福島原発事故の復旧を行っている作業員たちへ無償の食事提供を止めたり、電気料金を3年間で15%上げて数%下がった社員への給与を元に戻そうと計画していることを報道され、また国民から非難を受けている東京電力。
わずか3年で日本中に大量に撒き散らされた放射性物質の除去や、事故のせいで家に帰れずに人生を台無しにされた人たちへの十分な補償ができるとははっきり言ってできるとは全く思えませんが、なぜか自分たちの給料は国民に電気料金を負担させてでも元に戻したいようです。
どう考えてもほとんどの国民からバッシングを受けることは想定できるのに、なぜこのような行いを東京電力はするのでしょうか。それは、電気事業法に基づいて作られた電気料金の『総括原価方式』と呼ばれる、原価の計算方法に問題があるといわれています。
『総括原価方式』とは、発電コストや送電網の維持費、その他の電力販売に関わるすべてのお金を総括して原価とする方式で、日本の電力会社はそれに数%の利率を乗せて販売する方式をとっています。
この方式、一見料金の大幅な値上げを止める効果や、各地域での電気料金の差を低くする良い方式のように見えますが、各地域で電力会社が既に決まっており、各会社での価格競争が無い日本では、ほとんど国民へのメリットは無いと言って良いでしょう。なぜならば、コストダウンを考えず原価を吊り上げれば上げるだけ利益は増えるのですから。
『総括原価方式』では東京電力社員の給料やボーナスをはじめ、莫大な役員報酬や前社長の数億円ともいわれる退職金も『原価』に入っており、それが無くなると利益が減るのです。
具体的な例を出すと、役員の報酬が年1億円だったとします。それが『総括原価方式』では電気料金の原価となるので、5%が利率だとすると、500万の損益になります。つまり役員の報酬を減らしたり社員のボーナスを減らすと、その分損をしてしまい売り上げが下がります。これはコストダウンをすればするほど会社が損をする、おかしな方式ではないでしょうか。
おそらくは原発作業員への食事提供を止めたのは、「経費で落とせないからではないか」と某会社の経営者は言います。
「原発作業員は東電の社員ではなく協力企業の日雇い社員のため、食事提供は経費として落とせないんでしょう。だって考えてみてください。数十万といわれる日当を協力企業に払い、何重にも会社を通されてピンハネされても何も言わない会社ですよ。経費で落とせたらメシぐらい出しますよ。」
確かに作業員の日当として協力企業に数十万も支払っているのであれば、食費ぐらい出すのはたやすいはずです。彼の言うことが確かならば、食費=経費で落とせない(払った分丸損)高額の日当=経費で落とせる(それの数%が利益になる)という理由で無償の食事提供を停止したことになります。
総括原価方式ですと、いくらピンハネされても支払った分の数%が原価として売り上げに乗せられるのですから、東京電力は痛くもかゆくもないわけですね。
東京電力が真綿で首を絞めるように電気料金を3年かけて15%じわじわ上げ、全社員の給料を元に戻せば、その上げた15%分の原価を他の経費に回すことができることになります。最終的に損をするのは国民ということになるでしょう。
現在のところ日本の電気料金はすべて『総括原価方式』で計算されているようですが、事故を起こしたら多大な被害が起きる原発を運営して利益を上げており、事故を起こしたにもかかわらず電気料金を上げて国民の負担を増やしている会社がある以上、この方式は問題があると言わざるを得ないのではないでしょうか。
(文:山戸なでし子)
スクリーンショット:nukenext.org
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