2011年7月20日 20時42分 更新:7月20日 22時32分
東日本大震災の被災者と被災地の復旧・復興支援を目的とする東北地方の高速道路無料化が始まって、20日で1カ月が経過した。区間によっては、トラックなど中大型車が無料化前の約2倍に増えるなど交通量は急増し、無料化の恩恵を受ける利用者は着実に広がっている。しかし一方で、高速道出口の料金所で渋滞が多発したり落下物が急増するなど、利用者に迷惑や危険をもたらす事態も大幅に増えており、国土交通省は改善策の検討に乗り出した。【三島健二】
東日本高速道路(NEXCO東日本)の調べによると、6月20日~今月18日の、東北道と常磐道の主要5区間での1日当たりの交通量(全車種)は、無料化前に比べて22~48%増加。中でも中大型車は49~99%も増加した。
今回の無料化は、システム改修が間に合わなかったためETC(自動料金収受システム)が利用できず、利用車は、通行券を受け渡す一般レーンを走行する必要がある。被災者の場合は、自治体が発行した被災証明書類を提示する必要もある。
このため、無料化対象区間内のインターチェンジ(IC)では一般レーンの利用が急増した。NEXCO東日本によると、今月11~18日に、無料化対象区間のIC全133カ所のうち75カ所で、のべ226回の料金所渋滞(出口渋滞)が発生した。
16~18日の3連休には特に出口渋滞が多発しており、東北道だけで3日間に61回発生した。また渋滞が本線にまで延びたケースも、3日間で19回発生していたという。
NEXCO東日本では無料化開始後、料金所の係員を管内で約130人増やし、走行できる一般レーンを極力増やす措置を取った。また当初は係員の不慣れで1台当たり50秒程度かかっていた処理時間も、現金収受とほぼ変わらない同20秒程度にまで短縮したという。それでも利用車をさばききれなかった格好だ。
高速道路上の落下物も、東北道では6月、前年同月比72%増の1580件に上った。NEXCO東日本は、「がれき運搬車などが増えた影響で、落下物は4月から増えているが、6月以降は普段高速道路を使わない荷造りの甘いトラックがかなり流入してきているのが要因ではないか」と指摘している。
こうした事態に対し大畠章宏国交相は19日の閣議後会見で、「状況を把握して改善の余地がないか検討したい」と表明した。
本来の無料化の趣旨に反し、東北地方を発着点としない中大型車までが、やり方次第では無料になる制度上の“盲点”も問題になっている。
今回の無料化は、発着点のどちらかが無料化対象区間内であれば、つなげて走る無料化対象区間外の走行分(料金体系の異なる首都高速など一部除く)の料金も徴収されない仕組みだ。例えば、東京から西日本に向かうトラックでも、一度常磐道の水戸IC以北(無料化対象区間)を走ってすぐ高速を降り、逆方向に乗り直して途中に料金所がない路線を選んで西に向かえば、降りるところまで一切料金はかからない。
こうした利用の横行を裏付けるように、NEXCO東日本の調査でこの1カ月、最も中大型車の利用が増えたのは常磐道・水戸-那珂間(99%増)だった。
被災地支援とは無関係の中大型車まで無料となる現状については、高速道と競合する他の公共交通機関から強い不満の声が上がっている。JR貨物の小林正明社長は13日の記者会見で、今回の無料化の影響による同社の減収額が10億円に上るとの試算を示したうえで、「あるべき交通体系を著しくゆがめており、一日も早く元の料金体系に戻してほしい」と話した。
しかし、問題の解消には時間がかかる見通しだ。中型車以上の無料化は当面8月末までとされているが、国交省は、今秋の編成が予定される11年度第3次補正予算で財源を獲得し、無料化の対象を普通車を含む全車種に拡大する方針だ。その際、ETCのシステムを改修して、盲点をつく利用をできなくする方針だが、それまでは中型車以上の無料化は継続される見通しのため、しばらくは“黙認”の状況が続きそうだ。