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[29763] 【習作】べーやんのいる生活(現実→まどか)
Name: Orz~◆9ae9ff3a ID:7809b372
Date: 2011/09/14 21:14
朝起きるとキュゥべえになっていた。

キュゥべえとは何かだって?

まどかマギカっつーけったいなアニメの似非マスコットキャラだよ。

全体的に白くて、両眼が赤くて、四足歩行で、尻尾が大きくて、背が低くて、背中に口がある。

『あれ? 君みたいな個体いたっけ?』

あと口を動かさずに喋る。

「いや、自分は……」

『どうして声帯動かしてるの? テレパシーはどうしたのさ?』

「ええ、ですから……あっしは、インキュベーターじゃあ御座いませんのよ」

『ん? どういうことだい?』

「話せば長くなるとです……」





『ふん? この世界はアニメーションを用いた映像作品にすぎず、僕もその中の一登場キャラクターにすぎないと?』

「へえ……」

『それで、君はアニメの世界に迷い込んだメタ世界の人間だと、そう言いたいのかい?』

「ええ、まあ、はい」

『ナンセンスだ』

ばっさりである。

それもそうだ。

自分の生きている世界がアニメなどと言われて、誰が信じるというのだ。

荒唐無稽、支離滅裂。

『君、ちょっとおかしいよ』

俺じゃない方のキュゥべえが顔を寄せてくる。

無表情だからちょっと怖い。

『じっとしてて。診てあげる』

そう言うとコツンと額を当ててきた。

ふぉぉぉ、イメージしろ俺!

目の前にいるのは全裸美女、全裸美女、全裸美女。

『……なんだこれは』

「ふぉ……?」

『そんな、そんな馬鹿なことが……僕たちは……』

「どしたん?」

『……何が宇宙の終焉の回避だ。それっぽいこと言わせただけじゃないか』

「ん~?」

『何がインキュベーターだ。話を盛り上げるための舞台装置じゃないか。滑稽な……』

「おーい」

『君の記録、見させてもらったよ』

まあ、ひどい。

プライバシーの侵害ですわ。

『君はどうやってここに? どうすれば君のいた世界に行ける?』

「それは俺が知りたい」

『だろうね……あーあ……』

キュゥべえの尻尾が老犬のように垂れ下っている。

完全に意気消沈してしまったようだ。

ちょっとかわいそう。

「うーん、思うにさ。今の俺らには高さが足りないんじゃないかな。二次元的な意味で」

『ああ』

「スタンダップ! 身長伸ばして三次元を目指そうぜ!」

『ああ』

駄目だ。

生返事しか返ってこない。

「チッ! いいぜ、一生そうしてろ! 俺は美少女と契約してウハウハしてくるからよ!」





そんなこんなで高速道路を爆走する一匹の白き獣、つまり俺。

「ロリ巨乳……! 待ってろよ……! 毎日一緒にお風呂入ってやる……!」

事故はどこだ。

事故車はどこだ。

まだか?

まだなのか?

「事故はきっと~起こるよ~」

トーマス、トーマス。

と、そのとき。

――――キキーッ!

アスファルトがタイヤを切りつける音!

逆か!?

まあいい!

約500メートル前方でクラーッシュ!

轟音!

そして炎上!

「ヒャッハー! もう我慢できねえ! 契約だ!」

この逸る気持ちを抑えることなどできぬ!

燃え上がる四輪駆動車にダッシュ!

窓ガラスバリーン!

「お嬢ちゃん! 助けに来たぜ!」

「ぁ……たす……けて……だれ……か……」

ああ、何て事だ。

貴重な小学生が虫の息。

「いいから契約だ! 早くしろ! 間に合わなくなっても……」

あっ、ちょっと待って。

契約ってどうやるんだろ。

「……ウェイト・ア・モーメント」

来た道を急ぎ引き返す。

嬢ちゃん、死ぬなよ!





「べーやん! べーやん! 契約ってどうやんの!?」

『べーやんって、僕のこと?』

「イエース! ユー!」

『フッ、もう契約なんてしないさ。全部無意味なんだ。あぁ、宇宙が滅べば僕たちも終われるだろうか』

「んなこたぁどうだっていいんだよ! 小学生が死にそうなんだよ!」

『……助けたところで何の意味がある? 君にとって、この世界はただの絵なんだろ?』

「理屈じゃねえんだ! 二次元だろうが! 三次元だろうが! 小学生は宝物なんだよ!」

『なんだ? 何が君をそこまで駆り立てる? 絶望しないのか? この世界に未来はないんだぞ? 続きなど有りはしないんだぞ?』

「大丈夫だ! 二次創作がある! ゲームだって出るんだぜ! 俺達は買えねえし、読めねえけどな!」

『……一つだけ聞かせてほしい。僕たちは何者だ? 何故宇宙を救おうとする? 資料集にはなんて?』

「……どんな名作アニメでも、練られてない設定くらい、ある」

『そうか……』





『少女よ、君の願いを聞こう』

「し……に……た……」

「馬鹿野郎! 死にたいなんて言うやつがあるか! 俺なんてなあ! HDDの処理できなかったんだぞ!」

『ちょっと黙って』

「た……す……け……て……」

『ん、分かった。必ず助ける』

キュゥべえが耳毛を伸ばし、少女の未発達な胸に軽く触れる。

『ここに契約は果たされた。もう大丈夫だよ』

「ぁ……」

先程までの苦悶の表情が消え失せ、一転穏やかな顔になる。

『ソウルジェム……か』

「やっぱり扱き使うの?」

『言っただろう? 意味が無いって。この子に何もやらせたりはしないさ』

「でも穢れ溜まっちゃうじゃん」

『それは……いや、そこまで面倒を見る義理はない筈だ』

「あれれ~? いいのかな~? 俺のいた世界に行く方法、教えてあげないぞ~?」

『戯言を』

「……奇跡だよ」

『なにを……まさか! いや、しかし……』

「思い当たったか。そう、願わせるんだ。俺たちを三次元に移動させろと」

『可能、なのか?』

「時間だけはあるんだ。のんびりやろうぜ」

救急車のサイレンが近付いてくる。

ドップラー、ドップラー。

「当面は、この子の家に厄介になるってことで」

『存在の証明……果たしてみせる』



[29763] マミちゃんのいる生活
Name: Orz~◆9ae9ff3a ID:7809b372
Date: 2011/09/15 23:02
俺たち三次元進出委員会は、不運と踊っちまったマミ嬢と面会するべく病院へ足を運んだ。

「と~もえちゃんの病室はどこかな~」

『はぁ、何が悲しくて子どものお守りなんか……』

「べーやん、そんな仏頂面すんなよ。子どもが怖がるでしょうが。スマイルスマイル」

『こうかい?』

小首を傾げてニッコリと笑うキュゥべえ。

「グーッド!」

『やだなぁ、もう媚びなんか売りたくないよ』

「拠点の確保は必要っしょ。我慢しな」

と、と、ともえ、巴。

「ありましたな」

スライド式のドアを前足で開ける。

「ヘイ! ガール! 加減はいかが!?」

「ぅ、ぅぅ、ぅぁぁ……! ぱぱ、まま……!」

小山のように盛り上がったベッドから少女の嗚咽が漏れてくる。

『両親の死が一行分のシナリオに過ぎないと知ったら、彼女はどんな顔をするのだろうね。まったく茶番だ、茶番』

キュゥべえの言葉は冷やかだ。

いや、己の身を嘲っているだけかもしれない。

「ちょっくら慰めてくる」

こんもり布団に潜り込む。

「すーっ、すーっ、すーっ、すーっ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

女子小学生の匂いのこもった密閉空間で深呼吸。

汗臭い!

でも嫌じゃない!

不思議!

「だ、だれ? だれかいるの?」

「通りすがりのラフメイカーさ。君に笑顔を届けに来た」

掛け布団バッサー!

くせ毛気味の金髪少女が姿を現した!

「きゃっ! ね、ねこさん……?」

「猫? ちがーう。あっしの名は……」

待てよ。

せっかくだ。

淫語言わせよう。

「まんまん」

「まんまんさん?」

「さんはいらない!」

「ひぁ……ごめんなさい……」

『馬鹿やってんじゃないよ。僕はキュゥべえ、こっちは二号だ』

「べーやん、一号やりたかったのか……」

意外と自尊心があるのか?

「あなた達は、いったい……」

『君の名前は?』

「え? マミ、だけど」

『マミ……綺麗な響きだ。君によく合っている』

そうか?

ありふれた名前だぞ?

「あ、ありがとう……」

恥ずかしそうに俯くマミちゃん。

「……はっ!」

よもや!

すでに攻略は始まっている!?

この俺をダシに!?

老獪な!

『僕たちはね、君のご両親に頼まれて来たんだよ』

「え……?」

「何それ初耳なんですけど」

『パパとママは天国に行っちゃうけど、マミが寂しくないようにって僕たちを呼んでくれたんだ』

なにこいつ。

息をするように嘘つくぞ。

お前、嘘はつかないんじゃなかったのか?

「そんな……! やだよ……! おいてかないで……!」

『そうだね。パパとママが一緒の方がいいよね。ごめんね。でも僕たちも頑張るからさ。傍にいさせてほしい』

そんな臭えセリフを吐きながら、マミちゃんの濡れた頬をハンカチで拭うキュゥべえ。

紳士すぎワロタ。

「うん……! わたしのほうこそ、ごめんね……! ないてちゃ、だめだよね……!」

『ダメなことなんてあるか。強くなんかならなくていい。僕たちが守ってあげる』

「あり、がとう……」

目尻に涙を浮かべながらも、マミちゃんは少しだけ微笑んだ。

「イイハナシダナー」





時は流れ、マミちゃんの退院日。

いや、実際のところそんなに日は経ってない。

病は気から。

俺たちの献身的な介護により、彼女は元気を取り戻したのだ。

それはさておき。

「小学生の一人暮らしとか許されんのか?」

『所詮つくりの甘いフィクションだ。どうとでもなる』

「恨み骨髄やな。お前を元の世界に連れてったら、先生刺しに行くんじゃないかと不安になるわ」

『それだよ。本懐を忘れるな』

「へえへえ、分かってますよ。俺も帰りたいし」

『しかし、三次元という概念をどうやって認識させればいいのか……』

「難しいですな。俺も四次元とかさっぱりだ」

「二人とも! お待たせ!」

マミちゃんが満面の笑みで俺たちの元へ駆けてくる。

くりん、とした金糸のおさげが風に揺れた。

『それじゃ、案内してくれ。僕たちの家に』

「こっちよ、着いてきて」

「はぁー! いよいよかー! 帰ったらお風呂入ろうねー!」

「そうね。タオルで拭くだけなんてもう耐えられないもの」

「フヒヒ」

『やれやれ』





道中何事もなくファミリーマンションに到着。

そしてエレベーターで巴さん家の部屋へ。

「パパとママの荷物……片付けないとね」

マミちゃんが寂しそうにポツリと零した。

「まあまあまあまあまあ、まずは風呂もらいましょうや」

『お湯沸かしておいたよ』

「流石べーやん! よっ! 気遣いのできる男!」

『僕に性の別はない』

「魂のふぐりがあるだろ!」

ギャーギャーと主に俺が騒ぎながら、一人と二匹で浴室へ向かう。

「ふぅ、あせくさ……」

シュルシュルと衣擦れの音を響かせながら、服を脱いでいくマミちゃん。

「えいっ」

ブラはまだらしく、年相応の子どもっぽい肌着を洗濯かごに放り投げた。

「……」

無言で正面に位置取り少女の裸体をまじまじと眺める。

「ん?」

今はささやかな膨らみでしかないが、俺はこの双丘が未完の大器であることを知っている。

「どうかした?」

それにしてもだ。

この桜色のぽっち。

美しすぎる。

まさにエロゲ。

「おーい」

『ほっときなよ。さあ、入ろう』

待て!

下がまだ!





『湯船に浸かる前にしっかり体を洗うんだよ』

「はーい」

「べーやん、俺らはええやろ。この体汚れづらいし」

『子どもが真似するから駄目』

「おかんや、おかんがおる……」

『一人で頭洗える?』

「だいじょうぶ」

『そう、偉いね』

……あっ。

俺をスポンジとして使わせればよかった。

まあいい、明日やろう。

「垢がいっぱい……」

「食うべきか、喰わざるべきか、それが疑問だ」

『君の世界の食文化はわけがわからないな』

ソーリー、みんな。

誤解させちまった。

「おっふろ~、おっふろ~」

汚れを落とし、すっきりしたマミちゃんがお湯にそっと足をつける。

「熱っ! あちち……ちょっと熱い」

『ああ、みんなで入るからさ。熱めにしといたの。先に入って冷ますね』

トプンと軽い音を立て、キュゥべえが湯船に浮かんだ。

「二号丸行きまーす!」

ペンギンのような姿勢でダイブ!

上がる水しぶき!

浅すぎる底!

激突する頭!

「うおおおおお!」

激痛に身悶える俺!

『結果は見えてただろうに……』

「ふふっ、あははっ」

『悪いね。この馬鹿のせいでお湯減っちゃったよ』

「ううん、いいの」

マミちゃんが浴槽に腰を下ろす。

そして何を思ったのか、俺とキュゥべえを胸の前に抱きかかえた。

「温かいね」

「……合意と見てよろしいか?」

辛抱堪らず尻尾で乳首をこしょこしょ責める。

「んっ……んん?」

「へっへっへ」

『やめなさい』

「ぶへぇっ!」

すぐ脇のキュゥべえに猫パンチをかまされてしまった。

「もう! ケンカしちゃダメ!」

『ごめんごめん』

「みんな仲良く、ね?」

『ああ』

……俺は知っている。

計画が成功しようが失敗しようが、俺たちはいずれここを去る。

だから、せめて今だけは。

「やっ! やだぁ! そんなところ舐めないで!」

『二号! 自重しろ!』



[29763] ささやき…えいしょう…いのり…ねんじろ!
Name: Orz~◆9ae9ff3a ID:7809b372
Date: 2011/09/16 23:14
『この世界はアニメに準拠している。設定上存在しない少女との契約は不可能だろう』

「シビアやねぇ」

『現在から未来にかけて、契約可能となる少女は四人だけだ。無駄撃ちはできない』

「うーん……そう考えると、マミちゃん落としたのは痛かったか」

『そして魔女の数、すなわちグリーフシードの供給源も限られている。そう何人もの魔法少女を維持する余裕はない』

「最悪、養殖も視野に入れとかないとな」

『さて、マミは学校に行ってるし、これからどうしようか?』

「とりあえず魔法少女予備軍とコンタクト取っときましょうや。こっちのお願い聞いてもらわんことにゃ話にならん」

『まずは顔見せ、会合重ねて仲良くなって、ようやく本題に入れる。まるで営業だ』

「せやな」





こうして俺たち二匹は少女の物色をすべく商店街に繰り出した。

「ヒューッ! 見ろよ、兄弟! どいつもこいつもイカれた髪の色してやがる!」

この色彩の暴力。

魔女の結界もかくやあらん。

『この時間帯に小中学生は出歩かないだろ』

いちいちもっとも。

時刻は眠気を誘う昼下がりである。

「小動物の視界は低くていいね! パンツ見放題だ! 顔見てガッカリなんてこともないし、最高だぜ!」

『そうか』

上を向き鼻息荒く練り歩く。

季語なし。

「お?」

かわいらしい小ぶりなお尻が目に映る。

「ダメだ、買っちゃダメだ。お金なくなっちゃう……」

肉屋のコロッケを物欲しそうに眺める少女がそこにいた。

燃えるような赤髪を後ろでちょこんと結っている。

『ほう? 出歩いてみるものだ』

ターゲット・ロックオン。

ミッション・スタート。

「迷える子羊よ。何をそこまで切望しておるのだ?」

「え? だれ?」

「右を見ろ、上を見ろ、左を見ろ、もう一度上を見ろ、再度右を見ろ」

「どこ? どこにいんの?」

「下だ。キョロキョロすんな」

「んー? ねこ?」

ポニテ娘はこちらに気付くと、しゃがんで目線を合わせてきた。

『猫じゃないよ。僕はキュゥべえ。こっちが二号だ』

うん、もう二号でいいな。

本名よりカッコいいし。

「ふーん、あたしは杏子っていうんだ」

『杏子か、かわいい名前だ。お父さんがつけてくれたのかな?』

「そうだぞ! 親父が徹夜で考えたんだって!」

『それはそれは。いいお父さんだね』

べーやんパネェ。

もう打ち解けちまった。

これは負けてられん。

「欠食児童よ、これを奢ってやろう」

「くれるのか? ありがと」

あまりにコロッケを欲しがりすぎるから代わりにジュースを買ってやる。

『コロッケの方が20円安くない?』

俺は油ものが嫌いなんだ。

「お店に来てるってことは、杏子ちゃんはお使いを頼まれたのかな?」

「ちがうよ。お金を集めてるんだ」

「なんですと?」

杏子ちゃんが小銭の入ったビニール袋を取り出す。

「お金があれば、うまいもの買えるからな。きっとみんな喜ぶ」

二カッと笑いながらそんなことを宣う少女に、さすがの俺も言葉を失ってしまった。

ついでに全米も泣いた。

『そのお金はどこで?』

「道端とか、自販機の下に落ちてるのを拾ったんだ」

『それはネコババだ。悪いことだよ』

「うっ……」

『君のお父さんはそんなことを望んではいない。お金なんて、しっかり勉強して立派な大人になってから稼げばいい』

「でも……モモが泣くんだよ。お腹すいたって……」

優し過ぎるがゆえに自らの手を汚してしまったのか。

皮肉な。

だが、今なら間に合うはずだ。

手を汚すのは俺たちだけでいい。

「大丈夫だ、無問題。君の願いは理解した。ありったけのご馳走を用意してやる。覚悟しとくんだな」

「え……?」

「これよりオペレーション・ハーヴェストを発動する! 後に続け、べーやん!」

『お金は交番に届けるんだよ。約束できるね?』

「うん……」





ネコババは犯罪だと偉そうに説教した俺たちだったが、やってることは一緒だったりする。

誰だって心に棚を持ってるのよ。

「視点が低いと作業が捗るな」

『全インキュベーターに召集をかけた。けっこうな額が集まるだろう』

「はいよ、了解。俺たちは人間の法律じゃ縛れねえぜ」

『金は食料品や衣料品に替えてしまおう。現金のまま寄付したら、受け取ってもらえないかもしれない』

「娘さんのために使えって書いときゃいいんでない?」

『ふむ、半分はそうしてみよう』





珍獣たちと別れた後、杏子は交番にお金を届け、それから学校へ授業をサボってしまったことを謝りに行った。

そして夕方、家の前まで帰ってきたのだが。

「うぅ、どうしよ……」

罪悪感から中に入れず右往左往していた。

「あたしなんかが、いてもいいのかな……」

「いらない子なんていないんだぜ?」

「あ……」

『反省したのならそれでよし。君はまだ子どもなんだ。間違ったっていいんだよ』

唐突に現れ唐突に語り出す二匹。

説得力は皆無である。

「お前ら……」

「ゴーホーム!」

『さあ』

「た、ただいま……」

猫もどきたちに急かされ、杏子は恐る恐る玄関に足を踏み入れた。

「お姉ちゃん、お帰り! すごいんだよ! 早くこっち!」

「な、なんだ?」

妹に引っぱられるまま、リビングへ向かう。

そこには衣服やら文房具やら食品やら嗜好品やらが山積みになっていた。

「すげぇ……あっ!」

目の前の宝の山に思い当たる節を見つけ、急いで玄関に戻る。

「やっぱり……!」

二つの小さな後ろ姿が遠ざかっていくのが見えた。

「おーい! ありがとー! おーい!」

声が届いたのだろう。

二匹の獣は足を止めると、前足を上げてヒラヒラと振った。

杏子もそれに応えるように、腕がちぎれんばかりの勢いで手を振り返した。





「気分はあしながおじさんだな」

『なんだ。やけにおとなしいから、てっきり興味がないのかとばかり。手を出す気は満々か』

「失礼な! 俺をあんなロリコンと一緒にするな!」

『え?』

「それはそうと早く帰ってやらんと。マミちゃんが泣くぞ」

『はぁ、こんなことしてていいのかなぁ』

最近ため息ばかりついてる気がする。

そんなことを考えるキュゥべえであった。

「今日こそ俺がスポンジになって……ふひひ」

『やめろ』



[29763] べーやん怒りの暴言
Name: Orz~◆9ae9ff3a ID:7809b372
Date: 2011/09/18 16:29
「もしも計画が失敗して、この世界に留まることになっちまったら俺は生きていける自信がないよ」

『おやおや、珍しく弱気な発言だね』

「だってよぉ、俺たちは魔法少女の才のある子にしか見えないんだぜ?」

『なるほど。彼女たちも所詮人間、定命の存在。先に待つのは永遠の孤独か』

「べーやんには悪いけど、やっぱり人肌が恋しいよ」

そう。

だから俺はセクハラする。

でもセクハラじゃない。

「それはそうと、マミちゃんのソウルジェムどんな感じ?」

『別に放置でいいと思うけど? あの子が魔女になった姿なんて存在しないんだから』

「いやいや、そういう問題じゃねえだろ」

『どうしても気になるというのなら、魔女狩り行くかい?』

「その言葉が聞きたかった」





そんなわけでビルの谷間にある魔女の結界にやって来たのだ。

「これが俗に言うイヌカレー空間か。カメラ持ってくるんだった」

幾何学模様やらマーブル模様やらが散りばめられた完全なる異界。

実に前衛芸術的。

まさしくカオスの権化。

「博士、ここには何がいるんです?」

『分からん』

ん?

なに?

Q. 魔女を殺して平気なの?

A. はい、平気です。

俺に罪悪感を抱かせたいのなら元のキャラグラを見せろ。

設定だけポンと出されても困るわ。

あいつら愛嬌ゼロだからな。

要するにかわいくない。

シャルロッテ?

いらん。

強いて挙げるならオクタヴィアだな。

あの仮面をパカパカするAAが好きでね。

実際の中身はグロ肉らしいけど。

『構えて。お出ましだ』

「オーケー、俺の猫パンチが火を吹くぜ」

現れたのはサリーちゃんのパパみたいなおヒゲのあいつ。

女王様に手入れしてもらえる髭が自慢の毛玉の怪人。

何故か最終回にも出演した使い魔界の出世株。

「オー! アンソニー!」

『薔薇園の魔女か。養殖に適したやつを引いたね』

相手は女子中学生にも手こずるような雑魚。

負ける要素はない!

「バーンナッふべぇっ!」

と、突進にカウンターを合わせられちまった……。

「あんた……やるねぇ……」

非礼を詫びよう。

あんたは俺の好敵手だ。

「コォォォォォォ」

もはや油断はない。

踏み込めるか?

この必殺の間合いに。

「来いよアンソニー! 怖いのか! ハサミなんか捨ててかかってこい!」

挑発が効いたのか。

ハサミを投げ捨てた毛玉のお化けがじりじりと詰め寄ってくる。

そうだ、来い。

豚のような悲鳴を上げさせてやる。

「パワーウェぶひぃっ!」

豚のような悲鳴を上げたのは俺だったぁーっ!

きりもみ回転しながら吹き飛ぶ俺。

おかげで受け身も取れない。

「へぎゃぁ! ごふぅ……ぉ、ぉぉ……」

叩きつけられた衝撃がでかすぎてダウン復帰できない。

哀れ、俺。

危うし、俺。

追撃のチャンスとばかりに、ヒゲ魔人が倒れた俺に馬乗りになる。

「いやぁ……おかされごはっ!」

繰り出されるはラッシュの嵐!

拳の弾幕!

「やめろ! やめて!」

いやだ!

死にたくない!

まだマミちゃんのおっぱいに挟まれてないのに!

「おっぱい……いっぱい……まみぃ……」

いよいよ死を覚悟したそのとき。

『全軍突撃! 二号を救出しろ!』

果たして救いの神は舞い降りた。

俺と毛玉に飛びかかる無数のキュゥべえ。

『えい! えい!』

『しねぇ!』

『いたいよぉ!』

よかった。

てっきり見殺しにされたかとばかり。

『すまない。増援を呼ぶのに手間取った』

「謝ることなんて、何もないさ……」

べーやんに下から引きずり出され、ようやく一息つく。

「ふぅ……でもこれで一安心……」

『うわー! もうだめだー!』

「え?」

情けない声に驚き振り返ると、何十匹ものキュゥべえが宙を舞っていた。

その散り様は無双ゲーの雑魚のごとし。

信じられるか?

相手は使い魔一匹だけなんだぜ?

『援軍を要請した! 持ち堪えろ!』

「一緒や! 増えても!」

実時間にして120分後。

キュゥべえ大隊の全滅を確認。

アンソニー千人斬り達成。

俺たちは撤退を余儀なくされた。





「無理だな」

『そうだね』

俺たちでは魔女どころか使い魔すら倒せん。

『魔女のことは一旦置いといて、とりあえず杏子のところに行こうか』

「おっ、さっそく試すのか」

『あの子は僕たちに借りがある。お願いの一つくらい聞いてくれるはず』

「でもどうやって?」

『君からもらった知識を彼女に送ってみようと思う』

「あー、もしかして、まどっちに歴史のイメージ見せたやつ?」

『そう、あれ。脳が焼き切れるなんてことはないだろう。たぶん』

不穏な言葉が聞こえたぞ。

でも、これで帰れるかもしれないんだな。

てなわけで今度は教会に移動する。

「ハロー、杏子ちゃん。ご機嫌いかが?」

『邪魔するよ』

「おぉ、お前らか! 上がれよ!」

杏子ちゃんが元気そうで何よりです。

前に会ったときよりも血色が良い。

心なしかちょっと丸っこくなったような気がする。

「ええっと……どっちがどっちだ?」

『僕がキュゥべえ。口を動かしてる方が二号』

「いや、実際慣れないと分かりにくいよ。ちょっとマッキー貸してくんない?」

「ほい」

「あんがと。俺は二号の2……っと」

額に数字を書き込む。

油性だから簡単には落ちないだろう。

「べーやんは……べーやんの、べ!」

『べ? よりによって?』

これで初見でも区別がつきやすくなったぞ。

べーやんは不満そうだけど。

『はぁ、まあいい。今日は君にね、お願いがあって来たの』

「お願い? いいよ。何でも言ってくれ」

『助かる。ちょっと僕の眼をみてくれないかな』

「んー?」

杏子ちゃんは言われるまま、べーやんの真っ赤な瞳を覗きこむ。

「お? おお?」

『伝わったかな?』

「うーん……汚い部屋が……」

掃除くらいしてるよ。

失礼な。

『僕たちはね、あの場所に行きたいんだ』

「どうして?」

『あそこが僕たちのお家だからさ。でも帰れなくなっちゃって』

「かわいそう……そうだ! あたしの部屋に住ませてやるよ!」

『ああ違うんだ。そうじゃない。君の力で僕たちを家に帰してほしいんだよ』

「そっか、残念。わかったよ、交番に聞きに行ってやる」

『だからそうじゃなくて……ゴホン、僕と契約して魔法少女になってほしいんだ!』

「出たー! キュゥべえさんの僕と契約してよ発言だー!」

「まほう……?」

『僕たちが家に帰れるよう心から強く願ってほしい。お願いだ』

「よくわからないけど……帰れないのは寂しいもんな」

杏子ちゃんが祈るように手を組み跪く。

教会育ちなだけあって様になってる。

『……』

べーやんが無言で杏子ちゃんのちっぱいに触れる。

緊張しているのか。

俺もなんだか嫌な汗かいてきた。

頼む。

成功してくれ。

『契約、成立……これで、僕は……』

紅い宝石が目に映った瞬間、何かに引っ張られるような感覚に襲われた。





気がつけばそこはいつもの汚部屋。

オーシット!

自分で汚いって認めちまった!

「アイムバックマイホーム! アイムバックマイルーム!」

おっと。

何か踏みそうになっちまった。

……まどマギのBDか。

俺が見たのは胡蝶の夢だったのだろうか。

ケースから飛び出たBDに手を伸ばす。

「あ、あらら?」

視界が歪む。

いや違う。

世界が歪んでいる。

「あらぁぁぁぁ!」

またしても何かに引っ張られるような感覚に襲われ、俺の意識は暗転した。





「ハッ! ドリームか!」

どっちが夢で、どっちが現実なのか。

分からなくなってきたぜ。

『……』

「べーやん?」

べーやんがプルプル震えてる。

牛乳寒天みたいだ。

「失敗、しちまったのか?」

「べーやん、元気出せよ。まだチャンスはあるだろ?」

『木偶が』

「え……」

『使えん木偶が! 砕け散れ!』

それは激しく狂おしいほどの憎悪が込められた罵倒。

「ごめ……ごめん……」

キュゥべえに罵声を浴びせられ、杏子ちゃんの涙腺が決壊した。

「俺だってBD見たかったよ。だからって、この子責めるのは筋違いだろ」

『……失礼させてもらう』

「まあでも? 杏子ちゃんが悪いと思ってるんなら? ちょっと脱いでほしいっていうか?」

「帰して、あげられなくて……ほんと……ごめん……」

「B・R・D!! B・R・D!! あれ? べーやん? べーやん!」

ツッコミが来ない。

いったいどうしたというんだ。





「よう、探したぜ」

『……』

「なんで分かったのかって? 馬鹿と煙は高いところが好きって言うだろ?」

『……』

「一度の失敗でカッカしても仕方ねえだろ。また次の機会に」

『次なんてない』

「ホワッツ?」

『壁があるんだ。君はそれを越えられたけど僕は通れなかった』

「杏子ちゃんじゃ力不足だったってこと?」

『力は関係ない。根本的に不可能なんだ。僕は永遠にこの世界から抜け出せない』

「えっと、えっと、全盛期のまどっちなら」

『あれもこの世界の住人にすぎない。結果は同じだ』

力なく寝そべっていたキュゥべえが、ゆっくりと立ち上がる。

『知らなければよかった。無知な人形のままでいたかった』

「べーやん……」

『頭を冷やしてくる』

ただ一言そう言い残し、キュゥべえは夕闇に消えていった。


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