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この国と原発:第1部・翻弄される自治体/4 安全協定拡大構想に北海道・泊村難色

 ◇「産地」と「消費地」深い溝

 東京電力福島第1原発事故から半月後の3月29日、北海道電力泊原発(泊村)の10~30キロ圏内にある9町村の首長が緊急会議を開いた。8~10キロ圏内を対象とした国の防災対策重点地域(EPZ)を超えて広がる事故の被害に、泊原発から町境まで10・2キロしかない仁木町の三浦敏幸町長が呼びかけた。国や北電との交渉窓口になる協議会を作る方針で一致。三浦町長は会議後、10キロ圏内の共和町など4町村が北電と結ぶ安全協定を巡り、「9町村も入れてほしい」と語った。

 会議の数日後。共和町へ説明に訪れた三浦町長に、4町村長で最も古株の山本栄二町長は「我々は(誘致から)40年の歴史がある。道民の電力の40%を供給する原発が立地できたのは、4町村の住民の並々ならぬ協力があったからだ」とクギを刺した。協議会の構想はわずか1カ月で立ち消えとなった。

 泊村の牧野浩臣村長は「4町村が賛成することも、周辺の町村が反対すれば決められなくなる」と発言力低下への懸念を語る。村議の間には「(周辺町村の狙いは)やはり交付金などのカネ」との臆測も飛び交う。

 三浦町長は「仁木町から原発は見えない。(4町村長に)『毎朝見て、事故がなければいいと思っている』と言われると説得力がある。私たちは安全にしてほしいだけなんだが……」と振り返る。

 動きはさらに外側にも広がる。泊原発から約70キロ離れた札幌市。上田文雄市長は6月の市議会で「『環境首都・札幌』として、原子力発電に依存しない社会を目指す」と述べるなど、「脱原発」の姿勢を鮮明に打ち出す。国にはEPZを拡大して札幌を対象とすることも求めた。

 6月30日には、北電に泊原発の安全対策徹底や情報公開、プルサーマル計画の凍結を申し入れた。本社を訪れたが、応対したのは札幌支店長の本間公祐常務。上田市長によると、本間支店長は「お話は承りました」と笑顔で繰り返し、具体的回答はなかった。市幹部は「(安全協定を結んでいない札幌市に)申し入れされても困るという姿勢を明示した」と受け止めた。

 03年の市長初当選前は市民派弁護士として、泊原発差し止め訴訟(88~99年)に関与。現在は「原発はベーシックな電力で、すぐに止めろということはない」と現実路線を敷く一方で、自然エネルギーへの転換に向けた調査費を補正予算に計上するなど着々と手を打つ。7月には、提訴準備を進める「泊原発の廃炉をめざす会」の集会に応援メッセージを送った。

 福島の事故は、「国策」に翻弄(ほんろう)されてきた立地自治体、事故と無縁ではないことを気づかされた周辺自治体、「産地」を意識することなく大量の電気を使ってきた大都会の意識のギャップを顕在化させた。人口190万人の大都市の「脱原発」。人口1900人と全国の立地自治体で最も少ない泊村の宇留間文宣・村議会議長は冷ややかに指摘する。

 「ススキノの電気を(原発分の)4割消したら、経済はどうなる? どこのために原発があるのか、市長は理解しているのか」【坂井友子、中川紗矢子、吉井理記、高山純二】=つづく

毎日新聞 2011年8月23日 東京朝刊

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