「給費制」や法科大学院をめぐり、「おカネ持ちしか法曹になれない」という問題が指摘されています。その通り、いや、そんなことはない、というやりとりも議論のなかでなされてきたのですが、これは以前にも書きましたが、この問題は、法曹志望者の機会保障という意味と、もう一つは、法曹の人材の偏りという意味で、その現実的な弊害を考える必要があります。
後者に関しては、もし「おカネ持ちしか」ということであれば、その結果、いわゆる富裕層が多く裁判官や弁護士になる状況が、果たして司法の在り方として問題にならないのか、という話にもなります。
ところが、もう一つ別の見方も実はあります。「おカネ持ちしかなれない」ということよりも、「おカネ持ちならなれる」という方を懸念する見方です。これは、法科大学院修了者の7、8割程度の司法試験合格という当初の見通しが掲げられた時に、よく耳にすることがありました。
暴力団などが資金提供した法曹志望者が法科大学院に入り、受かりやすくなった司法試験をパスする。つまり、法科大学院さえ入れれば、まず合格出来るという制度は、そういう環境を提供するのだ、と。経済的に厳しくて本来法曹界が欲しい人材が来なくなるかわりに、そうした経済問題をパスした望ましくない方々がやってきて、まんまと法曹になってしまう環境なのだということです。
もっとも7、8割に遠く及ばない現在の司法試験合格率を見れば、入ったからといって合格出来ない人の方が7割以上いるのですから、そんな想像もしずらくはなっています。
ただ、気になる話が3年前に出版された河井克行・衆院議員(元法務副大臣)の「司法の崩壊」という本の中に書かれています。法科大学院関係者の話として紹介されている法曹になる動機・目的を全く明らかにしない「チンピラ」風学生たちの話です。彼も言いますが、これまでも「ヤンキー」や「ツッパリ」風の法曹志望者はもちろんいましたが、確かにみんなそれでも動機や志については法曹志望者のそれだったりしたものなのです。
河井氏は、「推理作家ばりの『想像』」と前置きして、この「チンピラ」風の学生たちが、「その筋」の団体から資金提供を受けて、法科大学院に通っている可能性を指摘しています。
もちろん、動機・目的を明かさず、格好が「チンピラ」風というだけで、直ちに、こうした想像ができるのかという疑問はあります。ただ、彼も指摘していますが、こうした資金提供の噂は、裏が取りきれない話として、旧司法試験時代にも、存在していました。私の知っている限りでも、最終的に合格できたかまでは定かではありませんが、かつて大学院で勉強しながら司法試験にチャレンジしていた学生が、実はテキヤ系暴力団の準構成員だったという話がありました。
河井氏は、こう書いています。
「旧司法試験は最難関の資格試験であり、合格率がたかだか数パーセントだったから、資金を提供する側にとっても、危険性の高い投資であったに違いない。ところが新司法試験が始まり、一挙に合格率が跳ね上がった。ならば、その『投資』が採算に乗るかもしれないということは容易に想像できる」
繰り返しになりますが、合格率が下降していて3割を切っている現在の状況は、河井氏の想像を少なくとも「容易」にさせるものにはなっていないようには思います。
しかし、ここで二つのことがいえるのではないかと思います。一つは、とにかく司法試験の合格率を上げよ、とりあえず試験を通せ、という法科大学院側から聞こえてくる発想と、おカネがかかる現在の制度の取り合わせは、方向性において、前記のような関係が生まれる環境を作る危険性を高めることを否定しきれないこと。
そして、もう一つは、「給費制」が存在し、「修習専念義務」が課せられ、そして法科大学院というプロセスのための経済的条件が問われなかった、かつての法曹養成が、志望者に対するそうした外部の影響あるいは誘惑を極力排除するものだったということです。
いまの「改革」が生み出している状況は、弁護士になる前から、そしてなった後まで、そうした関係性をより生み出す環境を作りつつあるということには、目が向けられてもいいように思います。
後者に関しては、もし「おカネ持ちしか」ということであれば、その結果、いわゆる富裕層が多く裁判官や弁護士になる状況が、果たして司法の在り方として問題にならないのか、という話にもなります。
ところが、もう一つ別の見方も実はあります。「おカネ持ちしかなれない」ということよりも、「おカネ持ちならなれる」という方を懸念する見方です。これは、法科大学院修了者の7、8割程度の司法試験合格という当初の見通しが掲げられた時に、よく耳にすることがありました。
暴力団などが資金提供した法曹志望者が法科大学院に入り、受かりやすくなった司法試験をパスする。つまり、法科大学院さえ入れれば、まず合格出来るという制度は、そういう環境を提供するのだ、と。経済的に厳しくて本来法曹界が欲しい人材が来なくなるかわりに、そうした経済問題をパスした望ましくない方々がやってきて、まんまと法曹になってしまう環境なのだということです。
もっとも7、8割に遠く及ばない現在の司法試験合格率を見れば、入ったからといって合格出来ない人の方が7割以上いるのですから、そんな想像もしずらくはなっています。
ただ、気になる話が3年前に出版された河井克行・衆院議員(元法務副大臣)の「司法の崩壊」という本の中に書かれています。法科大学院関係者の話として紹介されている法曹になる動機・目的を全く明らかにしない「チンピラ」風学生たちの話です。彼も言いますが、これまでも「ヤンキー」や「ツッパリ」風の法曹志望者はもちろんいましたが、確かにみんなそれでも動機や志については法曹志望者のそれだったりしたものなのです。
河井氏は、「推理作家ばりの『想像』」と前置きして、この「チンピラ」風の学生たちが、「その筋」の団体から資金提供を受けて、法科大学院に通っている可能性を指摘しています。
もちろん、動機・目的を明かさず、格好が「チンピラ」風というだけで、直ちに、こうした想像ができるのかという疑問はあります。ただ、彼も指摘していますが、こうした資金提供の噂は、裏が取りきれない話として、旧司法試験時代にも、存在していました。私の知っている限りでも、最終的に合格できたかまでは定かではありませんが、かつて大学院で勉強しながら司法試験にチャレンジしていた学生が、実はテキヤ系暴力団の準構成員だったという話がありました。
河井氏は、こう書いています。
「旧司法試験は最難関の資格試験であり、合格率がたかだか数パーセントだったから、資金を提供する側にとっても、危険性の高い投資であったに違いない。ところが新司法試験が始まり、一挙に合格率が跳ね上がった。ならば、その『投資』が採算に乗るかもしれないということは容易に想像できる」
繰り返しになりますが、合格率が下降していて3割を切っている現在の状況は、河井氏の想像を少なくとも「容易」にさせるものにはなっていないようには思います。
しかし、ここで二つのことがいえるのではないかと思います。一つは、とにかく司法試験の合格率を上げよ、とりあえず試験を通せ、という法科大学院側から聞こえてくる発想と、おカネがかかる現在の制度の取り合わせは、方向性において、前記のような関係が生まれる環境を作る危険性を高めることを否定しきれないこと。
そして、もう一つは、「給費制」が存在し、「修習専念義務」が課せられ、そして法科大学院というプロセスのための経済的条件が問われなかった、かつての法曹養成が、志望者に対するそうした外部の影響あるいは誘惑を極力排除するものだったということです。
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