目指すは3000万アカウントの新事業

――“大作ゲーム”を制作するのに適した状況下ですと、社員に対して「君は明日からSNS向けにカジュアルなソーシャルゲーム作れ」と言ったら、彼らのモチベーションが下がる恐れはないですか。

鵜之澤氏:いや、それは世代によっても違いますね。実際、カジュアル系のゲームは今でも作っているし、そういうゲームをやりたいって手を挙げる開発者もいますからね。

 若手で、ちょっと“山っ気”があるような連中は、Facebook向けのゲームをやりたいなんて手を挙げてきますよ。それに、ソーシャルを含むカジュアルゲームは、ネットワークにつながることで、新しい遊びや機能を提供できるので、その部分に興味を持つ開発者もいますよね。

 だから、ハイエンドの開発じゃなきゃ皆が「いやだ」ってわけじゃない。そうじゃなきゃ、そもそも、ここ数年のDSやPSP向けタイトルは作れませんよ。

 それに、この先ゲーム業界で数十年仕事していこうと思ったら、今のこの変化の流れに対応していくことは必要でしょ。ゲームは伝統工芸じゃないんで、国が保護してくれるわけでもないし。

 この新しい市場で勝負して、新たな遊び方を生み出していかないと、活躍できる場がどんどん少なくなるわけですから、小規模タイトルを少人数で作る体制にも今後は慣れていく必要があります。

――今、SNS向けソーシャルゲームやiPhone、iPad向けゲームの開発に、リソースはどれくらい割いているんですか。

鵜之澤氏:今はかなりやっていますよ。米国の企業のように専用の開発会社を買収して、取り組むようなことはしていませんけどね。

 今は不況の影響もあって、全体的に外注の仕事量が減っているから、デベロッパーを使おうと思えば、多分すぐにやってもらえると思いますけど、もしApp Storeに上げるだけだったら、デベロッパーが直接やろうと思えばできちゃうでしょ。

 ここで改めて、バンダイナムコゲームスというパブリッシャーの役割って何なのかを考えているんですよ。我々には何ができるんだろうってね。

iPhone向けでも人気の『太鼓の達人』シリーズ
(C)2010 NBGI
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――自社で開発できること以外にもバンダイナムコグループが持つキャラクターや各種のノウハウがありますね。

鵜之澤氏:キャラクターとIP(知的財産)と資本力――。それに、さまざまな流通形態なども含む各種ネットワークのインフラなどですかね。

 これらをパブリッシャーとして持っているので、この特長を生かして、ソーシャルゲームやiPhone、iPad向けゲームの開発にも力を入れていくべきでしょう。

 現状は、こうした特長を生かすような組織だった動きができていないと見ています。断片的に色々な部署で取り組んではいるんですけど、体系的にやっているわけじゃないんで、ここを何とかしなくちゃと考えているんですよ。

――日本におけるソーシャルゲームは立ち上がったばかりなので、今後の市場の成長期待を込めて各社の株価も高い状況にあります。その点からすると、単にゲームタイトルを既存のSNS向けに提供するだけではなく、新たなSNSプラットフォームを作って参入することも市場からは期待されています。

鵜之澤氏:確かに時価総額で見るとグリーやDeNAは、既存のゲーム会社を凌駕する規模で、任天堂の次をセガサミーとこの2社が争っている状況ですね(注:2010年6月取材時点の株価)。

 バンダイナムコやスクウェア・エニックスといったゲーム会社を、グリーやDeNAが、時価総額で超えているのを見ると、“いつできた会社だった?”と驚くのと同時に、「なぜ我々はこのトレンドに乗れなかったのか」って反省します。我々も歴史あるゲーム会社で、モバイルだってやってきたのにね。

――新興2社は、ゲームというコンテンツと課金モデルをうまく組み合わせてビジネスを考えたんでしょうね。

鵜之澤氏:ゲームの見た目では「ずいぶんシンプルだなぁ」って思いますよね。

 でも、作り手側はユーザーニーズに対応して、あえて軽いインターフェースにするのと同時に、ハマってリピーターになる要素を盛り込んで開発したと思います。実際、ユーザーたちは、その面白さの本質を見抜いて、ファンになっているわけですからね。

 ただ、あのビジネスモデルは過去にもあったものですよね。NHNの「ハンゲーム」といった韓国系のPCゲームでも、アイテム課金のビジネスをずいぶん前からやってきています。

 でも、従来からある国内ゲーム会社は、既存のパッケージビジネスという稼げる事業があったから、あまりそこにフォーカスすることをしなかった。だから、出遅れてしまったんだと思います。

――ケータイSNSでは、『たまごっち』のような育てゲームが大人気です。

鵜之澤氏:バンダイは本家本元の育てゲームの『たまごっち』シリーズがあるわけですけど、SNS向けのソーシャルゲームに展開するという考えには及ばなかった――。

 いずれにせよ、我々には使えるコンテンツもあったし、ビジネスモデルも理解できていたのに、それをソーシャルという市場に持っていくことができなかったわけです。だから、今やるべきことは分かっています。

元祖育てゲームの『たまごっち』シリーズのDS向け『たまごっちのピチピチおみせっち』
(C)BANDAI・WiZ/TV TOKYO・2009TeamたまごっちTV
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