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この国と原発:第1部・翻弄される自治体/1(その1) 国策推進「しゃーない」

 ◇美浜町「万博支えた」誇り

 ◇敦賀市「脱」意見書に抗議

 地震大国・日本で、原発とどう向き合っていくのか。東京電力福島第1原発事故は、我々に難しい課題を突きつけた。今後の道を探る連載の第1部は「国策」に翻弄(ほんろう)されてきた自治体の現状を追う。

 「町長は私で5代目。歴代、国策に沿って原子力に協力しているんです。今後も進めたいし、国もそうしてほしいのです」。5月4日。福井県美浜町の関西電力美浜原発の応接室で、山口治太郎町長(68)は海江田万里経済産業相に詰め寄った。

 同町と敦賀市からなる敦賀半島には、美浜原発(3基)だけでなく、日本原子力発電敦賀原発(2基)、高速増殖原型炉「もんじゅ」、新型転換炉「ふげん」(廃炉作業中)の計7基が集中する。敦賀原発は70年3月の大阪万博開会式当日から、美浜も同8月から会場に送電。「万博が“原子の灯”で輝いた」ことは、町の誇りだ。同町は歳入の約2割を原発関連に依存するが、山口町長は「万博の時から国の発展を支えてきたんや」と自負する。

 作業員5人が死亡した04年の3号機配管破断事故など、トラブルも多かった美浜原発。福島の事故を受け毎日新聞が4月に実施したアンケートに、山口町長は「安全性が揺らいだ」と答えた。それでも原発を推進する背景には「町民に理解を得る苦労をしてきたのに、今さらはしごを外されては報われない」との思いがある。

 立地自治体では今、「国策」頼みが強まっているように見える。

 6月の敦賀市議会。国にエネルギー政策見直しを求める意見書を原子力発電所特別委員会が全会一致で可決後、取り下げた。将来的に再生エネルギーへの転換を求める内容も含み、地元紙が「脱原発」と報じ、状況が一変した。委員の一人は「脱原発と思って通したわけじゃない。『将来的に』と入れれば丸く収まると思ったのだが」と話す。だが自宅に市民から10件以上、「わしらの仕事なくすんか」と電話があったという。

 意見書を提案した今大地(こんだいじ)晴美市議(60)は4月の市議選で初めて「脱原発」を訴えた。演説で原発に触れると聴衆が減り、「敦賀で事故は起きない」と反論された。4選を果たしたが、票は前回より1割以上少ない1334票。「『しゃーない』が市民の口癖。お上のお墨付きがあると、街づくりが原発任せになった」と嘆く。

 7月4日に敦賀市が開いた安全対策の説明会。町内会組織のトップ、市区長連合会長の奥村務さん(74)は、原発推進を訴えた。奥村さんは「(原発は)ないに越したことはないし、好きな者はおらんよ」と明かす。福島の現状に「原発事故は怖い」と感じる。原発関連の仕事もしていない。それでも旧満州(現中国東北部)からの引き揚げ経験を基に言う。

 「原子力も戦争も国策。日本はエネルギーがないため戦争に追い込まれ、みな国のために戦争をした。代わりのエネルギーはあるのか。どこかが原発を引き受けるしかない」

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 次回は3面に掲載

毎日新聞 2011年8月19日 東京朝刊

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