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この国と原発:第1部・翻弄される自治体/1(その2止) 落ちるカネ、依存体質に

 <1面からつづく>

運転開始から40年以上が経過した敦賀原発1号機。見学者が立ち寄る敦賀原子力館の対岸にある=福井県敦賀市で、小川昌宏撮影
運転開始から40年以上が経過した敦賀原発1号機。見学者が立ち寄る敦賀原子力館の対岸にある=福井県敦賀市で、小川昌宏撮影

 ◇巨大施設乱立、土建業が肥大 偏った産業構造脱却は困難--福井・敦賀市

 「原発銀座」と呼ばれる福井県の若狭湾岸にある敦賀市内を歩くと、電源3法交付金や原発事業者からの寄付で建設された体育館やホール、商店街のアーケード、短大や温泉施設まで、人口約6万9000人の地方都市には不釣り合いと思える巨大施設が建ち並ぶ。

 北陸自動車道敦賀インターチェンジ近くの山腹にある市立温泉施設「リラ・ポート」。約9ヘクタールの広大な敷地に、豪華客船をイメージした総ガラス張りの建物と、約300台が駐車可能な立体駐車場を併設する。大浴場や露天風呂のほか、水中歩行で健康増進を図る「バーデプール」と設備も豪華だ。

 02年に完成し、総事業費は約35億円。うち約25億円は高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ火災事故(95年12月)後、文部科学省が創設した交付金だった。

 市や地元経済界は当初、「敦賀の観光客は夏場の海水浴ばかり。温泉は観光の起爆剤になる」と期待していた。

 しかし、総ガラス張りで細長い建物のため、光熱費や人件費がかさむ。山腹にあって交通の便が悪く、初年度から年間約1億円の赤字を計上した。現在も市財政からの補填(ほてん)を続ける。市民は「交付金や寄付に翻弄(ほんろう)されるいつものパターン」と冷ややかに見つめる。

 原発と共存してきた40年余りで、最も拡大したのは土建業だ。05年国勢調査によると、その雇用人口は約5000人。人口が敦賀とほぼ同じ同県鯖江市では約2700人で、敦賀の偏りは際立つ。

 偏った産業構造を改めようと、敦賀市は01年度から、約20ヘクタールの広大な土地に13区画の産業団地を造成し、工場誘致を進めている。費用計約82億円のうち約50億円は交付金だ。敦賀インターに直結する国道バイパス沿いにあり、京阪神からの交通アクセスも良いが、誘致は難航している。5区画の分譲先が決まらず、職員の全国行脚が続く。「事故が誘致に影響するかも。どうしたら良いか……」と浮かない表情だ。【日野行介、柳楽未来】

 ◇町長「薄いベニヤ板に乗せられていたようだ」 町民の5割、生活の糧--佐賀・玄海町

 「何ば言いよるんだ、この人は!」。7月6日、佐賀県玄海町の町長室に岸本英雄町長の怒声が響いた。矛先はテレビに映る菅直人首相。全原発の安全評価(ストレステスト)実施を表明したことを報じていた。

 町長は2日前、全国に先駆け玄海原発2、3号機再稼働への同意を九州電力に伝えたばかり。首相のひと言で海江田万里経済産業相の「安全宣言」は宙に浮き、町長は「ばかにされた」と同意を撤回。再稼働は見通せなくなった。

 県の北西端にある玄海町はかつて、貧しい寒村だった。県から原発計画の話を持ちかけられたのは1965年。農漁業以外に目立った産業はなく、町民約8000人の1割近くが関東や関西に出稼ぎに行った。町区長会の渡辺正一会長(57)は「どの企業も来てくれず、誘致したのが原発だった」と話す。

 誘致が決まると、原発マネーが流れ込んだ。町が受け取った電源3法交付金は総額265億円。町民会館に26億円、温泉施設に17億円、老人ホームに23億円と豪華な公共施設を並べても、お釣りが来た。「ようやく人並みの生活ができるようになった」。山崎隆男元町議(85)は振り返る。「豊か」になるに連れ、反原発の声もなりを潜めた。

 だが、原発マネーは依存構造を生んだ。歳入の6割以上を原発関連が占め、「町民の5割が原発を生活の糧にしている」(岸本町長)。半面、人口は減り続け、他産業は育たず農漁業の担い手も半減した。

 一方、原発の固定資産税は減価償却が進むにつれ年々減る。2号機稼働から10年過ぎた90年代初め、町財政は縮小傾向にあった。息を吹き返させたのは3号機(94年)、4号機(97年)の相次ぐ稼働。06年には3号機で国内初のプルサーマル発電に同意し、核燃料サイクル交付金30億円も入ることになった。

 財政が先細ると原発特需がカンフル剤のように効く図式。4号機稼働から14年がたち、岸本町長は「老朽化した1、2号機に代え、5号機が必要」と唱えるようになっていた。3月11日までは--。

 町の将来には今、菅首相の「脱原発」宣言が影を落とす。2、3号機は再稼働の見通しが立たず、1、4号機も年内に定期検査に入る。今年度1億5000万円を見込んだ核燃料税は途切れ、作業員が消えた旅館や飲食店は閑古鳥が鳴く。町民からは「原発がなくなれば真っ先に隣の唐津市に吸収される」との声も漏れる。

 「薄っぺらいベニヤ板に乗せられていたようなものだ」。国策頼みの町が国策によって行き詰まり、町長の苦悩は深まる。財政的な自立の道も模索し始めたが、「原発依存をどう是正していくか思い当たらない。廃炉までの期間、貢献度などに応じた交付金で埋めてほしい」と本音を漏らした。

 <心夢見るアトムの町>。町の入り口の県道沿いに看板が立つ。通り過ぎる車はめっきり減った。町財政を分析した伊藤久雄・東京自治研究センター研究員は指摘する。「依存体質を変えないと町は倒れる。だが、その体質は国と電力会社が押しつけて生まれたもので、貧しい町が狙われた」【蒔田備憲、阿部周一】

毎日新聞 2011年8月19日 東京朝刊

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