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金融機関には裁判で勝てない!(前編)


沖縄農協から覚えのない借金を背負わされた男の悲劇


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巨額の不正融資事件が起きていた沖縄農協。

 もしある日突然、身に覚えの無い数千万円の借金の請求が届いたら、あなたならどうするだろうか。しかも、請求者が悪徳な詐欺集団ならいざ知らず、なじみの深い「おらが村」の農協だったとしたら――。

 地元農協からあずかり知らぬ借金を背負わされ、しかも裁判でも言い分が認められずに、1,000万円以上の支払いを余儀なくされたひとりの男性がいる。沖縄県名護市に住む金城正さん(仮名)のもとに、沖縄県農業協同組合(以下、沖縄農協)から約6,400万円の債務に関する通知が届いたのは平成14年5月のこと。書面の内容は、金城氏が平成5年と6年の2度にわたり、合計7,000万円の融資を名護農協(後に合併して「やんばる農協」→再合併して「沖縄農協」)から受け、その返済がないために債権を東京の債権回収会社に譲渡するというものだった。

 ところが、金城さんにとっては全くの寝耳に水の話。そもそも、農協は平成5年と6年に融資をしたといいながら、その日まで9年の間、一度たりとも返済を求めた事実はない。まさに青天の霹靂。普通であれば狐につままれたような気持ちになるところだが、金城氏はある事件を思い出して強い不安感に襲われたという。

「ある事件」とは、それより3年前の平成11年、やんばる農協時代に起きた巨額の不正融資事件である。同農協の金融課長だった男がカラオケ店経営者の知人と共謀し、オンライン端末を不正に操作して知人やカラオケ店従業員の名義の架空口座を多数開設。貸付権限がないにもかかわらず、決裁を得ないまま架空口座へ融資を繰り返した。不正行為は92年7月から96年3月まで3年9カ月続けられ、不正金額は発覚しただけで約7億円。那覇地裁は平成11年10月、「犯行は常習的。犯行態様は悪質極まりない」として、元金融担当課長に懲役4年の実刑判決を言い渡している。

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 JAやんばる(現・沖縄農協)の
不正融資事件を報じる
平成11年10月付け地元紙。


 金城さんに通知が届いたのは、その3年後の平成14年。やんばる農協の事件は当時地元でも大きな騒ぎとなったため、当然ながら金城さんは事件との関連性を疑った。事実、農協から取り寄せた口座開設申込書を見ると、金城さんは逮捕された共犯者が経営するカラオケ店の従業員という形にされており、さらに記入された住所と名前の筆跡は、金城さんのそれとは似ても似つかぬ他人のものだった。

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 上段が架空口座が作られたときに犯人もしくは協力者が金城さんになりすまして書いた文字。
丸い女性的な筆跡が特徴。下段が実際の金城さんの筆跡。まったく異なるのが分かる。

 あっけにとられた金城さんだが、農協側にそれを主張しても聞き入れてもらえない。その後、平成15年8月には裁判所から「不動産競売開始決定通知」が届く。つまり、知らない間に自身の家屋や土地が抵当に設定されており、その競売が執行されるというのである。精神的に大きなショックを受けた金城さんはこの時期から体調不良に陥り、血圧上昇やろれつが回らないなどの症状が出始め、今も通院が続いているという。

 身に覚えのない借金で家屋と土地が取り上げられる――。追い詰められた金城さんは、平成16年に抵当権抹消を求めて裁判を起こすが、翌年棄却。控訴するも平成18年控訴棄却。さらに上告も不受理となり、ついに平成19年1月に金城氏の敗訴が決定してしまう。

 借りた覚えのない多額の借金を請求されるという無茶苦茶なこの事件。金城さんはいったいなぜ敗訴したのか。関東のある農協で長年融資を担当していたA氏(52歳)は、今回の事件を「沖縄農協による組織ぐるみの犯罪隠ぺいであることは間違いない」としたうえで、「この手の裁判のポイントは立証責任。ただし、それが難しい」と説明する。

「裁判ではどんなに状況が怪しくても、立証できなければ勝てません。例えば、今回の事件では、架空口座を作ったときに金城さんの偽造印鑑が使われていますが、それが偽造であることを立証するとなると、偽造した人間の自白しか方法がない。だから、裁判では立証責任を押しつけた方が勝つんです」

 実際、那覇地裁の判決文には、「(やんばる農協の金融担当課長)による不正貸付であった可能性は大いにあるものの、その真相は不明というほかなく、この事態は立証責任を負担する原告(編注:金城さん)の責任において解決されるべきものである」としているのである。裁判所としても怪しいことは間違いないとしながら、それを立証するのは被害者たる金城さんにあると言っているのである。「裁判所は事実を追求する場所ではなく、原告の立証を判断する場所」(A氏)であるとはいえ、一般的な感覚からいえば理不尽極まりないとしかいいようがない。

 その後、債権は別の回収会社に転売され、その回収会社は金城さんに対し、「1,342万円を支払えば競売申し立ては取り下げる」と打診。敗訴をして打つ手がない金城さんは、家屋と土地を守るために平成20年4月、断腸の思いで1,342万円を回収会社へ支払ったという。

 それにしても、本サイトで前回報じた、ゆうちょ銀行のデータ喪失事件(※記事参照)も含め、金融機関のあまりにずさんな業務実態や犯罪行為が露呈する一方、一般人が裁判で敗訴を続けるのはなぜなのか。次回は、今回証言をしてくれた元農協金融担当者A氏に、金融機関を訴訟する難しさについて話を聞く。(後編へつづく)
(後編に続く/文=浮島さとし)


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2011.09.17 土  



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