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【社説】

国民読書年 貧しき図書館を憂う

 図書館の本購入費が年々、減っているのは嘆かわしい。今年は国民読書年で、二十七日から読書週間も始まった。知の楽しみを味わう場は人や文化を育て、ビジネスを開花させる拠点でもありたい。

 世界初の電子コピー機が誕生したのは、米国の弁護士で発明家がニューヨーク公共図書館で、物理学の論文の一節を見つけたことがきっかけだった。

 ある国際航空会社の創業者は、世界大恐慌時代に同図書館に通い、鉄道や船舶などの資料を集めるうちに、「空の時代」を確信したという。

 デジタル情報時代の現代も、米国では高価なデータベースを無料で提供したり、ビジネスや起業家へのサポートに尽力しているそうだ。「未来をつくる図書館」(菅谷明子著、岩波新書)で紹介されているエピソードの数々だ。

 「アイデアを育(はぐく)む『孵化(ふか)器』」とは米国の図書館の姿を表現した菅谷氏の言葉だが、静かな空間で本を読んだり、受験勉強に励む日本の図書館の日常とはやや異質で、先進性を感じさせる。

 むしろ日本では公共図書館が図書を購入する資料費が減少を続けている。日本図書館協会によると、決算ベースで資料費は一九九八年度には約三百六十二億円あったが、二〇〇八年度には約三百七億円まで収縮しているのだ。

 個人が本を買わない「本離れ」が進んでいるが、図書館まで「本離れ」してどうするのか。利用者の数は逆に増加してもいるのだ。厳しい財政難の中で、手をつけやすい予算から削っていると批判されてもやむを得まい。

 公共図書館の設置率にも問題が潜む。都道府県立の図書館はむろん100%で、市区立も約98%あるが、町村立になると約53%にまで落ち込む。つまり日本の町や村では半数しか図書館がない。これは「文化格差」と呼んでいい。国民が等しく文化を享受する視点に立てば、対策は必要だろう。

 人的側面でも問題がある。専任職員数が〇九年には約一万二千七百人と、十年前に比べて約二千八百人も減っていることだ。開架の本棚から選ぶのは利用者だという発想は古い。司書らは、有用な情報にたどりつくための身近な“案内人”であってほしい。

 調査研究型の図書館と地域密着型の図書館とが互いに補完し合い、必要な文献やデータなどを利用者と一緒に探し出す役割を果たしてくれたら、新しい発見や発明を生む「孵化器」となろう。

 

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