「江戸前のり」として全国一の高値で取引される東京湾のノリ養殖の種付け作業が18日、千葉県富津市の漁港で本格的に始まる。東日本大震災の津波で約8割の養殖場が被災。加えて福島第1原発事故による風評被害も懸念され、廃業を決めた業者もいる。今後収穫してどれだけ売れるのか。先行きへの不安と復活への期待を交錯させながら、養殖シーズンを迎える。
千葉県産のノリは例年9月中旬から種付けし、11月から翌年4月まで収穫が続く。生産量こそ全国8位(10年度)だが、1枚あたりの平均出荷額が10円を超え、高級すし店などで利用される。富津市産は県産の4分の3を占める。
震災では2メートルを超える津波が東京湾内に押し寄せ、ロープや網、一部の船が流され、各業者は数百万~数千万円の被害を受けた。湾内では製油所火災もあり、収穫を例年より1月早い震災当日の3月11日で切り上げ、年5億枚の収穫量が約2割減った。
太平洋側を含め、千葉県産の水産物から国の暫定規制値を超える放射性物質は一度も検出されていないが、風評被害は収まらない。県漁連の笛木隆指導部長(54)は「千葉県より北の魚は仕入れないという市場もいまだにあると聞く」と顔を曇らせる。
こうした中、県内最多の113人のノリ漁師がいる新富津漁協は5人が廃業。別の漁協でも元副組合長が養殖をやめた。廃業した業者は「一時はかなり多くの業者が廃業を考えていた。風評被害が収まらないと、やめる人はもっと増えるだろう」と話す。
一方、ブランド復活に向け決意を新たにする生産者も多い。ある養殖業者は「風評被害は不安だが、『江戸前』のプライドもある。頑張っていいノリを取ろうという気持ちだ」と種付け準備に余念がない。【黒川晋史】
毎日新聞 2011年9月18日 2時48分(最終更新 9月18日 6時22分)