私が広告営業をしていた頃、主に担当していたのは週刊誌だったのだが、雑誌広告において最初にネット広告の影響を食らったのは、この週刊誌という媒体だった。つまり、少なからぬクライアントが週刊誌の予算をネットへ回したのである。
大きなクライアントが抜ける穴埋めというのは、それは大変で、新たなクライアントを見つけてくるというのは至難の業。それでも予算を作らなければならないので、結果、安売りするという方向へ走ってしまったものだった。
そんななかにあって、当時、ありがたかったのは消費者金融の広告だった。というのも、消費者金融というのは値引き率が低い、つまり高い金額で広告スペースを売ることができたからだ。各号の広告予算表といつも睨めっこしていた私は、消費者金融の広告が入っている週は、「あまり心配しなくていいナ」と思っていた。
ところが、ある時、そのうちの一つの大手消費者金融で大きなスキャンダルが出てきて、事件になる気配があった。
もし、事件になれば、週刊誌としては取材して伝えなければならない。それは当たり前のことだが、広告担当者としては、その消費者金融の広告と事件の記事が同じ号に載る、いわゆる「記事同載」だけはどうしても避けたかった。
広告掲載のある号は事前にわかっているので、もし事件が起きてしまったらその後の広告は差し替えればいいが、問題は広告掲載号の編集中に事件が起きてしまうことだった。
当時、この雑誌のカラー広告の校了は水曜日。しかし、モノクロ記事の最終締切は土曜の夜だった。つまり、カラーページの方が印刷が早い。そして、この広告はカラーだったので、木曜から土曜の間に事件が起きてしまうと、「記事同載」になってしまう。当時はこれに随分と気を揉んで、印刷所とも相談したりしつつ、いろいろとシミュレーションしたものだった。
ま、結局のところ、事件化は広告掲載号と関係のない週だったので、いらぬ心配だったのだが、ではなぜそれほど気を揉んだのか。正直に言えば、この事件が終わってほとぼりが冷めれば、また広告の出稿があるかもしれないという思いがあったからだった。
このように週刊誌の広告営業というのはニュースに敏感である(これはニュース部門のある媒体社ならどこも同じだろう)。
私のいた会社では、ファッション誌の広告の比率が高く、それに比べると男性週刊誌の広告売上げなどというのは大した金額でなかった(といっても書籍の売上げ、利益と比較するとそれなりに大きかったが)。したがって、多少、売上げを落としても咎められることはほとんどなかったのだが、ただ日々の営業活動とともに、週刊誌担当にはもう一つ大事な仕事があった。それは編集内容のチェックである。
これには2パターンあって、一つは大きなクライアントの「危ない記事」がないかの自主的なチェック。たとえその週刊誌に広告出稿がなくても、他の雑誌で大きな取引のあるクライアントというのはたくさんあるわけで、そのクライアントのネガティブな記事が出ていないかどうかのチェックは重要なのだ。
そして、もう一つは広告代理店から記事チェックの依頼が来るケース。
たとえば、このようなメールが来る。
この「〇〇社」というのが自社とまったく関係ない場合は突っぱねる……と、もちろんそれが基本ではあるが、代理店に一つ恩を売っておこうということで、掲載がなければ「なし」と伝えることもある。ではあった場合は? これは難しいが、すべて校了してから発売までの間に「あるみたいだな」と伝えることもある。
その他、本当にケースバイケースであるが、つまりそういうやり取りを、媒体社の営業と広告代理店が頻繁にやっていることは事実だ。
さて、前ぶりを長々と書いてしまったが、、、
数日前、東京電力がTBSの放送したスペシャル番組に抗議をしたという。
・9月11日放送 TBS「震災報道スペシャル 原発攻防180日間の真実」における報道について
↓がその番組。
20110911 原発攻防180日の真実 故郷はなぜ奪われ... 投稿者 PMG5
20110911 原発攻防180日の真実(2) 投稿者 PMG5
私はこのニュースを見た時、もちろん「さすが東電、傲慢なことこの上ない、第一級の国賊会社だナ」と思ったが、同時に「これはTBSだけでなく他局や他媒体の広告担当者には意外に効果的かもしれないナ」とも思った。
つまり東電のこの抗議の隠された意図は、広告関係者へのプレッシャーであり、「こういう内容の放送をしていると、もう広告は出さないよ」というメッセージなのではないか、と。
もちろん、これは私の単なる推察であるが、現在のメディアの状況を見ていると、あながち的外れではないと思う。少なくとも、東京電力が広告代理店を通じて、各メディアの報道を逐一チェックしていることは間違いないだろう。
つまり、、、
この会社は原発の危機管理についてはまったくもって無能だが、自社が存続するためならどんな手でも使う、そういう意味での危機管理は万全の会社なのである。
『東京電力福島第一原発事故とマスメディア』
かくもさまざまな言論操作
戦後日本の思想
大きなクライアントが抜ける穴埋めというのは、それは大変で、新たなクライアントを見つけてくるというのは至難の業。それでも予算を作らなければならないので、結果、安売りするという方向へ走ってしまったものだった。
そんななかにあって、当時、ありがたかったのは消費者金融の広告だった。というのも、消費者金融というのは値引き率が低い、つまり高い金額で広告スペースを売ることができたからだ。各号の広告予算表といつも睨めっこしていた私は、消費者金融の広告が入っている週は、「あまり心配しなくていいナ」と思っていた。
ところが、ある時、そのうちの一つの大手消費者金融で大きなスキャンダルが出てきて、事件になる気配があった。
もし、事件になれば、週刊誌としては取材して伝えなければならない。それは当たり前のことだが、広告担当者としては、その消費者金融の広告と事件の記事が同じ号に載る、いわゆる「記事同載」だけはどうしても避けたかった。
広告掲載のある号は事前にわかっているので、もし事件が起きてしまったらその後の広告は差し替えればいいが、問題は広告掲載号の編集中に事件が起きてしまうことだった。
当時、この雑誌のカラー広告の校了は水曜日。しかし、モノクロ記事の最終締切は土曜の夜だった。つまり、カラーページの方が印刷が早い。そして、この広告はカラーだったので、木曜から土曜の間に事件が起きてしまうと、「記事同載」になってしまう。当時はこれに随分と気を揉んで、印刷所とも相談したりしつつ、いろいろとシミュレーションしたものだった。
ま、結局のところ、事件化は広告掲載号と関係のない週だったので、いらぬ心配だったのだが、ではなぜそれほど気を揉んだのか。正直に言えば、この事件が終わってほとぼりが冷めれば、また広告の出稿があるかもしれないという思いがあったからだった。
このように週刊誌の広告営業というのはニュースに敏感である(これはニュース部門のある媒体社ならどこも同じだろう)。
私のいた会社では、ファッション誌の広告の比率が高く、それに比べると男性週刊誌の広告売上げなどというのは大した金額でなかった(といっても書籍の売上げ、利益と比較するとそれなりに大きかったが)。したがって、多少、売上げを落としても咎められることはほとんどなかったのだが、ただ日々の営業活動とともに、週刊誌担当にはもう一つ大事な仕事があった。それは編集内容のチェックである。
これには2パターンあって、一つは大きなクライアントの「危ない記事」がないかの自主的なチェック。たとえその週刊誌に広告出稿がなくても、他の雑誌で大きな取引のあるクライアントというのはたくさんあるわけで、そのクライアントのネガティブな記事が出ていないかどうかのチェックは重要なのだ。
そして、もう一つは広告代理店から記事チェックの依頼が来るケース。
たとえば、このようなメールが来る。
題名:〇〇社(←ここに企業名が入る)記事チェックのお願いでは、上記のようなメールにどう対応するのか。
お世話になっております。
表題の件、〇〇社関連の記事チェックのお願いです。
本日の〇〇新聞 朝刊1面に、「×××」という記事が取り上げられています。
下記は既にWEBには出ており、雑誌でも掲載が確認されているものもあります。
来週売りで掲載予定がありましたらご連絡いただけますでしょうか?
お忙しい中お手数をお掛けいたしますが、
何とぞよろしくお願い申し上げます。
この「〇〇社」というのが自社とまったく関係ない場合は突っぱねる……と、もちろんそれが基本ではあるが、代理店に一つ恩を売っておこうということで、掲載がなければ「なし」と伝えることもある。ではあった場合は? これは難しいが、すべて校了してから発売までの間に「あるみたいだな」と伝えることもある。
その他、本当にケースバイケースであるが、つまりそういうやり取りを、媒体社の営業と広告代理店が頻繁にやっていることは事実だ。
さて、前ぶりを長々と書いてしまったが、、、
数日前、東京電力がTBSの放送したスペシャル番組に抗議をしたという。
・9月11日放送 TBS「震災報道スペシャル 原発攻防180日間の真実」における報道について
↓がその番組。
20110911 原発攻防180日の真実 故郷はなぜ奪われ... 投稿者 PMG5
20110911 原発攻防180日の真実(2) 投稿者 PMG5
私はこのニュースを見た時、もちろん「さすが東電、傲慢なことこの上ない、第一級の国賊会社だナ」と思ったが、同時に「これはTBSだけでなく他局や他媒体の広告担当者には意外に効果的かもしれないナ」とも思った。
つまり東電のこの抗議の隠された意図は、広告関係者へのプレッシャーであり、「こういう内容の放送をしていると、もう広告は出さないよ」というメッセージなのではないか、と。
もちろん、これは私の単なる推察であるが、現在のメディアの状況を見ていると、あながち的外れではないと思う。少なくとも、東京電力が広告代理店を通じて、各メディアの報道を逐一チェックしていることは間違いないだろう。
つまり、、、
この会社は原発の危機管理についてはまったくもって無能だが、自社が存続するためならどんな手でも使う、そういう意味での危機管理は万全の会社なのである。
『東京電力福島第一原発事故とマスメディア』
かくもさまざまな言論操作
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