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人間の自信過剰は進化の置き土産?

ゴリアテの首をはねようとするダビデの図。旧約聖書の挿話では、ダビデは絶大な強さを誇るゴリアテに自信を持って臨み、勝利を収めたとされている。
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Illustration courtesy of Lebrecht Music and Arts Photo Li/Alamy
ゴリアテの首をはねようとするダビデの図。旧約聖書の挿話では、ダビデは絶大な強さを誇るゴリアテに自信を持って臨み、勝利を収めたとされている。

Illustration courtesy of Lebrecht Music and Arts Photo Li/Alamy

 自分の能力を実際より高く評価することが成功を招く場合のあることが、新たな研究で明らかになった。

 今回の研究を率いたスコットランド、エディンバラ大学の進化生物学者ドミニク・ジョンソン氏は、人が自らの能力を過大評価しがちな点は、かなり以前から心理学者によって確認されてきたと語る。

 専門家の中には、自信過剰は目標に向かう熱意や決意などを高め、自己暗示によって願望を叶えるという意味ではプラスに働くとの見方もある。

 しかし自分が優れているという過剰な思い込みは、誤った評価や非現実的な期待、危険な判断を招くことも研究から明らかになっている。とすれば、長い年月の自然淘汰を経て、なぜ自信過剰という性質が人類の主要な特性として残っているのか。

 そして今回、誤った自信過剰が、開戦の決断であれ、新たな株への投資であれ、多くのケースで勝率を高めることが、コンピューター・シミュレーションを用いた新たな研究により明らかになった。

「われわれ人類が自信過剰な理由について、これまでは納得できる説明がなかった。しかしこの新しいモデルは、進化論から見た理由付けを与えてくれるものと言える」とジョンソン氏は説明している。

◆コストが低いときは自信過剰な戦略が有利

 ジョンソン氏は、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のジェームズ・ファウラー氏とともに、進化ゲーム理論に基づいたモデルを開発し、異なる戦略を持つ個々人が競争し合う状況に置かれたときの実績を探った。

 このモデルではXとYという2名の人物を仮定し、さまざまな種類のリソースを奪い合う設定とした。両者が1つのリソースを求めて争う場合、強い方の人物が勝ち、そのリソースを得る。両者は共にリソースを争うためのコストを払う。そのリソースを求めた人物が1人しかいない場合には、コストはゼロで手に入れることができる。両者ともに求めなかった場合は、どちらも何も手に入れることはできない。

 ジョンソン氏によると、このモデルには2つの重要な追加設定が加えられた。第1に、仮想モデルの中でリソースを争う2人は、自分の実力を過大評価、あるいは過小評価している場合がある。第2に、両参加者の競争相手の強さに関する認識には、不確実性やある程度の誤差が含まれている可能性がある。

 これらの要素に基づき、参加者はリソースの取得に動くかどうかを「決定」する。もう1人の参加者もこのリソースを欲しがった場合には、争いが起きるリスクがある。参加者は、自らの実力の認識と、相手の実力に対する認識を比較し、取得に動くか否かの決断を下す。

 研究チームは、参加者の自信過剰の度合いや相手の実力に関する認識の誤差をさまざまに変えながら、数千世代にわたってシミュレーションを実行し、どの戦略が効果的かを観察した。現実世界の進化と同様に、有利な戦略は「生き残り」(あるいは自然選択によって選ばれ)、次の世代に伝えられる。

 シミュレーションの結果によると、相手の本当の実力に不確定要素があり、争いの対象となる獲得物がもたらすメリットが争いのコストを大きく上回る場合にのみ、自信過剰な戦略をとった方が有利になるという。

◆現代社会では自信過剰は有害?

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の行動生物学者ダニエル・ブルームスタイン氏は今回の研究について、誤った楽観主義という概念をうまく解説していると評価する。

 この研究は「(現代における)多くの状況で、人間が自信過剰な行動を起こし、その結果困難な状況に陥るという、よくある現象をある程度説明してくれるものだ」とブルームスタイン氏は語る。

 研究を主導したジョンソン氏も、2008年の世界的な株式市場の急落や、2003年に始まった米国主導によるイラク侵攻などの近年の戦争は、過剰な自信もその一要素だった可能性があると推測している。

 実際、この戦略は、規模が小さな社会で育まれたものであり、高度に発達した複雑な社会では成功の確率が下がる恐れがある。「こうした場合には、自信過剰は誤った戦略となり始める」とジョンソン氏は指摘する。

 例えば、自らの国土から遠く離れた場所に侵攻するかどうかを決定する際に自信過剰に陥ってしまうのは、「進化から生じた不整合」と言えるかもしれない。

 自信過剰に陥りやすい部分が人間の基本的な性質として残っていることを、ジョンソン氏は、もはや現代の生活にそぐわなくなっても、人類が高カロリーな食物を好む嗜好を持っていることになぞらえる。カロリーが貴重だった「過去においてはこの性質は有益だった」ものの、「マクドナルドの店舗があらゆる所に林立する現代においては、これはデメリットとなる」というわけだ。

 今回の研究結果は「Nature」誌9月15日号に掲載された。

Christine Dell'Amore for National Geographic News

「人間の自信過剰は進化の置き土産?」(拡大写真付きの記事)

2011年09月16日

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