンダルに新調されている。


「誰かと思ったらー、レクエルド君かぁ。ん、R機案か。」
「はい。Bシリーズの案を持ってきました。」
「みんなしてバイド機、バイド機ってバイドは逃げないよー。」
「Bシリーズの開発枠は逃げるじゃないですか。」


資料を手渡すレクエルド。レホスは記憶カードを端末に差し込むと、
データを精査していく。
ふーん。とか独り言を言いながらデータを眺めているが、
気になる事があると突然質問が飛んだり、ダメ出しが入るので、
ヒラ研究員にとっては緊張する瞬間だ。


「さてとぉ。」
「…課長、ゼリー状フレーム機はどうでしょう?」
「うーん、これでふざけたデータだったら、実験のままにBJ物質漬けになってもらおうかと思ってたんだけどー。意外に行けそうだから許可だそうかぁ。」
「それは勘弁して下さい。」
「君の所感にも書いてあるけど、まだまだ伸びる可能性があるからBJ物質の研究は続けてね。」
「はい!では細かい仕様を詰めてきます。」


意気揚々と課長室を出てゆくレクエルド。
30近くの男が、今にも鼻歌を歌いだしそうな調子でいるのは、傍から見て気味が悪い。
課長室の扉が閉まったあと、レホスは端末を弄り動画を呼び出す。
画素数の足りないその画像は、どうやら監視カメラで撮影されたものらしい。
BJ物質の培養槽の前で怪しい動きをする人影が映っている。


「ふふん、レクエルド君はバイド実験室に監視カメラがある事分かってなかったのかなー。
…まぁ、何にせよ是で僕のオモチャが一人増えたなぁ。」


端末には30前童貞男の悲しい生理現象を証明する映像が再生されていた。


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B-3C セクシーダイナマイト完成。




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セクシーフォースで触手プレイを想像した奴は、作者と一緒にバイドゲル温浴な!

…本当にすみません。エタりから復活したと思ったらこんな作品で。
セクシーダイナマイトだからはっちゃけてもいいと思ったら、やりすぎた。
今は反省しています。



[25408] The ARVANCHE Trap
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/14 10:21
・アーヴァンク トラップ




会議は踊る。されど進まず。


そう評されたのは旧暦19世紀のウィーン会議であるが、
現在、Team R-TYPE開発課の月例会議が、その様相を呈してきている。
解決すべき事案が堂々巡りの末に、まったく進まない。
すでに、延長戦も第三回に入ろうとしている。


いつもであれば、行き詰った議論は寝かされ(場合によっては闇に葬られ)て、
誰かが再度発見、解決するのを待つのであるが、
今回の件ではそうもいかない。
この件がボトルネックとなって、全バイド装甲機の新規開発が停止しかねないのだ。
これに焦るのはバイド装甲機の開発班のメンバー達。


「何故だ! 何故これだけアーヴァンクの装甲組織を解析しても、ブレイクスルーの欠片も掴めないんだ!」


一人が、苛立ち紛れに両手の拳を会議机にたたきつけると、
乱雑に詰まれた資料や記録媒体が飛び跳ね、いくつかが机から零れ落ちる。
直ぐに誰かからの罵声が飛び、会議室に嫌な雰囲気が充満する。


「五月蝿い。怒鳴るな、黙れ。」
「黙ったら会議にならないだろう! 黙るより先に意見を出せ。」
「みんなでそれを考えてるんだろう!」
「若い者は血気盛んですな。いっそ、いったん休会してはどうかな?」
「そんな事を繰り返してもう三回目です!」
「みんな、落ち着こうよー。」


このところ出口の見えないストレスに晒されている人間が集まるこの場では、
わが道を往くことの多いTeam R-TYPE研究員たちも喧嘩腰になっている。
もっとも、この場に居るのはバイド装甲機、いわゆるBシリーズの開発班の面子だ。
正当R機―バイド装甲機の有用性に懐疑的な研究者はBシリーズ以外の機をその様に呼ぶ―
の開発班は最初の月例会議で報告を済ませて、現在それぞれの研究に邁進している。
課長のレホスは延長第一回の会議で、「結論が出るまで大いに議論せよ」(大意)と、
命令したきり課長室に引っ込んで、何か大量の資料を集めている。


つまりBシリーズ研究班の面子ばかりが連日集まり、
熱く、
激しく、
そして、無為な議論を交わしているのだ。


「でも、言うとおりだ。X番は新規技術テスト機に着けられる機体番号だからな。
アーヴァングに与えられたのはBX-4。
バイド装甲機第4世代のテスト機だから、そこから得られる物を見つけ出さなければ先が無い。」
「今の所、アーヴァンクの直系で開発に着手したのは、攻勢バイド装甲を持つクロークローだけだな。」


R機はその形態や系列によって、固有の開発番号が割り振られる。
始まりのR機R-9アローヘッドから始まった(正式な開発番号はR-9A)Rの系譜は、
直系後続機のR-9A2デルタや、長射程波動砲を誇るR-9Dシューティングスター、
早期警戒機R-9Eミッドナイトアイなどの系統を生み出しながら加速度的に、
その子孫を増やした。
そして、ついにはルビコン川を越えて、Bシリーズ―バイド装甲機群―の開発に着手した。


それらの過程は決して平坦な物ではなく、天才揃いのTeam R-TYPEの研究者をもってしても、
技術の壁にぶつかっては、努力―執念と言い換えてもいい―とひらめきによって、
ブレイクスルーとなる技術を創造し、革新的な機体を生み出してきた。
その過程で、未知の技術を導入したり、発展性の高い技術を導入した、
系統の核となるテスト機に割り振られる開発番号がX番なのだ。


R-9A以降に「X」をつけられているのは、

試作機として、Team R-TYPE外の血を取り入れ、ラウンドフォース以外のフォース形態を模索した
特殊フォーステスト機 RX-10アルバトロス

特殊武装テスト機として波動砲の可能性を追求した
R-9AXデリカテッセン、R-9AX2ディナーベル

加速機構を追加し、従来のR機以上の機動性を求めた
可変機構テスト機 TX-Tエクリプス

追加武装であるポッドを装備し、独自の改良を進めた
軌道戦闘機改良試作機 OFX-2ワルキュリア、OFX-4ソンゴクウ

悪魔の技術を積極的活用という「ルビコン川を渡る」契機となった
バイド係数増大化試験機 RX-12クロス・ザ・ルビコン

機体そのものにバイド素子を用い、全てのBシリーズの祖となった
バイド素子添加プロジェクト試作機 BX-Tダンタリオン

装甲には硬度が必要という常識を打ち破ったバイド装甲機
柔軟素材実験機 BX-2プラトニック・ラヴ


そして、再び硬化バイド素材に立ち返り、そのバイド係数を限界まで増大させた
ウロコ状装甲テスト機 BX-4アーヴァンク…


Team R-TYPEの研究員にとって、これらのテスト機から情報を引き出し、
次の研究開発に生かすことは、至上命題となっている。


「バイド素子の培養条件を変えても、アーヴァンク、クロークロー以上の素材は出来ないし…
いっそ武装を考えるか?」
「話が逸れてるよー。バイド装甲機なんだから機体性能を改良しないとー。」
「しかし、アーヴァンクの鱗状装甲の培養エネルギーの数値って、これ以上どうにもならなくないか?
現状ではどうすればいいのか分からん。」
「みんな、これだけの頭脳が知恵をだして糸口が見つからないんだ。やり方を変更しよう。
科学者としてではなく、我らが隣人、軍人達のやり方を学んでみよう。」
「軍人のやり方? ゴリ押し?」
「むしろ、これだけ頭数が揃っているしな。スマートでないが人海戦術だろう。」
「…つまり、バイド装甲の培養ステータスを総当たりで解析しようと? 正気か?」



バイド装甲は培養槽で制作、増殖されるがその培養条件によって実に様々なパターンを見せる。
大抵は失敗し、無意味な肉腫状組織となり廃棄されるが、特定の条件下で装甲に利用可能な、
組織となることがある。
しかし、今までの条件はすべて研究者個人の感性によって生み出されている。
はっきり言うならば偶然に見つかったにすぎない。


「あとが無いんだ…やるぞ。」


________________________________________


再び会議室。しかし、前回の会議より2週間の時が経っている。
全員机に突っ伏して、資料など見ていない。


「な、なぜだ。なぜこれだけやって…」
「アーヴァンクの初期設定からの成功例はクロークローだけですね。」
「どうすんだこれ、そろそろ次の月例会議だぞ。」
「ドつぼだな。」


ため息だけが漏れる非生産的な空気。
いい加減に痴話喧嘩する気力もないため、
グチのようなものが交わされる。


「…なんでクロークローは作れたのに、他はダメなんだ?」
「ここがバイド装甲機の終着点ってこと?」
「そもそもアーヴァンクとクロークローの違いってどこだよ。」
「素材だろ。」


突然一人が動きだし、机の資料を漁りだす。
汚く積まれた資料が机からこぼれるが気にしない。
机の底からデータを探し出す。
みなが記憶するまで読み込んだ各バイド装甲機の基礎資料だ。
付箋だらけの資料を開き、何かと見比べる。


「…あった。」
「何が?」
「見つけた。 これがブレイクスルーだ。」


現実には実験、追試で確かめなければそのインスピレーションが正しいかは分からないのだが、
研究者としての第六感の様なものが、彼に当たりであると告げている。
ただならぬ同僚の様子に、周囲の人間が彼の手元を覗き込み、目を見張る。


「分かったか。アーヴァンクとクロークローの致命的な違い。クロークローは培養初期に低出力波動砲を照射している。クロークロー開発班は不要な組織を焼き切るためと注釈を付けているが、不適当だ。
クロークローはアーヴァンクよりバイド係数が僅かながら低い。
つまり、クロークローはその培養過程でバイド化をわずかに抑制されている。」

「そういうことか。それならアーヴァンクがX番だったのもわかる。
バイド係数の頂点というターニングポイントだったのか。」
「そう、これ以降はバイド係数を抑える処理が必要になるだろう。」
「出口が見えたな。」
「やろう。総当たりで月例会議までに突破口を開くぞ。」


再び、人海戦術を行うこととなったが、徹夜続きで淀んでいた目には再び光が戻っている。
Bシリーズ研究者達の目は好奇心でギラついていた。


________________________________________


「素材ごとのバイド係数の周期表作ってみたぞ。」
「OK。」
「良くやった! よしどれどれ有力培養素材候補は…はあ?」
「Au…?え、レアメタル?」
「そう、レアメタル。候補はAuとPt。金とプラチナだ。」
「そうか、安定性の高い元素でバイド侵蝕を抑えるのか。」
「もとの素材を保ちながら、バイド素子の持つエネルギーを利用する。
真のバイド装甲機の真価はバイド組織にあらずってとこだな。」
「だから安定性の高いその2種を使うのか。」
「しかし、予算っ食いだな。どうしてくれる。」
「…私に良い案があるわ。」






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セクシーダイナマイト2はちょっと書いたらXXX板行きになりそうなので、カット!
ついでにアーヴァンク、クロークローも特段書くべきこともないので、カット!
ということで、表題は「アーヴァンク」になっていますが、アーヴァンクの開発風景でなく、
多くのTYPERを罠に嵌めた「アーヴァンク・トラップ」についてです。
なんかいつもより重いし、地の文の量も増えてる。これも罠だろうか。


よし、これでレアメタル系列に入れる!…エタらなければ


追記:ああああああ。やっちまった。Ag(銀)とAu(金)を間違えたーーーー。
修正します。orz




[25408] B-5B “GOLDEN SELECTION”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/15 19:55
B-5B “GOLDEN SELECTION”


「バイド係数、目標値を越えています。なお上昇します。」
「っち、また失敗か。」
「教授、波動砲でフッ飛ばしましょう。」


シリンダー型の培養槽の中で、膨張するように蠢いていた金属片が、青白い光に消し飛ばされる。
内部には何も残らない。
自動的に冷却が行われ、操作盤の計器がレッドランプからグリーンランプに変わる。
アームが伸びてきて、金属片がシリンダーの中央に固定され、
続いて、霧状の物体が塗布される…バイド素子だ。


「次は設定264だな。毎回毎回吹き飛ばすのも面倒だな。」
「それにしても何kg分の金を宇宙の塵にしたのでしょうね?」
「この実験では50gのシートをつかっているから、単純計算で13kgだな。あくまでこの実験では。」
「インゴットですね。指輪が何個作れたかしら。」
「これだから女は。アレだけの有用性がある元素をただの装身具にするとは。」
「まあでも、稀少価値のある元素を、身近な形で保持しておくことに意味はありますよね。」
「ふむ、いざと言うときの為の資金源としてならまだ分かる。」
「ええ、月収3ヶ月分の指輪って、きっと離婚したときのための生活費のために在るんだと私思うんです。」
「ふむ、なるほど収入が半減する元配偶者に対する福利厚生か。君はなかなか鋭い。」
「ありがとうございます。」


ずれた会話をしているのは、このBシリーズ第五世代機の開発を割り振られた教授と助手だった。
本来ならばTeam R-TYPE開発班から意見を募り、開発が任されるのだが、
今回はTeam R-TYPE研究顧問となっている男に開発が任された。
レアメタルが多量に使用されるという特殊性のため、外部の目が厳しかったのだ。
さしものTeam R-TYPEも異様な額の見積書(基礎研究段階)から、地球連合政府の目をそらすことは出来なかった。
なので、Team R-TYPE上層部は、この開発に外部でも知名度のある「教授」をあてがうこととした。


「教授」は50代の白髪のいかにもな博士スタイルで、人好きのする顔をしている。
助手は女性で、20代後半の可も不可もないあまり目立たない顔をしている。
一見すると、普通の大学の研究室の光景であるが、
ここではバイドを培養し、普通の人間の年収に以上の材料を1日で消費している。
まともな神経では勤まらない研究だ。


「ふむこれで終りかな。助手くん、有用な設定をピックアップしておきなさい。」
「いい加減に名前を覚えてください教授。」


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「ふむ、つまり鋳造中からバイド素子を混ぜ込むのが、もっとも適切かね。」
「ええ、他の段階だとムラが出来て、低バイド係数に収まらないんです。」
「専用の溶鉱炉を作らないといけないな。」
「耐バイド素子仕様の溶鉱炉ですね。金は融点低いから炉の性能は低くても大丈夫ですね。」
「ただし、温度の設定をコンマ2桁で出来るようにしないとならないから、最新の物を使用する。」
「小型溶鉱炉から、作らなきゃですねー。採算合うのかしら?」
「合わなくていいのだよ。ところでテスト機は何機製造予定だったかな。」
「テスト用に3機です。」
「まぁ、その3機以外に作ることもあるまい。」
「いいですねー。Team R-TYPEの直轄はお金があって。」
「まったく研究には金がかかるからな。」


そういいながら、食堂で一番値段の安いラーメンをすする二人。
昼下がりの食堂はすでに人もまばらで、ほとんどはコーヒーを啜りながら、
シフトを終えて、午後の談笑をしている様な人員だ。
食堂職員も混雑する時間が終わり片付けにはいっている。


教授と助手の胸にはTeam R-TYPEの文字。
その名札は軍部限定で、人を寄せ付けないお守りの様な効果を発揮する。
今もお守りはその効力を発して、彼らの半径5mに近づく猛者はいない。
周囲にはポッカリ穴が開いて異様な空気だが、
二人は何も気にせずラーメンのスープを飲み干す。


Team R-TYPEの関係者には、何事にも動じない精神力が必要不可欠なのだ。


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「教授―。重すぎて設備のアームが折れそうです。」
「なんたって金だからね。装甲を薄くしよう」


「教授―。装甲が柔らかすぎて用を成しません。」
「いや、実際の戦闘では当たったらほぼアウトだし、いっそ極限まで薄くしよう。」


「教授―。装甲を薄くしすぎてザイオング慣性制御システムを切ると機体が崩壊します。」
「バイドの力を持ってしても装甲5mmは難しかったか。よし内部のスリムアップを図ろう。」


「教授―。内部を軽量化したら、打撃力がダメダメ。本末転倒です。」
「ふむ、この系統は多彩な攻撃が肝だからな。装甲とのバランスをとろう。」


「教授―。会計課からこれ以上特殊予算使うなら首くくるしかないって言われました。」
「勿体無い。検体として貢献するべきだ。彼にすぐにここに来るように伝えなさい。」


「教授―。」
 ・
 ・
 ・


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「教授―。試作機のロールアウト日が決まりました。」
「お疲れ様。いやー長い仕事だったね。」
「そうですね。主に溶鉱炉が出来るのを待つのが。」
「それはそうだ。使い捨て設備とはいえ、バイド関連なら手を抜くわけにはいかないからね。」
「でも、その無駄な時間のお陰でフォースも力作になりましたし、塞翁が馬というやつですね。」
「ゴールドフォースかね。費用は掛かったがなかなか面白い物になったね。」
「セクシーダイナマイトの疑似質量変換の応用でフォースの性質があそこまで変わるとは発見ですね。」
「じゃあ助手くん。全部資料をまとめておいてね。」


教授は役目が終わったとばかりに資料を投げ出して、新しい研究テーマを考え始め、
助手は満更でもなさそうな顔をして、毒づきながらも資料をまとめ上げた。
Team R-TYPE上層部はBシリーズの最終系統の第一作が順調に進んでいることに喜び、
末端研究員は、面白そうな研究に自分達が関われなかったことを悔しがっている。
査察官は半分以上が黒塗りの書類の山を見せられて顔を引きつらせ、
会計課は実験資材の見積書の額を見て、自分の乱視を心配したり、頭を心配したり、
タイプミスであることを期待したりしながら書類を精査し、矛盾が無いことを確かめると、
胃を抑えながら事務を行い、その日は早退していった。


フォースなどの作成に一部の人間の暴走があったが、
さまざまな人を巻き込みながら順調に形作られていく。


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「完成だね。助手くん。」
「ええ。博士。」


出来上がったのはB-5Bゴールデンセレクションだった。


後日、政府の予算修正会議で、膨れ上がった使途不明金や機密費の多さに、怒号が飛び交った。




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プラチナハートやダイアモンドウェディングの影に隠れて、
いまいち不遇なゴールデンセレクションでした。

教授と助手はあれです。いい加減名前を考えるのが面倒になったので。



[25408] B-5C “PLATINUM HEART”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/21 23:54
・B-5C “PLATINUM HEART”



かつて、人類はその進歩と宇宙への進出の証として、スペースコロニーを建造した。
研究用、商業用、軍事用そして居住用の仮の大地として。
宇宙は大いに賑わい、地球周辺宙域には多くのシリンダーが浮かべられた。
しかし、バイドの襲撃とともに一変した。
防衛力に欠け、なおかつ機械に統制されたソレは、簡単にバイドに侵蝕されたのだ。
遠方にあったコロニーは破棄され、地球近辺の物は、防衛の効率の面から、
特定の軌道や宙域に集められた。
そして、悲劇が起こる。


22世紀後半、バイドの攻撃によってコロニー“エバーグリーン”が地球に落とされる。もちろん、駐留艦隊も応戦はしたが、多くの住民がエバーグリーンと運命をともにした。
大陸沿岸の海洋に落下したコロニーは、今なお墓標のようにその構造を海上に晒している。
この事件はバイドの恐怖を軍人だけでなく、民間人に知らしめ、人々に記憶される。


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「で? そんなこと子供でも知っていますけど、何だ突然。」
「…人が語っているときに話の腰を折るのではないよ。レクエルド。」
「ていうか、そんなこと嬉しそうに語るなよ。バチあたりが。」
「死んだ人間に何が出来るっていうのだね?」
「いえ、怖いのは生きている人間だから、部外者に知られたらまた、Team R-TYPEの常識が疑われる。」
「そんなもの捨ててしまえ。」
「はいはい、クアンド君もレクエルド君も、予算の話に戻ってきてー。」


ここはレアメタル二号機の開発打合せをしている会議室で、
部屋に集まっているのは、各Bシリーズ開発班のリーダー達。
ラミ、クアンド、フィエスタ、ドン、レクエルドだ。
前回、ゴールデンセレクションの開発を他に取られたのが悔しくて、
班長級の特別チームを組んだのだった。


すでにバイド装甲の素材はPt、つまりプラチナに決定しているため、
開発の方向性を検討している。
その議論の中で最大の問題となったのは、技術でも、リーダーシップでもない。
それは予算である。


「さて、若人たち。今年度予算は裏道を含めて使いきり、来年度の予算会議は終わっているので特別補正を勝ち取らなければならない。」
「ドン、その話だけれど、なんで末端の私達が予算について悩まなきゃならないのかしら?」
「フィエスタちゃん、もちろん、レホス課長が丸投げしたからよー。」
「ともかく、名目を立てないとならないのではないかな。」
「しかしクアンド、難しいぞ。バイド装甲機を開発しているとはいえないし、レアメタル機の存在もまだ公表していない。」
「しかも前回ので、一部議員が過剰反応しているから。B-5Bの制作費を見て政府の腰が引けたしいわ。」
「…俺だって、あの額はびびるぞ。そういえば会計担当が胃潰瘍になったとかなんとか。」


ゴールデンセレクションでやりすぎた所為で、
地球連合議会はTeam R-TYPEの予算枠の拡大に慎重になっている。
今までは比較的好意的であった議員すらも弁護は不可能と言っているらしい。


「一つ、手がないわけじゃないんだけどー。」
「マジか!」
「なんだラミ君。もったいぶらずに言いたまえ。」
「レクエルド君も、クアンド君も、落ち着いてー。この企画を利用したらどうかと思うのー。」
「“エバーグリーン追悼記念碑事業”? 記念碑を適当に作って予算を掠め取るのか?」
「危険すぎるだろうそれは。」
「うん、だからー記念碑自体を飛ばしちゃえばいいのよー。バイド関連だから名目も立つしー。」
「「「それはない。」」」


ラミはレクエルド、フィエスタ、クアンドからうん臭い目で見られる。
しかし、最年長のドンが助け舟をだす。


「いやいや、建設的な意見を否定するものではないよ。他にいい意見がないなら検討してみたらどうかね。」


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その日の昼。


「地球連合政府会議場前広場?」
「そんな所に置きっぱなしにしたら使えない、どうする。」
「いや、Ptならば腐食は気にしなくて済む。露天は問題じゃないのではないかな。」
「そんな所ではおいそれと整備もできない。本当に飾り物になるぞ。てかバイド汚染。」
「ふっふっふ。君は忘れているようだが、2ブロック先にTeam R-TYPEの関連施設がある。
地下を開発して作業用の設備を作ろう。」
「さすがクアンド君、盗難防止ということにして人が近づけないようにしましょー? 
大丈夫よ巨大だから遠目でも目立つわ。」


適当にホワイトボードに書きなぐった完成予想図には、
巨大な台座に鎮座したPOWアーマーを人々が取り囲み
まるで巨大な偶像を礼拝するような図が描かれていた。

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翌日


「R機型にしたら議員とかの良識派に殺されません?」
「良識派って…相対的に我々が悪みたいだな。」
「事実でしょう?」
「まあそんなに遠くはなわねー。で、形状だけどーPOW型にしてはどう?」
「ハァ? POW型? サイバーノヴァか、あの形状はどうなんだ?」
「いいわね、POWは支援機で、一般的にも知名度が高いから。」


POWアーマーはR-9並に知名度の高い機体の一つだ。
R機のイメージアップを図るために、軍の広報部が癒し系イメージキャラクタとして起用し、
映画を作ったり、試乗会(機密部は取り外した)を開いたりとキャンペーンを張ったためだ。
軍の映像処理技術や、ひっそりと実際の戦闘映像を織り交ぜた映画は子供達に受けが良かった。
ついでに大きなお友達にはもっと受けが良かった。
結果として民間受けは悪くなかったが、
副次的効果として軍内部にディープなファンを形成することとなった。


その一方で、現場のパイロット達からは、『嫌死系』だの『対R機用自律兵器』などと言われていた。
無人機のPOWアーマーは補給機、敵地使い捨て様アイテムキャリアーとして運用されていたが、
搭載されているAIの思考ルーチンから、あたかも自機の進路を妨害するような機動を行い、
R機との衝突事故が相次いでいるためだ。


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翌々日


「まあ、活躍する必要なんて無いんだよ。我々としては作りたいだけで。」
「レクエルド、本音過ぎる。口に出すな。」
「それが、真理だの。我々は作る。軍が使う。」
「そうだな、ただ基本的にバイド討伐に使用することはないな。」
「空飛ぶ慰霊碑…なんか素敵ねー。戦死者名簿を載せてバイド討伐とかかしらー。」
「…遺族からクレームくるぞ。でも、いっそ突き抜けた方がいいか。」
「そうだね…もういっそ、やるところまでやって、反論できない所まで突っ切ろうか。」


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とある議会答弁


「“エバーグリーン追悼記念碑事業”について意見があります。」
「軍務大臣。答弁を。」
「はい、これにつきましては、一大事業としあの悲劇を二度と忘れることの無い様にするといった。コンセプトのもと軍部主催で企画検討を行いました。えー、なお、慰霊碑の建造には一部軍の特殊技術が用いられているため、くわしくはお答えできません。」


「なぜ、平和を願う慰霊碑が戦闘機の格好をしているのですか。」
「バイドとの決別を表すためです。あとPOWは支援機です。戦闘機ではありません。」

「内部に推進機構らしきものが備えられているのは何故でしょう?」
「バイドの脅威が去った後、犠牲者達の名簿を再び宇宙に還すためです。」

「なぜ、プラチナ製ということにしたのですか。アルミや他の合金ではいけないのですか?」
「軍事機密のため答えられません。」

「なぜ、それに特別会計の1/3が必要なのかね。そもそも、補助費になぜ軍事費が。」
「ぐ、軍事機密のため答えられません。」

「Team R-TYPEの関与が噂されているが、真偽の程は?」
「その、軍事機密のため答えられません。」

「バイド検知機が反応したという話の真偽はどうなのです?」
「軍事機密のため答えられません。…私の個人的見解では、Team R-TYPEの研究施設が近くにあるのでそのせいではないかと。」

「住民の目撃情報で、除幕式の前日に慰霊碑が空を飛んでいたという通報が寄せられているのだが?」
「………。軍事機密のため答えられません。」






軍務大臣のクビとともに、B-5Cが飛立つ。




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空飛ぶ慰霊碑…斬新すぎます。
どうしてこうなった。

ところで、究極汎用機についてはどうしようか悩み中です。
なんか『提督が往く!』で微妙に触れているため、設定っぽい物はあるのですが、
これを詳しく掘り下げるかどうか。
むしろパラレルな話なので、違う話にしてしまうか。



[25408] B-5D “DIAMOND WEDDING”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/26 23:40
・B-5D “DIAMOND WEDDING”


プラチナハートの件は、政府を巻き込み、黒歴史として封印された。
(機体はTeam R-TYPE施設に封印され、慰霊碑としてはレプリカが展示されている)
その日、Team R-TYPEは沸き立っていた。
待ちに待ったバイド装甲機シリーズの最終機の開発開始が発表されたのだ。


「レアメタル機って下っ端から見ると、武装を派手にするくらいしかやることないよね。」
「上級職は楽しそうだな。色々実験を遣っているらしいぞ。俺達もやりたいなぁ。」
「仕方ない。機密を持ち出されると俺達は触れられないからな。しかし、どんなことをやってるんだ?」
「なんでもー。バイド装甲の強度や特性を持たしたまま、バイド係数を極限まで下げているらしいわー。」
「ラミは何故知っている? でも貰った技術で機体開発とかテンション下る。」



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その頃の上級職


一般研究員が使う培養槽に比べるとかなり大きなものが、実験室の真ん中に置かれている。
防護服を着た作業員が幾人も忙しそうに歩きまわり、作業をしており、
白衣を着た研究者達は分厚い特殊防護アクリル壁の向こうから、マイクで指示を出している。
実験オペレータの声と研究者の指示が響く。


「バイド装甲最大強度を確認。条件を固定します。」
「バイド素子吸着剤を投入しろ。数値読み上げ!」
「最高値23.43Bydo、係数下ります。23.13…23.01…22.96…。」
「先ほどは急に下げすぎて失敗した。もう少し投入量を下げろ。」
「了解です。」


培養槽に入れられた握りこぶし大のダイヤの結晶には、血管のようなものが纏わりついている。
作業員が培養槽の脇にある投入口に青紫の液体をセットして、安全装置を外してレバーを引く。
培養槽が薄い青紫に染まったかと思うと、ダイヤに浮き出ていた血管のようなものが、激しく脈動する。
そのうちダイヤの輝きが失われる。表面に黒い膜が張っているのだ。
そして、ゆっくりとダイヤの表面の黒い膜が剥離し始める。
ぼろぼろと黒い何かは培養槽の下部に堆積する。
暫くすると、先ほどのダイヤより一回り小さいダイヤが培養槽に浮かんでいた。


「バイド係数0.36Bydo。安定状態です!」
「これで、低バイド係数装甲の完成だ。」
「あとは、R機大のダイヤの結晶を精製するだけですね。教授!」


ウワッと沸き立つ実験司令室。
脇で見ていたレホス開発課長と開発部長は小声で話す。


「ここまでくれば、バイド係数を0にできるもの時間の問題ですねぇ。」
「Bシリーズ開発で蓄積したバイド技術を用いてバイドの性質を取り込み、
レアメタル機で発展させたバイド係数を制御機構を用いる。」
「これぞ、バイドによるバイドの制圧。ですね。」
「我々Team R-TYPEの方針は間違ってなかった。これでOp.Last Dance完遂まであと少しだわ。」


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・ラウンジ


Team R-TYPEの研究員用のラウンジでは、多くの白衣達が好き好きに話している。
本来、軍の他の部署と共用で使っていたのだが、あまりにも研究員が部外秘を口にするために、隔離された。
色々な情報を交換できるこの場所は多くの研究員の憩いの場だ。
…たとえ、そこで語られるのが、被検体がどうのとか、バイド汚染がという内容であっても。


「誰か、次の装甲素材知ってる?」
「Cだって。」
「炭素? なんで金、プラチナときて…まさかTeam R-TYPEの開発費がそこを尽きたのか!」
「そんなことあるわけないだろ。我々の財布は四次元ポ○ットで連合政府の財布と繋がっているようなものだからな。」
「まあ、たしかにレアメタル素材とはいえ、たかが2機を開発しただけで政府が転覆するはずないだろう。」


わいわいと集まって楽しそうに談笑する末端研究員達。
R機の巨大シリーズの総まとめが開発されると知って浮き足立っている。
今まで開発に関われなかった準研究員なども興奮している。


「通称はダイヤモンドウェディングだってよ。」
「結婚式かよ。まあ、既存のR機とバイド装甲機の結婚といえなくもないが。」
「ダイヤといえばアレだ。―バイドより人類に永遠の愛を―みたいな。」
「いいなそれ、結婚式の指輪交換でR機型のダイヤを贈るとか。流行らそうぜ。」
「その計画の根本的な問題は、我々Team R-TYPEでは結婚できる者がいないことだな。」


その話を横で聞いていたのはフィエスタだった。
ラウンジで寛ぎながら、新しい機体の武装案を考えていた所だ。
飲み物を調達しにきた人型機開発班長のブエノとフェオも合流していた。


「いいわ。ダイヤモンドウェディング…想像が広がるわね。」
「また始まったよ。この人は。」
「ほうっておけば? 切りのいいところになったら戻ってくるから。」


「あるR機パイロットをひそかに愛する一人の女がいました。
女は、男が任務を負って出撃しては、ぼろぼろのR機で帰還するのを、いつもそっと影から見ていました。
バイドとの戦争が何回目かの節目を迎えたとき、女はついに男に自分の気持ちを告白します。
男はその告白に戸惑いつつも受け入れ、基地内でささやかな恋を育みました。
あるとき男は女に言います。危険な任務に就かなければならない。と。
そして男は言った。“俺の乗っているR機、B-5Dの欠片を加工した指輪だよ。貰ってくれるかい?”
女が感極まって泣き出すと、慌てる男。うれし涙だと伝えて、女は男の申し出を受け入れる。
そして、3ヵ月後二人は夫婦となった。」


「コラ、バイド装甲を送るな!」
「バイド素子で育まれる愛なんて要らないぞ。」


明らかに明後日の方向を注視しながら、朗読するフィエスタを見て、
周囲の研究員が何事かと噂を始める。



「結婚後、小さなアパートに睦まじく暮らす二人。夫は結婚を機にパイロットをやめ、
民間の会社員として、戦闘服のかわりにスーツを身に纏うようになった。
安全と幸せの中で、妻は夫が目的を失い迷っているのを知っていたが、気付かぬ振りをしていた。
ある日、夫が新聞を見るとバイド来襲の報が…。」


「雲行きが怪しくなってきたな。」
「なんの妄想だ? この妄想癖さえなければ普通の人なのにな。」


またあの人か…という雰囲気がラウンジに充満し、半径5mに空間が空く。
そのスペースを見てフェオはTeam R-TYPE内でも避けられるってどんなだよと、内心突っ込みを入れる。
未だ途切れることなく、フィエスタの口からは壊れた蛇口の様に妄想がダダもれになっている。


「男は朝食の席で動きを止め、その記事を凝視する。脳内にいくつもの疑問が頭をもたげる。
自分は何をしているのか? 自分はここに居ていいのか? そもそもここは安全といえるのか?
夫は忘れていた使命感を思い出し、無言のまま席を起ち部屋の隅へと向う。
そこには、かつて一緒に宇宙を駆けた戦闘服と愛用のサングラス。
クローゼットに眠っていた戦闘服を引っ張り出すと上着のみを着て、サングラスを手にする。
妻はそんな夫の姿を見て、夫が今の自分との暮らしを捨てて再び戦場に戻ろうとしているのを悟る。
妻は、貧乏だけれど幸せな二人の暮らしを守りたいと、必死に止めるが夫は耳を貸さない。
彼の瞳にはすでに、かつての愛機Rと、その背後のバイドしか映っていない。」


「すでにダイヤは関係ないな。」
「どこのゲームCMだ。」


いつものことではあるが話が迷走しはじめ、もはや当初の話は霞のように消えている。
身振り手振りを交えて昼ドラの様な内容を撒き散らすフィエスタの様子に、
ブエノは東洋の小島にいたという、霊媒師イタコを連想した。


「夫を死なせたくない妻は、必死に夫の腕にしがみつき、家からださないように縋る。
しかし、無常にも彼女を振り払って扉の外にでる夫。彼女が崩れ落ちても彼の心は揺るがない。
夫は一瞬足を止めて振り返り、妻を見つめると小さく頷くと再び前を向いて歩き出す。
その後ろ姿にもう迷いはなかった。妻はそんな男を見て夫の名前を叫ぶが、男はもう振り返らない。
妻は彼に貰った指輪を見て涙を流す。妻は置いていかれることを悲しみ、
そして、自分よりバイド討伐を優先した夫を恨んだ。そして指輪に願った。
“自分のモトに引きトめて置けないならイッそ…” R機型のダイヤが怪しく煌く。
妻が目蓋を開くとそこには、琥珀色に輝く瞳が…! 第一部完。」


「ダイヤ再登場した! でもバッドエンドまっしぐらじゃねーか!」
「おい、バイド汚染、バイド汚染!」


ラウンジでは色々な話に花が咲き、好き勝手に語り合う。
Team R-TYPEでは良くある何時もの午後だった。
…Team R-TYPEの広報担当が聞き耳を立てていなければ。


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・下っ端達の会話


「どうせだから武装もド派手にしようぜ!」
「レクエルド君、テンション下るんじゃなかったのか?」
「それとこれは別。実際新しい機体を開発できるとなればテンションが上がる。それが俺達だろ。」
「…まぁ、嬉しいけど。」
「波動砲をキラッキラにして、プリズムリズム砲とかどうよ。」
「レーザーも壮麗な物にしましょう。結婚式の特殊効果とかであるやつ。」
「フォースも形状を改良して、ダイヤっぽくしよう。」


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結局、大暴走した下っ端達の武装の魔改造と、上層部のダイヤモンド装甲を合わせて、
B-5D ダイヤモンドウェディングは完成した。


バイド装甲機の最後を飾るこの機体の開発・製作費用を見て、
病院から退院したばかりの会計担当は、再び手術で残った胃がよじれるのを感じた。
書類にはR-9Kの720倍もの額が示されていたのだ。
いい加減にキレた会計担当が、書類をそのまま政府に提出すると、
なにかの間違いかそのまま審査を通ってしまった。
会計監査があることを思い出し、会計担当は監査官に怯える日々をすごす羽目になった。


そして、ダイヤモンドウェディングの軍内発表と前後して、
ある入隊案内CMが放映された。
そのCMは、Team R-TYPE製CMとしてわずかな間深夜枠で放送された。
内容は、若い退役軍人の夫婦がバイド来襲の新聞を見て、
引き止める妻を振り切って、夫が再び軍に参加するといった内容だった。
もちろん、すぐに軍の良識派の手で放映中止となった。



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ごめんなさい。FINALのCMのパロディです。
知らない人はR-TYPE、FINAL、 CM等で検索してください。

レアメタル機(馬鹿担当)が終わってしまいました。
次は…アレですね。
R-99からは『提督が往く!』と『プロジェクトR!』では別の設定にしようと思います。
読者層も重複していそうですし、『往く!』でやったことをもう一度書くもの微妙なので。
もともと、『往く!』はTACⅡ主体ですが、『R!』はFINAL主体で別世界ですし。

またシリアス書きたい病が疼いてきて途中まで書いたのですが、
見事に笑いどころがなかったので、ギャグで乗り切れるかどうかが、作者の戦いとなりそうです。



[25408] R-99 “LAST DANCER”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/29 19:46
・R-99 “Last Dancer”


「…Bシリーズの総合評価としては、以上のようになっています。」
「B-5D ダイヤモンドウェディングの成果も上がってきているわ。」
「皆、価格に目を眩ませて、その他の部分に疑問を持たなかった様ですしねぇ。」
「そうよ。そのために態々、ダイヤで装甲を作るなんて馬鹿な真似をしたのだから。
ダイヤなんて工業的には稀少でもない物なのに、装飾品企業のブランド戦術に惑わされるなんてね。」
「そうですよねぇ。いくらダイヤが主原料だからって、R-9Kの720倍の価格なんてなるわけないのに、
こうも簡単に騙されてくれるとは、連合議員も人がよろしいようで。」
「そうね。でもちゃんとR-99の資材になってくれているから。
横領したわけでもないし、証拠だって挙がらないわ。」


このBシリーズ(バイド装甲機)の第五世代、通称レアメタル機の開発過程で、
Team R-TYPEの会計担当や軍務大臣をはじめにして、
設備課主任、エバーグリーン追悼事業に関わった人々が、
肉体的、精神的、社会的に次々に再起不能になっている。
政府や軍ではTeam R-TYPEの暴走を危惧し、その存在自体に疑問が投げかけられている。
いくら成果をあげるとはいえ、このままではTeam R-TYPEの存続に関わる事態だ。


それらを知ってなお楽しそうに笑うレホス。
対する開発部長も、余り深刻に考えてはいないようだ。
レホスの前に座る開発部長の手元には、バイド機成果についてと題されたレポート。


「この製作草案を提出します。」


レホスが端末に呼び出したのは『機密』の赤字が表紙付いた文書。
常にセンサーに指紋を読ませていないと、
データにスクランブルのかかって読めなくなる最高機密文仕様の末端だ。
開発部長は左手の親指をセンサーに読ませるとレポート文が浮かび上がる。


『究極互換機R-99仕様書(案)』


「理論的には技実現可能ですが、技術面で手間取るかもしれません。」


機密文を読み始めた技術部長に対して捕捉を入れるレホス。
いくつかの質疑応答があった後、開発部長が末端を手放す。
瞬間、文章にスクランブルが掛かり文字化けし、ロックのかかる末端。


「いいでしょう。少し詰めなければならない部分もあるけれど大筋はこれで行きましょう。」
「ではいよいよ。究極互換機の開発ですね。」
「ええ。Project Rも大詰めよ。」


________________________________________________________________________________


・下っ端研究員達


「課長に呼ばれて来たんだけど、お前何か聞いてる?」
「新機体の基礎研究のためって聞いたけど。」
「オーダーでたぞ。」


会議室に集められているのは、Team R-TYPEの中でも下位に属するメンバーたちだ。
全員が集められることは余りないので、皆何があるのかと興味津々でざわめいていた。
そこに、書類一式をもって来た研究員が、会議室の全員に声を掛けた。
全員集まってくる。


「えーと、R機に搭載可能な高出力主機の開発、及びそれに伴うラジエータの高性能化。
機体の高速化にともなうザイオング慣性制御システムの改良。機体制御系の強化…
その他仕様は資料を確認のこと。期限は4ヶ月とする。」


ぼやいてもしょうがないと、研究員達はのろのろと仕様書に手を伸ばす。
すぐに皆読み始めるが、乾いた笑みを浮かべる者、見た事実を否定するかのように資料を閉じる者、
目蓋を揉んで目の前の文を疲れ目のせいにする者など反応は様々だった。
簡単に仕様書に目を通して、とりあえず全員が黙る。


「あの人、鬼か?」
「…今更すぎる。」
「主機のオーダーが、最低でカロンの1.8倍。しかも継続航行距離を見るに、燃費も向上させなきゃならない。」
「しかも、全長15m以下に収めるため、以下のサイズに収めること。…こんなサイズにできるのか?」


「問題は主機だけじゃないぞ。ザイオング慣性制御システムもどうにかしないと。
この条件だと、R-11S2ノーチェイサーの直角急制動かそれ以上の負荷が掛かるぞ。」
「あの完成されたシステムを今更どう変えるっていうんだ…もうザイオング博士呼んで来い。」
「ザイオング博士はとっくに死んでいるから、今出てきたらバイドだな。」


「ラジエータとサブ制御機構もタチ悪いぞ。何気に従来比2倍の効率を求められている。」
「ラジエータ…。いっそ液冷にするか?」
「デブリくずが吸気口に入っただけで、壊れるのでは。」
「液の冷却効率を上げるために、機体全体が血管みたいな管に覆われてるんですね。分かります。」
「ついでに、液冷だと重量制限に引っ掛ると思うぞ。」


「これ、制御系どうすんだ。‘汎用性強化のため、高レベルの外科処置や、
現場への特殊機材の持込は禁止とする。’」
「エンジェルパック禁止…と。」
「特殊機材に入るか微妙だが、場合によっては試験管キャノピーの溶液も入るぞ。」
「そもそも試験管型って。精密制御性能は高いが、思考閾値の関係で即応性は微妙だぞ。」
「ああ、セクシーダイナマイト2みたいなのは論外なんだろうな。」
「手動はどう考えても無理だ。制御系‐脳での情報交換システムの根本的な技術革新が必要になる。」


思いつく開発項目を挙げる若手達。
誰が合図するともなく沈黙が形成され、続いて、ハァというため息の大合唱が、会議室に響く。
皆、遠い目をしている。
長期にわたるデスマーチ(72時間働けますか?)が確定したためだ。
全員で見詰め合っても開発期限は待ってくれない。
無理やりまとめにはいる。


「とりあえず、最優先課題は主機の改良だ。3~4班体制でかかろう。
次に制御システムだが班分けにせずに、各班から人員をだそう。その方が多くの発想がでる。
冷却やその他の改良は2班ずつでいい。後は実験シミュレーションを行おう。さあ、いこうか…。」
「…。」


一応の体制が決定して、ゾンビを思わせる所作でのろのろと立ち上がる研究員達。
そのまま、各開発班の持ち部屋に吸い込まれていった。


________________________________________


・課長室


「もしもしー? 開発課長のレホスなんだけど。君の所の部長をお願いねぇ。
…あ、部長ですか。ええ、R-99の開発の件です。…順調です。
装甲のバイド係数は0.02Bydo。すでに通常では検出不可能なレベルまで下りました。
…そうです。そのままでも使えますが、後のことを考えて更に係数制御を進めています。
他の内部機構については部下に研究させています。中間報告の様子からみるに、期限には間に合いそうです。
ええ……もちろん………そうですね。それがなければ究極互換機になりませんから。
来月には武装の換装について研究に掛からせます。機体バランスの最終調整もありますから、
早く見積もっても、半年後ですね。え? 分かりました武装については一ヶ月繰り上げましょう。
はい。ではーおつかれさまです。」


受話器を戻すと、端末を叩くレホス。
複数あるディスプレイを交互に睨みながら。独り言をもらす。


「うん、どう見ても開発期間は縮まらないなぁ。どこか省ける箇所は…あ、ここでいいや。」


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・下っ端研究員達


「で? 課長からのオーダーはまた無茶振りなんだろう?」


再び会議室に集められた若手研究員達。
お茶の変わりに机に並べられているのはTeam R-TYPE印の栄養ドリンクだ。
一応、前回全ての開発案件が開発期限にすべり込んだのだが、
それを持ち込んだ次の日に、課長から新たな指令が下ったのだ。
4ヶ月間に渡って平均睡眠時間が2時間を切っていたため、
たった一日の休息で疲れが取れるわけもなく、全員が目の下にクマを作っている。


「そりゃあ…課長だからな。」
「いままでのR機の武装を取り外し可能にしろって。」
「外す? 波動砲コンダクタをか?」
「コンダクタだけじゃなくて、ミサイル、フォース、ビット全部を換装できるようにって。」
「…一応聞く。バイド装甲機のやつもか?」
「もちろん。」
「…ですよねー。」


反論するだけ無駄だと思ったのか、みな反応が薄い。
あるいは、反応できるほど思考が回っていないのかもしれない。


「R-9DH系列の異常に巨大化したコンダクタと制御装置はどうする?」
「あれの開発は結構昔だから、今の技術で改良すれば小型化が見込める。」
「TWやTPはコンダクタの形状が特殊なんだよな。あれも規格を統一しなきゃ。」
「R-9/02のギガ波動砲はどうするの? あれは一種の完成形だから機体バランスとの調整が難しい。」
「どうにかするしかない。それよりもBシリーズの波動砲どうするんだ?」
「とりあえず、バイド装甲を耐バイド素材で覆って直接接触しないようにして、
ユニット換装できるようにするとか。」
「…簡単に言うなよ。」


「ミサイルはいいとして、ビットなんだが…」
「目玉ビットか? 軌道戦闘機ダイダロスのシリーズのポットか?」
「いや、それは目処がたつんだけど…サイビットどうする?」
「波動エネルギーで活性化する自立砲台か…面倒な。」
「たしかさあ、Leoシリーズってサイビットの制御機構が容積をとったから、
波動砲がスタンダードなんだろう。制御機構を小型化せにゃ…」
「小型化、小型化、小型化…ああ、スモールラ○トが欲しい。」
「単純にスケールだけ小さくしたら、電子部品とかトンネル効果が起きて役立たずになるぞ。」


「フォース…簡単に見えて、一番めんどうなのでは?」
「既存のフォースすべての互換性…。後期のフォースはバイド係数高すぎてなぁ。」
「初期型のラウンドフォースとかも、逆にフォースロッドの機能が限定的過ぎて制御が難しい。」
「Bシリーズのどうする? そもそもフォースロッドないぞ。アンカーフォースみたく有線にするか?」
「光学チェーンは機体が汚染されるからやめろ。…小型のフォースロッド射出機構をつけよう。
無理やり言うことをきかせる。」
「暴走したら目も当てられないのだが。」
「単独行動っていってもせいぜい一週間くらいだろ。その間持てばいいよ。」


みな覇気がないが、意見交換だけはしっかり行う。


「あ、言い忘れたけど、今回は開発期限が1ヶ月早まって3ヶ月らしいよ。」
「「「「「マジで!?」」」」」


悲鳴の大合唱が響き渡り、廊下に居た清掃員までもびびらせた。


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暗い研究開発室の奥にシルエットがみえる。
対バイド拘束具もないので、ここ何年もかけて開発されてきたBシリーズではないようだ。


R機の進化は特化の歴史であった。
特殊化、専門化が繰り返されては、限界に突き当たり、
そのたびに画期的な技術革新とともに、基礎性能の向上を図り、新たなステージへと進む。
特化した機体は、形状を複雑に変化させ、場合によっては戦闘機という形状すらも破棄した。


その影は、流線型をしていて突起が少なく、
より複雑に進化した後期のR期とは一線を画すものだった。
むしろ始まりのR機、R-9Aに近い。
そして、波動砲コンダクタが取り外されて、接続器だけが機体下部に見えている。


「完成ですね。」
「完成ね。これでProject Rの完成がみえたわ。」
「最強のR機を作る計画ですか。最強を求めた結果が最高の汎用性とは、中々な皮肉ですねぇ。」
「R-99は最強足りえるのは、今までの98機があってこそよ。」
「究極互換機R-99…ここにあるのはプロトタイプなのですが、各種試験は済ませてあります。
試験の後、軍がそれを寄越せと五月蝿くてですねぇ…実地はいつします?」
「一ヵ月後。Op.Last Danceに投入するわ。」
「Op.Last Dance…R機の墓場ですね。」


最初のR-9Aの突入以後、バイド中枢へ突入の成功例はない。
そのR-9Aすら、中枢破壊には至っていない。


「R-99の名前…どうしますぅ?」
「作戦名にあやかってR-99“Last Dancer”にしましょう。」
「軍がよろこびそうですねぇ。…ラストになるといいのですが。」


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・下っ端研究員達


「報告が終わった…」
「うふふふふ。やっと寝れらるわ。」
「…これで、あの〆きり地獄から戻ってこれらたな。」
「入院は何人?」
「すでに復帰したのが3人、まだなのが4人。さっき倒れたのが2人。」
「畜生。俺達が不眠で戦っているときに白衣の天使と遊んでいるとは、ケシカラン。」
「いや、軍の病院だから白衣の天使(笑)しかいない。基本女医なんていないから。」
「ざまぁ。まあ俺達も半病人だよな。途中から食事が面倒になって点滴で補ってたし。」


死屍累々といった形容がぴったりと来る景色が会議室に出来上がっていた。
たった今報告書を提出し仕事が終わった所であるが、だれも打ち上げなどをしようと、
いうものは居なかった。
そして、全員そのまま会議室の椅子や床で眠り始めてしまい。
件の清掃員が掃除に入り、死体かと思って悲鳴を上げるまで惰眠を貪っていた。


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R-99 ラストダンサー完成。
Op.Last Danceに投入される。
一週間後、目標巨大バイド反応の消失を確認。
1ヵ月後にR-99の残骸を発見。
内部データから作戦を完遂したことが確認される。




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R-99でした。ギャグ成分は控えめ。F-Aルートですね。
なんか最終回っぽいですが、とりあえずR-101までは続きます。
R-100、R-101はちゃんとギャグにする予定。
R-99はFINALの顔だから花を持たせてあげたかったので、
Op.Last Danceを締めくくってもらいました。



[25408] R-100 “CURTAIN CALL”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/09/05 22:25
R-100 “CURTAIN CALL”


・下っ端研究員達


「皆の物、祭りじゃ!」


「…R-99のせいで疲れたんだよな。」
「心の病気は恥ずかしいことじゃないぞ。さあ、病院に行こうか。」
「脳波とってみるか?」
「とりあえず寝ろ。」


Team R-TYPEの下位研究員の集まった会議室。
R-99の報告、後処理が終わってから1週間
Op.Last Danceに参加したR-99が回収されてから3日がたっている。
過労でダウンしていた研究員達も復活してきた頃合だ。
しかし、課長経由でまたも会議室に集められたため、彼らは内心
(またデスマーチか…)とどんよりした雰囲気を漂わせている。


課長から伝言を受け取っていた課員(課長は事告げで足る会議はサボることが多い)が、
戻ってくるなり発した電波な言葉に、会議室の全員がまた疲れた顔をした。
しかし、彼に続いて会議室に入ってきたレホス(!)に皆が驚く。


「はいはい。R-99の研究お疲れ様ぁ。」
「レホス課長どうしたんです? (課長が来るなんて何かの天変地異の前触れか!)」
「なんかさぁ。R-99がOp.Last Danceに参加したのは聞いたと思うけど、
どうやら成功したらしくくてねぇ。」


「! それで軍部の方が騒いでいたのか。」
「ああ、俺ら全員研究区画でダウンしてたからな。」
「俺なんて、2ヶ月くらい研究区画でてないぞ。研究室で寝てるからな。」
「研究以外には情弱だな。」
「だって興味ないもん。重要な事だったら誰か教えてくれるし。」


レホスの言葉に皆が驚く。
だれもそんな事を知らなかったのだ。


「でぇ、バイドが居ないとなると、Team R-TYPEは要らない子って事になるんだけど。」
「え…もしかして…解散ですか?」
「うん、いつか解散しなきゃならない。でも今解散したくないよね。僕もまだ研究したいしぃ。」


先ほどの気だるい雰囲気は消えて、皆しょぼんとしている。
Team R-TYPEへは、彼らなりに青春や人生、睡眠時間、健康を捧げてきたのだ。
レホスは何時ものへらへらした態度を改め、少し低い声で話し出す。


「そう、でもさっき言った通り、これからは次第にバイドの脅威度は下る。
その結果、経済を立て直すために軍需から民需への移行が行われ、大規模な軍縮が行われる。
恐らく、我々も民間技術への移行か、解散を迫られる。少なくとも確実に規模は縮小する。
しかし、バイドの性質からして、将来復活する可能性がないわけでもない…。
そのときR機の開発技術が無いでは困る。」


意外にも真面目に話し始めたレホスに研究員達はよれた襟を正す。


Team R-TYPEに限ったことでなく、研究開発には膨大な時間と金が掛かる。
それでも、軍や政府から予算が優先的に割り振られるのは、
一度、足を止めてしまえば、それを復活させるのに、それまでに倍する労力と時間が必要になるからだ。
一度ノウハウが失われれば、もう一度足跡をなぞりながら技術を再発見する必要すらある。
それは軍から柔軟性が失われるということでもある。


「だからTeam R-TYPEの技術を後世に残すために、技術の粋を集めた究極のR機を作る
…っていう名目で予算付けたよ。よかったねぇ。」
「は? 名目って…てか、真面目な課長にちょっと感動したのに、俺の感動を返してください。」
「Op.Last Dance が成功したってだけで、これからはバイド殲滅戦になるんだけど。
これに関してはR-99ラストダンサーを量産して当てる事になっているんだよねぇ。
R-99は軍の意向が色々入っていて、Team R-TYPE色出し切れなかったから…ねぇ?」
「はい。ではやはり…。」
「僕らはOp.Last Danceの立役者で、未だバイドの脅威は健在。…だから。」
「…新しい機体の予算が付くと?」


「作りたいでしょ? 色々と自重しない機体。」


この一言にTeam R-TYPEは沸き立ち、
軍部とは違ったベクトルでお祭り騒ぎとなった。


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・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋1


「レコーダー、セットしたか?」
「大丈夫、これで音ははいってるはず。」
「録音されてるって緊張するな。」
「開発段階から一応、資料を残せって話だからしかたがない。」
「音声である必要あるのか?」
「誰か、書記でもするか?」
「面倒。音声を残した方が面倒が無い。」
「だよなー。あ、ここら辺まで編集で切っておいてね。」


「あー、じゃあ、おr…私達の班はまず主機から見直そう。R-99からの問題点、改良案は?」
「はい、R-99は小型機という制約があったので、本来性能より主機の出力を絞ってあります。
容積が従来比20%増加しますが、出力はさらに10%程度の増加が見込めます。」
「…あれって、整備性どうにかしろって軍から突っ込まれたから、オミットした機構があるんだっけ?」
「しー!大きな声で言うな。
R-100のコンセプトは技術の伝達を目的としたワンオフ機なので、整備性の順位は低いはず。」
「…行けるな。」
「課長も自重しなくていいって言ってたし、最後だし。」


「他の問題は?」
「主機の出力を上げるとなると、ラジエータの能力が足を引っ張ってな…、増強してもらえれば。」
「ラジエータは空冷だからな、局地仕様の強制冷却システムはどうだろう。」
「イオとかの駐留隊が付けている増設ユニットのやつ?」
「それ。ちょっとゴテゴテするけど、冷却能力は一番だ。」
「あれは冷却性能の変わりに、作戦時間を削っているのでは…」
「緊急時のみ作動するようにすれば、かまわないさ。」
「これ連続で波動砲を撃つと、廃熱が追いつかなくて、放熱板が赤熱するな。」
「おおお、必殺技(波動砲)とか連続で放つと、廃熱版が光るとか胸が熱くなるな。」
「廃熱版を後方にもって着て、こんなデザインに…」
「いいなそれ。カッコいいからその案盛り込もうぜ!」
「ちょ…おまえら…」
「お前も…ちょっとレコーダー止めろ…ここをこうして…」
「「かっけー!!」」

ザザッ


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・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋2


「レコーダーはいったわ。」
「オホン。では波動砲コンダクタについてね。」
「R-99では特に問題は無いと軍は言っているけれど、どうせ作るなら改良しない手は無いわね。」
「そうね。…なんでこの班女ばっかりなの?」
「男にやらせたら、自分の好きな波動砲の話になって永久に終わらないから。」
「男って…まあ、改良案としてはどの方向にする?」
「はいはーい。考えたんだけど小型化はどうかしらー。」
「小型化…R-99で結構小型化していると思うけど更に小型化するの?」
「あ、それ必要かも。だって絶対他の担当班大型化をしてると思うし。」
「巨艦巨砲主義とか…プッ。」
「でさあ、R-99は究極互換機一号って事もあって、換装機構に少し余裕もたせているでしょう。
あれを最適化すればもっと小さくなるって。」
「たしかに、改良型なのに同じ物を乗せる手は無いわ。ちょっと図面もってきて。」


走り回る足音と何かを広げる音。


「ココとココ無駄。」
「その遊びがないと整備は大変そうね。整備ハッチ増やす?」
「整備ハッチつけると、耐久性が落ちる。どうせ整備も専属になるんだから多少の整備性は関係ないよ。」
「ああ、この機構オミットしちゃおうよ。」
「これ取ると、波動砲の安全抑制効かなくなるよ。普通の波動砲チャージを4ループとかできちゃう。」
「それは、操縦プログラムのほうで止めてもらおう。ほら、良くあるリミッター解除のやつ。
普段はリミッターかかっているけど、破れかぶれでリミッタープログラムを解除すると、
強制過重ループができるの。」
「それ、理論的にはループ制限がなくなる。」
「スタンダード波動砲のアタッチメントに、ギガ波動砲クラスのエネルギー入れたら、
高確率で自爆すると思うの。」


「らしいわねー。これ秘密なんだけど、R-99がバイド中枢に乗り込んだじゃない、
バイド中枢に通常の波動砲が効かなかったんだけど…そうそう、そういうこと、
この機構が壊れちゃってて、何ループでも可能になっちゃっててね。…もちろん。
それでバイド中枢を破壊したらしいのよ。もちろんR-99も壊れたらしいけど…
でも…あ、忘れてた。レコーダー止めてね。それでね………」


ブチッ


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・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋3


「フォースとビット…。」
「正直…なあ。」
「改良する場所なくね?」


数十秒の沈黙


「でさあ、レーザー機構の出力UPでもねらうか?」
「理論値で5%も上がらないけど、容積は25%UPね。」
「却下。」
「デザインで勝負しようぜ。」
「そうだな。でどうする。」
「R-100の図面が出来上がらないと。」
「じゃあ無理じゃん。」
「やることねー。」
「…」



5分後、いびきが聞こえ始め、
2時間いびきと意味不明な寝ごとだけが録音されていた。


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・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋4


「ふっふっふ、俺達の時代だ。」
「そうだな。自重しないR機って俺達も何でもやっていいってことだよな。」
「コックピット班に当たって良かったー!」
「R-99は軍から色々イチャモンつけられたからな。」
「エンジェルパックはダメだとか、試験管はダメとか、BJ物質はだめだとか…。」
「よし、とりあえず、案出そうぜ。」


「エンジェルパックを改良したい。」
「BJセンサーもいいな。もちろんパイロットは幼体固定な。」
「試験管だろうやっぱり。」
「お前らやりたいだけだろう。でも胸が熱くなるな。」
「まず、現実的に可能か不可能かで考えよう。試験管は接合部が脆くなるが、一応可能。
エンジェルパックだが、これは可能だ。絶対他の班は機関を大型化してくるから、
メリットになる。幼体固定も同様だ。BJ物質は…究極互換機はバイド装甲機じゃないからな…。」
「いや、R-99の装甲その他は一度バイド装甲化してからバイド素子を取り除いている。
BJ物質も可能ではないか?」
「そんなにローションプレイが見たいのか…。」
「見たい。」
「…俺も。」
「…正直だな。でも俺も。」


「だって最後かもしれないんだぞ。この夢を捨てろというのか。」
「そんな夢捨ててしまえ。」
「だって、男の夢だろう。四肢切断された幼女が粘性のあるローションのなかに、
全裸で沈められて、神経接続の快感に身もだえながら…」


ザッ、ジ、ザーーー
(何者かに、音声を消去された)


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・1年後


Team R-TYPEの大半が研究用デッキの最奥に集まっていた。
デッキの手前の一般区画の方にはR-99ラストダンサーが並んでいる。
ここ最近はバイド討伐にラストダンサーが飛び回り、人類の版図を着実に取り戻している。
基地にいる軍人達も表情が明るい。


人ごみの視線の先には真新しいR機。
コックピットは硬質ながら、B-XダンタリオンやB-3C2 セクシーダイナマイト2に似ている。
機体後部には放熱板やアンテナが後方に向ってせり出しており、針山のようだ。
整備製や生産性を考慮したR-99とは違い、派手なデザインだ。


今日は完成したR-100 カーテンコール―名称はチーム内の公募により決定した―の初飛行の日だ。
30分前からアイドリングしていたカーテンコールに、
改良型(バイド素子を抜いた)BJ物質が充填される。
機体各部の動作テストが終了し、アナウンスが入る。


『発進まで10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1…Let’s Go!』


Team R-TYPEの夢を乗せたカーテンコールが宇宙に飛び出した。






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R-100です。
カウントダウンするとレッツゴーしたくなるのは作者の病気です。















おまけ


「良かったな。神経接続のときのコックピット音声聞けて。」
「改良式BJ物質はいいさ。なんで…なんでパイロットがガチムチ野朗なんだよ…オエッ」



[25408] R-101 “GRAND FINALE”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/09/13 23:30
・R-101 “GRAND FINALE”


・Team R-TYPE部長室


「部長、R-100カーテンコールの報告書です。」
「ご苦労様。これでR計画も完結ね。」
「長かったですね。」
「人類の勝利の目処が立った所だし、惜しまれつつ、引くのが良いわね。」
「そうですねぇ。これで後世への技術蓄積、研究開発マニュアルも出来ましたし。」
「ところで、レホス課長? あなた、次は何処へ行くの?」
「ウォーレリック社に席を確保しました。他の人らはどうです?」
「部長級は全員天下り先を確保しているし、課長級も大体ね。あなたの所の一般研究員は?」
「あの辺りは他の仕事したこと無いから、どうなんでしょう?
Team R-TYPEは怖がられていますからね。まだ、Team R-TYPEにいるつもりのようですが…」


既に部長室もダンボールが積み上げられ、引越し準備に余念が無い。
Team R-TYPEの上級職は既にやめる気のようだ。
ちなみに大量の機密書類は新設されるR機の博物館に、
半永久的に保管されることとなっている。


「まぁ、大体は若いしどうにかするでしょう。では部長、またどこかで。」


________________________________________


・下っ端研究員達


「やばいよ。今日課長室行ったらなんかダンボールだらけだったんだけど。」
「天下り? もうなの? 俺もうちょっと猶予があると思ってたのに。」
「まずい。来年で解散ね。とか言われかねないぞ。早く再就職先見つけないと。」
「でも俺達R機開発する以外に何が出来る?売り込める材料なんてないぞ。」
「…。」


ラウンジで顔を突き合わせて切実な噂話をしていた彼らは、顔を青くして沈黙する。
仕事はキツイがクビなどとは無縁の研究生活をしていたため、
(正確にはクビになるべき人員は、そっと消えていた)
一般でいう、リストラの恐怖やスキルアップという観念が無かったのだ。


「…まだ、Team R-TYPEの威光は健在だ。これを傘に俺達のPRに役立ってもらおう。」
「どういうこと。」
「つまり、俺達の技術力を外…一般企業にも示せるような物を開発するんだ。」
「Rの技術で…掘削機とかか?」
「それは既にR機ではないから、Team R-TYPEの予算がおりん。一応戦闘機の形状をしていないと。」
「どの業界に狙いを付けるかが問題だな。」
「軍事企業は論外だな。これから軍縮だし、お偉いさん方がみんな天下るから枠が無い。」
「民需が活発になるからな。アミューズメント系がいい。」
「オモチャとか、ゲームセンターとか? R-9Wのシステムを利用して…」
「遊びで廃人でたら、さすがに不味いだろ。」
「いやここはR-9Eの技術で探査機メーカーとか…」
「いややっぱりここは…」
「そうでなくて…」


数人の男達が始めた集会は、未だに残っていた研究員を吸収して大人数になっていた。
時流に疎くて、身の振り方を決めていない人員達が身を寄せ合い、今後の進路を話していたが、
やはりTeam R-TYPEなので、話はいつの間にか究極互換機をどう魔改造するかにすり替わっていた。


________________________________________


・課長室


課長室と書かれたプレートが取り外され、無名となった部屋にレホスが座っている。
何時もの汚れた白衣と履き潰したサンダルではなく、
ネクタイを締め、珍しく社会人らしいキチンとした格好になっていた。
既に山と築かれたダンボールの一群は搬出されてガランとしている。
在るのは、空になった備品の棚とデスクセット、あとは端末だけの殺風景な部屋だ。


「で? なんで、今更新しいR機なの?」
「新しいR機の可能性を…」
「ああ、要は天下りの供物ね。」
「はい…その通りです。」
「ちなみに、何処を狙っているの。」
「はい、軍事企業は諦めまして、レース用の機体にします。」
「…なんでそんな狭い業界にしたのさ。」


呆れたように言うレホスだが、機体の開発理由については凡そ想像していたようだ。
しかし、特殊板金加工だとか大型機械メーカーといった、軍需産業の裾野分野
(当の軍事企業は自分達の席で既に満杯のため)を目指すと思っていたため、
娯楽分野…特に宙間レース用機体を作るとは思ってもいなかった。


「これからは民需主体の世になります。恐らく今まで締め付けられていた分、
アミューズメントが大きく成長するでしょう。しかし、我々の技術は子供向けには向きません。
いつの世でも、大人に人気な遊びはギャンブルとレースです。これらの部門はこれから伸びるでしょう。
そうなれば、各企業はその技術を持った人間の確保に走るはずです。そこに我々も参入します。
このR-101はそのための実績作りです。」



「…理論が微妙だけどまあいいよ。そのころ僕は課長じゃないからね。」
「では?」
「ただし、ちゃんと戦闘機を作ること。後、他のR機よりグレードダウンするのは禁止。」
「一応、形としては究極互換機の形を取ります。」
「ああ、上手く隠し予算を使っちゃって。あれは解散のときに残しておくと不味いから。」
「隠し予算? そんなものあったのですか。」
「そ、B-5Dのときのやつ。」


________________________________________

・下っ端研究員達


基礎フレームに重要部品が取り付けられただけの状態のR機を囲んで白衣達が相談する。
従来のR機に比べ、後部スラスター付近が肥大しており、
コックピットも小さめでR機の特徴であるラウンド型ではあるが、
胴体に比べて小さく鉤鼻のような形状をしている。


「後ろがゴッツイな。」
「カーテンコールに搭載した主機を串形にした。一回置きにバラして整備しなきゃならないが。
操作性が犠牲になったがともかく速い。最高速がどれくらいでるのか未知数だ。」
「なんだその曖昧な表現は。」
「仕方ないだろ。時間制限と人員不足でアップアップしてるんだから。」
「エンジンの試運転も満足に出来ていないからな。」


すでにTeam R-TYPE専用の実験施設の多くは閉鎖されていたため、
残った小さなラボや実験機材(しかし、物自体は最新鋭機器)を使って、
R-101を作り上げた。武装やビット、フォースはあまり手を入れても意味が無いため、
ともかく機体性能を追求していたので、乏しい人員、設備でもギリギリ何とかなっていた。


「あと一応、戦闘機という制約上、互換武装は取り付けている。」
「武装ってレースには要らないだろう。デッドウエイトにならないか?」
「そのための互換機能だろう。今は武装だが民間用に別のブーストタンクや増設の冷却装置を着けられる。」
「キャノピー形状も防弾性を犠牲にしてR-99より抵抗を減らしている。」
「浅亜空間潜行能力も備えている。障害物もOKだ。」


Team R-TYPE発の技術である小型機の浅亜空間潜行技術であるが、
犯罪に悪用される恐れがあったため、小型機関についてはブラックボックス化していたが、
重要施設への亜空間潜行対策壁の導入が進んだことを背景に民間に技術を渡すことが決定されている。
バイドとの生存戦争が下火になり、一部ではあるが星間移民やクルーズが計画されだしたため、
軍事技術の内、民間に転用しやすい技術から、徐々に公開し始めている。


「これなら売り込みできるな。ただ…なぁ。」
「言うなよ。みんな思っているんだから。」
「…かっこ悪りぃ。」


ずんぐりむっくりな形状となっており、R機など兵器特有のある種の美しさが損なわれている。
主犯はもちろん串型エンジンとその冷却装置だ。


「表向きは究極互換機3号機だが、裏向きは俺らの一般企業への売り込みよう試作機だ。」
「これをみたら、民間のレース機は度肝を抜かすぜ。」
「今度、地球―冥王星間のレースを開催する流れもあるし、何より最高速で適う物はいない。」
「名前はどうする。レース向けにカッコいい名前がいいな。」
「Team R-TYPEの最後機とレースのゴールを掛けて、グランドフィナーレはどうだ?」
「いいねそれ。」


________________________________________


・冥王星周辺実験施設


「3,2,1,実験開始!」


大型デブリが衝突したかのような爆音と衝撃が実験施設に轟く。
何時もの実験では人があふれている実験設備であるが、
今回は研究員5人とオペレータが一人といった有様だった。
ちなみにR-101を企画した段階では10名以上いたTeam R-TYPEの面々も、
次々と再就職先を見つけて離れていった。



「…R-101は何処行った?」
「あー、冥王星衛星カロンを通過。もう肉眼では見えないよ。」
「おい、カタパルトが半壊しているぞ。どうすんだこれ。」
「R-101巡航速度到達。巡航試験20分継続後、最高速まで加速します。」
「これパイロット大丈夫か?」
「かなり機体制御に困っているようですが、バイタルでは大丈夫みたいです。」
「直線でこれだと、最高速での機動は死を招くな。」


各所に設置された監視システムから途切れ途切れにR-101の画像が送られてくる。
監視システムの通信網を通して機体リンクデータが送られてくるのだが、
直ぐに通信可能範囲を通過してしまうため、まともにデータが見られない。
飛行データはR-101に搭載されているレコーダを見れば分かるが、
途中経過が確認できない状態だ。
今の所、実験は順調だ。


「最高速到達。R-101現在位置、太陽を挟んで海王星軌道付近。減速にかかります。」
「下手に最高速を出すと、太陽系をぶっちぎるな。」
「よし、最高速のデータは取れたな。一端、機体データ取りたいから帰還させよう。」
「帰還開始。巡航モードで飛行。」
「どうせだから、連続最高速データとっておこう。」
「分かりました、最高速へ加速中。」


一番怖かった、最高速でのエンジン負荷に耐えたことで研究員達の緊張が緩む。
人員がいないせいで、実機での実験はこれが始めてだったのだ。


「直線番長だな。なんだこの旋回半径は。非ザイオング機のスイングバイじゃないんだぞ。」
「これ以上はザイオング慣性制御システムがあっても、中のパイロットが圧死する。」
「性能が尖り過ぎていて、対バイド戦だったら鉄砲玉にしかならないよ、これ。」
「デブリ避けられるのかこれ、微調整でも操縦不能になりそうだが。」
「デブリ帯は亜空間潜行で切り抜けるしかないよ。」
「…減速は大丈夫なんだろうな。」
「ブレーキノズルは出力が弱いから、かなり性能が落ちると思う。」
「この実験施設宙域で急ブレーキ試験だっけ?」


オペレータからR-101が接近していることを告げ、
続けて急ブレーキ試験を通知するようにパイロットに指示をする。


「さすがに早いな。」
「あら…、未確認のデブリ帯が実験航路を横切るようです。」
「どこぞの戦闘宙域から流れてきたかな。R-101は大丈夫か?」
「…機体制御不安定!本来コース外れます。」
「え゛?」
「こっち向ってね? 明らかに減速している様子は無いぞ。」


ディスプレイ上でR-101を示すアイコンが踊り狂いながら、こちらに一直線に近づいてくる。
コントロールを失っているのは明らかだ。
緊張の走る実験指令室。
しかし、超高速で迫るR-101は考える暇を与えてくれなかった。
彼らは顔を引きつらせて、R-101の装備したフォースが、一瞬の内にどアップになるのを見た。
そして、うねる様な振動に晒された。


「………あれ?」


物陰に身を隠す暇も無く、へたり込んだ研究者5人とオペレータ1人は、のろのろと動き出す。
R機が戦闘速で衝突したにしては、衝撃が小さすぎる。
キツネにつままれたような顔で計器を見る。


「…R-101はどこいった。」
「こっちに突っ込んできたと思ったが…亜空間潜行か?」
「いや、この施設は亜空間潜行対策建材だし、そもそもこんな高エネルギー物体を透過できない。」
「亜空間ソナーにも反応無いぞ。」


白衣らがぼそぼそと話し合う中、オペレータが遠慮がちに声を掛ける。


「あー…その、失踪直前に時空震を観測しているのですが。」
「なんだ、この値?」
「亜空間潜行ごときで、こんな高い値でるか?」
「いえ、私は唯のオペレータなのでなんとも…」
「もしかして…時空の壁を突破した?」


顔を見合わせる研究員達。
乾いた笑みを浮かべ、観測データの分析を開始した。


________________________________________


「異次元に片道旅行ということか?」
「いや、異時空だから、下手するとタイムスリップかもしれん。」
「…時速88マイルを越えていたのは確実だが、1.21ジゴワットの電流はどうなんだ?」
「冗談じゃなくて、マジな話なんだが。」


R-101実験機が消えてから2日後、研究者達は雁首をそろえて、
調査結果を話し合っていた。
ちなみに実験オペレータはというと、乾いた笑みを浮かべながら
「情報を漏らしたら、君もR-101に乗せて反復実験させるよ。」
と言ったら、顔を青くして逃げ出した。
もともと、Team R-TYPEが使うような人員は可能な限り一人身で家族縁の無いものが、
選ばれているので情報漏えいは無いだろう。


「亜空間潜行下で、フォース装備の上、一定値以上のエネルギーを与えると時空の切れ目が発生することがあるみたいだ。」
「…R-101搭載タイプのエンジンを直列で繋げたら、その出力が出てしまったと。」
「パイロットが衝突を回避しようと無理な亜空間潜行を行ったことと、
もともと、この冥王星周辺宙域が時空的に不安定なのも原因ですね。」
「いきなり本番したバチが当たったか。」


「…ともかく、テスト機のロスト理由どうする? 武装機なんだが…」
「…Team R-TYPEの解散は来月だよな?」
「どさくさに紛れて…」
「そうしよう。とりあえず上の人たちはもう天下りしたからいないし。」
「第二テスト機の方をミュージアムに納入して、無かったことにしようぜ。」


________________________________________


・どこまでも…


頑丈な身体と弄くられた脳のお陰で試験管や精神接続機の拷問といえるテストに耐え、
運によってセクシーダイナマイトやカーテンコールのテストパイロットを逃れ、
確実な操縦技術と判断能力のお陰でベテランテストパイロットになった。
今まで、俺はTeam R-TYPEのテストパイロットとして生き残ってきたのだ。
同僚が何回入れ替わったか分からないが、生き残った故に今回の役を振られてしまった。


唐突だった。テスト飛行中に乗機が暴走して施設に突っ込みそうになったところを、
亜空間潜行で無理やり回避したところまでは、理解している。
しかし、その瞬間に感じたのは、亜空間潜行の皮膚が突っ張るような感覚でなはなく、
水面に波紋が広がるようなエフェクトと、大きな振動だった。
その後は良く覚えていない。
ただ気が付いたら、よく分からない空間を静かに漂っていた。


操縦桿から伝わる感触は通常宇宙空間のそれではなく、ワープ空間のものとも、
微妙に違ったねっとりとしたものだった。
暴れ馬のようだった機体もこの粘度の高い(?)空間に捉えられて落ち着いている。
なるほど、馬鹿みたいな馬力を持ったこの機体で通常速しかでないとなると、
他のR機では動くことすら間々ならないだろう。


気が付いたとき機体回転していたため、もと来た方角も分からない。
途方にくれていたところに、見慣れたアレがやって来た。
バイドだ。


今は、このよく分からない空間でバイドと戦闘をしている。
上下左右の分からない空間で、バイドの来る方向だけが明確だったので、
俺はバイドの来る方角に向って進んでいる。


戦艦のような構造物を破壊し、
バイドの群れを蹴散らし、
何故か居るPOWを叩き割る。


おかしい、俺は試験機のテストをしていたハズなのに。
いい加減神経が磨り減ってまともな判断が付かなくなったときに、
それをみた。


よく分からない空間の先に、薄っすらと映った青い星。
見間違えるはずも無い。
地球だ。
ようやっと戻ってきた。


R-101グランドフィナーレは機首を青い星に向ける。
しかし、揺らぐ空間のなかで、いくら進んでも地球に近づけない。
俺は苛立ち紛れに、帰還を阻む歪んだ空間にフォースを叩き込む。
パイロットの間ではどうしようも無いとき、とりあえずフォースを投げる伝統となっているからだ。
フォースを叩きつけると、空間にヒビが入いる。
もう一押しだ。


俺は波動砲のチャージを開始する。
邪魔者はいない。
リミッターを解除して、エネルギーを充填する。
6ループを過ぎた辺りで、電撃のような物が機体を舐める。
虚数空間から漏れ出た波動エネルギーが電気の形を取っているのだろう。
波動エネルギーのメーターが7周を超えると、メーターの表示が警告を示す赤色に変わる。
俺は時空の壁を打ち破るために、最大チャージの波動砲を放った。




空間全てが発光したかのような閃光の中で、
ガラスの砕けるような音を聞いた気がした。




CONGRATULATIONS!




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真面目な予想をした皆さん、ごめんなさい。
始めっからR-101は話をぶっ壊す予定でした。
R-101の予定調和である26世紀行きは「提督が往く!」でも書いたし、
他の作家さんも書いていることだから、普通にやってもつまらないと思ったのが前半ですが、
結局後半で同じ路線になってしまって悔しさも少し…

あ、更新ペースは遅くなると思いますが、今後も他の機体も地味に地味に書いていきたいです。
色々リクエストもあることですし。
でも時系列はメチャクチャです。書きたいものから書く姿勢で。次は…アロヘ?



[25408] Project "R" !
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/09/14 23:31
Project "R" !



かつて地球でTeam R-TYPEの研究施設があったはずの区画。
今では真新しいベンチが配置され、敷き詰めたばかりの芝生が地面を覆っている。
その片隅にひっそりと佇む金属で出来た記念碑。




全ての機体の完成を以って
地球文明圏はR計画の終了を宣言。
これらの機体で
勇敢にもバイドに立ち向かい、
宇宙の塵となっていった
パイロット達の冥福を祈る。




慰霊碑にも似たそれは、一見そうは見えないがTeam R-TYPEの功績をたたえる記念碑だった。
そんな碑の周りに、昼過ぎに集まってきたのは、解散したはずのTeam R-TYPEのメンバーだった。
真新しい碑を見て意見を述べる。


「なかなかいい文章だな。」
「地味だな、文面考えたのだれ?」
「知らない。でもTeam R-TYPEの名前出すと壊されかねないから、これでいいんじゃない。」
「俺達のR機も塵か…」


「俺達Team R-TYPEが直接作った機体も大体塵になったからな。」
「R機全滅したみたいだろ。勝手に全機壊すな。」
「今あるのって軍の工廠で作った機体ばっかりで、俺達が直接組み上げたのは、すでに殆ど無いぞ。」
「Team R-TYPEの作った初期型は大体Op.Last Danceその他の作戦で壊れてるからな。」
「初期型が残ってるのは…B-5CとかR-100くらいか。」
「さすがに記念碑の投入は政府から制止されたからな。」
「長かったような短かったような…」
「いや、長いだろ。当初のメンバーで完走した人いるのか?」


そんな事を言っているうちに、元開発課長のレホスがやって来た。
キッチリとスーツで、しかも、重そうなボストンバッグを提げている。


「再就職を決めた人も、路頭に迷いそうな人もお疲れさまぁ。
部長が来てないようだから、適当に待っててねぇ。」


久しぶりに顔を合わせたレホスのあんまりな挨拶に何人かが顔をしかめる。
残念な進路を歩んだメンバーだった。
時間にルーズなTeam R-TYPEだったが、レホスの絶対命令(すでに課長ではないが)によって、
呼び出されたため、時間前にほぼ全員揃ってしまった。
歓談しかすることの無いメンバーは広場の方々に散って談話に耽る。


________________________________________


記念碑から少し離れた木陰に若手研究員が数名集まっている。
宇宙に在る研究施設の人工照明になれた彼らには、地球の日差しはきついのだろう。
久しぶりに会った同士とひとしきり話をした後、ふと話が途切れる。


「…そういえばさ。バイドって26世紀の地球からきたんだよな?」
「なんだよ、突然。」
「もし…さ。26世紀からバイドがやって来なかったらどうなってたんだろうと思って。」
「何を考えてるか大体分かるが、過去は変わらないぞ。因果論的に。
過去…というか未来というか…まあどっちでもいいけど、
もし因果の因を変えたところで、ココとは違う新しい分岐世界が発生するだけだから。」
「そうか…、そうだよな。」
「なんかおかしいぞ。お前。R-101に関わってから微妙に。」


「いや、片道でも時間を越えられるとして、26世紀の地球を滅ぼしたらどうなるだろうかと思って。」
「さっき言ったとおり、俺達の世界は何も変わらない。世界の分岐が起きるだけ。
ついでに言うと、バイドは恣意的ではないにしろ、時間・次元を超越している。
ってことは、もし俺達の過去のあの時点でバイドが来なくてもいつかバイドが流れ着くかもしれない。」
「別の次元から?」


周囲を囲んでいた面子も黙って聞き入っている。
なんとなく緊張した空気が流れる。


「そう、そうなったときに、バイドが来なかった世界では次元戦闘機Rは無いんだぜ。」
「…。」
「俺はこれでよかったと思うぞ。これで。
例え、バイドを殲滅できなくとも、この世界では人類が一方的に滅びることは無い。
人類はR機という、バイドに対抗するための免疫を持ったんだ。
お互いにせめぎ合いながら進化する。…それって生命には普通のことだろう?」


バイドは未だに駆逐されないが、少なくとも地球からは叩き出された。
中枢を破壊され非活動的になったバイドに対して、
R-99を主力に加えた宇宙艦隊がバイド討伐任務に加わり、次々に戦線を押し返している。
年内には地球文明圏から軍団規模のバイドの群れは消滅する計算だ。


「そう…だよな。」
「絶望的なほどの侵略者を、ただの競争相手に引き摺り下ろした。それこそ、俺達の功績だ。」
「なんだかんだでハッピーエンドなんだよな?」
「そうさ!」


不安そうな顔の男が撒き散らした不穏な空気を消し飛ばす勢いで、相手の男が言う。


「…それに、バイドが来なかったらProject Rは発動しなかったし、
俺達Team R-TYPEはこんな楽しい研究が出来なかったんだぜ!」


周囲で聞いていた若手達が歓声をあげる。
いいぞ。とかTeam R-TYPE万歳。といった声が聞こえる。
かつては毎日浸っていた、能天気な雰囲気が戻ってきていた。
深刻そうな雰囲気から一変して盛り上がった若手チームに、
記念碑付近にいたレホス課長が声を掛ける。
どうやら女ボスと呼ばれていた部長もやって来て、参加者が全員そろったようだ。


レホスの手元にはいつのまにかワインのボトルが握られている。
どうやら、彼の大き目のカバンの中身はワインだったらしい。
次々にワインのコルクを抜いて、用意してあった紙コップに注いでいく。
全員にワインが行き渡ったのを確認して周囲を見渡す。


「もう、僕も現場責任者じゃないしぃ、面倒な挨拶は抜きでいくよ。」


そういって、乾杯の音頭を任せられたレホスは紙コップを高く挙げる。
他の面子も紙コップを用意する。


「Team R-TYPEとProject"R"の完遂に…乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」




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鬱エンドに定評のあるR-TYPEシリーズですが、
Team R-TYPEの皆さんにかかれば、きっとハッピーエンドなんです。
実はこの記念碑も飛ばそうと思ったけれど、自重しました。二番煎じだし。

前回書いたとおり、今後もチマチマと書いていきます。
本当はこの話は101機分書き終わった後の方がいいのですが、
そうすると、お蔵入りになる可能性が非常に高いので、この時点で書いておきます。
アローッドさんは次回で。



[25408] R-9A “ARROW HEAD”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/09/16 21:56
・R-9A “ARROW HEAD”



「明日決行されるラストダンス作戦の事は知っています。
バイド討伐作戦の先陣を切るのはパイロットとして、非常に名誉なことだと思っています。」


真夏の昼下がり、地球にある連合軍の基地では大型作戦に向けてちゃくちゃくと準備が進められていた。
そこで戦闘服を着込んだパイロットが白衣の研究員とフライトジャケットを羽織った上官らしき佐官と話をしている。
場所はR機の発着デッキで、三人の周りでは整備員たちが忙しそうに行き来する。
良く見ればパイロットの胸にはエースを示すワッペンが取り付けられており、
彼が歴戦の強兵であることが見て取れる。


「だ・が・し・か・し、なんで機体がアローヘッドなんだ! 何十年前の機体だと思っている!」
「何が不満なんです? 第一次バイドミッション以降マイナーチェンジもしていますし、
そもそも、あなたが搭乗する機体は先月に工廠を出たばかりですよ。」
「中尉、君の言いたいことは分かるが、これは決定事項なのだ。
私は君の腕ならばバイド中枢まで到達できると確信している。」


いきり立つパイロットと無自覚に煽る研究員、そして、それを宥める上官。
彼らの横にはトリコロールのカラーリングが美しい、R-9Aアローヘッドが整備を受けている。
機体デザインが優秀であるためか、意外と古さは感じられない。
しかし、第一次バイドミッションから現役の機体であり、信頼性はあるが正直、力不足は否めない。


「隊長! 俺の言いたいのは死にたくないとか、そういうことじゃないのです。
なんでフルチューンしたR-9Aがあるのに、従来型のR-9Aで出撃なのですか!」


デッキの奥には同じく整備を受けるR-9Aアローへッド。
しかし、見るものが見ればまったく別物であることがうかがえる。
主機は入れ替えられており、波動砲もスタンダード波動砲のそれではなく、
ハイパードライブシステムを一部流用した連射の効くものに置き換わっている。
よく見るとミサイルサイロの部分にはよく分からない射出機構も増えていた。
何よりの変更点は耐久性だ。新規装甲材を利用した重装甲となっていて、
しかも各機関のバックアップが各所にあり、少しの被弾ならば戦闘が続けられるようになっている。
正直アローヘッドの皮を被った完全なる別物だ。


「まあ、なんだ、その、私も中尉にアレを渡してやれればとは思うのだが…」
「なぜ最新鋭の装備を施した機体を眠らせて、最終作戦に従来型を投入するなんて…
上の連中やTeam R-TYPEは何を考えている!」


そのフルチューンR-9Aのパイロットに指名されてしまった佐官は歯切れ悪く答える。
彼は部下の言葉をもっともだと思っていた。
基地にいる自分より、この作戦に参加することが決まった部下が最新鋭機に乗るべきであると。
しかし、軍は基地防衛部隊長の彼ではなく、彼の部下に作戦の参加を命令したし、
Team R-TYPEは軍の命令書を持って彼と彼の部下の乗機を指定した。
軍人であるかぎり上からの命令は絶対だ。


夏の日差しこそ入っては来ないが、半開放系となっているデッキは、結構な暑さだ。
立っているだけでじっとりと汗が出てくる。
今開放されている射出口からは潮の香りも漂ってくる。
上着を脱いで、開放部でごろりと横になれたら常夏気分だろう。そんな長閑な昼下がりだった。
しかし、この場だけ険悪な雰囲気が流れていた。整備員達も遠巻きにしている。


「ともかく、明日の出撃に備えて、今日はもう休め。中尉。
技官殿も彼を送り出すからには、整備調整を完璧にして欲しい。私の自慢の部下なんだ。」


佐官が無理やりまとめて、益のない言い争いを終わらせようとする。
佐官自身も納得はしていなかったが、これ以上は有益ではないと考えているのだろう。
パイロットも今までに散々繰り返された埒の明かない議論に徒労感を感じた。
彼も軍が時折理不尽な命令を出す組織であるとわかっている。不満を誰かにぶつけたいだけなのだ。
理不尽に対する怒りと現実の不条理さが釣りあったところで、話を終わらせる方向に進むことにした。


「まあ、小官も軍人です。命令であれば仕方がないが、あのR-9Aさえあれば…」
「聞きたいですか! 聞きたいですか! あれのスペックはですね。」
「いや技官殿…(空気読めよ、この腐れ開発者!)」


なんだかんだで大人として不満を飲み込んで、
話を打ち切ろうとする佐官とパイロットの努力を全く無視して、
白衣の男が勝手にしゃべりだす。
佐官と彼の部下の視線が白衣の男の眉間を射抜く。
しかし、Team R-TYPEから派遣されているこの男に楯突くのは如何にも拙い。
軍上層部や政府にとても大きな影響力を持つ組織がバックにいるのだ。
パイロットは沸騰寸前の頭で考えつくギリギリの敬語で白衣の男にイヤミを吐く。


「ほう、技官殿…あのR-9Aがどれだけ素晴らしいのか小官も後学のためにお聞きしたいものですな。」
「試作機なので正式な名称はありませんが、R-9Aの耐久性を高めたタイプです。」
「耐久性…私は基地防衛用と聞いているが。」
「防衛戦は今までの撃たれれば爆発するような機体では困りますからね。」


R機は絶大な機動性と攻撃力の代わりに、全くといっていいほど耐久性が無い。
さらに始末の悪いことに、単機突入作戦時や新型機は機密保持のため、
戦闘続行不能状態になると自爆装置が作動するようになっている。
旧世紀大戦時の航空機の渾名をとって、ワンショットライターならぬワンショットボムだ。
などとパイロットから皮肉られる始末だ。


「ただし、重量や燃費の問題で航続飛行距離が非常に短くなりまして、
単機突入なんてもってのほか、要撃にしか使えないのですよ。」
「なんだその片手落ちは…そもそもR-9型にする意味あったのか?」
「趣味です。」
「「…。」」


パイロットの中尉がボソッともらした突っ込みに対して、
趣味と言い切り、はっはっはといっそさわやかな笑い声を上げる研究者。
佐官とパイロットは、夏の日差しも凍結する絶対零度の視線を目の前の白衣に投げかける。
研究者は全く意に介さず、自慢げにスペックを口から垂れ流す。
中尉と佐官は目の前の白い物体を無視して二人で話し出す。


「隊長、俺はこの任務が決死任務のようなものであると思っています。」
「…すまんな。」
「いえ、パイロットになったときから、ある程度覚悟はしていました。
しかし正直に言って、作戦に成功しても帰ってこられる可能性は低いでしょう。」
「ああ…。」
「ひとつ、お願いがあるのです。」
「家族のことか? 心配するな。」
「いえ、天涯孤独ですから問題ありません。」


白衣の男がべらべらと機体スペックを垂れ流す傍らで、
シリアスな表情で言葉を交わす、上司と部下。
二つの空気が水と油の様に混じりあわずにその場にたまる。
整備員達は遠巻きに整備をする振りをしながら、聞き耳を立てている。


「ただ…」
「ただ?」
「後生ですので、最後にあの馬鹿を殴らせてください。」
「………拳を傷めるなよ。」
「パイロットですから、その辺のさじ加減は分かっています。」


アイコンタクトをして分かれる二人。
パイロットの中尉は先ほどとは打って変って、非常にいい笑顔で研究者に近づいていった。
佐官はその凶笑を見ないようにしながら、整備員やその辺りにいた人員を引き連れて、
ミーティングルームに消えていった。
ミーティングルームは完全ではないが防音仕様なのだ。


________________________________________



『システムチェック完了、パイロットバイタル正常。』
『艦載R機部隊、進路上のバイドの80%を排除。』
『1番カタパルト、ロック解除。発進可能。』
『基地指令、R-9A射出準備完了しました。定刻になります。』
『うむ、本時刻をもってオペレーション・ラストダンスを開始する。』
『R-9A発進します。』
『10、9、8、…』


今、この基地の関心を一身に集めているパイロットの上司である佐官は、基地防衛隊の隊長として、
スクランブルに備えながら新しい愛機となったR-9Aの通信機から、部下の出征の様子を聞いていた。
恐らく他の部隊員達も自機でこのオープン通信を聞いているに違いない。


『3、2、1…Let’s Go!』


そのアナウンスとともに一機のアローヘッドが蒼穹の彼方に消えていった。
残された隊員達は潮の香りのする基地で彼を見送った。


________________________________________


英雄が旅立った後の基地のデッキには、
顔に白い布袋(赤黒いシミが点々と飛んでいる)を被せられた巨大なテルテル坊主が、
梁に腰から吊るされていた。


その朝は雲ひとつ無い綺麗な蒼天であった。














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『こちら基地指令部。強力な未確認バイドが接近中。基地防衛隊は全機出撃してください。』


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