大王製紙の井川意高会長が複数の子会社から総額80億円を超える資金を借り入れていたとして辞任した。
同社は、日本製紙グループ本社や王子製紙に次ぐ総合製紙メーカー。愛媛を代表する企業の一つで、全国的な知名度もある。上場企業として極めて特異な不祥事で、辞任は当然だ。
個人的な借り入れだというが、巨額の資金を一体何に使ったのか。多くの株主や社員が疑問に思っていよう。
井川氏は使途を明らかにしていないそうだ。辞任すれば済む話ではなく、井川氏自身がきちんと説明することが経営トップの責任の取り方だ。
2010年度からという比較的短い期間で、これほど巨額な個人への貸し付けを見過ごしてきた大王製紙の責任は社内や株主にとどまるものではない。経緯や使途を徹底的に調査し、結果を公表することが最低限求められる。
大王製紙は弁護士ら社内外の5人から成る特別調査委員会を設置。借り入れの経緯や使途を調べて1カ月後をめどに報告を受け、背任との結論が出れば刑事告訴も検討するとしている。
借り入れのうち約30億円はグループ企業の株式や現金で返済済み。残高約50億円も本人や親族から返済の申し出があり、同社はグループの損益に影響はないともしている。
だが子会社から疑問視するメールが届くまで、経営陣が問題を認識していなかった。ガバナンス(企業統治)が機能していないと言わざるを得ない。
貸し付けの中には必要とされる取締役会決議と契約書のうち、一方しかないケースが見つかっている。
確かに手続きの不備は問題だ。だが、その前にグループトップへの個人的な融資を正式な取締役会で承認するという事態に対し、危機意識があってしかるべきだった。
しかも10年度の借り入れ分については、有価証券報告書に記載されていたというのだ。外部監査を通ったから問題なしでは、社内でチェック機能が働いていたとは到底言えまい。
創業者の孫の井川氏は10年度に23億5千万円、今年4〜9月にグループ企業7社から約60億円を借り入れていた。使途は明らかでないという同社の説明を信じるなら、創業家出身とはいえ会社を私物化したとの批判は免れない。
今回の不祥事を招いたことについて、佐光正義社長は「オーナーだからというところがあったかもしれない」と述べた。「オーナー会社の問題点は認識している」とも繰り返した。
このような企業体質の見直しを進め、近代企業として生まれ変わることが信頼を回復する一歩となる。