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社説:ロシア極東演習 対露戦略の再構築を

 ロシア軍が極東で大規模な軍事演習を開始した。日本で野田新政権が発足した直後とあって、北方領土問題で日本をけん制する狙いがあるとの臆測もあるが、もっと広くロシアの対北東アジア戦略という観点から注視すべきだろう。

 プーチン首相は今月初め、新型長距離ミサイル「ブラバ」を搭載する最新型の原潜を極東の太平洋艦隊基地に年内に配備する方針を表明した。長距離ミサイルはあくまで米国の核戦力に対抗するためのものだが、同時に「縄張り」であるオホーツク海など地域の安全保障体制強化を狙うロシアの強い意志の表れでもある。来年にも初の空母就航が見込まれる中国の軍備強化路線を意識しているのは間違いない。

 経済的にもロシアは、これまで発展の遅れてきた極東を重視する姿勢を打ち出している。来年9月にはウラジオストクで、ロシアでは初めてのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を開き、アジア太平洋経済圏への本格的な参入をうかがう。今月初めに完成したサハリン-ハバロフスク-ウラジオストクをつなぐガスパイプラインは、サハリン沖で採掘した天然ガスをウラジオストクで液化してアジアなどへ輸出する長期計画の第一歩だ。一方で、北東アジアと欧州を結ぶ北極海航路の開発にも力を入れている。ロシア極東の軍事力整備は、こうした経済的な国益をにらみ、北東アジア地域での影響力強化を狙う国家戦略の一環ととらえられる。

 第二次世界大戦後ロシアが実効支配し、日本が返還を求めている北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)も、こうしたロシアの国家戦略に組み込まれている。特にロシア軍が駐留する択捉島と国後島は、オホーツク海から太平洋への出口となる戦略的に重要なシーレーンの一部だとロシアの軍事専門家は指摘する。政権がクリル諸島(北方領土を含む千島列島)の開発に過去にない巨額の資金を投じる長期国家戦略を策定し、インフラや産業基盤の整備を進めているのも、ロシアの対北東アジア戦略の一環ととらえるべきだろう。このままでは北方四島の返還は遠のくばかりだ。

 この夏、20年目を迎えた「ビザなし交流」の枠組みで現地を訪れた日本側訪問団が目にしたのは、急速に進む四島の開発だった。択捉島と国後島では新空港の建設や整備が進み、これまで放置されてきた主要道路の舗装工事も始まった。ロシア人住民は政権がようやく開発に本腰を入れ始めたと期待を寄せていた。

 日本の新政権は、ロシアの対北東アジア戦略をにらみ、対露戦略を真剣に再構築する必要があるだろう。

毎日新聞 2011年9月19日 2時31分

 

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