2010年12月9日
女性だけに伝わる、世界でも珍しい文字が中国にある。教育を受けられず、漢字の読み書きができない女性が、自分たちの気持ちを詩文に託し、慰め合う手段として使ってきた「女文字」だ。その美しさに魅せられ、研究・調査を続けてきた元文教大教授の遠藤織枝さん(72)が、関連する貴重な資料を国会図書館に寄贈した。
遠藤さんと「女文字」の出会いは1993年。女文字の存在が中国で80年代に確認されていることを知り、中国の研究者を訪ねた。「女文字は女性差別の産物」と聞き、さらに見せてもらった文字の繊細な美しさに魅せられた。すぐに女文字が伝わる湖南省江永県に入り、残り少なくなった使い手に会った。
女文字は漢字の楷書の変形とみられる表音文字。遠藤さんの調査では約450字あるという。起源は不明だが、少なくとも200〜300年は続いてきたものとみられる。
この地域では農家の同じ年ごろの娘たちが「姉妹」の関係を結び、悲しさやつらさを詩にして、手紙で慰め合っていた。女文字はその手段として使われた、といわれる。詩は、不合理な結婚制度、男女の不平等などへの怒りや恨み、悲しみの気持ちが詠まれているものが多い。
小冊子「三朝書(サンチャオシュー)」にはそうした詩がつづられている。村外に嫁いだ女性に、結婚3日目に実家から食べ物などが差し入れられる習慣があったが、その際、一緒に届けられたもので、表紙は黒か紺の木綿布の手作りの冊子だ。25ページほどあり、最初の6ページだけに詩が書かれているのが特徴。
ただ三朝書は女性が亡くなると一緒に埋葬されることが多く、現存するものはもともと少ない。しかも、漢字教育が普及した現在は、女文字の使い手は数人しかおらず、消滅寸前だ。